しずおか報知では県内スポーツの第一線で活躍する監督やコーチにモットーや指導方法を語ってもらう「静岡スポーツ 指導者に聞く」をスタートする(随時掲載)。第1回は水鳥体操館(静岡市)で女子を指導する守屋(旧姓・水鳥)舞夏コーチ(34)。教え子の芦川うらら(常葉大常葉高2年)は種目別平均台で東京五輪出場まであと一歩に迫る。体操一族にも支えられ「選手と一緒にオリンピックに出たい」という夢を追う。(聞き手・小松 雄大)

 ―いつからコーチを?

 「08年大分国体を最後に現役を引退。最初は別の仕事もしながら手伝っていた。両親がやっているし、何となく始めた。でも、最初から有望な選手を任されて代表チームの合宿や試合などの遠征に行くことになり、次第に熱が入った。今は週に3回はここ、残りの3回は静岡産業大でうららの姉のコーチをしている」

 ―戸惑いはなかったですか?

 「静岡に戻ってきた時に、全日本クラスとのギャップを感じた。例えば、採点基準が変わってターンやジャンプの際にひねったりすれば加点されるというような、東京や全国で当たり前にやっていることをやっていなかったり。女子は見た目の印象も大切なので、髪の結び目の位置まで全員を後ろ向きに並んでもらってお互いの印象を言い合いながら修正したり…。そんなことから初めていきました」

 ―なるほど。

 「ほかにも、小学6年生ぐらいから中学生の間の反抗期になると何を考えているか分からない。気になる子がいたら、日曜日の練習後などに話を聞く時間を作ったりする。生徒の親と話したり、両親とも連携して対応している」

 ―うれしいことは?

 「表彰されたり、メダルをもらう訳でも無い。もちろん、目標としていることを達成できたらうれしい。それよりも卒業した生徒が、『きょう成人式だったんです』と晴れ着で来てくれたりすると、水鳥体操館が報告に来たくなる場所だったんだと感じてうれしくなる」

 ―恩師は?

 「両親はもちろんですが、特別なのは日体大3年から教わった瀬尾京子先生。世界選手権金メダリストの村上茉愛選手らを指導している。すごい厳しいですけど、色々教えてもらいました」

 ―どんな教え?

 「試合の直前練習で、技に対しての恐怖心があって、自信が無い演技をやらなかった。案の定、本番で失敗した。でも、時には成功することもあって、直前練習でやらないことを悪いと思ってなかった。でも、『なぜやらないの? 確認もせずにできる訳ないでしょ』と」

 ―確かに。

 「それからは全部やった。大学1年生の時に右膝前十字靱帯(じんたい)をケガしたんですが、ケガ前の演技が全てできるまで戻った。普段の練習や準備から大切にやることが本番につながる。『いつも通り』です。当たり前の事なんですが、それを再認識して、コーチになった当初は生徒たちに意識させていました」

 ―うららさんも?

 「最近はルールのように言うことは無いですが、昨年4月の全日本選手権で普段と違うアップをして、平均台から落下した時は言いました。すんなり聞き入れてくれて、練習の集中力が増したと思います。元々ミスが少ない子だったんですが、種目別W杯ではほぼ完璧な演技をしてくれた」

 ―そうなんですか?

 「Dスコア(演技構成点)的には優勝まで難しいと思っていました。それが昨年11月のコトブス国際で予選3位。完璧な演技でEスコア(出来栄え点)を稼いで、決勝で上位選手が伸ばせずに優勝。本当に驚きました。今年2月のメルボルン大会は新型コロナウイルスが流行していた中国選手が出られず、ランキング1位のオーストラリア選手との勝負だったんですが、予選も決勝も1位を取りました」

 ―しかし、今月のバクー大会決勝(14、15日)は中止。

 「予選は1位でした。種目別W杯シリーズでここまで2回優勝したのはうららだけ。上位3試合の成績でランキングを決めるので、バクーで優勝すれば五輪ほぼ決まりだった。それも今までで一番Eスコアが出て13・85点。予定していたDスコアより0・1低い演技構成になったので、優勝というより『14点台狙おう』と話していた所で、その晩に中止になった」

 ―悔しいですね。

 「悔しいです。実は、私も似たような経験をした。01年の世界体操代表に選ばれたのに、アメリカでテロが起きて、日本は選手を派遣しなかった。予選までやって中止になった今回とは違うけど、勝負の舞台を失ったのは同じ。少しでも気持ちが落ち着けばと思って、うららには話しました」

 ―経験が生きた。

 「そうですね。世界体操のチームメートが協会や全国でコーチになっている。合宿の度に色々な話を聞いて参考にしています。(男子強化本部長でいとこの水鳥)寿思さんも正月に帰ってきた時は色々話してくれますし、男子コーチに技の指導方法も教えてもらえる。常葉大常葉の新体操部の末永明日香監督も水鳥体操館で一緒でした。時々話しては刺激をもらっている」

 ―今も演技を実演する?

 「無理です(笑い)。最初はやっていましたが、言葉で伝えられないようではダメだと思っています。それと選手を認めてあげることを学びました。期待が強いと欲が出て『何でできないの!』と厳しく当たってしまう。私自身も厳しくされた父親には反発していましたが、今は指導する側も選手の気持ちも分かる。その父から『何でも厳しくするのではなく認めてあげないといけないよ』と諭されて、うららとも話しました」

 ―今後の目標は?

 「やっぱりオリンピックに選手と一緒に行くことですね。私は04年のアテネ五輪がチャンスでしたが、代表になれなかった。今回は最後のドーハ大会予選が6月に延期されました。まだどうなるか分かりませんが、うららにチャンスが来るように祈りたい。それを信じて私自身も『いつも通り』準備をしていきます」

 ◆守屋 舞夏(もりや・まいか)1985年7月27日、静岡市生まれ。34歳。旧姓・水鳥。体操選手だった両親の下、水鳥体操館で3歳から体操を始める。常葉学園中高(現・常葉大常葉)から日体大。高1で01年東アジア大会団体銀、跳馬銅。同年ゲント世界体操代表、03年アナハイム世界体操代表。08年大分国体後に現役引退し、水鳥体操館でコーチに。家族は体操選手だった夫・貴夫さん、長男・海貴君(5歳)。

 ◆芦川うららの東京五輪への道 種目別の平均台での出場を狙う。18年から行われる種目別W杯シリーズ8大会で、出場した3大会でのポイントによる最上位の選手が出場権を獲得。芦川は19年11月コトブス、20年2月オーストラリアの2大会に出場し2連勝。出場権獲得にはもう1大会への出場が必要だが3月バクー大会は中止、ドーハ大会は6月に延期された。バクー大会は決勝が中止になったが、芦川が1位だった予選の扱いは協議中で、予選結果が最終成績になる可能性も残っている。

 〇…新型コロナウイルスの影響で、静岡市の小中学校が休校していた間は水鳥体操館も休館。芦川はバクーから帰国後2週間は一人で練習。その後は健康チェックしながら従来の練習に戻る予定。芦川は舞夏コーチについて「選手の頃からたくさん経験を積んでいて、理解してくれることが多いので、私の先生で本当によかったです!」とメールでコメントした。

 ◆水鳥体操館 元体操選手の水鳥一夫さん、見香夫人が83年に創設。5男1女の6人きょうだいの内、5人が体操選手となり、長男・静馬さんと四男・一輝さんがコーチを務め、男子を指導。アテネ五輪団体総合金の次男・寿思氏(協会の男子強化本部長)が設立した体操教室(川崎市)で五男・豪敏さんがコーチ。ちなみに三男・繭見さんはオペラ歌手。また、一夫さんの弟、政弘さんと節子夫人も体操選手で、長女の舞夏さんとともに女子を指導。