緊急事態宣言による政府からの要請により、テレワークの利用が急速に広まった。とはいえ、準備不足のまま、状況がそれを許さずにテレワークを始めたために、多くの課題を抱えている企業や現場も多い。

 そこで今回は、利用者も多いタスク管理ツール「Trello」をはじめ、様々なコラボレーションツールを提供するアトラシアンにインタビュー。テレワークを成功させるヒントを聞いてみた。

 なお、「ツールメーカーにインタビュー」というと、自社のツール紹介が中心になりがちだが、実は同社のフォーカスは「チーム力そのものを高めること」。同社のオウンドメディア「チームの教科書」では、ツールにとらわれない働き方改革を紹介している。

 お話をお伺いしたのは、同社のシニアマーケティングマネージャー、朝岡絵里子氏だ。

リモートワークを成功させるには「ツール・実践方法、企業文化」の3要素が必須

――まず、お伺いしたいのですが、御社では“リモートワークの成功”とは、どのような状況だとお考えでしょうか?

[朝岡氏] オフィスで顔を合わせている時か、それ以上の生産性が確保されている状態ととらえています。

――リモートワークでは生産性は下がるものだと。

[朝岡氏] 様々な課題があるため、何も考えずに自宅でもオフィスにいる時と同じように仕事をしていると、生産性は下がると思います。ただ、課題があることを意識し、それを解決すれば、むしろ生産性は上がりますね。

――リモートワークにおいて、生産性を妨げている課題とは何でしょうか?

[朝岡氏] 顔が見えない場所で仕事をしているので疎外感を感じる。上司がサボっていると思っている、もしくはそう思われている気がする。コミュニケーションの誤解や摩擦などですね。これらは、テレワーク特有のものだと思います。

――その課題を解決するためには何が必要でしょうか?

[朝岡氏] アトラシアンではリモートワークが成功するには、3つの要素が必要だと考えています。1つ目がツール。2つ目が実践方法。3つ目が企業文化です。

リモートワーク3大ツールは「チャット・Web会議・コラボレーションツール」

――今回、リモートワークが普及する中で、様々なツールが注目されました。中でも、先に上げたような課題を解決するために、必要なツールとは何でしょうか?

[朝岡氏] 大きく分けて、チャットツール、Web会議ツール、コラボレーションツールの3つが必要だと思います。

――課題を解決するためには、それぞれのツールをどのような状況で活用すべきでしょうか?

[朝岡氏] チャットツールはメールと比べると、よりリアルタイムに双方向のコミュニケーションができるのが魅力ですね。絵文字が使えるので、感情や意図を細かく伝えることもできます。連絡事項から雑談まで、日常的なコミュニケーションに有効です。

――ビデオ会議ツールやWeb会議ツールはどのような使い方になるでしょうか?

[朝岡氏] もちろん名前の通りにWeb会議にも利用するのですが、いわゆるオフィスにおける、「ちょっといい?」という立ち話を再現するのに便利です。文字のコミュニケーションでは、説明が難しいこと、誤解が生まれてしまうことがあります。そういう時に5分顔を見て話すだけで解決することは、世の中に結構あると思います。

――コラボレーションツールについてはどうでしょうか?

[朝岡氏] これは弊社のツールでいうと、「Confluence」のような社内Wiki的なものと、「Jira」シリーズや「Trello」のようなプロジェクト管理ツールになるでしょうか。メールやチャットのようなフロー型のツールでは、やり取りした情報は流れていくので、後から必要な情報を検索したり、整理したりするのには向いていません。情報をストックして、オープンにするためには、別のツールが必要になるわけです。

――ストックすべき情報とは、どのようなものになるでしょうか。

[朝岡氏] 「Confluence」でストックするのは、業務のノウハウ、組織のルール、議事録、企画書などのドキュメントですね。こうした文書は、あらゆる仕事に付き物です。一方、「Jira」シリーズや「Trello」で管理するのはプロジェクトにおけるタスクで、いつ、だれが、何をやっていて、それがどのような状況かを可視化します。このようなITSM――ITによるサービスの効率化の分野では、経理や法務などのバックオフィスにおいて、「Jira Service Desk」のようなヘルプデスクも有効です。

――それは、どのような使い方が考えられるのでしょうか?

[朝岡氏] 法務であれば、社内からの「契約書を改変してほしい」といった問い合わせについて、優先順位でソートし、履歴やステータスもオープンにしながら、チームで処理していくといった使い方ですね。経理でも「見積書を直したい」「取引先から問い合わせがあった」といったリクエストへの対応に有効です。

ポイント1:ツール中小企業でまず導入すべきツールは?

――緊急事態宣言に伴い、リモートワークを余儀なくされた中小企業もあると思います。このような企業は、まずどのようなツールを導入すべきでしょうか?

[朝岡氏] チャットとビデオ会議、その次は「Confluence」のようなツールでしょうか。

――中小企業に「Confluence」を導入するメリットとは?

[朝岡氏] 個人の役割が大きい中小企業では、情報が属人化しやすい状況にあります。昨今では人手不足も問題になっているので、蓄積したノウハウを公開し、新人教育などに役立てられるかと。

――「Confluence」ならではの、便利な機能があったら教えてください。

[朝岡氏] 「Confluence」ではWikiのように、情報をページ単位で管理しているのですが、メンションを付けた書き込みで他人を巻きこめるのは、コラボレーションの上でかなりパワフルですね。ページ内に記載された特定の単語や一文を選択し、メンションを付けて、「これについて教えてください」などとメッセージを送ることもできます。

――メンション機能については、他にもどのような使い方がありますでしょうか?

[朝岡氏] 議事録であればToDoを「@○○○○:企画の作成」「@△△△△:営業活動」といった形で書きこむことで、リマインドを送ることができます。ようするに、○○○○さんのところに、「企画の作成」というメッセージが自動で届くわけですね。チェックボックスも挿入できるので、簡易的なタスク管理に利用できますよ。

――なるほど、企画書でしたらどんな使い方が考えられるでしょうか?

[朝岡氏] そうですね、自分以外が担当している箇所について、担当者のチェックが必要な時に、「@□□□□さん、明日までにレビューください」などとメッセージを送る、というのはどうでしょうか。相手もインラインで文書を指定して、「××はこうしよう」などとコメントできるわけです。

――ドキュメントを作ったあとで、いちいちメールを書いて送る手間から解放されるわけですね。連絡経路が分散しないので、情報を一元管理するのにも役立ちそうです。

[朝岡氏] 労力の削減という点では、皆様からご好評をいただいております。リモートワークでは、どこで誰が何をしているか、自ら発信しないと伝わりません。そのために、メールをする、チャットをする、電話をするという手間が省けるのは、心理的に楽になったとのお声をいただいています。情報の一元管理という点では、編集履歴を残せるのも大きな強みだと思いますよ。

ポイント2:実践方法「ワークショップやアクティビティを定期的に行うこと」

――リモートワークを成功させるための要素として、その実践方法があるということでした。正しい方法、間違った方法があるということでしょうか?

[朝岡氏] いろいろな会社のコンサルティングをしてきた経験からお話しますと、ツールの導入だけではチームのコラボレーションは向上しません。チームの状態を把握し、ワークショップやアクティビティを定期的に行うことが大切です。詳しくは「Team Playbook」というガイドを無料で公開しておりますので、ご参考になればと思います。

――ツールを導入したことで、コミュニケーションなどの手段が提供されたことになるわけですが、それでもなぜチームのコラボレーションは向上しないのでしょうか?

[朝岡氏] いくつかの理由が考えられます。例えば、先ほど紹介したフロー型とストック型というように、ツールにはその個性から向き不向きがあるわけです。どのツールを、何の目的で導入すべきか。さらには、情報共有においても、グラウンドルールが整備されていなければ、コミュニケーションが機能しなくなります。

――ツールの運用においては、どのようなルールが必要なのでしょうか?

[朝岡氏] これも企業の規模や業種によってさまざまですが、「Confluence」を例にするなら、ページをどの単位で作成するか。部署ごとなのか、タスクごとなのかを決めておかなければ、ページが無作為に乱立して、検索性などが悪くなります。こうした運用ルールの整備が必要です。

ポイント3:企業文化「心理的な安全性」を確保してこそ、情報や働き方がオープンに

――ツールと実践方法というのは何となくイメージできましたが、企業文化とはどのようなものが必要なのでしょうか?

[朝岡氏] リモートワークにおける課題の中には、ただツールを導入しただけでは、自動的に解決しないものがあります。特にチームのパフォーマンスに関わるものですね。

 例えば、社員同士がフランクに物を言い合える文化がないと、チャットツールなどを導入しても、コミュニケーションは加速しません。いくら素敵なアイディアを提案しても、上司の方が「そんなの成功しない」と潰してしまえば、次の意見を言いたくなくなるでしょう。その状況は、職場で心理的な安全性が確保できていないということになります。

――心理的な安全性を確保するには何が必要ですか?

[朝岡氏] 人は本質的に変化やリスクを好まない生き物ですが、本質的な人の性質を超えて何か新しいものを生み出すには、安心して発言できる環境づくりが極めて重要です。情報や働き⽅がオープンになれば、ツールはより強力なサポートになるということです。

――考え方という視点では、Jiraシリーズの出発点になっている「Jira Software」は、アジャイル開発向けのソフトになっています。アジャイルという考え方も、ソフトウェア開発以外の分野に広まっているようですが。

[朝岡氏] 早く動くものを作り、フィードバックを得て改善し、市場での価値をいち早く高めていく。それを短いサイクルで回していくというのは、現代のビジネスの世界ではとても有効です。このような考え方で動いている企業を相手に、どうやって戦っていくのか? が今まさに問われていると思います。

会社にツールを導入させる“殺し文句”とは?

――本誌を読んでいる読者の中には「ツールを導入したいが、上層部がなかなか認めてくれない」という人も多いようです。そうした場合、どうやって説得したらいいでしょうか?

[朝岡氏] 「雇用を維持するにあたって、リモートワークの環境がある企業は強い……」と説得するのはどうでしょうか。環境があることで社員の満足度が上がったり、その会社を選ぶ新入社員もいたりすると思います。アトラシアンでは井戸端会議みたいなものを、ツールで再現する努力をしていますよ。バーチャルランチ、オンライン飲み会など、社員が常に繋がりが感じられるような取り組みも行っています。そのために欠かせないのがツールですね。

――逆に「ツールを使うのに手間がかかる」と、導入を嫌がるスタッフもいるかと思いますが。

[朝岡氏] 実はツールを導入すると、上司に仕事を邪魔されなくなるんです。「ねぇ、あれはどうなっているの?」と聞かれたり、進捗会議を行うことで、作業を中断されたりしなくなりますから。リモートワークの課題として、「サボっていると思われる」ことがありますが、ツールを使って進捗状況を見える化しておけば、上司に「それを見ておいてくれ」と言えるわけです。

――リモートワークを成功させるには、的確なツールを導入し、ルールに基づいて運用することが重要とのことでした。それを社内に定着させるには、何をすればいいでしょうか。

 【朝岡氏】中小企業では何度か集まって勉強会を行えば、問題ないかなと思います。大企業では入社時に使い方などをレクチャーするプログラムを用意し、さらに勉強会を行っているケースが多いようです。先ほどツールで井戸端会議をしているという話がありましたが、ツールを使いこなせるようになったとき、「会社というコミュニティに仲間入りできた」と実感した方も多いようですね。

「次の世代の“当たり前”に合わせて変わっていくこと」が重要

――今後、日本におけるリモートワーク事情はどう変わっていくのでしょうか?

[朝岡氏] 今回は新型コロナウイルスの影響から、リモートワークを導入せざるを得なかった企業も多いと思います。ただ、その中で多くの方が、リモートワークの有効性に気づいたのではないでしょうか。新しい働き方として、今後は採用されていく可能性は高いと思います。日本のデジタルトランスフォーメーションは、長らく立ち遅れていると言われてきました。今回の出来事が多くの会社において、その成功につながる組織作りのきっかけになるといいですね。

――リモートワークに適応できるかは、世代間による格差もあるという話もあります。

[朝岡氏] これからはSNSに慣れていて、デジタルなコミュニケーションを使いこなす世代が、社会の中心になっていきます。テレワーク中、先輩からのメッセージに「分かりました」という意味で「イイネ」の絵文字を送ったら、「先輩に絵文字を送るとは何事か」と言われたという話を聞きました。こういうコミュニケーションギャップに悩んでいる方も多いと思いますが、次の世代の“当たり前”に合わせて変わっていくことも必要なのではないでしょうか。