タイガー・ウッズ復活劇、勝利の裏で名を上げた“あの企業”

タイガー・ウッズ復活劇、勝利の裏で名を上げた“あの企業”

 米プロゴルファーのタイガー・ウッズが見事な復活劇を果たしたとしてニュースになっている。

 海外でもこのニュースは感動をもって受け止められている。というのも、ご存じの通り、ウッズはゴルフとは関係ないプライベートな問題で、いくつものスキャンダルに直面し、「暗黒時代」を過ごしたからだ。

 ウッズ自身、勝利後にその喜びを爆発させた。ウッズは「この勝利は私と家族、そしてここにいる皆さんにとっても、大きな意味を持ちます。決して忘れることのできないものです」と語ったと、米スポーツ専門TV「ESPN」は報じている。

 またこの勝利を予想していた人は多くなかったようで、ラスベガスではウッズの勝利に賭けて1億円以上を獲得した人も出たという。

 米国でもフィーバーになっているウッズの勝利だが、日本ではこんな論評を目にした。「世界中を驚かせた不倫騒動後、妻が去り、スポンサーが去り、コーチも相棒キャディーもウッズから離れていった。自業自得ではあったが、次々に見捨てられたウッズは徐々に勢いを失い、勝利から遠ざかっていった」(朝日新聞、2019年4月15日付)

 確かに、多くのファンのウッズ像は、まさにこの記述通りだろう。だがこの記述には、一つ誤りがある。ウッズを見捨てなかったスポンサーもいた、という事実だ。その最たる例は、米オレゴン州に本拠地を置くスポーツ用品大手のナイキだ。そして今回のウッズの勝利は、米ブルームバーグによれば、「最終ラウンドのテレビ放送で、さまざまなスポンサー企業に計2360万ドル(約26億円)余りの宣伝効果をもたらしたと、スポンサーシップ分析会社エーペックス・マーケティング・グループが指摘した」という。

 ただウッズを支えたのは何もナイキだけではなく、そこには日本の企業の存在もあった。そこで、ウッズ勝利の裏にいた企業にスポットライトを当ててみたい。

●ウッズの“陥落”で、多くの企業が去った

 まずウッズがたどってきた「陥落ぶり」を振り返りたい。1975年に米国で生まれたウッズは、父親からの熱心な英才教育を受け、幼少時代から有名なゴルファーだった。順調に才能を磨き、アマチュア時代には将来を嘱望されるゴルファーとして話題になっていた。96年にスタンフォード大学を中退してプロに転向するやいなや、次々と勝利を重ね、翌年には史上最年少で4大メジャートーナメントの一つであるマスターズで勝利を飾った。

 その後の活躍は目覚ましいものがあった。全米オープン、全英オープン、全米プロゴルフ選手権、マスターズの全てで優勝するグランドスラムを繰り返すなど、若くして世界最強のゴルファーとして君臨した。

 だが歯車が狂い出したのは、2008年に膝の手術を2度行ったあたりからだ。この年、全英オープンで予選落ちを経験した。

 そして09年。ウッズの不倫スキャンダルが噴出する。この連載でも度々登場する米タブロイド紙、ナショナル・エンクワイアラー紙が、ナイトクラブ経営の女性との不倫を報じる。この報道をきっかけに、ウッズの妻だったスウェーデン出身のモデル、エリン・ノルデグレンが、ウッズの愛車をゴルフクラブで襲ったとして、破壊されたウッズのキャデラックの写真が大きく報じられた。

 すると、ウッズの不倫疑惑が次々と噴出する事態に発展。結婚生活中の5年間で120人を超える女性と関係を持っていたという。これにより、ウッズはゴルフ活動の一時停止を発表した。翌年には、ミシシッピー州にあるセックス依存症のためのリハビリ施設に入ったことが報じられた。

 このとき、多くの企業がウッズのもとを去った。スキャンダルを起こすと、企業はその影響に巻き込まれないよう、あっという間にスポンサー契約を解除するものだ。高級時計のタグ・ホイヤーを始め、コンサル大手アクセンチュア、自動車大手ゼネラルモーターズ(GM)などが契約を切った。

 ただそんな中でも、ウッズを支えた企業もあった。その筆頭はすでに述べたナイキだ。

●スポンサーを続けたナイキのメッセージ

 ナイキは今回、ウッズの勝利後に彼をたたえる映像をアップ。この映像は、米メディアでもかなり好意的に取り上げられている。

 短い英語の動画なので、ここで内容を紹介したい。映像では、ピアノのサウンドの中で、プレー中のウッズの写真が次々と流れ、その上にシンプルな白い文字で、以下のように言葉が次々とつながれていく。

 「クレイジーだ。頂点を極め、底辺を見て、いま15回目のメジャータイトルを手にしたばかりの43歳が、3歳の時と同じ夢を追いかけているのである」

 そして「(伝説的ゴルファーの)ジャック・ニクラウスに勝つんだ」と話す子供時代のウッズのインタビュー映像が流れる。最後はおきまりの「Just Do It」だ。

 ナイキは純粋にウッズのアスリートとしてのポテンシャルを信じ、この瞬間のためにスポンサーを続けていたのだろう。17年には、ウッズは処方薬の副作用によって車内で寝ていることころを警察に逮捕されるという事件を起こしているが、そんな時でも、契約は切らなかった。

 ウッズはそんな支援を得ながら、どん底から、静かに、誠実にトップに上り詰めてきた。その様は、まさに「虎視耽々」という言葉通りで、まるでタイガー(トラ)が獲物を華麗に仕留めるかのようなイメージだった。スポーツ用品も扱うスポンサー企業にとっては、これ以上ない好イメージのアスリートではないだろうか。

 余談だが、日本でも違法薬物で逮捕される有名人が後を絶たないが、ウッズのような不倫疑惑などとは比較にならない問題をはらんでいるといえる。

 おそらく、ウッズが違法薬物で問題になっていたら、さすがのナイキもウッズから離れたに違いない。違法薬物がまん延している米国であっても、だ。なぜなら、かなりの影響力がある著名人が治安を乱すような違法麻薬を使っていたという話は、企業のイメージを損ねるだけでなく、国の治安にも影響を与える問題でもあるからだ。不貞行為とは訳が違う。

●“炎上アスリート”を広告に起用

 とにかく、ナイキは今、「移り気で心のない大手企業と違う」と一気に株を上げた形になっている。同社の創業者、フィル・ナイト氏はこれまで、ウッズのスポンサーを降りなかった理由を明らかにはしていない。だが、表に出たがる経営者が多い中、そんな姿勢もまた、同社の好イメージにつながっている。

 そもそもナイキは最近、広告に絡んで全米を巻き込んだ話題を振りまいてきた。独自路線を突っ走り、かなり攻めた広告を発信している。

 18年には、アメリカンフットボールの米スター選手であるコリン・キャパニックを広告に起用して物議を醸した。なぜ物議になったかというと、キャパニックはその2年前に、米警察のアフリカ系米国人に対する暴力に抗議する意味合いで、試合前の国歌斉唱時に起立を拒否し、膝をついた姿勢でいたことが大きな論争に発展したからだ。

 要するに、国歌斉唱に起立しなかったために大炎上したアスリートを、あえて広告に起用したのである。キャパニックのアップの顔が全米中のビルボードに掲げられ、こんな文言が白字で書かれていた。「何かを信じぬけ。それが全てを犠牲にすることになったとしても」

 これにより、「ナイキをボイコットせよ!」との声が上がる一方で、ナイキの株価は急騰、オンラインなどの売り上げも30%以上増加した。ナイキの勝利である。もちろん話題だから起用したという安直なものではなく、マーケティングの専門家らに言わせれば、ナイキはメイン顧客である若者の多くがキャパニックを支持していたことを考慮していたという。また、ブランド信仰というものは若いうちに築かれることも分かっていた、という見方も報じられていた。つまりは、きちんとした計算と分析による起用だったようだ。

 これは日本のような、同じタレントがいろいろな企業の広告で使われるのとは対極にある。とにかく、広告の目的が商品を買ってもらうことなら、他と同じことをしていてはだめ、ということだろう。同じタレントを使うと独自性がなくなり、高い費用で広告を出しても目立たなくなってしまうし、消費者を混乱させることにもつながる。

●ウッズを支えた日本企業

 落ち目のウッズを支えた企業に話を戻すと、ウッズを支えた企業として、ナイキばかりが評価を上げているが、日本企業もスポンサーとしてウッズの後援をしてきた。日本のテレビCMでおなじみの興和は、外用鎮痛消炎薬「バンテリンコーワ」のCMでウッズを起用し、スキャンダル後に最初のスポンサー契約を結んだ企業だと報じられている。またブリヂストンは16年にゴルフボールのスポンサーになっている。こうした企業も、今回のウッズの勝利を支えてきた「功労者」だと言えるだろう。

 世界的に話題になった復活劇にスポンサーとして関わることは、企業としても相当うれしいことだろう。あとは、これからウッズがどのようにアスリートとして上昇していくのか、期待度が高まっていることは間違いない。

 ちなみに、日本では元プロ野球選手のイチローが「国民栄誉賞」を辞退したことで賛否が分かれる話題になったが、ゴルフが大好きなドナルド・トランプ米大統領は、仲のいいウッズに「大統領自由勲章」を授与する予定だといち早く発表して話題になっている。ウッズも、元ボクサーのモハメド・アリや映画監督のウォルト・ディズニー、スティーヴン・スピルバーグなどが受賞している文民最高位にあたる勲章を拒否するようなことはしないだろう。

 劇的なカムバックで大きな話題をさらっているウッズには、トランプ大統領ですら、その勢いに乗っかりたいということかもしれない。

(山田敏弘)


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