放射性物質の紛失がレベルゼロ?えっと驚くトラブルの基準

「レベルゼロ」。昨年9月に放射性同位元素が輸送中に行方不明になったというニュースがあった。この事故について、国土交通省と文部科学省は、2月17日に専門家による国際原子力事象評価尺度(INES)による評価が「レベル0」であったと公表した。「放射性物質が紛失する事故がレベルゼロなの?! レベルゼロってトラブルが無いことじゃないの?」。目が丸くなってしまった。(柴田 章子)

「便利だけれど、怖いもの」。これが、私の原子力に対するイメージであった。内閣府が実施した「エネルギーに関する世論調査」でも、原子力発電について「何となく不安である」が48.1%、「不安である」が17.8%と過半数を超えている。怖いものの正体は、目には見えない放射線。発電所の外に漏れ出すと、環境にも人体にも多大な被害がもたらされるからだ。ついトラブルにも敏感になる。

原子力安全技術センターがネットに公開している「原子力防災基礎用語集」によると、INESとは、「原子力施設において発生した事象(nuclear events)の安全上の重要性を、迅速かつ理解しやすい形式で公衆に知らせるための手段である」という。地震における「震度」のようなものと考えてよいようだ。
INESは、国際的に決められた基準で、0から7までの8段階で示される。チェルノブイリ事故が最高のレベル7、スリーマイル島事故はレベル5である。放射性物質が外部に放出されるとレベル3。そして、安全上重要ではない事象はレベル0とされている。

「安全上重要でない事象」とはどういうことだろうか。このレベル0はさらに、0+(安全に影響を与え得る事象)と0−(安全に影響を与えない事象)に分けられる。これもよく意味がわからない。経済産業省が発表している過去のトラブル評価を見ると、0+は原子炉自動停止など、0−は欠陥指示や出力の低下、ポンプの故障などの例がある。

日本で発生した最大の原子力トラブルは、1999年に起きたJOC臨界事故のレベル4。核燃料加工施設で起こったこの事故では、被曝による死者2名が出た。原子力発電所では、1991年の美浜発電所2号機の蒸気発生器伝熱管損傷がレベル2で、死亡者はいない。2004年美浜発電所3号機破損事故では、配管破損により高温高圧の水蒸気が多量に噴出し、5人の作業員が熱傷で死亡したが、レベル0+と評価されている。死亡者の数からいえば、2004年の事故が一番深刻ではないかとつい思ってしまうが、INESの評価では異なっている。

火災や、不審者の侵入や、従業員のケガなど、原子炉や放射線関連設備の運転に関係しないものは評価対象外になっているということ。評価対象外のトラブルであっても、国と電力会社と、地元で協定を結んでいるので報道発表はされる。つまりトラブルが無いことが0なのではないのだ。

さて、冒頭の輸送中の紛失について。−INESは2006年に「放射性輸送物質の輸送中の事故等にかかる基準を含む追加ガイダンス」を発行している。不明になった放射性同位元素の放射能量は、37メガベクレルで、約2週間で半減期を迎える。段ボール箱表面の放射線は自然界にある放射線と同じ程度という。万一飲み込んだ場合は、放射線業務従事者の年間被曝線量限度を超える可能性がある。しかし、実際のところ、飲みこむ可能性は低い。

レベル0のように一見「えっ」と驚くような事象でも根拠を知ると「なるほど」と思えてくるが、一般市民のイメージとは大きな隔たりが横たわっている。

 

この記事はgooニュースと北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)のコラボレーションによるものです。取材に当たっては北海道電力などの協力を得ました。


おすすめ情報

gooニュースの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

国際・科学 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

国際・科学 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索