オバマ政権はリベラルか・保守も取り込んだ「おやじキラー」(下)

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政権に結集した現実主義者たち

 話をオバマ氏に戻す。「オバマはリベラルすぎてダメだ」という批判は、選挙戦中から米国でも、そしてなぜか日本国内でもよく聞こえた。だからこそ共和党は選挙終盤、オバマ候補を「社会主義」と批判したし、大統領就任後の「米国再生・再投資計画」についても「大きな政府のばらまき」と激しく抵抗した。しかし「怠け者、不道徳者、弱腰ハト派、保護主義」が「リベラル」の定義だというなら、オバマ氏はリベラルではない。

防衛において、一部タカ派はオバマ氏の対話重視・人権重視路線を「世間知らずで、むしろ危険」と批判している(たとえば選挙中のクリントン氏やマケイン上院議員。そしてチェイニー前副大統領)。しかし、イラク戦争やグアンタナモやアブグレイブが米国の安全保障を強めたのか弱めたのかという議論は、「対話重視、人権重視=弱腰」などという単純なレッテルで一蹴できるものではない。

ただの弱腰大統領を、元統合参謀本部議長のパウエル退役陸軍大将が支持するだろうか? 父ブッシュ政権に仕えながら息子ブッシュ政権を批判したスコウクロフト退役空軍中将が、支持するだろうか? ゲーツ国防長官がブッシュ政権から引き続き仕えるだろうか? マケイン上院議員の親友ジョーンズ退役海兵隊大将が、国家安全保障問題担当の補佐官に就任するだろうか?

オバマ政権の防衛チームはけっして弱腰ハト派ではない。むしろ、ブッシュ政権のイデオロギー優先や利権優先を唾棄してきた共和党系の軍人たち、外交軽視の一国主義を唾棄してきた現実主義者たちが、ここぞとばかりに結集したように見えるのだ。

経済については著書『合衆国再生』に示唆的な部分がある。上院選出馬のため政治資金集めがいざ必要になったとき、オバマ氏が頼ったシカゴ人脈は、伝統的な民主党支持基盤の労働組合や市民団体ではなく、個人で高額出資できる法律事務所のパートナーやヘッジファンド・マネジャーという、一見すると「共和党的」な職種の人たちだった。

彼らは「自由市場を信じ、保護主義などまったく受け入れず、労働組合は面倒だと感じている」人たち。そして「絶対的に(中絶)選択権支持で、銃に反対で、熱心な宗教心を何となく疑わしく思っている」人たち。つまり経済的価値観では保守というか共和党的で、社会的価値観ではリベラルというか民主党的な人たちだ。

予備選中のオバマ旋風を支えたのは、主にこういう高学歴・高収入の社会的リベラルだった。イリノイ時代からそういう人たちに支えられているオバマ氏が、大統領になった瞬間にガチガチの保護主義者に転じるなど、まったくありえない話だ。
けれども同時に、民主党内には従来型の労組寄り保護主義勢力が大勢いる(景気対策法案に民主党議員が「バイ・アメリカン条項」をねじ込んだけれども、オバマ氏がこれを「保護主義」と批判したのがいかにも象徴的だった)。そういう党内勢力をどうコントロールしていくかも、新政権の成否を決めるポイントになるだろう。

多様なアメリカを体現する存在

「黒人大統領」や「リベラル」や「ハト派」よりも、オバマ大統領にずっとふさわしいレッテルは何か。それは「おやじキラー」ではないだろうか。

オバマ氏のさまざまな評伝で共通して語られる特徴がある。彼がいかに、意見の異なる人たちの言い分をじっくり聞くか。大勢の意見を聞いたうえで、大多数が納得できる結論を導き出すことにいかに【長/た】けているか。「オバマと話して良かった」と思われること。もしかしたらそれが、新大統領の最大の武器なのではないだろうか。

ハーバードの指導教授しかり。彼を「初の黒人編集長」に選んだ『ハーバード・ローレビュー』の学生仲間しかり。住民活動を率いるオバマ氏に出会い、「彼をワシントンに送り込む」と心に決めた辣腕コンサルタントのアクセルロッド氏(現・大統領上級顧問)しかり。まだ無名の州議会議員の演説を聞いて「彼を大統領に」と確信した元ケネディ側近の民主党重鎮たちしかり。その州議会議員を党大会の基調演説に選んだケリー陣営幹部しかり。予備選中にあれほど激しく戦いながら、入閣を決めたクリントン国務長官しかり。

共和党候補だったマケイン氏は、本選直前の討論会ではオバマ氏を直視することも、名前で呼び掛けることもできなかったが、選挙後にオバマ氏からの度重なる電話で敬意を示され、助言を求められ、ついにはオバマ氏を信頼のまなざしで温かく見詰めるようになった。そしてブッシュ氏も当選を心から歓迎しているように見えた。

最初は立場が違っても、敵対しても、会ってじっくり話せば、オバマ氏のファンになり、彼を支えるようになる。まさに「おやじキラー」。この能力こそが、オバマ氏の最大の武器なのだろう。黒人かどうかではなく。リベラルかどうかではなく。

周囲の多様性を引き受けてそこから新しい答えを導きだす力をどうやって獲得したのか。アメリカ人でありながら、ハワイという物理的に離れた場所からアメリカを見て、時にはインドネシアという外国からアメリカを見てきた。だからこそ、自ら原稿を書いた二○○四年党大会の基調演説で、こう宣言できたのだろう。

「リベラルなアメリカと保守なアメリカがあるのではない。あるのは各州が一致団結したアメリカ(the United States of America)、アメリカ合衆国だ。黒人のアメリカと白人のアメリカとラティーノのアメリカとアジア人のアメリカがあるのではない。あるのはアメリカ合衆国だ」。
アメリカとは多様性の集合体だと定義するならば、まさにオバマ氏はアメリカそのもの。アメリカそのものを体現する存在だ。その本質を、内なる多様性を解読するには、こちらがまず単純で簡単なレッテル貼りを超越しなくてはならない。

加藤祐子(かとう・ゆうこ) ウォーターゲート事件や1976年大統領選の頃をニューヨークの小学校で過ごす。オックスフォード大学国際関係論修士。全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイト「CNN.co.jp」で 2000年と2004年米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。


保守も取り込んだ「おやじキラー」への対論は帝京大学准教授の潮匡人氏の『戦争に勝てない理想主義』日本への関心が薄いオバマ氏による「ジャパン・パッシング(日本無視)」や政治的ベトナム再来によりアフガン戦局が泥沼化する、と指摘しています。明日(10日)発売のVoice4月号でご覧いただけます。

◇話題のテーマに賛否両論!は、gooニュースと月刊誌「Voice」の各編集部が依頼した論者が、ひとつのテーマを違った視点からアプローチして、その本質に切り込むウェブニュース×月刊誌初の連携企画です。

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