店内に1500台のカメラを設置して、トライアルは何を知ろうとしているのか

店内に1500台のカメラを設置して、トライアルは何を知ろうとしているのか

 福岡市に本社を置くスーパーが、またまた面白いことを始めた。「トライアル」(社名:トライアルホールディングス)である。

 2018年2月、福岡市の東にある埋立地「アイランドシティ」に、近未来を感じさせられる店舗が登場した。店内に700台のカメラを設置して、人の動きや商品棚などを分析。 また、セルフレジ機能とタブレット端末を搭載した、スマートレジカートを100台以上導入したのだ。

 店の天井を見ると、カメラ、カメラ、カメラである。買い物客を見ると、端末に向かって、操作、操作、操作である。これでもかこれでもかといった感じで、最先端のテクノロジーを導入したわけだが、それからわずか1年ちょっとでまた新しい試みを始めた。

 今回の目玉は「リテールAIカメラ」(以下、AIカメラ)である。お客の性別や購入商品を自動で判別して、最適な広告をデジタルサイネージに表示するという。福岡県新宮町の「メガセンタートライアル新宮店」にAIカメラ1500台、デジタルサイネージ210台を設置することで、トライアルは何を知ろうとしているのか。そして、その情報を手にして、次にどんな手を打とうとしているのか。

 トライアルホールディングスの新会社で、AIカメラを開発したRetail AI社の永田洋幸社長に話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

●AIカメラで、できること

土肥: スーパー「トライアル」で買い物をしたことがある人は、「この店に並んでいる商品は、安いなあ」といった印象を受けると思うのですが、消費者の知らないところでさまざまな技術を導入してきたんですよね。業務アプリが入った従業員専用のモバイル端末を導入したり、ポイントカードを発行して購買データを収集したり。

 そうした流れの中で、昨年、福岡市のアイランドシティ店で、世間をびっくりさせる店舗が登場しました。店内に700台のカメラを設置していて、人の動きや商品棚をウォッチしただけでなく、スマートレジカートを100台以上導入しました。スマートレジカートの効果はすぐに出ていて、他店と比較すると、人件費を20%ほど抑えることができたそうで。

 「さあ、次はどんなことをするのか」と思っていたら、Retail AIという会社をつくって、たくさんの技術者を採用しました。国内で50人、中国で300人が働いていて、あっという間に、小売店での利用に特化した「AIカメラ」を開発しました。このAIカメラを店内に設置することで、店側はどんなこと分かって、どんなことができるのでしょうか?

永田: 新型のカメラはAIを搭載していて、お客さんは男性なのか女性なのか、カートを持っているのか持っていないのか、といった情報に合わせて、店内に設置されたサイネージに最適な広告を表示できるようにしました。例えば、飲料コーナーでカートを持っているお客さんには24缶入りのケースをお勧めすることができますし、買い物カゴを持ったお客さんには6缶パックをお勧めすることができます。

 このほかにも過去の購買履歴を分析することで、同じ商品を提案することができるんですよね。例えば、〇〇というビールを購入していれば、そのビールのクーポンを提供することも可能になります。

 あと、AIカメラを使って撮影すると、欠品管理ができるようになるんですよね。棚に商品が並んでいることを認識できるので、人気商品が欠品しているのかどうかを検知することができる。これができることによって、店側にどのようなメリットがあるのか。

 多くのスーパーは、さまざまな理由で売り上げを伸ばす機会を失っているんですよね。商品を補充する時間が決まっているのでタイミングよく棚に並べることができていなかったり、欠品している商品があるにもかかわらず違う商品を補充していたり――。

 いわゆる機会損失をなくすために、店舗はオペレーションを改善させなければいけません。従来であれば「なんとなくこうしたほうがいいかな」といった感じで、これまでの経験に頼っていた部分があったかもしれませんが、AIカメラを使って撮影することで、データに基づいた改善ができるようになるんですよね。

●売れない商品も分析

土肥: 売れている商品を検知できるということは、売れていない商品も見えてきますよね。

永田: はい。例えば、棚にAというお茶が3列並んでいるとして、本当に3列も必要なのかどうかも検証することができます。Aというお茶は2列にして、Bというお茶を1列にしてみてはどうか。いやいや、A、B、Cというお茶のブランドを1列ずつ並べたほうがいいかもしれない。飲料コーナー全体で考えた場合、どういった形がベストなのかを検証することもできるんですよね。

土肥: 店内の人の流れも分析することはできるのでしょうか?

永田: 現時点でそのような使い方はできませんが、技術的には問題ないので、やろうと思えば時間の問題なのかなあと。人の動きを分析することができるようになれば、どういったことが分かってくるのか。例えば、店内に入ると、左右にわかれる道があるとします。どのくらいの人が右に進んだのか、どのくらいの人が左に進んだのかも分かるんですよね。ただ、個人情報の問題もあるので、人が動いたことを線で表示しなければいけません。

 例えば、C店の場合。店内に入って、左に進むと生鮮食品があって、右に進むと飲料コーナーがある。この店は生鮮食品の売り上げが伸び悩んでいることもあって、多くのお客さんは左に進まず右に向かっている。じゃあ、どうすれば左に進んでくれるようになるのか。

 生鮮食品の売り場でどんなモノを売っているのかをきちんと告知して、お客さんに左へ進みたくなるように思ってもらわなければいけません。では、どうすればいいのか。サイネージを使って広告を表示することもできますし、レジカートを使ってクーポンを発行することができる。そうすることで、生鮮食品の売り場に足を運んでくれる人が増えるのではないでしょうか。

土肥: 店内で起きているさまざまなことをリアルタイムで把握できるようですが、そうした情報は店のスタッフも見ることができるのでしょうか?

永井: 現在はデータを扱っている担当者しか見ることができません。ただ、年内をめどに、店で働いている人たちも見られるようにする予定です。

 ただ、現時点でスタッフがその情報を見られるようにするよりも、AIカメラを他店などに普及させることのほうが大切だと思っているんですよね。AIカメラ、サイネージ、レジカートを他店にも導入することで、さまざまなデータが集まりますよね。現在は、それを最優先で考えています。

●CMのためのCMをつくっている

土肥: 膨大なデータを手に入れて、何をしようと考えているのですか?

永井: データを取得して、どんな改善ができるのか。正直に言って、分かりません。それを知りたくて、店内にAIカメラを設置したんですよね。

 欠品管理がどこまでできるのか、サイネージによって購入点数が増えるのか、クーポンによってお客さんはどのような反応を示すのか。どの数字がどのように変化するのか、その傾向を知るためにはまだまだデータが不足しています。傾向を知るために、まずはたくさんの情報を手に入れなければいけないんです。

土肥: PDCA(効率的な業務を行うための手法のひとつ)を回して、想定していなかった数字にも期待していますか?

永井: ですね。例えば、メーカーさんがつくったCMを流して、どのくらい売れるのか。結果、あまり売れなかったとしても、そのことが分かっただけでもいいんですよね。なぜなら、次どうすればいいのかを考えればいいので。CMに関しては、現在、ださいCMをつくっているんですよね。

土肥: ださいCMをつくっている? どういう意味ですか?

永井: 店内できれいなCMを流すよりも、ださいCMのほうが効果があることが分かってきました。テレビのCMってステキですよね。かっこいい俳優さんが出てきて、きれいな女優さんが登場する。もちろん、そうしたCMに効果がものすごくあることは理解しているのですが、スーパーの店内ではちょっと違うんですよね。全く効果がないというわけではないのですが、こちらが期待するほどの効果は出ない傾向があるんです。

土肥: まあ、それはなんとなく分かるような。うまく言えませんが、家のテレビで見ているものと同じCMが流れていても、あまり心に響かない。

永井: じゃあ、どうすればいいのか。「はい、いらっしゃい、いらっしゃい、今日はサンマが安いよ〜」といった感じで、昔からやっているような呼び込みで、臨場感を出すほうが効果があるんですよね。ただ、そうした手法をベースにして、違ったやり方があるかもしれません。現在、それを模索していまして、サイネージで何かできないかと考えています。

 例えば、サイネージで「トライアルテレビ、始まるよ〜♪」といった感じで、CMを流しているのですが、それを見た人たちは「なんだこれは。いつの時代なんだよ」と思われるかもれしれません。こうした手法は、成功するかもしれませんし、失敗するかもしれません。失敗しても、それをどのように改善に結び付けることができるのか。このことが大切だと思っているので、これからも失敗を恐れずに、新しいことにどんどんチャレンジしていきたいですね。

●将来のスーパーはレベル5

土肥: 今回、AIカメラを開発して、それをスーパーに導入することになりました。ただ、テクノロジーの技術はどんどん進歩しているので、どのタイミングで商品を出せばいいのかって難しいですよね。

永田: 迷っていたらダメなので、とりあえずやってみるしかありません。今回のAIカメラについていえば、小売りに特化しているといった特徴はありますが、ものすごく高い技術を搭載しているわけではありません。言葉は悪いですが、丸パクリでつくろうと思えばつくれると思うんですよね。というわけで、「技術はすぐに追いつかれる」ことを想定しています。

 ただ、他社よりも1年早くやっている――。このことが重要だと思っているんですよね。その間に、いろんな実験ができますし、いろんな情報を得ることができるので。

土肥: 将来、スーパーはどのような形になっていると思いますか?

永田: クルマの自動運転って、定義がありますよね。レベル5の場合、運転手を必要とせず、どのような場所の道路でも自動走行ができることを意味しますが、小売りの世界にもレベル5があると思っています。じゃあ、そのレベル5とは、どんなものなのか。無人で店舗が運営できることだと思うんですよね。

 スーパーを運営するとなると、営業も必要になりますし、商談も必要になりますし、発注も必要になる。このほかにもさまざまな業務をこなさなければいけませんが、そうしたことをシステムを使って仕組化できるのではないか。自動運転の世界だけではなく、小売りでもレベル5は実現可能だと思っているんですよね。

 もちろん、ECでの販売を否定しているわけではありません。ECには、ECのいい面がありますし、スーパーには、スーパーのいい面がある。スーパーがもっと便利になれば、お客さんはもっともっと店舗に足を運んでくれるようになると思うんです。そのために、私たちは何ができるのか。そのことを考え続けていかなければいけません。

(終わり)


関連記事

ITmedia ビジネスオンラインの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

トレンド アクセスランキング

ランキングの続きを見る

トレンド 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る 動画一覧を見る

記事検索