日本刀から原子炉容器まで、受け継がれる技術と心意気

「カーン、カン、カン・・・ゴォー」。薄暗い作業場、ふいごで風を送るたびに起こる火焔が刀匠の顔を明るく照らしている。原子力発電用部材の製造で世界トップシェアを誇る日本製鋼所室蘭製作所の巨大な工場の一角に、タイムスリップしたかと思わせる古式ゆかしいたたずまいの瑞泉(ずいせん)鍛刀所がある。同所を代々守る堀井家の分家二代目刀匠の堀井胤匡(たねただ)さんが、鋼を熱しては小槌で叩き、刀の形を整えていく「素延べ」作業に神経を集中させている。(佐藤 道子)
 


  「素延べ」作業に神経を集中する堀井さん
瑞泉鍛刀所は1918(大正7)年に設立、90年の歴史を持つ。

明治維新以降、日本刀の技術が衰退、全国の鍛冶場が閉鎖されていたため、宮内庁の仲介によって刀匠の擁護を要請してきたという。他の大手企業からは賛同を得られなかったようだが、鋼づくりの原点は日本刀の鍛錬技術であると考えた製作所は、技術の保存と向上のため引き受けることにしたという。

堀井さんによれば、日本刀づくりで最も重要なのは、叩き延ばした鋼を何度も折り返しては不純物などを取り除き、強度を増す「鍛錬」の工程。

「この作業で傷ができると、次の焼き入れで真っ赤に加熱した刀身を一気に水で冷やしたときに『ピーン』と澄んだ音がして、刃先が割れてしまう」ため、決して気が抜けないのだという。この鍛錬は原子力発電用部材づくりを支える重要な技術に通じるものでもある。


プレス機で鍛錬されるシェルフランジ素材(提供:日本製鋼所室蘭製作所)
折りしも、日本製鋼所の鍛錬工場では、原子炉容器のリング状の部品(シェルリング)の鍛錬作業が行われていた。

工場2階の見学台からガラス越しに眺めると、筒状の芯金に串刺しになり真っ赤に熱せられた350トンの鋼の塊(鋼塊=インゴット)が、1万4000トンの水圧プレス機にかけられ、鍛錬されていく様子が手に取るようにわかる。

一連の作業を見守っているのが、「ボウシン(棒芯)」と呼ばれる現場の作業長。ボウシンは様々な作業工程を経験した後、作業員の中から経験や人間性などを考慮して選ばれる。

ボウシンは、プレス機の脇に設けられた監視台の上に立ち、後方のオペレーター室に向かって、背中越しにマイクと身振り手振りで「プレスを押せ」とか、「鋼塊を回せ」と合図を送っている。

「自動車工場などはオートメーション化されているのかもしれませんが、原子力部品は一つ一つ大きさも違うので一品ずつ手作りのようなものです。工程が同じようでも出来具合が違ってくる。そのバランスを見ながらボウシンが適宜判断しています」。総務グループ・広報担当課長の高田聖司さんが教えてくれた。

2階の見学室から降りて、プレス機に近づいてみた。「キュイーン、ガチャン」という機械のきしみ音の後に来る、遠くで雷が落ちたような「ドーン」という音、地響きには圧倒される。今、鋼の温度は1000℃近くとのことだが、機械から10mほど離れると顔を覆うほどの熱さはない。
 


  工場内にある瑞泉鍛刀所
監視作業はひとたび始まると連続して4、5時間ほど続くという。「鍛錬作業は製品一つ一つの具合を見ながらその場の判断で対応を変える。知識と経験がものを言うのがボウシンの仕事。人が育たないと工場は維持できない」と高田さん。

日本刀同様、原発用部材作りも職人の経験と技に負うところが大きい。だからこそ工場内に鍛刀所を持つのだろう。

刀から原発用部材へ、技術と心意気が「室蘭」を支えている。

 

この記事はgooニュースと北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)のコラボレーションによるものです。


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