テレビの「CMまたぎ」がなくなる日 “減らして効果を上げる”奇策とは

テレビの「CMまたぎ」がなくなる日 “減らして効果を上げる”奇策とは

 2月13日、NHK放送総局長の定例会見が行われた。

 会見では、日曜午後8時から放映されている大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺」の視聴率が伸び悩んでいることに話が及び、木田幸紀放送総局長が「ついていけないとか、分かりにくいという意見も確かにいろんな所で聞いている」とコメントしたと報じられた。

 日本を代表するテレビコンテンツである大河ドラマは、伝統的に老若男女が広く視聴する番組だけあって、このニュースが報じられるとネット上でたくさんの意見が飛び交った。コメントの中には、次のようなものがあった。「民放で、話の途中に急にコマーシャルが入ったりすると(略)本編が途切れてわからなくなる高齢の父などは、ついていけないかも」

 民放では、番組中にCMが何度か入る。このコメントによれば、高齢者など、それによって混乱する人もいるということらしい。確かに、以前仕事で知り合った70代の男性も同じような話をしていたことがあるし、そういう視聴者は少なくないのかもしれない。 もっとも、視聴者はCMのおかげで無料でテレビを楽しむことができるわけだが、確かにドラマや映画などの途中でCMが入れば、混乱とは言わないまでも、ストーリーへの集中力が途切れてしまうことはあるかもしれない。

 そもそもテレビCMは、以前なら1時間番組でだいたい15分おきに入ることが多かった。最近では不規則にCMを入れる番組も少なくないが、今も昔も、CMの間には短めのコマーシャルが数本流されるのが基本だ。この形は日本に限らず、米国などでも同じである。

 いま米国で、そんなテレビCMのスタイルを根本から変えようとする動きがあって話題になっている。もしかしたら近い将来、米国発のこの動きが、日本のテレビCMのフォーマットを一変させてしまう可能性もある。

●米テレビ局がCMを減らす“奇策”

 2018年、米国の広告業界はかなりの好況だった。広告収入全体を見ると、前年比で7%ほど増加し、2080億ドルを超える歴史的な年になったという。というのも、18年はサッカーのワールドカップや米中間選挙など大きなイベントがめじろ押しだったからだ。

 この広告収入全体のうち、急成長しているネットメディアやネット配信、デジタル向けの広告は史上初めて広告全体の52%に達した。

 その一方で、テレビCMではほとんど広告収入が増加しなかった。米調査会社のマグナによれば、16年頃からはネットなどに押されて、年を追うごとにテレビの広告収入が減少しており、18年のように大きなイベントが続いた年でも減少分をカバーするほどにしかならなかった。要は、大きなイベントがなかったら間違いなく収入は減少していたのである。専門家らによれば、19年はデジタル広告がさらなる伸びを見せると予想されている半面、テレビ業界では大きなイベントがないために危機感が漂っている。

 そんな状況にテレビ局が頭を悩ませているのは言うまでもない。そこで、状況を変えるべく奇策を考え出したという。テレビと比べてCMが少ないネット配信に対抗するため、米大手のNBCが、他社に先駆けてテレビでもCMを極力減らそうという試みを本気で始めているのだ。

 NBCのアイデアはこうだ。CM全体の量を10%も減らし、CMを流す長さも平均で20%短くする。普通に考えれば、CMの数を減らして長さを短くすれば、それだけ広告収入が減ることになるのだが、そうならないように「プライム・ポッド」と呼ぶCMを流すのだという。

 プライム・ポッドとは、全てのゴールデンタイムの番組を対象に、1分間の枠でCMを番組の開始前または終了後に流す。その1分間の中でCMは最大2本のみ(CM全体の約8割が30秒CM2本で、残りの2割は60秒CM1本のみになる予定)。そして1本のCM料金を、現在の平均広告料に75%ほど上乗せするという。

 NBCは新たなCMのスタイルを探す中で、プライム・ポッドに行き着くまでに、17種類のフォーマットを実験したという。事前の実験では、プライム・ポッドなら、CMが視聴者の記憶に残る割合は驚異の86%になることが分かった。ちなみに業界では、一般的にはCMが記憶に残る割合は65%〜70%ほどと言われているらしい。このような結果になった理由は、数が少ないほうがインパクトがあるからだ。

●新しい指標で「視聴率」も変える

 実は、米国ではすでにプライム・ポッドが始まっている。18年9月24日、NBCテレビのゴールデンタイムの人気オーディション番組「ザ・ヴォイス」で初めてこのスタイルでの放送が行われた。最初のCMは映画「ファースト・マン」の宣伝だった。

 NBCはこの放送に手応えを感じたようだ。事実、放送後の調査によれば、プライム・ポッドによってCMに対する好感度が38%も向上した。さらに、流される広告の数が少ないため、より視聴者の記憶に残りやすいことも分かり、「商品」をネット検索する視聴者の数は39%も増えたという。

 さらにNBCでは、従来の視聴率に頼り切りにならないように、もっと踏み込んだ視聴率を計算する方針を打ち出している。日本でも、視聴習慣の変化によって、タイムシフト視聴率(録画したものを7日以内に再生した数)を出すようになっている。NBCはさらにそれをネット配信などのさまざまなプラットフォームにまで拡大し、視聴するメディアやデバイスを超えて評価する指標「CFlight」の導入をすでに開始。19年にはさらにCFlightへの移行を進めたいとしている。

 そうしたデータを基にして、視聴者をさらに絞ることができ、広告主が今以上にピンポイントなプライム・ポッドCMを流せるようになるという。

 このフォーマットは、特に映画配給会社や自動車メーカー、通信やテクノロジー系企業が関心を示していると、米広告業界誌のアドウィークは分析している。同社によれば、この新しいCMフォーマットはかなり注目されており、すでに80%のスポットが売れていると言われている。今後、NBC傘下のケーブル局などにも広げられていくことになるようだ。

 米テレビ業界で新たな取り組みを先導しているNBCは、19年、ゴールデンタイムの50番組でプライム・ポッドを導入する方針だ。ネット時代のテレビCMに新たなスタンダードを構築しようともくろんでいる。

●プライム・ポッドで「CMまたぎ」による混乱はなくなる?

 日本でも、ゴールデンタイムの1時間番組でプライム・ポッドを導入してみるのも面白いかもしれない。ドラマなら途中で中断しないため、高齢化が進む日本の視聴者も、冒頭の「いだてん」のコメントで出てきたような「混乱」を引き起こす可能性は減るはずだ。バラエティ番組でも、やれ「CMまたぎだ」「CMでひっぱりすぎだ」と、ネットなどでやじを飛ばしている人が少なくないが、そうした苦情もなくなるかもしれない。そうなれば、番組の作り方、見せ方も、変わってくるだろう。つまりコンテンツだけでなく、もっと言えばテレビそのものが変わってくることを意味する。

 プライム・ポッドの行く先には、そうした変化もあり得るのである。

 そもそも、最近では、ドラマなどを録画して、視聴の際にCMを早送りしてしまう視聴者も少なくない。おそらく、そのうちに録画でCMを飛ばせないようにする機能がつくことも考えられる。いずれにしても、NBCの現在までの実験が明らかにしている通り、効果的に視聴者にメッセージを届けることがCMの目的であるため、プライム・ポッドは期待の持てる一案だろう。さらにNBCでは、画面内に広告を入れ込む案など、他にも現在とは違う形でのCMの導入を模索しているらしい。

 こうしたNBCの試みを推し進めているのは、11年にテレビ広告部門トップになったリンダ・ユッカリーノ氏だ。ユッカリーノ氏は、デジタル広告部門の責任者を務めていただけあって、幅広い見識がある人物と評価されている。

 18年末にユッカリーノ氏が社内に向けて送ったメールがメディアで報じられている。彼女は、こう書いている。

 「われわれは視聴者がよりよい視聴体験を求めていることや、マーケティング部門がさらなる成長を目指しているのを知っている。その両方の実現はわれわれの手にかかっている。これまでのレガシープロセスから離れ、消費者動向やクライアントが求めるニーズに正確に応えるシステムに向かう必要があるのです」

 そんなユッカリーノ氏によってプライム・ポッドが初めて正式に動き始めた18年9月24日は、もしかしたら後々、テレビ広告が変わった記念すべき日と業界で記憶されるかもしれない。

(山田敏弘)


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