新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、“仕事”を取り巻く環境が大きく変化している。その変化の一つが、テレワークの広がりだ。会社のオフィスに集まって仕事をすることが当たり前ではなくなり、働く場所も形態も多様化している。

 そういった働く人たちの需要の変化に対応するための取り組みを始めたのが、ビジネスウェア専門店「洋服の青山」を展開する青山商事だ。新規事業として「シェアオフィス事業」に参入。10月8日、1号店を東京都内にオープンした。都心の既存店舗のスペースを半分に縮小し、空いた空間をシェアオフィスに一変させた。

 同社は新事業によって、本業の“仕事着”の販売にとどまらず、新たな“仕事場”の提供に乗り出していくという。シェアオフィス事業立ち上げの狙いや、自社で一から開発した施設の特徴について聞いた。

●個室や会話禁止エリアを用意

 東京都千代田区のJR水道橋駅から徒歩2分、ビルの1階に青山商事のシェアオフィス「BeSmart(ビー・スマート)水道橋店」がある。すぐ隣には、見慣れた青色の看板。「洋服の青山 水道橋東口店」との併設店となっており、シェアオフィスには「洋服の青山」の店内からも入れる。

 シェアオフィスの広さは約260平方メートル。全部で90席を用意している。1人で作業に集中できるブース席、1〜3人用の個室、ミーティングに使えるボックス席や会議室のほか、会話禁止の「Quiet(クワイエット)エリア」というスペースもある。自由に利用できるドリンクコーナーも用意。全体的に落ち着いた色合いで統一している。

 一時利用料金はオープン席で平日1時間550円(税別)。個室や会議室の利用は別料金となる。会員プランも用意しており、オープン席で月額3万円(同)からとなる。

 オープンから約2週間の時点では、テレワーク利用のほか、商談などの合間の時間を活用する短時間利用が多いという。ビジネス街という立地もあり、空いた時間に利用しやすいようだ。問い合わせや下見も増えている。

●FCではなく“自前”でシェアオフィスを開発

 青山商事にとってシェアオフィス事業は初めての試み。なぜ新しい事業を立ち上げたのか。開発副本部長の後藤貴紀氏は「新型コロナによって働き方が多様化した。ビジネスウェアだけでなく、新しい需要にも対応する必要があると考え、シェアオフィスに着目した」と説明する。

 同社はこれまでも事業の多角化に取り組んできた。ビジネスウェアを本業としながら、飲食店やリサイクルショップ、100円ショップなどを展開。有名ブランドのフランチャイズチェーン(FC)に加盟して、さまざまな形態の店舗を運営している。

 一方、今回のシェアオフィス事業はFCではない。後藤氏は「自前で新規事業に取り組むのは初めての試み」と明かす。自社で店舗やブランドを開発できれば、好きなようにカスタマイズしたり、顧客の声を反映した運営ができたりするが、FCにはパッケージ化されていて出店しやすく、顧客の認知度も高いというメリットがある。

 今回、自社でシェアオフィスを開発した理由について、後藤氏は「シェアオフィスは『こうすれば成功』という形がまだなく、成熟した事業とはいえない。それならば自前でつくって、お客さまの声を聞きながら改良していきたい」と話す。

 そのため、事前のマーケティング調査を重視。都心でシェアオフィスを運営している企業に話を聞いたり視察をしたりして、働く人のニーズがあると考えられる立地や設備、料金などを検討した。「洋服の青山 水道橋東口店」のスペースの一部を出店場所に決めたのは、駅に近い好立地で、短時間利用にも使いやすいことに加え、店舗空間の有効活用にもつながるからだという。また、テレワーク対応のビジネスカジュアル商品などを販売する店舗にも立ち寄ってもらいやすく、相乗効果も見込める。

 さまざまな種類の個室を設置したのも、既存のシェアオフィスの利用状況から、ニーズがあると判断したからだという。1人用、2人用、3人用のほか、オンライン通話用の個室も用意した。6人用の会議室は2部屋をつなげて最大12人で利用可能。大型ディスプレイやホワイドボードも備えている。

 設備には、顧客から引き取ったスーツを再利用した素材「リフモ」を使用したテーブルを設置し、環境配慮の姿勢も伝えている。テーブルの表面には糸や繊維がうっすらと見え、ビジネスウェア専門店が運営しているというイメージもわきやすい。

●店舗が狭くなっても選べる商品は充実

 既存店のスペースの半分をシェアオフィスとしてリニューアルした一方、通常のビジネスウェアの店舗は狭くなる。店舗運営に支障はないのだろうか。後藤氏は「『デジタル・ラボ』のシステムがあったからこそ、店舗スペースを縮小できた」と話す。

 デジタル・ラボとは、実店舗とECを融合させた在庫確認システム。都市部などの狭い店舗の品ぞろえを補うことを目的に、2016年に立ち上げた。店内に複数設置された大型サイネージやタブレット端末によって、「洋服の青山」全785店舗の在庫1000万点以上を確認できる。

 来店客は店舗で相談や試着をした上で、豊富な色や柄の商品を画面上に表示させ、好きなものを選ぶことができる。デジタル・ラボを使って購入した商品は、無料で配送となるため、公共交通機関を使って来店する人が多い都市部の店舗で特に利便性が高いという。

 水道橋東口店のスペースは半分になったが、デジタル・ラボの導入によって、「選んでもらえる商品や提供できるサービスはむしろ充実したのでは」と後藤氏は話す。

●ニーズを捉え、反映させていく

 シェアオフィス事業の今後については、「まずは1号店の運営に注力する」(後藤氏)方針だ。利用客へのアンケート調査などによってニーズを把握し、それを施設に反映させながら、都心を中心に次の出店を検討していくという。

 現時点では、「静かで落ち着いている」「BGMが良い」といった声がある一方、電源の場所やフリードリンクの種類について具体的な要望があった。そのようなニーズは今後、反映させていくという。また、隣席との仕切りがあるオープン席を使用する人が圧倒的に多いという傾向も、今後の施設づくりの参考になる。

 後藤氏は「新型コロナの状況は先が読めず、環境は常に変化している。その変化をいち早くキャッチして、環境に対応できるようなビジネスを展開していきたい」と語る。感染症の拡大という環境変化で影響を受けている業種は多い。さまざまなリスクに備えながら、新しい需要を取り込むための視点があらゆる企業に必要となっている。