トークショーを終え、楽屋の扉を閉めてからが、その始まりだった。
ドラゴンズのレジェンド岩瀬仁紀さんが、可愛い後輩であるリハビリ中の伊藤凖規投手への熱のこもった言葉をかける。

「ねえ、ジュンキ。お前の問題は、手術した右肘じゃないよ。リハビリは大変だと思う。でも、問題は、決してそこじゃない。さっき舞台で子供たちに言ったことのね…」


■レジェンドの少年野球教室

〜数時間前〜
凖規投手の地元、愛知県稲沢市で開かれた毎年恒例の激励会。出身チームの少年野球教室でのひとコマ。ある少年投手からの質問、「どうしたら岩瀬さんのようにコントロールが良くなりますか?」という問いかけに、全ての世代に通じる、明快かつ具体的な答えを授けてくれた。

「1つ目はフォーム。利き腕よりも、グラブをはめた側の腕の動きの大切さ。自分のグラブを相手へ目掛け、矢印代わりにするのはもちろん、できるだけその懐を広くすること。それができれば、体は開かない。制球かつ、打者から見づらい投球になる。ボクは、いかに打ちづらいフォームにするかをずっと引退まで考えていた。」

「2つ目はメンタル。自分自身でストライクゾーンを狭めないこと。ピンチの時こそ、ストライク先行。そのために、ストライクゾーンは、九分割なんて無理。二分割でいい。

ただし、内角か外角か、狙った方を外さないことだけ。だって、ファウルでも1ストライク取れるんだもん。細かなゾーンの分割は、追い込んでからでいい。しかも、追い込めば追い込むほど、打者はボール球を振ってくれるから、自分で自分を狭めないこと。」

少年用の右利き用グラブを右手にはめて、岩瀬の実演は続く。ここまで熱が入ると、もはや、野球教室の域を超えていた。

「長打されるボールは、ほぼ決まってます。直球はコースが甘くなったところ。変化球なら、高さが甘くなったところ。そこさえ除けば、まず打たれないと信じて投げてました。

逆に、コントロールばかり気にして、腕が振れなくなる。俗に言う、置きにいくボールは、死に球だから、いくら内角へ厳しいコースと突いても、長くしっかり見られて、ガッツリ持っていかれます。

追い込まれた時こそ、二分割だけで、イイ。内角か外角か。それぐらい大胆にならないと抑えられない。あるいは、直球はコースを厳しく、変化球は低めに、だけ。二択だけで、イイ。」


■閉演後の楽屋にて

少年少女たちへの実演は、プロである凖規投手自身へのメッセージとも受け取った。そして、閉演後の楽屋。これまで寡黙に見えた岩瀬の言葉は、止まらない。

「意外にも、現役同士の時はこんな話をするタイミング、無かったよね。ねえ、ジュンキ、リハビリが順調なのは何よりだね。でも、問題は、決してそこじゃない。もう、オトナになろう。プロで11年もできたからこその、スタイルに。」

もちろん、自分でも努力と葛藤を繰り返してきた伊藤凖規投手。本人は、楽屋入り口で待つドラゴンズファンに誓った。

「いろいろ求め過ぎて、肝心な事が疎かになるのは、もう嫌。岩瀬さんからいただいたその一点をしっかりやっていきます」と。


【CBCアナウンサー 宮部和裕 CBCラジオ「ドラ魂キング」(毎週水曜午後6時)・「ミュージックストライク」(毎週金曜午後7時)他、ドラゴンズ戦・ボクシング・ゴルフなどテレビ・ラジオのスポーツ中継担当。生粋の元少年ドラゴンズ会員。早大アナウンス研究会仕込みの体当たりで、6度目の優勝ビール掛け中継を願う。】

画像:中日・伊藤準規投手と岩瀬仁紀さん(C)CBCテレビ