こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

 新年を迎え、皆さんいかがお過ごしでしょうか。2021年も野球にたずさわる皆さんに少しでも役立つ情報がお届けできればと思っています。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 さて今回は私たちが普段は何気なく行っている呼吸について取り上げてみたいと思います。呼吸は生命を維持するために必要不可欠なものですが、実は体のコンディショニングについてもさまざまな影響を及ぼすことがわかってきました。呼吸を見直すと体にはどのような変化がもたらされるのでしょうか。

繰り返される呼吸という動作

呼吸は心身のコンディションを整えるという役割も持ち合わせている

 私たちは1日何回呼吸をしているかご存じですか。もちろん個人差のあるものですが、人間は1分間におよそ15回呼吸を繰り返すといわれ、これを1日に換算すると2万回以上にもなります。これだけではピンとこないかもしれませんが、例えば肩をすくめるシュラッグ動作を2万回繰り返したと想像してみるとどうでしょうか。

 とてもじゃないですが2万回続けて行うことは難しく、肩周辺の筋肉はパンパンに張って肩こりや頭痛などを引き起こすかもしれません。これが呼吸をするたびに肩を上下に動かすような動作を伴っていたとすると、本来の姿勢は崩れ、体のあちこちで痛みが現れたり、野球の動作に少なからず影響を及ぼしたりすることが想像できると思います。

 呼吸は生まれたときから現在まで自然に行っているものですが、呼吸に問題が生じるようになると体の中でさまざまな変化が生じます。特に呼吸を支える主な筋肉である横隔膜は、息を吐くときにゆるまなければならないのですが、緊張などによって横隔膜がゆるまなくなってしまうと息を十分に吐くことができないといったことが起こります。息を十分に吐けない呼吸では、どうしても息を吸う時間が長くなってしまい、自律神経の一つである交感神経が優位に働いて体がさらに「緊張状態」となってしまいます。

 自律神経は交感神経(アクセル)と副交感神経(ブレーキ)によって制御されていますが、常にアクセルをオンにした状態は、刺激に対して過敏に反応するため、痛みを感じやすくなります。毎回呼吸をすることによって「痛みを感じやすい」「コンディション不良を起こしやすい」体へと近づいているとしたら…まず見直すものは呼吸ということになります。特に慢性的な痛みを抱えている選手はぜひ呼吸を見直すようにしてみましょう。

自然な呼吸と体のチェック

 呼吸は常に行っているものであり、すべてが理想的なものになることは不可能です。ランニング後は「はぁはぁ」と肩を上下に動かして空気を吸い込もうとしますし、時には驚きなどで「息が止まる」といった場面があると思います。そういったイレギュラーな呼吸があることを理解した上で、日常生活で無意識に行う呼吸について確認してみましょう。自分の呼吸がどのようになっているかを知るには、鏡を使って自分の体を見てみることがわかりやすいと思います。入浴前などに鏡に上半身をうつしてみて、肋骨の位置と頭の位置を見てみましょう。服の上から肋骨の位置を触ってみることでも構いません。

 肋骨がポコッと張りだした状態でお腹と明らかに高さに差が見られる場合は、「うまく息を吐き切れていない=息を吸った状態」が今の自然な状態になってしまっているということが考えられます。また頭の位置が明らかに前方につきだした状態はいわゆるストレートネックと呼ばれる状態で、呼吸においては首周辺部の筋肉をより多く動員してしまう傾向があります。不自然な呼吸を繰り返すことによって首や肩周辺部の筋肉が緊張し、コンディションの不良を引き起こしやすいと考えられます。

《チェックポイント》
・肋骨がボコッと張り出した状態になっていないか
・頭が前方に突き出たような姿勢になっていないか

腹直筋を鍛えすぎると呼吸を妨げる

体幹トレーニングでは息が漏れないように腹圧を高め、丸太状態を目指したい

 多くのスポーツでは体幹部分を鍛えることによって、パフォーマンス向上に役立つと考えられています。野球ももちろん体幹部の安定がパフォーマンスの向上につながると考えられますが、一方でただやみくもに「腹筋」を鍛えているだけでは、自然な呼吸にとってマイナスに作用することもあります。皆さんが鏡を見てお腹周りをチェックする?ときには、腹直筋といわれる体表面の状態を見て、「腹筋が割れているとカッコイイ」と感じるのかもしれませんが、体幹を鍛えるということは腹直筋だけではなく、その周辺にある内腹斜筋や奥にある腹横筋といった筋肉も鍛える必要があります。体幹部は固定させることと同時にしなやかな動きを実現させることが必要であり、胸郭と骨盤の間にある筋肉は「つっかえ棒」ではなくゴムのようにしなやかさを持ち合わせる必要があるからです。

 腹直筋を過度に鍛えると、やがて呼吸による肋骨の動きを妨げるようになり、肋骨が開いた状態のままでは十分に息を吐けなくなってくるからです。息を十分に吐くことができない状態が続くと交感神経優位の状態となり、痛みに敏感になり、コンディション不良を引き起こしやすく…といった悪循環におちいるリスクが高まります。上半身を鏡に映して見るべきものは「腹筋の割れ」ではなく「肋骨の状態」であると覚えておきましょう。

息を吐くことをサポートするエクササイズ

 呼吸は声を出す、ふーっと息を吐く等の意味を持つ「呼」と文字どおり「吸う」という二つの漢字から成り立っており、まず息を吐くことが先にあります。息をしっかり吐くためのエクササイズとしては広背筋のストレッチ、胸や首の筋肉をゆるめるためのストレッチなどから始めてみましょう。広背筋のストレッチは立位でドアノブなどを使って腕を前方に伸ばし、そこから背中を丸めるようにして広背筋を伸ばすように呼吸を繰り返します。肩後方部から脇にかけて息を吐くたびに外壁がポロポロとこぼれるようなストレッチ感が得られると思います。また胸や首の筋肉をゆるめるためにはバンザイした状態で十分に体を反らせたいのですが、これはバランスボールがあればその上で行ってもよいですし、できる人はブリッジを行ってもよいでしょう。

 またもっと手軽にできるものとしては風船をふくらませることです。試合前の緊張した状態でも風船をふくらませてしっかり息を吐ききることで、緊張をゆるめる作用も期待できます。ポイントとしては息を吐ききったときに風船の口を指や手、歯などで抑えないこと。吸うときは肩をすくめたりしないようにすることです。実際にやってみると簡単そうにみえて意外とむずかしく、息を吐き切れていなかった事実に驚かされます。

 呼吸は普段から行っているもので、エクササイズ自体も自宅でできるものばかりです。日頃のセルフコンディショニングの一つとしてぜひ実践してみてくださいね。

参考書籍)「「呼吸力」こそが人生最強の武器である」大貫崇・著/大和書房

【息を吐いてコンディションを整える】
●呼吸は1日約2万回以上にもなり、不自然な呼吸はコンディション不良の一因ともなる
●息を十分に吐くことができないと交感神経優位になり、体全体が緊張状態に
●自分の体で呼吸状態をチェックしてみよう(肋骨の状態、頭の位置)
●腹直筋に執着しすぎると自然な呼吸を妨げることもある
●息を吐くこと、吐きやすくするためのエクササイズを実践しよう
●自宅でも実践できる呼吸エクササイズを取り入れよう

(文=西村 典子)