「時差Biz」が、なかなか普及しない理由

「時差Biz」が、なかなか普及しない理由

 ここ数年、東京都は毎年夏になると、「時差Biz」のタイトルで時差出勤推進キャンペーンを行っている。

 東京都が旗をふり、鉄道事業者がそれに合わせたもので、一般企業の約1230社が参加。各社は出勤時間を早くしたり、遅くしたりして、時差出勤に取り組んでいる。

●なぜ、時差出勤が求められるのか

 まずは通勤をめぐる状況を説明したい。多くの会社が、朝8時30分から9時30分の間に始業する。都心部の鉄道は、8時から9時までの間に、多くの乗客が集中する。その時間帯はダイヤが過密状態、列車内にも人があふれ、不快さが増す状況となっている。ましてや夏のこの時期、暑苦しくてたまらない。そのため、時差出勤が求められるのだ。

 少しでも快適に通勤をすべく、東京都が呼びかけているのが「時差Biz」だ。

 時差BizのWebサイトをみると、「時差Bizとは、通勤ラッシュ回避のために通勤時間をずらす働き方改革のひとつです」と記されている。通勤ラッシュ解消を掲げる都が、さまざまなところに呼びかけて「働き方改革」を促そうとしているのだ。

 では、どうやって「働き方改革」を促そうとしているのか。まずは時差出勤。例えば、取引先などとの折衝のない部門を、1時間早く出勤させるようにする。そのぶん、退勤も1時間早い。

 次にフレックスタイム制だ。1カ月以内の総労働時間を定めておき、始業時間と終業時間を従業員が決めるようにする。社内で混雑時間帯の出勤を控えるようにするといったことがある。また、「テレワーク」の導入ということもある。自宅やサテライトオフィスで仕事ができるようにするというものだ。これで、通勤自体を減らそうという方向性も出ている。

 このように、企業は「時差Biz」に対してさまざまな取り組みをしている。では、鉄道会社は何をしているのか。

●「時差Biz」に対する鉄道会社の取り組み

 鉄道会社は主に、早朝時間帯の増発、混在状況をWebサイトやアプリなどで掲載、ポイントを付与、有料列車の運行などを行っている。

 早朝時間帯の増発を行っているのは、東急電鉄や東京メトロである。東急電鉄では「時差Bizライナー」や「時差Biz特急」を運行し、早朝時間帯の利便性を高めようとしている。東京メトロは、日比谷線・半蔵門線・南北線で列車を増発している。

 これにより、早朝時間帯の利用促進と、混雑緩和を目指している。

 混雑状況の掲載を行っているのは、JR東日本、東武鉄道、西武鉄道、京急電鉄、東京メトロ、つくばエクスプレスなどである。どの時間帯の、どの車両が混んでいるのか、あるいは空いているのかを表示して、快適に乗車してもらおうという仕組みである。普通に通勤していた人が、電車の中でアプリなどの表示を見て混雑状況などに気付き、翌日からはより適切な通勤電車の乗り方を考えるようになる。

 特に多いのがポイント付与だ。「時差Biz」参加社の多くが行っている。ポイントを抽選でプレゼントするJR東日本のようなパターンもあれば、京王電鉄のように期間を区切ってポイントを付与するパターンもある。東急のように条件を満たせばもれなく、という会社もある。

●各社の取り組み

 ポイント付与でもっともすごいのが、京急電鉄の取り組みだ。朝7時30分から9時までに、平和島〜品川間で普通列車にのみ乗車した人に、ポイントを付与している。車掌が自動案内放送を行うと同時に、人の耳に聞こえない音を流し、アプリを開いているスマートフォンがその音を聞くことで、「KQスタんぽ」を取得できるという仕組みだ。

 ピークタイムとはいっても、京急でいう快特や特急と、普通列車との間には乗車人数に差がある。だいたい、速達型のほうが乗車人数は多い。これはほかの鉄道会社でも同じだ。ゆったりと通勤するためにあえて停車駅の多い列車を利用する人もいるが、なるべくなら通勤時間を短くしたい、と考えている人のほうが多い。そういった利用者の行動パターンを京急はよく考えて、この取り組みに挑戦したともいえる。

 有料列車の運行は、着席保証型の列車を運行することである。例えば京成電鉄では、「モーニングライナー」「イブニングライナー」を運行している。東武でも「TJライナー」や、「スカイツリーライナー」を運行している。

 興味深いのは、京王電鉄がスムーズビズ集中取組期間に合わせて臨時の「京王ライナー」を運行していることだ。橋本行が午後4時44分新宿発、京王八王子行が午後5時04分新宿発と、早朝に出社した人の帰宅に合わせて運行している。実際、この時間帯になると京王の新宿駅は混雑し始め、列車を待つ人が多くいる。そういった人もターゲットに入れているのだろう。

 このほかにも、東急電鉄がサテライトオフィスを提供するなど、さまざまな取り組みを行っている。

●時差通勤を本格化させるためには

 朝のラッシュは、特定の時間帯に利用者が集中し、混雑がひどくなる。それにより列車を多く走らせる必要があり、そのぶん列車が目的地に着くまで長い時間がかかる。京王線の朝ラッシュ時はその典型だろう。一方夕方のラッシュも混雑しているものの、朝ほど列車を多く走らせる必要はない。

 実際、「時差Biz」を開始すると、その取り組みに賛同する社が約1230社も現れ、東京都庁も職員の時差出勤を行うようになっている。

 鉄道会社にとっても、時差出勤、特に早朝の出勤促進は、比較的空いている早朝時間帯の列車の乗客が増えるだけではなく、混雑が引き起こすピーク時のダイヤ乱れの可能性も少なくなるメリットもある。しかも、空いている時間帯の列車に乗客が移ることになるので、増発の必要もない(増発している会社もあるが)。

 その意味では、鉄道各社が「時差Biz」に協力的なのも、理解できる話だ。

 一方で、かけ声は大きくても時差出勤がなかなか普及しない問題として、企業側の仕事のあり方がある。フレックスタイム制はなかなか広まらず、裁量労働制は仕事量の多い職場で適用される傾向がある。終業時間は企業側が固定するにしても、早い時間帯に出社した人に残業代を支払う制度を設けていない会社もある。ましてや、横並びを大事にするこの国では、早い時間帯に来て早く帰る人や、遅く来て遅く帰る人は、なかなか認められないのではないか。

 単純に「朝がつらい」から時差出勤が世の中一般に普及しないだけではなく、働き方の問題も大きい。時差出勤の課題は、鉄道と行政だけではなく、多くの一般企業を巻き込むことが重要だ。その意味では、賛同する会社がもっと増え、快適な通勤、快適な働き方を促すような社会になることを期待したい。

(小林拓矢)


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