スバルが生まれ変わるために その1

スバルが生まれ変わるために その1

 完成検査問題以来、スバルは苦しんでいる。ステークホルダーからは厳しい指摘を受け、ロイヤリティユーザーの一部も離れ始めている。そうした中で、今、スバルは「変わらないと未来がない」ことに気づいている。それは事あるごとに伝わってくるのだが、しかし一方で、どう変わればいいのか、あるいは何を変えればいいのかということについて、スバルはまだ答えをつかんでいないように見える。

 世の中には「岡目八目」という言葉がある。当事者には見えない重要なポイントが、第三者からは見えることはよくあることだ。筆者から見えるスバルの状況がどんなものなのか、それを書くのがこの原稿の目的だ。

 筆者の思い過ごしでなければ、「スバルよ変われ!」という記事を書いて以来、スバルはこれまで以上に、筆者に取材の便宜を図ってくれるようになった。

 それは、スバルの苦衷(くちゅう)を現しているのかもしれないが、藁(わら)をも掴(つか)む思いで、外部からの批判の声に耳を澄ませ、スバルが自ら変わりたいと強く願っているという意味だと筆者は解釈している。世界のどこの国でも、自動車産業は例外なく国益を担っている。スバルももちろんその一角を占め、日本の産業界の、ひいては日本国民の幸せを支えている。

 だからこそ、微力ながらスバルの変革を応援したいと思っている。そんな筆者を、スバルは北米の有力ディーラーへと招待した。多くの方がご存知の通り、ここ数年スバルは北米で絶好調である。その北米でのビジネスを見せたい。多分そう考えたのだと思う。

●北米ディーラーでのインタビュー

 ペンシルバニア州アレンタウンの「ショッカ・スバル」は、新車・中古車を合わせたスバル車の販売数で全米1位。新車のみに関しても、全米最多級である。この販売店のオーナー、グレッグ・ショッカ氏は、スバルの販売ネットワーク以外にも、ベンツ、BMW、アウディ、フォルクスワーゲン、トヨタ、そして数々の米国ブランドなど14メーカーのディーラーを経営しているが、スバルの販売台数が最も多いという。

 それだけの錚々(そうそう)たるメーカーと付き合っても、スバルに特別なシンパシーを感じるのだそうだ。スバルは中古車の売り上げも含めた販社の様子を、とても積極的に気にしてくれるという。なるほど、ビジネスライクな北米の自動車販売に対して、賛否あれども「系列」的風土が生み出した日本的経営の良いところが、販売店に響く部分があるのかもしれない。

 しかし、ここから以後、質問と答えが一向にかみ合わない。ちょっと辛いかもしれないが、我慢して読んで欲しい。

 一体どんなサポートをしてくれるのかと尋ねると、「スバルは他のメーカーと違い、とてもよく面倒を見てくれます。まるでそれは家族のようにです」という答えが返ってくる。なるほどそういう気持ちは分かったが、サポートの中身は何なのかと尋ねると、「中古車販売もしっかりサポートしてくれます」という答え。中古車の何がスバル独自プログラムなのかと聞くと「サーティファイドプログラムがあります」だという。

 いわゆる顧客満足プログラムだが、そんなものはどこもやっているはずだ。他社のプログラムとどう違うのかを問うても、「スバルのレベルは他社と違う。クルマの価値自体が違います」。いや、それでは取材にならない。ベンツ、BMW、アウディのドイツ3強メーカーなど、片手であしらうほどスバルの価値は高いというんだろうか? そう畳み掛けると「ドイツ車の価値だってもちろん低くはありませんが、販売台数はスバルの方がずっと多いのです」。

 とにかく「スバルは他と違う」と、この自動車販売のプロフェッショナルが、本気でそう思っていることはよくよく分かった。けれど、具体的に何がどう違うのかが全く説明されない。

 彼は、「コンシュマーレポート」誌の話題でさらに饒舌(じょうぜつ)になった。コンシュマーレポートとは広告収入によらない商品評価レポート誌で、辛口評価とともにランキングが発表され、高評価を受けると北米での売り上げに直結する。このコンシュマーレポート4月号で、スバルの北米専用3列シートモデル「アセント」が最高点を獲得したのだ。

 「いまコンシュマーレポートを見たお客さんがどんどんやって来ています。この間も、近所のフォルクスワーゲン・ディーラーの店頭にあったコンシュマーレポートをショールームで立ち読みしたお客様が、そのままそれを持ってこの店にやって来て、(フォルクスワーゲンの)ティグアンの代わりにフォレスターを買ったのです」

 コンシュマーレポートが販売に大きな影響を与えるという話は当然知ってはいたが、影響の大きさについて少し甘くみていたかもしれない。現場の温度感を通して見たそのインパクトはよく理解できた。だとすると、そのコンシュマーレポートに高く評価されるためにスバルは一体どんな戦略を立てているのだろうか?

 「コンシュマーレポートは中立性を重んじているので、何を基準に評価するかは完全なシークレットで、われわれもそれを知ることはできません。だからこそコンシュマーレポートには価値があるのです」

 それはそうかもしれない。だとしても、過去の評価歴から傾向を分析するとか、信頼性や維持コストなど、コンシュマーレポート誌が絶対におろそかにしないであろう項目について、スバル自身が積極的に数字ベースのファクトデータを広く公開して、それらについての優秀性をアピールするとか、やれることはたくさんあるはずだ。

 ただ評価されるのを待つだけだとすると、それはもう戦略でも何でもなく、ただのラッキーだ。もちろんベースとしてば、彼が言う通り、スバルが大事にしてきた「安全」と「耐久性」が大前提であることには筆者も異論はない。ダメな商品を高評価するほどコンシュマーレポートは甘くないだろう。だが、良ければトップが取れるのかといえばそんな簡単な話ではないはずだ。

 プロダクトが良いことは永遠の基本だ。過去も未来もずっと継続してレベルアップをしなくてはいけない。「商品が良ければ黙っていても売れる」という話は、少なくとも21世紀のビジネスではない。良い商品であることに加えて、ブランド価値を高めるためにどんな戦略を立てていくのか、それを聞くために筆者はペンシルバニアまで来ているのだ。

●面白い戦略はあるのに……

 話の途中で何度か引き合いに出て来た、プレオウンドカー(新古車)プログラムには何か秘密がありそうだ。これを会話ベースで書き記していくと、この原稿が全部埋まってしまうので、以下に内容を整理して記す。

 ショッカ・スバルは、現在なんとネットワークの全店舗合計で175台の代車を保有している。それらはほぼ全て、最新モデルであり、車検や修理に来訪した顧客には最新のスバル車が代車として提供される。

 狙いはいうまでなく、最新のスバル車の魅力を伝えることだ。新型に乗ったユーザーは、より新しいモデルの魅力に触れて、買い替えたくなる。スバルは現在、リセールバリューが高いので、手元のクルマを下取りに出せば、ローンの月額が変わらないまま、より高いグレードのクルマに乗り換えることが可能だ。

 そうやって新車販売に貢献したあとの代車は、低走行の認定中古車として店頭に並ぶ、新車にあと少しで手が届かない顧客には、ちょうど良いスバリストへの登竜門になる。そして新古車を手に入れた彼らは、また修理や点検の時に最新型の代車に乗って新車へと乗り換えていく。スバルの北米法人「スバル・オブ・アメリカ」は、この代車プログラムを金銭的にサポートしている。

 つまりショッカ・スバルにとって、代車は新車・中古車販売の最初のフックであり、そこから乗り換えのループが始まる。そうした人気に支えられるから中古車の残存価値が上がり、全てが上手く回るのだ。中古車の残存価値を高く保つためには、新車の値引きを行わないことだ。よっぽど特殊な限定モデルでもない限り、新車より高い中古を買う人はいないから、これは市場メカニズムとして当然だ。

 新車が値引きなしで売れ、中古価格は高止まり、だからユーザーは次のクルマを購入する原資が豊かになる。そういうループである。自動車メーカーがいう「ブランド価値訴求」とは、原則的にはこういうことで、ものすごく簡略にいえば「いかに中古車価格を高く保つか」ということである。そのためにどうするか、選択肢ややれることは無限にあるはずだ。

 今回の記事はそこにフォーカスしたいと言ったら、スバルのスタッフが少々口ごもりながら「いや、そのあたりはちょっと……」。嫌がるスタッフに根掘り葉掘り理由を聞くと、どうやら代車の大量確保について、ディーラーの水増し販売を勘ぐられたくないらしい。本当に販売台数を水増ししたくて代車の数を増やしているならともかく、明らかに戦略としての位置付けが違う話ではないか? 「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや(えんじゃくいずくんぞこうこくのこころざしをしらんや)」だ。お客様のクルマの価値を守る崇高な戦略を理解できず、品のない思考で批判したいヤツには言わせておけばいいではないか?

 そんなことより、スバルが何を目指し、どういう努力をしているかを広く伝えて、知ってもらう方が企業戦略としてはるかに重要なはずだ。

 ちょっと話が変わる。ぐるっと回って戻ってくるまで少々かかるが、許して欲しい。北米でスバルの広告戦略の大成功例として、「LOVEキャンペーン」がある。この戦略の面白いところは、スバルのクルマそのものはほぼ訴求しない点にある。安全性の話も耐久性の話も一切出てこない。

 スバルは北米のユーザーの中から1万人を超えるアンバサダーを選定し、彼らの活動をサポートする。彼らの活動は「LOVE」で結ばれたあらゆることである。その多くはボランティアによる社会貢献活動で、自然保護であったり、子どもの病気へのサポートであったり、とにかく世の中を良くしていきたい善意の発露だ。実質的な見返りは雀(すずめ)の涙程度のクーポン券があるのみで実質ゼロ。

 少し意地悪な言い方をすれば、「善意と正義」が大好きなアメリカ人の気質を、スバルは後押ししているだけだ。そのくせ毎月活動レポートを上げないと、アンバサダーの資格は剥奪(はくだつ)されてしまう。かなり理不尽な感じだが、そこに「おもねらない」スタンスがあることがアメリカ人の気持ちを打った。アンバサダーが個人でやり切れないことを、時にスバルはサポートする場合もあるが、原則的には個人の活動である。

 こういう時代だから、アンバサダーは自身の活動のために当然SNSなどを通じて、ネットワークを広げていく。その過程で、時にスバルに関するさまざまな相談も自然に受けて、ここが大切なのだが「アンバサダーたちはあくまでも自分の見解でそれに答えていく」。彼らはあくまでもスバルユーザーの先輩であり、スバルの中の人ではない。ただ、スバルが自分の社会貢献活動を後押ししてくれることに感謝して、スバルというブランドを愛している。日本のスバリストとちょっと似ている部分もあり、全然違う部分もある。

 つまりLOVEキャンペーンは、スバルの魅力をスバル自身が何も訴求しないこと。そこにLOVEがあればスバルはそれでいいとするスタンスが受けた。それは明らかに新しいやり方だったし、非常に興味深い。しかしながら、だからスバルが自身の戦略を語らないでいいのだということにはならない。それはそれ、これはこれである。

 北米ビジネスの成功について、何の戦略があり、何をしようとしているのか、それを知りたい。ただそれだけのことを言う筆者と、スバルの議論はかみ合わない。そして舞台を日本に移して、この取材は続く。

 <明日掲載のその2に続く>

(池田直渡)


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