ゲームファンを続けていれば、幾度となく「隠れた名作」という言い回しと出会うことがあります。単語からも分かる通り、名作と呼べるほど面白いのに、その素晴らしさと知名度が釣り合っていない作品を語る際によく用いられる表現です。

この言葉自体は概ねポジティブな意味で使われますが、メディアに携わる者にとっては、自分たちの至らなさを痛感させられる単語でもあります。面白いのに、知られてない。それは、伝える側であるメディアの力不足に他なりません。

「隠れた名作」として名前が挙がるゲームは古今東西数多くありますが、4月30日にニンテンドースイッチ向けDLソフトとして配信された『グノーシア』も、内包する面白さに知名度が追いついていない作品のひとつ。これ以上「隠れた名作」を増やさないためにも、この『グノーシア』の魅力をピックアップし、より多くの方に遊んでもらえるよう紹介したいと思います。もちろん、物語面のネタバレなどはありませんのでご安心を。

◆『グノーシア』のモチーフとなった「人狼」って、どんなゲーム?

『グノーシア』の魅力を語る前に、まずは本作のモチーフとなったゲームについて触れさせていただきます。『グノーシア』は、人間観察や立ち振る舞いで味方と敵を判断し、敵対する側の全滅を狙うコミュニケーション型パーティーゲーム「人狼」をモチーフとした作品です。

「人狼」の多くは、「人間」と、人間に擬態して紛れ込んで人を食う「狼」が入り交じる集団の中で、人間側は狼の根絶を目指し、狼側は正体を隠しながら全ての人間を食らうことを目的として動きます。昼間に全員で話し合い、多数決で一番怪しかった人物を狼として吊し上げ。そして夜になると狼側のターンとなり、人間を殺害。この繰り返しを経て、狼が先に滅べば人間の勝ち。逆に、誤って人間ばかりを吊してしまうと狼が過半数を超え、人間側の敗北となります。


狼は、自分が狼だと知っているので、怪しまれないように振る舞います。また、疑いを逸らすため、別の相手を狼だと告発するかもしれません。人間も、自分が人間だと分かっていますが、それを明確に証明する手立てはなく、態度と言動で示すしかありません。過剰に目立てば狼として吊されますし、かとって大人しくしていても、かえって怪しまれる場合があります。

「こいつは狼かもしれない」という疑いを人間同士が抱き、その疑心暗鬼につけ込む狼。信頼と疑惑、そして嘘が交錯するコミュニケーションの中で、いかに相手を見極め、誰を味方とし、疑われないように立ち回るか。そこから生まれる緊張感とプレイするたびに変化する無数の展開が、多くのプレイヤーに刺激的なひとときを提供し、「人狼」は人気を博しました。

この「人狼」をモチーフとした『グノーシア』は、どんな魅力を備えたゲームなのか。ここからは、本作の特徴を項目別にピックアップしていきます。

◆「人狼」モチーフのゲームなのに、ソロプレイで楽しめる!

「人狼」モチーフのコンピュータゲームは、結構な数がリリースされています。しかしその多くは、オンラインで他のプレイヤーと繋がり、実際の人間を相手にやり取りするスタイル。「人狼」ゲームの肝はコミュニケーションなので、無理のない話ではありますが、「遊ぶ相手がいないと成立しない」「経験の有無など、プレイ環境の差が影響しやすい」といった問題も少なからずあります。

しかし『グノーシア』は、完全ソロプレイのオフラインゲームプレイヤーの気が向く時にいつでも遊べますし、プレイ中にスリープして後ほど続きを遊ぶ・・・といった遊び方でも何ら問題ありません。作中でコミュニケーションを取るキャラクター陣は個性を持っており、戦い方やスタンスもバラバラ。「人狼」と同じく、役柄(人間なのか狼なのか、等)も変化するため、繰り返しプレイしても常に新鮮な気持ちで遊べます。


「人狼」を遊んでみたいけど、対人相手なので勇気が出ない。そんな方も少なくないと思います。ですがこの『グノーシア』なら、信頼と嘘が入り乱れるコミュニケーションを、誰にも迷惑をかけず自分のペースで楽しむことができるのです。

◆「人狼」に慣れてない? そんな人にとってもうってつけ!

「人狼」は、カードゲームやボードゲームと違い、マップや駒などはなく、会話そのものが戦いの舞台となります。そのため、どのように遊ぶのか想像しにくい方もいることでしょう。

また、作品によって異なりますが、人間側に特殊な役割が振られることも多く、その能力を活用することで、狼を特定する大きなヒントになることも。中には、狼かどうかをズバリ判定する能力もあります。


「そんな力があったら、簡単に勝てるのでは?」と思われるかもしれませんが、「人狼」において大事な要素の一つは、身の潔白を証明する手段が乏しいところ。「誰が狼か分かっても、それを他の人に信じてもらわなければ意味がない」という問題もあるのです。

こういった能力の使い方や、乏しい情報から人狼を絞っていく手腕は、経験しなければ分かりにくいもの。そのため、興味があっても未経験ゆえに参加に踏み切れない場合もあります。


ですがこの点も、『グノーシア』は非常に親切です。ゲーム開始直後は、参加人数が少なく、また役職もなし。繰り返しプレイするに従って、役職や人数が増えていくので、少しずつ「人狼」の遊び方に慣れていきます。ちなみに最大の参加人数は、主人公を含めて15人。慣れた後には、これだけの人数を相手取るやり取りが楽しめるので、先の展開をお楽しみに。


<cms-pagelink data-text="『グノーシア』は、気軽に遊べる心配りも満載!" data-page="2" data-class="center"></cms-pagelink>

◆狼の吊し上げは、「コールドスリープ」で罪悪感軽減! グノーシア側の立ち回りは、背徳感も手伝って刺激的

「人狼」は、話し合いをベースに多数決を行い、狼と思われる相手を吊していきます。これは、狼を排除する貴重なプロセスですが、「吊す=殺す」という手段を取る作品が多々あります。


危険な狼を排除するためとはいえ、「誰かを殺す」のは、あまり気分のいいものではないでしょう。また、読みが外れて、仲間であるはずの人間を殺してしまう場合もあります。というか、総数に対して狼の方が断然少ないので、仲間の吊し上げはまず避けられません!

そのジレンマは『グノーシア』でも健在ですが、話し合いと多数決の結果、怪しいと思われた人物が辿る道は「コールドスリープ」。凍結して無力化するだけで、殺すわけではありません。ゲーム上の意味では、凍結も殺害も変わりませんが、心理への負担はかなり違います。この演出も、「人狼」初心者にとって遊びやすいポイントのひとつでしょう。


──ですが、注意点もあります。本作における人間の敵「狼」は、タイトルにもなっている「グノーシア」という存在。そしてプレイヤーも、このグノーシアになる可能性があります。グノーシアになった場合、話し合いを終えた後、人間を1人「消滅」させるターンが回ってきます。

描写自体はあっさりしていますが、この消滅は殺害と同じ意味なので、グノーシア側に回った時は覚悟が必要です。多少ゲームに慣れるまでは、しばらく人間側だけでプレイできるので、その間に心の準備をお忘れなく。


ちょっと不謹慎かもしれませんが、嘘と混乱を武器とするグノーシアの立ち回りも、なかなか刺激的な楽しさに満ちています。本作に慣れてきたら、グノーシア側もじっくり堪能してみてください。

◆1プレイが短く、サクサク遊べる!

話し合いと多数決で怪しい相手を決めて凍結し、夜には人間がグノーシアに殺される。この流れを幾度も繰り返し、グノーシアが全滅するか、残った人間よりもグノーシアが上回るかで、ひとつのサイクルが終了します。

ですが、プレイヤーを交えた話し合いはサクサクと進み、推察の元となる情報も(真偽の判断が難しいだけで)すぐに共有されるので、プレイは予想以上に早く進みます。そのため、プレイする手を止めて考える時間などがなければ、1回のサイクルは15分前後で終了。ちょっとした時間の合間にプレイできる短さです。


参加人数や条件は、ある程度プレイした後に変更可能となるので、調整次第ではもっと短いサイクルで終えることも可能。ちょっとだけ空いた時間や、仕事・学業の気分転換に軽く遊ぶ時は小規模に設定し、ゆっくり遊べる時は最大人数で遊ぶなど、状況に応じて臨機応変に楽しめるのも嬉しいポイントです。

1プレイが短く、お手軽に遊べる『グノーシア』・・・ですが、こちらも注意点がひとつだけ。1回のサイクルが短いのは間違いありませんが、「悔しい、負けた! 次こそ勝つ」「なんとか勝てたけど、ギリギリだった。今度はもっと上手くやろう」「まさかアイツがグノーシアだったなんて! 悔しいもう1回!」と、思わずのめり込んでしまい、気が付くと2〜3時間経ってた──そんなケースになることも少なくありません。少なくとも、筆者自身がこのプレイ体験を味わっています。まさか夜が明けるとは・・・!


短く遊べるはずなのに、長々とプレイしてしまう。それだけ魅力的なのは長所ですが、油断するとあっという間に時間を盗まれるので、2重の意味で“グノーシア”にはご注意ください!

◆推察や推理は苦手? ならば主人公を成長させ、有利に物事を運ぼう!

これまで説明した通り、『グノーシア』はコミュニケーションで相手の真偽を探り合い、敵陣営を排除していく遊びです。それだけに、相手の性格や言動を見極める観察力、情報を論理的にまとめる推察力などが問われます。

「そんな難しそうなゲームは、ちょっとできないかも」と尻込みする方がいるかもしれませんが、そこはご安心ください。実は『グノーシア』にはRPG的な育成要素もあり、成長させることで有利に展開を進めることができます。


特定の相手がグノーシアだと気づいていても、声高に疑い続ければ、かえってこちらが怪しまれ、コールドスリープの対象になる場合もあります。ですが、ステータスのひとつ「かわいげ」が高ければ、皆に好かれやすくなり、凍結されることが少なくなります。

また、グノーシア側にとって脅威の存在になると、凍結後の消滅対象に選ばれやすくなりますが、「ステルス」が高いと敵意を持たれにくくなるので、生存に繋がります。

中でも個人的に頼もしかったのは、相手の嘘や不審な行動を見抜く「直感」。相手の嘘が分かればグノーシアが特定しやすくなりますし、庇う相手も仲間の可能性アリ。芋づる式に、グノーシアを絞り出すこともできます。


ロジックな思考がちょっと苦手な方でも、繰り返し遊んで成長するという解決策がグノーシア』にはあります。一見すると難しそうなゲームですが、その印象よりも遥かに、遊ぶ人を選ばない作品と言えるでしょう。

ちなみに成長するための経験値は、サイクルを終わらす度にもらえます。勝利する方がより多く経験値をゲットできますが、負けても入手できるので、ガンガン遊んで場を支配する弁論の達人に鍛え上げるのも一興ですよ。


<cms-pagelink data-text="真実だけでは勝てない! 感情と場の空気を制するものが『グノーシア』を制す" data-page="3" data-class="center"></cms-pagelink>

◆論理だけでは勝てない! 証拠を掴み、掴まれてからが本番

グノーシアの判別など、役職によっては真実に大きく近づく能力が手に入ります。また、前述の「直感」を高めて嘘を見抜けば、グノーシアの特定も難しい話ではありません。ですが、そういった証拠やロジックだけでは勝てないのが、『グノーシア』の面白いところです。


どれだけ正しい情報を握っていても、その「正しさ」が正確に伝わるかどうかは分かりません。むしろ、場の流れや個人の感情が多数決を左右するケースも。真実とて、伝わらなければ無力な戯れ言に過ぎないのです。

証拠を獲得しだだけでは勝利が決まらないので、自分の意見を広めながら、グノーシアに狙われないよう立ち回らなければなりません。またグノーシアの場合は、証拠を掴まれてもまだ反撃の余地があり、相手を追いつめる逆転劇も可能。論理だけでは勝利できないのも、『グノーシア』の醍醐味なのです。


ちなみにグノーシアが複数いる場合、グノーシアがグノーシアを貶める展開もあります。「敵の敵は味方」とは断言できないので、ゆめゆめ油断されませんように!

◆昨今では貴重な、SF系ADVがここに!

黄金期と比べると目立つ作品は少なめですが、インディーやスマホ向けゲームアプリも含めると、ADVゲームは今も様々な活躍を見せています。ですが、未来が舞台となるSF系ADVとなると、どうしても数は絞られがちです。

異質な存在と対峙するSF系ADVといえば、音楽がカギとなる『ジーザス』や、匂いが決め手となった『メタルスレイダーグローリー』など様々な名作が生まれましたが、近年は現代を舞台とした恋愛やサスペンス、推理モノにデスゲーム系などが台頭しています。

もちろんいずれのADVも魅力に溢れていますが、SF系ADVが作品数的にやや寂しいのも事実。そんな折りに登場した『グノーシア』は、SF系ADV好きにとっても見逃せない1作です。作中における直近の目的は「生存と勝利」ですが、大局的にはループを繰り返す世界の真実に近づくこと。状況設定としてのSF要素だけでなく、物語全編に渡ってSFテイストを楽しめる貴重な作品となっています。


現代劇もいいものですが、SF系なADVも独特の味わいがあります。遊ぶ作品の選択は多いに越したことはないので、ちょっと飢えやすいSF系ADVはしっかりと確保し、堪能したいところです。


ネタバレを避けるため、シナリオやキャラクターについては極力避け、本作の要点や特徴などを紹介させていただきました。もちろん、熱中してうっかり朝を迎えてしまうシナリオも魅力的です。また、配役として敵同士になっても、どこか信頼感で繋がっているように思える「セツ」の存在を始め、登場キャラはいずれも惹かれる面々ばかり。


好みに合うかどうかの相性こそありますが、ゲームとしても、またインタラクティブ性の高い物語としてもしっかり完成された『グノーシア』は、ADVゲームファンならば外したくない名作のひとつと筆者は捉えています。

ちなみに、そんなゲームをどうして「隠れた名作」として紹介したのかと聞かれれば、『グノーシア』の初リリースがPS Vita向けとして、2019年6月20日に配信が開始されたことが一因です。実は、PS Vitaの出荷は2019年3月に終了。『グノーシア』は、本体の生産や出荷が終わった後に登場したPS Vitaソフトでした。ハードの後期どころか末期とも言える時期にリリースされたため、その完成度や話題性と比べると、知名度は一歩引く形にならざるを得ません。


しかし、2020年4月30日に、ニンテンドースイッチ版『グノーシア』が配信開始! 人気沸騰中の現役ハードでのリリースは、本作のプレイ人口を拡げる力になってくれるはず。その勢いを、わずかばかりでも後押しできるよう願いながら、『グノーシア』の紹介を締めくくりたいと思います。

手軽に遊べて、繰り返すたびに成長するやり甲斐もある、SF系人狼ADV『グノーシア』。論理と感情が常に乱高下するコミュニケーションに、その身を投じてみてはいかがですか?