危機に怒るアメリカ、コメディアンの戦いを注視 コラム「東京から見るオバマのアメリカ」(7回目)

太平洋の両側でこのところ、「報道」の面目が損なわれている。それは、報道に関わる人間の意識のせいだったり、「報道」と「娯楽」の境界線がぶれているテレビメディアのあり様のせいだったり。日本の「中川もうろう会見」や「バンキシャ!誤報問題」と前後して、アメリカでは「ジョン・スチュワート対CNBC」という騒ぎが発生していた。「オバマ大統領」とは直接関係ないことかもしれないが、「オバマのアメリカ」をここ一週間ほど賑わせていたこの騒動は、金融危機に対するアメリカ国民の怒りをくっきり掬い上げたものでもあったので、ご紹介します。(gooニュース 加藤祐子)

○ 日本の「なあなあ」

間違いをしない人間はいないし、ミスをしない記者もいない。新聞記者だった当時の自分も、取材不足によるミスをキャップやデスクに拾って助けてもらったこともあれば、うっかりミスがそのまま通ってしまって訂正を出したこともある。そして官庁の記者クラブというのが「記者クラブと取材対象の関係」を重視するあまり、意識的にも無意識的にも「なあなあ」になりがちな空間だというのも、「なあなあ」にするための仕掛け(オフレコ懇談など)が色々と制度化されている場所だというのも、経験から実感している。

事実関係の詳細を知らないので、報道から受けた印象のみで語るが、あの「もうろう会見」の日本メディアによる報道ぶりはおかしかった。会見本記にその指摘はなく、「かみ合わないやりとり」などという指摘が時間をおいて、なんだかとても回りくどい形で小出しになされ、そして「居眠りしていた」「飲酒していたのではないか」という外国メディアの批判を日本メディアが伝えることで急速に問題として顕在化していった。同じ記者会見の場に、外国メディアも日本メディアも同席していたにも関わらず。まして、ワインが出された事前の食事の席に、記者が同席していたにも関わらず。

思うに、「中川もうろう会見」にまつわる日本メディアのこういう報道ぶりは、官庁記者クラブ独特の「なあなあ」が生み出したものだったと想像する。言うなれば「報道のプロ」たちのルーティン化され制度化された「惰性」が遠因にあると。

一方で、ついに日本テレビ社長の辞任にまで発展した「バンキシャ!」の誤報問題は、「真相報道」と名乗りながらも、報道なのかショーアップされたバラエティなのか境界線が曖昧な、民放テレビの体質的な問題が背景としてあるように思う(あるいは、「バラエティなのか報道なのか曖昧」という欠陥を何度も指摘されながら、何度も問題を繰り返す民放の体質というべきか)。捏造証言の裏付けを十分に取らなかったという、「報道のプロ」の基本をおろそかにした故の失態に、新聞記者出身の久保伸太郎社長が辞任会見で述べたという「テレビ報道とはこの程度のものかと視聴者に評価されたのではないか」という言葉が、事態の本質を突いていたように私は思った。


○ アメリカの「なあなあ」と、それを許さないコメディアン

ひるがえってアメリカ。大臣が辞任したとかテレビ局社長が辞任したとか、そういう目に見えて分かりやすい事態にはならなかったので、日本ではほとんど全く報道されていないが(仮に私が特派員だったとしても、これはストレートニュースにはできないと思う)、このところ一週間ほどアメリカではかなりの話題だったこと(テレビでも新聞でもブログでも)。それが「ジョン・スチュワート対CNBC」騒動だ。この騒動自体は決してニュースとは思えないが、それにアメリカがこれほど注目したという現象そのものが、今のアメリカの国民感情を如実に示した。その意味で、この騒動はとてもニュース性の高い出来事だった。

私のこのコラムでは何度も取り上げてきたジョン・スチュワート。公平性を期すためにはっきり書くけれども、私ははっきり言って大ファンだ。彼の風刺センスの鋭さと、理路整然とした頭のよさ、そして本質的に真当で真摯な人間性という取り合わせは、実に見事だ。

そのスチュワートが司会と編集長を務めるケーブル番組「The Daily Show」で3月4日、米NBC系ケーブルテレビの経済ニュース専門チャンネル「CNBC」をこてんぱんに批判したのが、ことのきっかけだった。

CNBCに登場する様々な、ジャーナリストなのかアナウンサーなのかコメンテーターなのか芸人なのかはっきりしない人たちがいかに、「買いだ買いだ買いだ」と市況アドバイスを垂れ流し続けたか。それを「The Daily Show」はお得意のビデオクリップの羅列で露呈した。

(そこまでスチュワートを怒らせたのは、リック・サンテリという元デリバティブ・トレーダーでCNBCの「ビジネス・デスク」。この人物が放送中に「悪いのは払えもしない住宅ローンを借りて、トイレがやたらとある分不相応な家を買った、負け犬連中だ!」と叫び、YouTubeなどを中心に話題になったため。スチュワートたちが当人を番組に招き、出演予定となったので、インタビューの前に流すつもりでCNBC徹底批判ビデオを作ったのだそうだ。サンテリ自身は結局、出演をドタキャンしたのだが)。

スチュワートは「CNBCの金融の専門家たち」が口々に自信たっぷりに「○○社は大丈夫、買いだ、買い」「もうサブプライムは終わった。買いだ買い」と、実際の市況とは全く裏腹なアドバイスをし続けるビデオクリップを次々と皮肉たっぷりに紹介。そしてこう結論した。

「CNBCのアドバイスをずっと聞いていたら、今頃は手元に100万ドル残ってるはずだ。……そもそも、最初に1億ドルもっていたなら、だけど」

そもそもスチュワートはこうやって、特定のコメンテーター個人ではなく、CNBC全体を批判していた。ところがその中のひとりで(ベア・スターンズ破綻の6日前に「ベア・スターンズは大丈夫だ!」と叫んでいた)ジム・クレーマーという人気のテレビ・パーソナリティ(ゴールドマン・サックス出身の元ヘッジファンド経営者)が、ご丁寧にもわざわざ「The Daily Show」に反論し始めたのだ。「ジョン・スチュワートはコメディアンじゃないか! 彼がやっているのは、バラエティじゃないか!」と。

今更のようにお断りすると、ジョン・スチュワートの「The Daily Show」は、基本的にコメディ番組。制作するテレビ局は「コメディ・セントラル」だし、公式サイトには「Fake News(にせものニュース)」と掲げてあるし、日本のCNNjが週末に放送する国際版では冒頭に必ず「今からお見せする番組は本物のニュースではありません。事実確認もしていませんし、きちんと考えて作っていません」とお断りが入る。

そういうフォーマットでスチュワートは10年前からその時々のニュースを風刺し、クリントン政権を風刺し、ブッシュ政権を風刺し、政府や企業が垂れ流す情報を事実確認もせずに右から左に動かすだけのマスコミの「なあなあ」を批判し、イラク戦争よりもパリス・ヒルトンのスキャンダルにやたらと放送時間を費やす(主に)ケーブルテレビ・ニュースをこてんぱんに批判してきた。

そのスチュワートに批判されて、「だってあいつはコメディアンじゃないか! 奴の番組はバラエティじゃないか!」と反論したジム・クレーマーの番組「Mad Money」(狂った金、怒りの金、とでも言う意味か)というのは、「○○は買いだ、○○は売りだ、市場はこういう風に動く」という「分析」を、ベルやブザーや銅鑼や木琴やシンセサイザーを使った色々な効果音と共に、血管が切れそうなハイテンションで叫びながら繰り出すというものなのだが。

そのクレーマーの「反論」をスチュワートが座視するわけもなく、それから「The Daily Show」は9日の放送、10日の放送、11日の放送で相次いで、クレーマーとCNBCとNBCを笑い飛ばしながら批判し続けた。「いったいどっちがバラエティなのか」と。「自分たちは真実を伝えるふりをして、いい加減な予想をまことしやかに垂れ流すな」と。CNBCとコメンテーターたちがいかにウォール街に都合のいいことばかりを繰り返していたか、金融機関がありえないレバレッジをかけたマネーゲームに狂奔しているか知りながら市場への信頼を訴えていたか、それでいかに金融の専門家ではない視聴者が不利益をこうむったか、辛辣にこき下ろし続けた。

国民に人気のテレビ・パーソナリティ同士が、メディアを介して舌戦を連日繰り広げるという、ちょっとした異常事態。そして(ケーブルとは言え)世論形成に強い影響力をもつ番組が、三大ネットワーク系テレビ局の報道姿勢を断罪し続けたという、なかなか日本に置き換えようとしてもプレイヤーが思いつかない事態。それが、ここ一週間ほど、多くのアメリカ人の注目を集めていたのだ。巨額金融詐欺事件のバーナード・メイドフ容疑者(多くの日本メディアは「マドフ」と表記しているが、米英メディアは「メイドフ」と発音)が有罪を認めて改めて被害者が怒りを新たにする事態と平行して。そして巨額の税金で救済されたAIGが巨額ボーナスを幹部に払ったと判明し、国民が怒り、FRB議長が怒り、財務閣僚が怒り、大統領が怒るという事態とも平行して。

「コメディアンvs金融エキスパート」のこのバトルは、実はスチュワートのメディア批判から発したものなのだが、それでも米メディアは他人事のように面白おかしく伝え続け、メディアが「本当に大事なニュース」の傍らでこういう「耳目を集めるが本当にニュースかどうか疑わしい」現象をやたらと取り上げる奇妙さを、またスチュワートが番組で皮肉るというグルグル状態の最終局面。ついにいよいよクレーマー自身がスチュワートの番組に出演した(これは大した勇気のいることだったと、ネットや紙メディアを見渡す限り、大方が評価)。

迎えるスチュワートとスタッフは、クレーマーが過去に「ヘッジファンドとしてどうやって市場を操作してきたか」と語っているビデオを掘り起こしてきて、本人の目の前で流すなど、徹底的に準備と予習をしていた。そしてスチュワートは、ウォール街のやりようを知りながらもCNBCが「買い買い買い」「市場は大丈夫」と言い続けている間、ウォール街のマネーゲームはどんどん加熱し、バブルは膨れ上がり、そして今や多くの一般国民は資産を失い、家を失い、「401k(確定拠出型の企業年金)」もどんどん目減りして失われてしまったのだと、ぐいぐいと相手を追い詰めた。

それを前にクレーマーはひたすら「確かに私たちはもっときちんと取材するべきだった。CEOたちのウソをそのまま真に受けるべきでなかった」と低姿勢に謝る体たらく。「The Daily Show」いわく「一週間も続いた世紀の対決」の決着をつける「がっぷり四つ」の論戦バトルになるはずだった対談は、ちょっと肩透かしな感じさえして、スチュワート側の圧勝だった(これもネットや紙メディアを見渡す限り、大方がこの評価)。


○ 報道は滅びても風刺は死なず?

しかし問題は、日本ではあまり知られていないコメディアンが、日本ではほとんど知られていない経済コメンテーターを番組でいかにこてんぱんにやっつけたか——ではなく。番組のコメント欄やアメリカのブログの書き込みを読むに、実に多くの人が嘆いているのは、(1)報道機関であるはずのCNBCがいかに、報道なのかバラエティなのかはっきりしない派手派手しい番組を大量生産し、企業のやりようを知り得る立場にありながら企業の言い分をそのまま流す「なあなあ」な姿勢で、視聴者をミスリードしてきたか(スチュワートの怒りは、まさにここにある)。そして(2)なぜこのことを天下に問いただすのが「報道のプロ」ではなく、「バラエティ番組を司会するコメディアン」でなくてはならなかったのか、というこのとんでもない皮肉。

よく日本のメディアを批判する際に「欧米ではそんないい加減な報道は許されない」という言説を目にするし、確かにそうだという局面はあるだろう。けれども全面的にそうかというと、どっこいどっこいだと私は思う。そして「中川会見」や「バンキシャ!誤報」は大臣辞任や社長辞任につながった(つまり、誰かがはっきり責任をとった)だけでも私はマシだと思う。サブプライム問題を見てみぬフリをし、ウォール街のマネーゲームを目こぼしし、バブル崩壊直前まで「買い買い買い」と叫んでいた一部の米メディアによる被害規模は、「中川もうろう会見」や「バンキシャ!誤報」のそれとは比べようもないのだから。「買い買い買い」と一部メディアが叫び続けて膨れ上がったバブルが弾けたせいで、日本の私たちの生活も脅かされているのだから。

ちなみに、最後に無理やりこのコラムをオバマ大統領と関連付けるならば。「スチュワートvsクレーマー」の直接対決が放送された翌朝、13日の定例会見で、ホワイトハウスのギブス報道官も放送を見たと認め、こう発言。「とことん楽しませてもらった。確かにスチュワート氏が言ったように、やりにくい対談だっただろうし、見るのも時に辛かったけれども。タフな質問が次々と繰り出されていた」

正直でタフな質問を、穏やかに冷静に繰り出し、問題の本質をあぶりだしてみせる。今やコメディアンのジョン・スチュワートこそがその最大の名手だということに、今のアメリカではなってしまっている。この皮肉な事態を日本にあてはめたとき、どういう情景が浮かんでくるだろうか。



<このコラムのバックナンバー>
政治色ないアカデミー賞に見るオバマ政権の影響(2009年2月24日)
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「真のライバルを使いこなすかオバマ新大統領、いよいよ就任式」(2009年1月19日)
大統領選中のコラム「大手町から見る米大統領選」はこちら。

オバマ大統領の土曜定例ネット演説

<筆者紹介>
加藤祐子(かとう・ゆうこ)
ウォーターゲート事件や1976年大統領選の頃をニューヨーク の小学校で過ごす。オックスフォード大学国際関係論修士。全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイト「CNN.co.jp」で 2000年と2004年米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。


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