コオロギが50匹入った昆虫食は、どのようにして生まれたのか

コオロギが50匹入った昆虫食は、どのようにして生まれたのか

 もぐもぐもぐ――。記者はいま、50匹分のコオロギが含まれているプロテインバーを食べている。

 「な、なんだよ、いきなり。気持ち悪いなあ」と思われたかもしれないが、商品からコオロギの脚が飛び出ていたり、羽根が付いていたりはしない。チョコ味を食べると、カカオの味がしっかりしていて、なんとなく遠いところから“土の香り”が漂ってくるといった感じである。抹茶味も同じである。

 説明が遅れてしまったが、商品名は「BugMo Cricket Bar(バグモクリケットバー)」(一袋当たり53グラム、価格は税込500円)。京都市上京区に拠点を置くベンチャー企業「BugMo(バグモ)」が2018年11月に発売したところ、スポーツジムなどのほかに、インターネットでの注文で月1000本ほど出荷しているという。

 コオロギ入りのプロテインバーは、牛や豚に比べて少量の飼料で育ち、たんぱく質やビタミンなどが豊富なことから、同社は「環境にも人にも優しい」ことをアピールしている。原材料を見ると、ハチミツ、オーツ麦、クルミ、レーズン、ヒマワリ油などが入っているので、「健康によさそうだなあ」と感じるわけだが、ここまで書いて気になることがひとつ。商品をどのようにして開発したのか、である。

 ひょっとして、草むらに潜んでいるコオロギをつかまえているのか。ひょっとして、つかまえたコオロギを自宅のキッチンで調理しているのか。誰が毒見……や、失礼。味はどのようにして整えたのか。BugMoの松居佑典CEOと西本楓COOに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

●カンボジアで強盗に襲われる

土肥: 「コオロギはいかが?」と言われただけで、「ギャーっ!」と叫びそうな人がいそうですが、そもそもどういったきっかけで昆虫を使った食べ物をつくろうと思ったのでしょうか?

松居: ワタシは「日本人として世界に誇れる仕事をしたい」という気持ちが強くて、環境技術に取り組む電機メーカーに就職しました。その後、食や農業に携わる仕事がしたくなって、農業ベンチャーに転職したんですよね。

 昆虫を養殖魚のエサにできないかと考え、カンボジアに足を運び、現地でヒアリング調査を行っていました。ところが、強盗に襲われて無一文になってしまったんですよね。お金を取られて、カードも取られて、身ぐるみはがされて、日本に帰れなくなってしまって。そうした自分の姿を見た現地の人が自宅に泊めてくれただけでなく、食事も用意してくれました。

土肥: 優しいですねえ。どんな食事が出てきたのですか?

松居: ご飯の上に「アリ」がのっていました。目の前に出てきたときには「食べることができるかなあ」と少し不安を感じたのですが、なんとか食べることができました。いや、とてもおいしかったんですよね。アリを市場に持っていけば売れるのにもかかわらず、無一文の自分に食べさせてくれました。

 優しさに感動しただけでなく、いまも昆虫を食べる文化が残っていることに驚きました。先ほどもお話したように、当時のワタシは「養殖魚のエサ」を研究していましたが、この出来事をきっかけに「人間の食べ物」に興味をもつようになったんですよね。

土肥: 人間の食べ物といっても、牛肉や野菜などではなく、昆虫だったわけですか?

松居: はい。

●失敗、失敗、また失敗

土肥: 昆虫を使った料理をつくろう――。となって、次にどのようなことをしたのでしょうか?

松居: 昆虫食に興味をもっていた西本と出会って、自分たちは何をつくることができるのかを考えました。ミルワームを使えばおいしい料理ができるのではないかと思って、クッキーをつくってみたんですよね。

土肥: で、味は?

西本: オーブンから取り出してみると、丸くなっていたので「あれ、ひょっとしたら成功したかも?」と思ったのですが、スプーンですくってみるとバラバラに。ミルワームは脂分が多いので、くっつけることが難しい。

 口に入れたものの、昆虫の香りが残っていて、ものすごく臭かったんですよ。何度も何度も試してみたものの、うまくいきませんでした。脂分と水分を抜くために乾燥させるなど、さまざまな方法を試したのですが、ミルワームの殻はものすごくかたいので、どうしても脂分や水分を取り除くことができませんでした。

松居: 養殖魚のエサとして、ハエやアブなども研究してきたので、人間用にもどうかと思って実験を重ねたのですが、これもうかくいかずでして。そんなときに、コオロギに着目しました。

土肥: どのように調理したのでしょうか?

西本: ミルワームのときと同じように、クッキーをつくりました。オーブンから取り出して食べてみたところ、味はまずまず。ただ、粘着性が弱いので、ちょっと食べるとボロボロと崩れてしまう。運動をしている人に食べてもらいたいので、これではダメ。体を動かす前に食べてボロボロ崩れてはいけないので、粘着性が強くなるように何度も試作品をつくりました。

 本やネット上に掲載されているレシピを参考にして、「これはどうかな」「あれはどうかな」といった感じで、何度も試作品をつくったものの、失敗の繰り返し。国内だけでなく、海外のレシピなども参考にして、「ああでもない。こうでもない」と言いながら、失敗を繰り返していました。アスリートに試食してもらっても、「苦い」「くさい」「土の香りがする」などと言われ、昆虫の臭さをどうすれば消すことができるのか、この作業を繰り返していました。

 昆虫の臭さを取り除く作業とともに、1本のプロテインバーにコオロギをどのくらい入れればいいのかにも悩みました。「コオロギが入ったバー」なので、できるだけ量を増やしたい。でも増やすと、コストがかかってしまう。と同時に、臭みが増してしまう。臭みが出ると、どうしても不快感を示す人が多いので、臭みと量のバランスをどうすればいいのかにも苦労しました。

●味を少しずつ調整して、完成

土肥: バーを完成させるのに、どのくらいの時間がかかったのでしょうか?

松居: 2017年10月にレシピを考えて、商品を発売したのは18年11月。というわけで、開発期間は1年ほどですね。その間、たくさんの人に話を聞いて、試食をしてもらいました。道路でスケボーをしている人に、どういった課題を感じているのかといった話を聞いたり、スポーツジムに飛び込んでどんな商品であれば置いていただけるのかリサーチをしたり。

 たくさんの人に試食してもらって、「臭い」と言われればレシピを見直し。また、「臭い」と言われれば、レシピを見直し。このようなことを繰り返しながら、何とか完成させることができました。

土肥: 現在、スポーツジムなどで商品が並んでいますが、営業も大変だったのでは? 「コオロギ入りのプロテインバーができましたー!」と売り込んでも、「虫なんて持ってくるな!」といった反応がありそうで。

西本: 営業に行っても、受付で断られるケースがありました。担当者に話を聞くことができても、「ウチでは無理。虫を使った商品を並べて、ヘンなうわさがたつといけませんからね」といったケースもありました。

 その一方で、原材料の話をすると、「コオロギ? 詳しく話を聞かせてもらえませんか?」と興味を示してくれたところもありました。体や栄養に関して詳しい人が多いので、「どんな栄養素が入っているの?」「ちょっと食べてもいいですか?」といった声もたくさんありました。

土肥: 両極端だったわけですね。

松居: そんなこんなで商品は18年11月に発売したのですが、実は9月まで工場が決まっていませんでした。現在、タイでコオロギを養殖していて、現地で製造しているんですよね。国内で製造してくれる工場を探していたのですが、うまく見つからずでして。

 ただ、何もしないで指をくわえているわけではありません。滋賀県でコオロギを養殖するパイロットファームを構えていて、国内での製造に向けて準備をしています。うまくいけば、この春に国内での製造がスタートするかもしれません。

●正直に言うと、「まだまだ」

土肥: 国内の製造にこだわる理由は何でしょうか? 海外でつくったほうが安くできそうなのに。

松居: いえ、価格はそれほど変わりません。いや、日本でつくるほうが安くつくかもしれません。タイから加工品を輸入すると、輸送コストや関税などがかかってしまう。一方、国内の工場は自動化が進んでいて、効率よくつくることができるんですよね。

 あと、営業先を回っていて、「国内でつくっているのであれば、ウチでも販売したいなあ」といった声をたくさんいただきました。国内志向はかなり強いなあという印象を受けたので、やはり国内で製造拠点をもちたいと思っています。

土肥: なるほど。ところで、「コオロギが入った商品っておいしいの?」と聞かれませんか?

西本: よく聞かれます。正直に言うと、「まだまだ」。さらにおいしくするために、さまざまなことに取り組んでいかなければいけません。具体的にどんなことをするのか。コオロギの味は、エサによって大きく左右されるんですよね。どういったタイミングでエサをやればいいのか、どんなエサをやればいいのか、どのくらいの光がいいのか、どのくらいのストレスを与えればいいのかなど。

 エサだけではありません。どのような環境で成長させればいいのか、どのように加工すればいいのか、カカオの量はどのくらいにすればいいのか。このほかにも、さまざまなことを研究しなければいけません。

土肥: 正直に言うと、ワタシも「ものすごくおいしい」とは思えませんでした。「意外といけるな」といった感じなんですよね。コオロギが入ったモノなので、虫の臭いがするんだろうなあ、土の香りもするんだろうなあ、といったことを心配していました。あまり期待していなかったわけですが、実際に食べてみるとそれほどでもなかったので、「意外」という言葉が出てきたのかもしれません(失礼)。

西本: ドイさんのように「意外と……」という声が多いんです。「ものすごくおいしい」という声はほとんどないので、昆虫独自の評価軸をつくることができればなあと思っています。どういうことかというと、牛肉や豚肉の味に近づけたいと思っても、それは難しい。既存のおいしい食材と比べるのではなくて、「昆虫の味は、これくらいおいしい」といった軸をつくることができればなあと。

●ザルにコオロギの脚が残る

土肥: 最後の質問です。コオロギを使った商品を開発して、販売している。このことに対して、周囲からはどのような声がありますか?

西本: ワタシは幼いころから昆虫が大好きなんですよ。いつか昆虫を使って何かをしたいなあと思っていたので、周囲からは「やっぱりね」「やると思っていた」といった声が多かったですね。家のキッチンでコオロギを調理していたのですが、家族は何も言いませんでした。仕方がないわね……といった感じで。

 いや、妹だけは違いました。コオロギをゆでて、ザルで水を切るときに脚がひっかかることがあるんですよね。コオロギの脚にはギザギザが付いているので、それが網にひっかかると、なかなか取ることができなくて。脚はきちんと取っているつもりだったのですが、ある日、何本か残っていまして、それを見た妹は激怒していました。「食べ物じゃないモノを使わないで!」と(苦笑)。

松居: コオロギなどを養殖するために、自分の部屋を改装しました。耐熱性を確保するために、壁紙の上にアルミを貼って。一日中暖房をつけて、部屋の中に虫のケースを並べました。その部屋を見た母親は、「なに、この部屋! 暑いし、臭いわ!」と言っていました。仕方がありません。虫もフンをするので、どうしても臭くなる。

 ただ、それだけでは終わりませんでした。コオロギは泣きますよね。夜、その音を聴いた母親は、「うるさい! 眠れないわ」と怒っていました(苦笑)。

土肥: 家族のご苦労があって、商品は完成したようですね。本日はありがとうございました。

(終わり)


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