2011年の東京電力福島第1原発事故を契機に設けられた原子炉等の新規制基準への対応のため、運転停止を余儀なくされていた茨城県内の研究用原子炉が次々と再開の動きを見せている。東海村と大洗町にある日本原子力研究開発機構(原子力機構)の各施設で、医療や産業、原子炉の安全性など幅広い分野の研究に役立てられる。原子炉を利用した研究開発の国際競争が激化する中、担当者たちは「停止期間の研究の遅れを取り戻したい」と口をそろえる。

■人材育成も空白

「事故が万一起きたらどうなるか実際に知り、対策を取ることは極めて大事。研究炉の停止は研究や技術継承の遅れにとどまらず、人材育成の空白としても痛手」。原子力機構安全研究センター長の中村武彦さんは、原子力科学研究所(東海村白方)の原子炉安全性研究炉「NSRR」の停止による影響を説明した。

NSRRは3月24日に運転再開。炉心の燃料内ではウランが核分裂してできた放射性物質から出る放射線が水と反応し、青白いチェレンコフ光を放った。新規制基準適合審査に合格し、18年に運転をいったん再開したが、付属建屋の耐震工事で再び停止していた。

原発事故発生時に原子炉内の燃料が破損する条件やメカニズムを実験的に研究する。福島第1原発事故の原因究明や廃炉支援につながることが期待される。

長い停止期間中、本格的な研究や実験技術の改良は大幅に滞った。中村さんは「運転再開で、放射性物質の取り扱い能力も合わせた総合力でポテンシャルを取り戻せた。われわれが頑張って安全研究のメッカに戻すのみ」と意気込む。

■医療や産業分野

がん治療用器具開発など医療分野や、エンジンの低燃費化など産業分野、軽水炉や新型炉の原子炉研究など、実験用原子炉が担う役割は多岐にわたる。

3日には、大洗研究所(大洗町成田町)の高温工学試験研究炉「HTTR」が同適合審査に正式合格し、早ければ来年3月の運転再開を目指している。

定常臨界実験装置「STACY」(東海村白方)は2022年2月の再開が目標。1999年のJCO臨界事故の際、事故現場の沈殿槽の周囲に水がある場合とない場合を模擬して臨界データを提供し、事故収束や事故調査に貢献した施設だ。

学術利用や産業利用など幅広い分野のユーザーが中性子ビーム利用実験を行ってきた「JRR-3」(同)も来年3月、高速増殖炉の実験炉「常陽」(大洗町成田町)は2022年度末の運転再開を目指す。

■強力ライバルも

HTTRは、小型で初期投資が少なく安全性が高いとされる小型モジュール原子炉の高温ガス炉で、次世代原子炉とされる高温ガス炉の研究に重責を担う。原子炉の冷却に水を使う現行の原発の軽水炉と違い、科学的に安定したヘリウムガスを使用するため、構造的に炉心溶融や水素爆発を起こす恐れがないとされる。

原子力機構は、石炭火力に代わる発電施設として高温ガス炉の導入を目指すポーランドと、研究協力の覚書を交わし、安全性実証試験にも取り組んできた。ただ、運転再開がこれ以上遅れれば、ポーランドとの協力も滞り、日本がこの分野で国際競争力を強化する機会を失うことにもなりかねない。強力なライバルの中国も同様の実証実験に取り組んでおり、再開は待ったなしの状況だ。

世界的に小型原子炉の開発競争は熱を帯びている。原子力機構の担当者は「早く再開し、日本の技術を世界で展開したい」と語る。