「セブン1000店舗閉鎖・移転」の真の意味 “加盟店の一揆”は何をもたらすか

「セブン1000店舗閉鎖・移転」の真の意味 “加盟店の一揆”は何をもたらすか

 「巨人 見えぬ成長戦略 〜 セブン&アイ、営業最高益で大リストラ」――。10月14日の日経MJの一面は、セブン&アイ・ホールディングスの「グループ戦略と事業構造改革」に関する記事で埋められていた。「このままではフロントランナーとして築いてきたブランド価値を毀損しかねない」「同社の取り組みからは次の成長モデルが見えてこない」という厳しい見方がされていたが、それもいた仕方あるまい。

 収益の約65%を占める国内コンビニ事業において加盟店の「一揆」が起きて、加盟店との関係再構築を迫られている中で、今後のための重要施策であったセブンペイの不祥事による頓挫、イトーヨーカ堂、百貨店の大量閉店という事実をみれば、こうした評価にならざるを得ないのだろう。

 ただ、株価がこの発表を好感したことにもあるように、市場はある程度、評価しているように思う。個人的には現状を踏まえれば妥当な施策であると思うし、想定の範囲内の話ではないか、と考えている。特に、祖業である総合スーパー、イトーヨーカ堂に関していえば、「周回遅れの店舗大量閉鎖」「3度目の正直なるか」といわれているが、少し酷なような気もする。

 そもそも、時代遅れの業態となっている総合スーパーは、東日本集中、老朽店舗の再構築検討、食品専門店化という大方針に基づいて、撤退戦の真っ最中であり、進捗の遅れはあるものの、できることから進めているという姿勢は、過去の経緯からも、ある程度みてとれる。

 例えば、西武新宿線本川越駅前に1967年に郊外初出店したイトーヨーカドー川越店は、48年間の営業をもって閉店したが、16階建ての高層マンションとしてデベロッパーが再開発し、その一階にイトーヨーカドー食品館川越店としてオープンする。

 老朽化した総合スーパーを閉店し、マンションなどに再開発をすることで、駅前集客と上層住民を囲い込む食品スーパーとして再出発させていくというやり方で、スーパーなどの店舗再構築、業態転換としてはお手本のような事例といえるだろう。

 この方式は、首都圏の駅前一等地を既存店舗として保有してきたイトーヨーカドーのみが可能な撤退戦略であり、これを完遂できれば、イトーヨーカドーは生き残ることが可能なのだ。

 大型店の総合スーパーから食品スーパーに転換していくと、売上が大幅に縮小してしまうのではと思われる向きもあろうが、その点はあまり心配する必要はない。現在のイトーヨーカドーは売上こそ1兆2000億円あるものの、ほとんど期間利益が出ていない状況にある。極端なことを言えば、100店舗×30億円/1店=3000億円、営業利益150億円(利益率5%を想定)の食品専門のスーパーにダウンサイズしたほうが、よっぽどグループに貢献できるのだ。

 実際には収支トントンなので、不採算店がある分、優良店もあるのでそこまでしなくともいいのだろうが、こうした取り組みを着実に進めていくなら、持続可能性が十分残っているとことに注目すべきだろう。

●迫られる収益構造の転換

 やはりこのグループにとっての最大の課題は、市場飽和を目の前にしているコンビニ事業なのだろう。出店することで売上を伸ばせば、本部の増収が維持できるという構造で成長してきた時代が終わり、加盟店と共存しつつ低成長下で収益をあげていく体制に転換せねばならない難しい時期にあることは明白だ。会社計画でも加盟店支援に100億円を投入していくとのことだが、今後その規模はさらに増えていくとの予測もあり、収益構造も大きく変わらざるを得ない。

 しかし、コンビニのビジネスモデルが加盟店との共存を大前提にしている以上、今後、加盟店支援をおろそかにする企業が存続できるはずもなく、市場飽和を前提としたモデルへの転換が急務だ。今や、一大産業に成長したコンビニ業界がこうした方向転換をやり遂げるには相応の時間が必要であり、当面、セブンをはじめ業界各社の収益下振れは避けられない厳しい時代が続くことにはなるだろう。

 ここで注目しているのは、セブン&アイ・グループの構造改革施策の セブン-イレブン1000店舗の閉鎖、移転という方針だ。「1000店舗閉鎖」とだけ聞くと、普通は相当不振店が増えたのではないか、と思うだろうが、ここ数年のセブン-イレブンの閉鎖、移転店舗数は、700〜800店程度といった水準だった。

 1000店舗閉鎖、移転というのは、確かに大きな数字だが、実際には2、3割増しといったところであり、実は驚くような話でもない。また、その内訳をみると、600〜700店が移転によるものという点は見ておかなければなるまい。移転とは、近所にもっといい店舗立地がでたので、費用が掛かるが放っておくと他社が出店して、現状より売上が厳しくなるので、自分が引っ越してしまう、というようなイメージだ。業績が不振でやむなく引っ越すというのもあるだろうが、これ自体はチェーンストアとして極めて妥当な企業行動なのだ。

 チェーンストアにおいて、店舗ごとの業績を左右する最も重要な要素とは、一般的には8割方は立地(いい場所に店を構えるか否か)だといわれている。リアル店舗である以上、相応の設備投資を伴う出店は、その場所選びに失敗すれば設備投資分を毀損することになるため、場所選びの巧拙が企業業績を大きく左右することは、言うまでもない。その点でいえば、現在のコンビニ大手は1万店以上の店舗網構築の歴史から、最も場所選びのノウハウに優れているチェーンストアであることは間違いない。

 ただ、そうしたノウハウがあったとしても一定の比率で失敗するのは避けられず、 セブン-イレブンでも毎年100〜150程度の店舗閉鎖は発生している。加えて、出店当初は立地環境が良く、成功したとしても、その環境がずっと続くとは限らないのだ。

●スクラップ&ビルドは生き残りの条件

 それまでは商圏内にライバルがなく、儲(もう)かっていたとしても、偶然に近くに空き地ができて、ライバルが進出してくれば、売上は分散する。それまでは周辺住民の移動動線上にあって人通りが多かった店舗でも、近くにバイパスができて移動動線が大きく変化すれば、売上は下がってしまう。このように人の動線や競合の変化によって、店舗の立地環境は変わってしまうのだが、これは店舗や企業の落ち度によるものではない。外部環境の変化に対しては甘んじて受け止め、自らが対応するしかない。それが、移転という選択につながる。

 チェーンストアでは、こうした企業行動は既に定石として確立されたものであり、スクラップ&ビルド(環境の悪化した店をスクラップして、より良い場所に店をビルドする、という意味)と呼ばれる大原則で、これを容赦なく進めることが生き残りの条件になることは過去の歴史が証明している。

 かつて、ダイエー、イオン、イトーヨーカドーの1997年時点の全ての店舗が、2014年時点でどのくらい存続しているかを調べて、時代遅れの店(=存続していない店)を残していたことが、三大流通グループのその後の運命にどう影響したかを検証してみたことがある(Mizuho Industry Focus 2014年7月2日 Vol.157 50年に一度の大転換期を迎えるスーパーマーケット業界)。

 その時の結論は、寂れ始めた地方の駅前に大量の古い店舗を残していたダイエーは、バブル崩壊後の消費低迷に一気に不採算店の山となり、事業継続できなかった。既に、スクラップ&ビルドを継続的に実施し、郊外のロードサイドに軸足を移していたイオンは、現在の地方郊外における覇者の地位を手にする。イトーヨーカドーは、大都市圏内店舗が多く、地方駅前の衰退による影響が限定的だったため、幸運にも生き残った、といった感じだ(コンビニを中心とした流通グループに転換したともいえる)。

 スクラップは、チェーンストアにとって痛みを伴うため、先送りしがちだが、そこに別の大きな環境変化(かつては、モータリゼーションによる立地環境変化や、バブル崩壊、今なら人口減少、高齢化からくる人手不足)が起こると、先送った問題が一気に爆発する。こうした事実は、現在の大手流通企業にとっては常識化しているため、スクラップ&ビルドの先送りといった状況は少なくなってきている(中堅以下の企業ではまだ散見されるが……)。 

 コンビニ大手においても、こうした意識は高いのであるが、この業界の構造上、やりにくい面は否めない。それは、コンビニがフランチャイズの加盟店との共同体を構成しているからだ。

 最近、さまざまな問題点が指摘されているコンビニ加盟店と本部の関係だが、大前提として、別の事業体同士である本部と加盟店の利益は必ずしも常に一致している訳ではない。。本部の判断で出店した店舗を請け負った加盟店は、見込み違いで売上不振だから閉店する、と一方的に言われても納得しかねるのは当然だ。

 方や、本部としても一定のハズレや環境変化による不採算店は、早急にスクラップ&ビルドするのは大原則であるため、加盟店との協議と協調が必要だ。ましてや、過去の成功体験が通用しないような労務環境の変化が顕在化してきた今、加盟店、本部ともにこれまでの延長線上の関係を続けることができないのは、既に関係者も分かっていることだろう。

●加盟店の「一揆」が構造改善のきっかけになる日

 最近のように、コンビニ加盟店の問題が社会問題化して、衆人環視の環境になっていることは、コンビニ本部、加盟店の両者にとって、実はいいタイミングだったのかもしれない。スクラップには相応の痛みが伴うものであり、それはフランチャイズ関係においては、本部、加盟店が一定割合で負担することになる。弱者である加盟店がリーズナブルな負担で移転して再出発できるという選択肢が、いまの環境下であればルール化しやすいはずだ。

 市場飽和と厳しい労務環境という転換点を迎えているコンビニ業界は、今後、加盟店との協調が今後の生き残りを左右する。それは、一方的に加盟店を労働者のように保護していくという事ではなく、両者がともに収益を追求するための合意点を探るというものだ。

 ただ、本部は加盟店の個別の事情をある程度加味したきめ細かい向き合い方をすることで、スクラップ&ビルドのような痛みを伴うが、やらざるを得ない施策を実施しやすくなるのではないか。そうした意味で、 セブン-イレブン1000店舗閉鎖・移転という策は、これからの時代には必須であるコンビニの「スクラップ&ビルド体制」を作るきっかけとなるのではないか、と思う。

 今は加盟店との関係修復の渦中にいるコンビニ本部であるが、何年か後には、「一揆」を起こした勇気ある加盟店オーナーたちに、構造改善のきっかけを与えてくれたと感謝する日がきっと来るはずだ。

(中井彰人)


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