午前4時半の電話を受けて、核廃絶を訴えた コラム「東京から見るオバマのアメリカ」(8回目)

北朝鮮が「飛翔体」を発射したその日、訪欧中のバラク・オバマ米大統領はチェコ・プラハで「核兵器のない世界を目指して努力を始める」と宣言した。「生きている間には実現できないかもしれない」と、「そう思うほどおめでたくはない」と断った上で、けれども「世界で唯一、核兵器を実際に使用したことのある核保有国として、アメリカにはそうする道義上の責任がある」と述べた。広島・長崎への原爆投下は戦略・戦術上必要なことだったとする世論がまだ多数を占める(と思う)アメリカの、大統領がそう宣言したのは、やはり日本人として少し胸のすく思いがした。(gooニュース 加藤祐子)

○「核兵器のない世界を」

5日午後7時現在の報道によると、北朝鮮が「人工衛星だ」と主張しているものについて、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)は「何も軌道に乗らなかった」と報告している。衛星を周回軌道に乗せることに失敗したのか、それとも最初から弾道ミサイルの発射実験だったのか。それは今後の分析を待ちたい。

けれどもいずれにしても、北朝鮮が日本や韓国はもちろんアメリカをも射程内に収める弾道弾と、それに搭載できる核弾頭の開発など目指してはいない——などと言えるほど私も能天気ではない。なのでだからこそ、この日にオバマ大統領がプラハで「核兵器のない世界を目指す」と宣言したことの重みを、噛み締めるのだ。

冒頭で書いた、日本人としての思いもある。加えて場所が「プラハの春」の舞台だったということ。41年前に当時のもうひとつの核超大国に戦車で蹂躙された街で、アメリカの大統領が「核兵器を廃絶する」と述べたのだ。そのために米ロで戦略核を削減し、包括的核実験禁止条約(CTBT)を早期批准すると。核拡散防止のため核物質管理と闇市場解体の仕組みづくりに着手すると。核燃料バンクなどを作りどんな貧しい国でも平和的に原子力エネルギーを使えるようにすると。兵器級核物質の生産停止を目指し、査察強化と罰則導入を実施するとも述べた。「そんなことできるわけがないという諦め主義は、実に破壊的な大敵だ」と述べたのだ。「Yes, we can(私たちにはできる)」と。

かつて冷戦の真最中にあっては、国際政治の本流は米ソ関係で、なかでも核兵器にまつわる交渉こそが最大の焦点だった。それがソ連の崩壊からこちら(「核不拡散」という、ある意味で保有国にとって都合のいいことはさかんに言われていても)、「核廃棄」とか「核廃絶」とかは国際政治の舞台中央から追いやられていたのだが、オバマ大統領の今日の演説ひとつによって、再びグイッと、核の問題が舞台中央に躍り出てきたようだ。

今日のプラハの演説をCNNで観ながら、こうしたいろいろな意味で、歴史の変転を目の当たりにしていると思う。バラク・オバマを観ていて、「歴史の変転を(以下略)」と思うのは今に始まったことではないのだけれども。

○午前3時ならぬ午前4時半の電話

このところ、オバマ大統領は本国アメリカでは絶好調とは言いがたい状態だった。経済危機の対応に追われ、お疲れ気味で、白髪が目立つとメディアに取りざたされる始末。確かに、経済対策の巨額財政出動やAIGボーナス問題など、ガイトナー財務長官がなにかと槍玉に挙げられて、あわせて大統領の任命責任も問われていた。(公的支援を受けている)金融幹部の報酬を政府が制限したり、(政府が支援している)GMのCEOに退職勧告するなど、その経済対策のやりようはまるで社会主義独裁だなどと共和党勢から激しく批判されてもいた。

政府首脳が、課題山積な本国を離れて、外遊で一息つくというのはありがちな話。けれども今回のロンドンG20サミットやNATO首脳会議、そしてこのプラハ演説と、オバマ大統領はただ大歓声と拍手と笑顔に包まれてアメリカのイメージアップに貢献したというだけにとどまらなかった。G20は、(1) ヘッジファンドやオフショアのタックスヘイブンを規制する (2) IMFの資金基盤を強化する (3) 途上国・新興国支援を強化——など、ああいう多国間会議では珍しい、かなり具体的な金額と施策を伴う合意を打ち出した。NATO首脳会議では、次期事務総長の人選で紛糾していたのを、人選に反対するトルコをオバマ氏が説得してことなきを得たのだとか。

そしてこれはイメージの問題ではあるけれども、かつてブッシュ政権が「古くさい欧州」と一蹴しようとした仏独両首脳と米大統領が、にこやかに仲良さそうに肩を並べて「友好」を象徴するライン川上の橋を歩いてくるという、その映像の妙味が実に印象的だった(その場に、イタリアのベルルスコーニ首相は電話中で不参加、というのもある意味でベルルスコーニらしくて笑わせてもらったし)。

ちなみに、選挙戦中にクリントン陣営がオバマ氏の外交未経験をあてこすり、「ホワイトハウス、午前3時。緊急の電話がかかってきたとき、誰にその電話をとってもらいたいですか」と攻撃CMを流していた時期があった。それこそ隔世の感だけれども。そしてCNNによると、「北朝鮮ミサイル発射」を本日、大統領に伝えた電話は、欧州時間午前4時半に鳴ったのだそうだ。そしてオバマ氏は外交未経験どころか、内政でなんとなくたちこめた嫌な空気を、欧州外交の晴れの舞台でいっきに追い払ったようだ。

蛇足的追記。誰が何と言おうと、ミシェル夫人が(身長が自分の半分くらいしかない)エリザベス女王とギュッとハグしあった姿は、すごくキュートだった。けれども誰が何と言おうと、バッキンガム宮殿に行くのにカーディガン姿というのは(いくらアライアのデザインでも)、そりゃないだろうとも思う(少なくとも3種類のカーディガンを訪英中に着ているので、カーディガンが好きなのかな、とも)。


<このコラムのバックナンバー>
危機に怒るアメリカ、コメディアンの戦いを注視(2009年3月17日)
政治色ないアカデミー賞に見るオバマ政権の影響(2009年2月24日)
オバマ大統領、初の大記者会見はちょっと辟易とした大学の先生のようで(2009年2月10日)
「ヘマをした」と認めるオバマ大統領の潔さ(2009年2月5日)
オバマ氏が勝ち取った「バラクベリー」の気苦労(2009年1月30日)
「オバマ大統領最初の100時間、まるで平和的革命のような」(2009年1月26日)
「真のライバルを使いこなすかオバマ新大統領、いよいよ就任式」(2009年1月19日)
大統領選中のコラム「大手町から見る米大統領選」はこちら。

オバマ大統領の土曜定例ネット演説

<筆者紹介>
加藤祐子(かとう・ゆうこ)
 ウォーターゲート事件や1976年大統領選の頃をニューヨーク の小学校で過ごす。オックスフォード大学国際関係論修士。全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイト「CNN.co.jp」で 2000年と2004年米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。


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