介護業界の人手不足に“予想外の一手” 「若者が集まる」介護スキルシェアサービスはどうやって生まれたのか

介護業界の人手不足に“予想外の一手” 「若者が集まる」介護スキルシェアサービスはどうやって生まれたのか

 少子高齢化の進展で人手不足が叫ばれる中、慢性的な人手不足にあえいでいる介護業界。日本介護予防協会によれば、2025年度には約38万人もの人手不足が予想されるという。

 そんな人材確保が難しい介護業界に新風を吹き込んでいるのが、介護系スキルシェアサービスのスケッターだ。

 スケッターは、人手が足りない介護施設と、介護施設で働きたい人材をマッチングするWebサービス。同サービスを運営するプラスロボの代表を務める鈴木亮平氏によれば、スケッターを通じて若い世代が介護施設で活躍するケースが増えているという。

 スケッターは他の介護系スキルシェアサービスとどこが違うのか、なぜ、若者をひきつけているのか、このサービスによって介護施設の人材不足はどのような形で解消されるのか――。鈴木氏に聞いた。

●介護施設の仕事は「介護」だけではなかった

―― 聞き手:編集部 後藤祥子 介護系スキルシェアサービスのスケッターは、従来の介護系サービスとどこが違うのですか。

鈴木: 既存の介護サービスは、資格を持ったヘルパーさんが利用者とやりとりして「介護の仕事をする」ケースがほとんどですが、スケッターは「資格が必要な介護の仕事をやらない」というのが大きな違いです。

 実は介護施設には「介護(身体介助)」以外の仕事がたくさんあるんです。食事の準備や片付け、見守り、話し相手……あとはレクリエーションですね。スケッターはこうした仕事に特化したサービスなのです。

 あまり知られていないのですが、介護の仕事の中で「資格がないとできない専門的な業務」は、全ての業務の一部なんですね。そうであるにもかかわらず、こまごまとした雑務までを全て、介護職員が担っているのが現状です。

 例えば、入浴介助は資格がないとできないですが、髪を乾かす作業に資格は不要です。でも、現状はそこまでを介護職員がやっている。スケッターは、「介護施設には、資格や経験がなくてもできる仕事がたくさんある」点に着目したわけです。

―― 介護施設側は、どんなスキルを持った人を求めているのでしょう。

鈴木: 職員の負担が大きいレクリエーション系はニーズが高いですね。毎日、「どうやって利用者に楽しんでもらえるコンテンツをつくるか」を考えなければならないし、いざレクリエーションをやるとなっても、人前に出るのが苦手な職員もいます。実際に、それが原因で離職してしまう「レク離職」が起こっているほどです。

 スケッターにはマジックや落語、即興演劇、紙芝居など、一芸に秀でた人も登録しているので、レクリエーションに困ったらスケッターを呼べばいい。これだけでもずいぶん、現場の助けになるんです。

 レクリエーション以外にも、お茶出しや皿洗いなど、資格がなくてもできる仕事がたくさんあります。

―― スケッターは介護施設の人手不足をどのような形で解消できるのでしょうか。

鈴木: 実はここが重要なポイントなのですが、「スケッターがスポットで仕事を手伝うことで、介護業界の人手不足が解決する」というわけではないんです。

 介護スキルシェアプラットフォームとしてのスケッターの役割は、潜在的な見込み転職者層である「福祉に関心がある層」と、「施設」をつなぐことなんです。スケッターを通じて働いてみた結果、施設のファンになったり、サポーターになったりする人が増えれば、将来、施設のコアメンバーになってくれる可能性も出てきますよね。

 これまでは、正社員やパートの募集といった求人しかなかったので、最初から「就職するか就職しないか」の二択しかないわけです。これだと、足を踏み入れるまでのハードルがとても高い。インターンのような形で介護業界の仕事を垣間見ることができないので、関心があっても、関わらないまま諦めてしまうんです。

 そこを、「介護以外の仕事をすきま時間に行う」形で関われるようにしたところ、働いてみたいと思っている人が案外、多いことが分かったんです。実際、口コミだけで働き手が毎月、約100人ペースで増えており、その8割が異業種の若手なんです。

―― スケッターで働く人の“モチベーションの源泉”はどこにあるのでしょう。

鈴木: アンケートの結果やヒアリングした内容をまとめると、アクティブに活動しているスケッターの8割〜9割が「体験と経験」を目的に参加しているんです。「自分のスキルを提供することで、誰かに感謝されるのがうれしい」という声も多いですね。

―― 「稼ぐことが目的」ではないのですね。

鈴木: そこも、既存の介護系スキルシェアサービスとは異なる点ですね。他のサービスは副収入を目的とする人がほとんどですが、スケッターは「普段の仕事では得られない体験を求めている人」が多い。「感謝されて、とても充実した気持ちになった」と、仕事に対する満足度が高いんです。

 現代は人間関係がドライな面もありますから、人から直接、「ありがとう」といわれる機会も少ないですよね。スケッターを通じて感謝されることが貴重な体験になっているのかもしれません。

 実際に介護施設で働いてみることで、自分に向いているかどうかが分かるのも大きいですね。働いてみたら、予想以上に自分に合っていると分かって、異業種から転職する人がいたりするのも面白いですね。

●スケッターは人手不足の解消と離職率の低減にどう効くのか

―― スケッターは人手不足の解消と離職率の低減にどう効くのですか。

鈴木: これまで介護に関わりがなかった層を引き込んで、業界の中に入ってもらうことが、人手不足の解消につながると考えています。そうしなければ、55万人の介護職員が不足するといわれる「2025年問題」を解決できません。

 実は、現状の介護人材の採用は、あまり効率がいいとはいえない部分があるんです。施設によっては人材会社に頼りきりなところもあって、そうすると仲介手数料がかさみ、多額の採用コストがかかってしまうのです。本来なら、介護保険の収入は利用者と職員に還元されるべきなのですが、それが人材紹介会社に流れてしまう。

 求人サイトに掲載料を払い続けても、応募が劇的に増えるわけではなく、入ってすぐ辞めてしまう人も少なくない。それだと、採用するのに掛かった仲介手数料がムダになってしまいます。

 ある施設が、まさにこうした状況に危機感を覚えてスケッターの活用を始めたところ、応募が150件きたんです。スポットで120人を受け入れてみるとリピーター(ファン)がついて、その中から6人を雇用したそうです。人材会社を使っていたら、手数料だけで数百万円かかるわけですが、スケッターはシステム利用料(2〜5万円/月)だけで済みます。

 また、離職率を少なくすることについては、施設の担当者とスケッターが一緒に働くことで、お互いの人となりやスキルが分かるため、ミスマッチが起こりにくくなります。履歴書と面接のみで採用してしまうと、働き始めてから「何か違う……」といったことが分かってきたりしますが、スケッターを通じてあらかじめインターンのように働いていれば、施設のメンバーや環境を理解した上で働くかどうかを決められます。これが離職率の低減につながると考えています。

 介護職の人材不足は深刻化しており、「転職する人をどうやって獲得するか」と同じくらい、「見込み転職者層」(関心層、潜在層)をどう作るかが重要になっています。

 だからこそ、施設をオープンにしてたくさんのファンを作り、そこからコアなメンバーが生まれるような仕組み作りが求められているのだと思います。

●「親に勧めたい施設」が分かる?

―― スケッターを運営する上で課題はありますか。

鈴木: 業界特有の課題ともいえるのですが、スケッターのような「新しい取り組み」を始めたくない、と思う人が少なくない。とても忙しい業界ですから、できれば今のやり方を変えたくないと思ってしまうんですね。やりたいと思っても、上を説得するのが大変、という話も聞きます。

 逆にいうと、スケッターに登録する施設は、新しいことにチャレンジする文化があり、施設内の様子をオープンにできるということは、サービスに自信があるのだと思います。そもそも施設の運営に自信がなければ、スケッターを受け入れようと思わないですよね。

―― その視点は面白いですね。自分の親に勧めたい施設かどうかも分かりそうです。

鈴木: その判断にも使えると思いますね。「外部の人に見られている」という緊張感があれば、現場は良くなっていくはずです。

●地方都市の人手不足を解消するために

―― 今後、どのような形でスケッターをビジネスとして成立させていくのでしょうか

鈴木: スケッターは月額2万円〜5万円のプラットフォーム利用料が主な収入源になっており、利用施設を増やすことが当面の目標です。3年後に登録施設3000件、7万人のスケッターの登録を目指しています。

 介護施設は今後も増えていくので市場規模は十分ですし、利用施設や登録者数が増えれば、広告モデルを増やすなど、新たな収入源も確保できます。

 あとは、地方都市での展開を強化したいと考えています。登録施設からの問い合わせは多いのですが、スケッターが少ないのが課題なんです。

 ただ先日、秋田県の施設が面白い取り組みをしていましたね。秋田まで行かなくても手伝えるよう、リモートでディスカッションするスケッターを募集していたんです。ほかにも、施設内のお祭りなど季節行事の手伝いを募集したら、都内から飛行機でスケッターがかけつけたこともあったそうです。

 「観光がてらスケッターをしよう」という流れが生まれたら、地方創生のカギになるかもしれないということで、行政からも問い合わせが来るようになりました。ここから地方都市への拡大を目指したいですね。


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