原子力発電所を巡る水の3つのレシピ

原子力発電所にとって水は必要不可欠なものだ。発電タービンを回すのも、冷却するにも水が必要だ。実は、泊発電所で導入されている加圧水型原子力発電所では3種類の水が循環しており「それぞれレシピが違う」という。全部冷却水だから、同じ水だろうと思ったら大間違いなのだ。(山村 寛)

図のように、加圧型原子炉では、核分裂による熱エネルギーは高圧・高温の水として取り出される。


原子炉の熱は「一次冷却水」を約300度にまで加熱する。加熱された一次冷却水は蒸気発生器で「二次冷却水」と熱交換を行い、二次冷却水を沸騰させる。沸騰した二次冷却水はタービンを廻した後に、復水器で「冷却水」により冷却されて、水に戻る。

発電所見学の際、タービンや安全設備に見学者の目が集中する中、数千トンの水が入った巨大なタンクに目を奪われていた。私は膜技術を使って水をろ過する研究を行っており、原子力発電所で使われる水について注目していたのだ。
案内していただいた担当者によると「一次冷却水と二次冷却水は純水を使っています」とのこと。「純水」とは、カルシウムや微生物といった有機物を取り除いた「不純物が極めて少ない水」のこと。コンタクトレンズの洗浄液も純水だ。純水を作るには、イオン交換樹脂や逆浸透膜などの装置が必要とされている。

イオン交換樹脂は、除去するイオンを取り込み、代わりにイオン交換樹脂が持つイオンを放出することでイオンの入れ換えを行うことが出来る。一方、逆浸透膜は、水を通すが、イオンや塩類など水以外の不純物は透過できない穴がたくさん空いており、水を逆浸透膜でろ過することで、イオンなどの不純物をほとんど取り除くことが出来る。

純水製造装置を納入している水処理メーカーに勤めている友人に問い合わせたところ、「一次冷却水と二次冷却水は同じ純水でもレシピが違う」という返事が返ってきた。雑誌「工業用水、No.347」によると、一次冷却水と二次冷却水では表に示したように異なる水質管理基準があり、この基準を元に水質管理を行っている。表を見ると一次冷却水、二次冷却水共に「純水」と呼ばれているにもかかわらず、実はいろいろなものが入っていることがわかる。



なぜ異なっているのか。イオン交換技術に関する専門書「イオン交換 〜高度分離技術の基礎〜」によると、「一次冷却水では原子炉に直接水が触れるようになっているため、中性子を吸収しやすい物質が放射能を蓄積したり、水中の放射線分解物質が管を腐食したり、することがある」。そのため、一次冷却水は放射性物質の封じ込めと管の腐食を防ぐように水を調整しなければならない。
確かに、一次冷却水の水質基準では放射能を蓄積する恐れのある鉄の基準がとても低く、水の放射線分解を防ぐために水素が加えられている。

一方で、二次冷却水は「一次冷却水との熱交換に使う管の損傷防止が最重要な課題である」ので、この管の腐食を防ぐように水を調整する必要がある。表を見ると、二次系冷却水にはヒドラジンという管の腐食を防止する薬品を添加しているようだ。

最後に、担当者に蒸気を水に戻す冷却水について伺った所、「海水を処理しないでそのまま流しています」とのこと。蒸気を水に戻すだけなので、きれいな水を使う必要はないのだが、魚が冷却水に入ってきたらどうなるのだろうか?ということが気になるのは私だけだろうか…
(メーカーに勤める友人に聞いたところ、さすがに対策をしているようで、魚が入ってこないように「ストレーナー」というザルを取水口に付けることが多いという。ただ、小さな貝はこのストレーナーを通り抜けて、蒸気を冷却する復水器に詰まってしまうこともあるようだ)

 

この記事はgooニュースと北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)のコラボレーションによるものです。取材に当たっては北海道電力などの協力を得ました。


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