なぜアコムは、いまだに過払い金問題で消耗しているのか?

なぜアコムは、いまだに過払い金問題で消耗しているのか?

 過払い金問題って……平成時代の昔話ですか?

 20代くらいの若者ならそう考えても不思議ではないだろう。最高裁判所がグレーゾーン金利を原則違法と認定したのは、もう13年も前だ。かつて街中に氾濫した過払い金関連の広告やテレビCMも、最近ではほとんど目にすることはない。

 だが、消費者金融大手のアコムにとって、過払い金問題は未だに解かれることのない足枷(あしかせ)となっている。

 アコムは4月、約400億円の過払い金返還費用の追加計上により、業績予想を大幅下方修正すると発表した。将来の損失予測を再計算した結果を反映したという。この問題を、企業分析を専門に扱う証券アナリストとして解説してみたい。

●過払い金とは、そもそも何?

 そもそも過払い金とは何か? 簡単におさらいしておこう。国内のあらゆる取引に適用される金利の上限(上限金利)を定めた法律が、利息制限法だ。しかし、かつては一定の条件を満たすことで上限金利よりも高い金利を課すことが可能とされていた。

 上限金利を超えても「問題ない」と考えられていたので、ホワイトでもブラックでもない、グレーゾーン金利と呼ばれていた。それが最高裁判決によって違法認定されたのだ。

 過去にグレーゾーン金利を支払っていた人は、払い過ぎた利息部分の返還を請求できる。この払い過ぎた利息を、一般に「過払い金」と呼んでいる。過払い金の返還を専門用語では「利息返還」という。

 会社がいったん受け取った利息を、後になって返してくれといわれて返還した場合、過去に収益として計上していた利息の返還を行えば、当然損失(利息返還損失)となる。

 消費者金融会社やクレジットカード各社は、過払い金の返還で発生するであろう損失を適切に算定した上で「利息返還損失引当金」(以降、引当金)として見積もっておかなければならない。将来確実に発生する費用に対して(会計上の)お金を事前に積み立てておくようなイメージだ。

 この見積額が十分でないと分かった場合には、新たに見積もりをやり直す必要がある。アコムが行った損失予測の再計算がこれだ。前述の通り、再計算により約400億円が過払い金返還費用として追加計上されたわけである。

●これまでもずっと予測を外し続けてきたアコム

 将来についての予測とはいえ基本的には過去に受け取ったものを返すだけで、アコムくらいの大企業ならそれくらいちゃちゃっと簡単にできてしまうのではないか?

 そのように考えたくもなるのだが、実際のところアコムは予測を外している。しかもそれは今回だけのことではなく、驚くべきことにこれまでもずっと予測を外し続けてきたのである。

 アコムの過払い金返還損失の見積もりはほぼ毎年修整され、そのたびに過払い金返還費用が追加計上されている。データが参照可能な2008年3月期以降でいえば、修整の無かった決算は18年3月期だけ。12年間でたった一度きりだ。毎年のように修整するためか、最近では予測の内容を詳しく公開することはないようだ。

 過去、アコムが最も自信満々に過払い金返還の予測について語ったのは、「データ蓄積により、将来の発生予測精度が向上」とうたった11年3月期の決算報告だろう。このとき、将来の過払い金返還損失の総額を約2800億円と算定したアコムは、引当金を2833億円まで積み上げ「引当金の妥当性と十分性を確認」と言い切ったのだ。

 ところがその後19年3月までに発生した過払い金返還損失は、すでに6000億円を超えている。先ほどの説明に倣えば、事前に積み立てたお金が全く足りなかったことになる。自信満々だった予測を、ダブルスコアで外してしまったのである。

●過払い金返還損失を見積もるための計算方法

 さすがにここまで予測が外れるとは誰も想像できなかったのではないだろうか? どうやればそれほど外せるのかかえって興味がわく。

 引当金を見積もるための業界標準の計算方法は、以下の手順の通りだ。大雑把にいうと、過去のデータからどれくらい過払い金を返還することになるか計算するのだが、それをローン残高がある口座(正常口座等)とない口座(完済済み口座等)に分けて行うのがポイントだ。

1. 過払い金のある口座を、(1)残高がある口座と、(2)残高がない口座に区分する

2. 区分ごとに、A 口座数、B 返還実積率、C 平均返還額を求める。ただし、(1)は貸付金の完済までに発生する過払い金返還実績を、(2)は貸付金の完済以降に発生する過払い金返還実績をもとにBとCを算出する。

3. 区分ごとに、A B Cを掛け合わせる。

4. 区分ごとの見積額を合計する。

※(参考資料・業種別委員会実務指針第37号 消費者金融会社等の利息返還請求による損失に係る引当金の計上に関する監査上の取扱い 日本公認会計士協会 2006/10/13 改正2012/5/15)

 この計算の最大の問題は、ローン残高がある口座については、完済までの過払い金返還だけを見積もる点である(手順2)。ややこしい話に聞こえるかもしれないが、要するに完済したからといって過払い金の問題は終わるわけではない。それどころか完済して時間がたつほど利息に利息がついて雪だるま式に過払い金が増えるという、貸し手にとってはトンでもない、借り手にとっては美味しい仕組みになっているわけだ(詳細は後述)。図でいえば、黄色部分の過払い金返還は見積もられるが、グレー部分は全額抜け落ちてしまうのだ。

 実際、返済中の揉め事を望まず、きちんと完済してから返還請求する債務者は少なくない。この人たちが丸々抜け落ちているのだから、予測が当たらなくて当たり前だろう。

●なぜまだ過払い金問題で消耗しているの?

 アコムがいまでも過払い金返還費用に苦しめられるのは、早い段階に十分な備えができなかったせいだ。

 過払い金の返還請求を行うことが可能な期間は、過払い金のあるローンの最後の取引から10年間だ(条件次第では時効がさらに延長される)。適正な金利に条件変更された時点からではなく、ローンの完済から10年である。これがいったい何を意味するかというと、返還請求のタイミングで、受けとる過払い金が増減する、ということだ。

 過払い金返還を請求する権利を持っている人がいたとして、いつ請求を行うのが正解だろうか? いますぐ? 全額返済した直後? それとも時効ギリギリ?

 絶対にこうすべきという答えはないが、請求金額を最大化しようと考えた場合、「時効ギリギリ」が最良の選択肢となるケースがある。なぜなら過払い金には利息がつくからだ。当然、請求可能額は、月日の経過とともに徐々に増加する。

 過払い金への利息に適用される利率は、民法の法定利率である5%だ(2020年4月以降の法定利率は3%)。

 仮に過払い金が100万円あったとすると、年に5万円ずつ請求可能額が増える。過払い金返還請求のタイミングを待つ間を一種の投資と考えると、現在の低金利環境ではあり得ない高利回りの投資商品といえるかもしれない。

 時効までの期間が完済後10年と長いうえ、請求を遅らせた方が返還額を増やせる事情があるのだ。問題が長期化するのも当然だ。

●アコムだけが消耗しているの?

 では、アイフルなどの同業他社と比べるとどうなのだろう。過払い金問題があるのは各社同じだが、同業他社と比べて、アコムは損失が縮小するスピードがかなり遅いようだ。

 グラフは1年ごとの過払い金返還額のピーク時からの推移を、アコムとアイフルについて比べてみたものだ。だいたい2年ほどアコムの方が遅れている。

 日本貸金業協会が開示している業界全体データとの比較でも変わらない傾向だ。

 これには「アコムは金払いが良い」との評判も影響していそうだ。返還請求を勧める法律事務所の間ではそうした評価があるとも聞く。

 一般に相手との対決姿勢を厳しくした方が過払い金返還による損失は少なくなるのだが、メガバンク系の業界大手らしく、やや事務的に手続きしてしまう傾向があるのかもしれない。

 アコムが過払い金問題から完全に解放される日は、果たして来るのだろうか?


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