なぜ「翔んで埼玉」はセーフで、「ちょうどいいブス」はアウトなのか

なぜ「翔んで埼玉」はセーフで、「ちょうどいいブス」はアウトなのか

 最近、「自虐」を前面へ押し出すことで、世間の関心を集める、いわゆる「自虐マーケティング」が大盛り上がりしている。

 埼玉の自虐ネタをふんだんに盛り込んだ映画『翔んで埼玉』は興行収入25億円を突破、観客動員数も193万人に達するなど快進撃が続いているのは、ご存じの通りだ。

 また、あまりにぶっ飛んだ企画や広告を次々と仕掛けて、「どこいくねん、ひらパー」と自らツッコミを入れる、大阪府枚方市のテーマパーク「ひらかたパーク」の来園者は2年連続で120万人を超えている。

 そんな「ひらパー」の成功にあやかったのか、三重県志摩市の「志摩スペイン村」まで公式サイトで「自虐PR」を始めた。客が少ないことを逆手に「並ばないから乗り放題」、さらに園内にいるキャラクターについて、「どこぞの施設ではありえない2shotも取り放題!」というアピールが、SNSなどで「清々しい」「行ってみたくなった」と評価されている。

 という話を聞くと、「じゃあ、ウチもさっそくやってみよう」と思いたつマーケティング担当者も多いかもしれないが、気をつけていただきたいのは、この自虐マーケティングには決して踏んではいけない「地雷」があるということだ。

 それを理解せずに安易な自虐に走ってしまうと大火傷、最悪、世間からボコボコに叩かれて、謝罪に追い込まれてしまうこともある。

 では、そんな恐ろしい「地雷」とは何かというと、「女性」だ。女性をテーマにした自虐ネタや、SNSのキャンペーンなどは、かなりの確率で失敗しているのだ。

●「#自社製品を自虐してみた」が話題に

 おいおい、そんな風に女性をトラブルの原因のように言うこと自体が女性差別じゃないか、というお叱りを受けるかもしれないが、あくまで事実を申し上げているに過ぎない。

 そして、これがジェンダーうんぬんのお話ではないことは、これまでの自虐マーケティングの歴史を振り返ってみれば、ご理解いただけるはずだ。

 実は広告やPRの世界では、自虐は最近のトレンドではなく、これまでも幾度となくブームとなり、多くの企業や自治体が自虐マーケティングを成功させてきた。

 古いところで言えば、有名なのはやはりセガの湯川専務シリーズだろう。「やっぱプレステの方が面白いよな」「セガなんてだっせーよな」という街の小学生の会話を聞いて、ショックを受けた湯川英一専務(本人)が酒場でヤケ酒をかっくらい、怖いお兄さんにボコボコにされる……というテレビCMは大きな話題を呼んだ。

 最近で注目を集めたのは、2017年にSNSでさまざまな企業の公式アカウントが参加した「#自社製品を自虐してみた」ではないだろうか。

 浅田飴、グリコ、ぺんてる、川商フーズ、などそうそうたる企業が、自社製品を自虐的にイジった画像を競い合うように投稿をしたのだ。例えば、セメダインは、製品写真とともに「セメダインでつくものは大抵ボンドでもつく」。ノザキのコンビーフは、「ぶっちゃけ肉より高い」というような調子で、普通の広告やCMでは決して口にしないような「自虐大喜利」が注目を集めたのである。

 もちろん、自虐は企業だけの専売特許ではない。中でも、自虐PR がもはや鉄板ネタとなっている世界もある。地方自治体である。

 例えば、07年に財政破綻した北海道の夕張市は翌年に「負債」と「夫妻」を引っ掛けて、「夫婦円満の街」を宣言して、「残ったものはメロンと負債(中略)金はないけど愛はある」なんてキャンペーンソングをつくって話題となった。

 また、12年には広島県が、宮島の厳島神社について、「修学旅行で行ったきりという人がほとんどでしょ?」。広島名物のお好み焼きも「店舗数日本一なのに、広島風と言われる……」など観光資源を自虐でイジる、「おしい!広島県」という観光プロモーションを展開して話題となった。

 ほかにも、「日本で47番目に有名な県」「島根は日本の領土です」などの自虐コピーを掲げた島根県、魅力度ランキングで最下位にもなったことを受け、「のびしろ日本一」などとうたう茨城県など、今や地方のPRには「自虐」は欠かせない。

 最近でも、昨年9月に起きた北海道胆振東部地震の影響で、観光客が減った十勝川温泉が、「元気ないです十勝川温泉」「ヒマ過ぎちゃって、サービス向上」という自虐広告をうって、「応援したい」と好評価を受けている。

●地方の「自虐」は「自慢」の裏返し

 さて、ざっとこれまで「成功」とされてきた自虐マーケティングを見てきたが、ある共通点があることがお分かりだろう。それは、「自分自身をネタにする」というユーモアと、「とか言いながらも、結局は大好きなんですよ」という「愛」である。

 このあたりは地方自治体の自虐が分かりやすいが、自分たちの町には名所がないし何も誇れるものがない、イナカだ、とディスりながらも、その根底にあるのは「でもなんやかんや言っても、すごいいいところなんですよ」という「おらが村自慢」の気持ちが隠れている。

 この自慢の裏返しの自虐というのは古くは、吉幾三さんの大ヒット曲「俺ら東京さ行ぐだ」や、『翔んで埼玉』と同時代に社会現象になった漫画『Dr.スランプ』にも見られる。

 「俺ら東京さ行ぐだ」は、テレビもねえ、ラジオもねえ、と東北の田舎をディスっているように聞こえるが、結局は「東京でベコ飼うだ」「銀座に山買うだ」と東京に迎合する気ゼロで締めていることからも分かるように、遠回しに「田舎」への愛を歌った曲である。

 また、『Dr.スランプ』の舞台となる「ペンギン村」は、都会の人たちから「イナカ」とバカにされているが、アラレちゃんをはじめ、そこで暮らしている人々はみな幸せに描かれている。

 つまり、地方の「自虐」とは「自慢」の裏返しなのだ。

 これは企業の自虐にも言える。これまで見てきたように、自社製品をイジっているものの、けなしているわけではない。「と言いながらも、ホントいい製品なんですよ」という「愛」が根底にある。だから、それを見させられている人たちも不快に感じないのだ。

●炎上してしまった「午後の紅茶」

 しかし、残念ながら炎上をしてしまったケースにはこのような視点がごそっと抜けている。分かりやすいのが、昨年のキリン「午後の紅茶」のケースだ。

 キリン公式Twitterで、「私の周りにいる……かも!?」ということで、「午後の紅茶」を飲んでいそうな女性として、「モデル気取り自尊心高め女子」「ロリもどき自己愛沼女子」「仕切りたがり空回り女子」「ともだち依存系女子」という4パターンの女性像をイラストにしてリツイートなどを呼びかけたところ、「顧客をバカにしている」などの批判が殺到して、投稿削除、謝罪へ追い込まれたのだ。

 企業側からすれば、「自社製品を飲んでいる人」を自虐的にイジって、「あー、いるいる」「分かる、分かる」とクスリとしてもらいたかったのはよく分かる。事実、メディアの取材に対して、キリンは「午後の紅茶に親しみを感じていただくため」と回答している。

 ただ、残念ながらそこには、「自分自身をネタにする」というユーモアと、「とか言いながらも、結局は大好きなんですよ」という「愛」は感じられない。

 中でも致命的なミスは、自社製品である「午後の紅茶」をネタにしてないことだ。「午後の紅茶を飲んでそうな女性」という他者をイジってしまっていることで、「自虐」ではなく「他虐」になってしまっている。

 日清が過去にまったく売れなかった3種類の商品を再発売して、「今度こそ売れて欲しい 黒歴史トリオ」などと特設サイトをつくって話題になったが、「自分」はいくらでもネタにしていい。しかし、「客」は他人なので、それをイジるのは単なる「他虐」なのだ。

 そして、このような他虐のワナに最も陥りやすいテーマが「女性」なのだ。

 企業や自治体としては、あくまで「自分自身をネタにしている自虐ネタ」という意識があっても、そこに女性を絡ませてしまうと、受け取る側からすると、「女性をディスる他虐ネタ」と見えてしまうのだ。

 分かりやすい例が、「ちょうどいいブス」だ。

●自虐トレンドは続く

 「ちょうどいいブス」というのは、お笑いコンビ「相席スタート」の山崎ケイさんがよく使う自虐ネタで、『ちょうどいいブスのススメ』という著書もヒットしている。

 この人気を受けて今年1月、日本テレビが同名タイトルのドラマを制作すると発表したところ、批判が殺到して結局、『人生が楽しくなる幸せの法則』に改めたことがあった。

 考えてみれば、これは当然で、山崎さんが自身のことを「ちょうどいいブス」と言うのは、自分自身をネタにしているのでいくらやっても問題ない。しかし、日本テレビというアカの他人が言うと、まったく意味合いが変わってくる。

 どういう言い訳をしても、「世の中にはこういう女性っているでしょ、ほら、そこに目をつけたこのドラマって面白いでしょ」という調子で、「女性をネタにした他虐」になってしまう。そうなれば、不快に感じる女性や、傷つく女性も出てくるのも当たり前なのだ。

 ご存じのように、PR動画やプロモーションで「炎上」をしている企業や自治体は、その動画やキャンペーンに「女性」を起用していることが多い。壇蜜さんに亀をなでさせたり、養殖ウナギを女子高生に見立てたり、あるいは出張中のビジネスマン目線で、お近づきになったご当地美女に、「肉汁いっぱい出ました」とか言わせたりするなど、「女性をネタ」にするパターンが非常に多いのだ。

 もちろん、女性を出演させたり、題材にするななど言っているわけではない。自分たちをネタにしなくてはいけないところ、「女性」に主として頼って、いつの間にか主従が逆転することが問題だと申し上げたいのである。

 『翔んで埼玉』があれほどヒットしたことを考えれば、企業や自治体の「自虐トレンド」はこれからもしばらくは続くはずだ。そこで余計な「炎上」を避けるためにも、マーケティング担当者の方は、動画やキャンペーンで「女性」をどう扱うのか、慎重に検討していただきたい。

 ポイントは、そこに男目線のユーモアだけではなく、ちゃんと女性への「敬意」と「愛」があるのか。誰かを傷つける「他虐」になっていないのか。「イジり」と「イジメ」は紙一重だ。企業や自治体には、誰かをさげすむようなものではなく、みんなが笑える「自虐ネタ」を期待したい。

(窪田順生)


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