市と鈴木大拙館の講演会「金沢・現代会議」(北國新聞社後援)は13日、市文化ホールで開かれた。大拙に師事、最晩年の15年間を共に過ごした岡村美穂子名誉館長(84)と、同館アンバサダーで東大名誉教授の姜尚中(カンサンジュン)氏(69)が登壇。約850人の聴衆は、大拙が説いた「無心」の大切さをかみしめながら、混迷の時代を生き抜く鍵を探った。 岡村名誉館長は、大拙に出会ったばかりの10代の頃、大拙に居士号の意味を尋ねた逸話を紹介した。「『大拙』とは大ばかという意味だ。だが、ばかになるのは至難だ」というのが、大拙の答えだったという。 人間には成長するにつれて分別が生まれ、物事を二つに分けて考えるようになるが、岡村名誉館長によると「その分別こそが、右か左か、黒か白かという迷いを生むもとになると大拙は考えていた」と解説した。 不安から解放されるには「まず自分を捨てることが大切。その作為のない境地が『拙』であり、『大拙』という居士号には、東洋的な思想の基準がある」と岡村名誉館長は指摘した。 続いて登壇した姜氏も、「無心」を重要なキーワードに挙げた。地震や新型肺炎の流行は人間の計らいを超えた自然現象であり「人間が生きるということは、常に不確実性を生きることだ」と説いた。 姜氏は、AI(人工知能)に代表される科学技術の進歩によって、不確実性が、あたかも確実な存在に置き換えられているような感覚が広がっていると述べた。その上で「不確実性の不安に耐えられず、AIに頼るのは間違い。不確実性を引き受ける『無心』こそが重要だ」と強調した。 木村宣彰館長を聞き手にした岡村名誉館長と姜氏の対談も行われた。 姜氏は、情報化が進んだ現代社会では短時間で成果が求められ「5年、10年で自分を考えることができなくなっているのではないか」と述べた。岡村名誉館長は「若者には問題を相談できる相手がいないのではないか。寺院や教会のように話を聞き、助言をくれる場がどこかにあってほしい」と話し、心のより所が失われている現代社会に警鐘を鳴らした。