現在の就活は空前の売り手市場だ。リクルートワークス研究所の調査によると、2020年3月卒業予定の大学生・大学院生に対する求人倍率は1.83倍、中小企業に限れば8.62倍と高水準となっている。求人に対して36.5万人の人材不足状態だ(引用:第36回ワークス大卒求人倍率調査 2020年卒/リクルートワークス研究所)。

 人材の採用に苦戦する中小企業が多いなか、人材採用コンサルティング企業のレガシード(Legaseed)は「社員20人でありながら新卒採用に1万人の学生が殺到する企業」として注目を集めている。2020年卒からは1万7000人以上のエントリーがあり、12人の内定が出ているという(途中経過)。

 レガシードはなぜ、それほど多くの人材を集められるのか。代表取締役の近藤悦康氏に、突出した実績を残すための戦略や、日本における新卒採用の課題を聞いた。

●新卒採用は会社の5年先をイメージするところから

―― レガシードは創業6年でありながら、毎年多くの学生がエントリーする人気企業となっていますが、具体的にはどのような事業をしているのでしょうか。

近藤 やろうとしていることは「世界を変える事業」です。以前、学生から「日本の学校教育を良くするとしたら、近藤さんは何をしますか?」と聞かれて、「僕だったら教師の採用試験を根本的に変える」と答えました。

 私たちがやっている新卒採用という領域は、最終的には学生を取り囲む学校教育や、社会を変えていく非常にインパクトのあるプロジェクトだと思っています。人事に関するコンサルティングでさまざまな事業をこの20年間やってきましたが、イノベーティブかつスピーディーにその会社の理想を作るには、最初に新卒採用にメスをいれるのが最も早かったのです。特に中小企業はそうです。

 このため、一言で私たちの事業を説明すると、新卒採用を切り口に組織の変革、理想の組織づくりに貢献する支援をしている、ということになります。

―― 新卒採用のコンサルティングは、採用の先にある会社の変革、さらにその先にある社会を変えていくためのツールということですね。

近藤 なぜ新卒採用が会社を大きく変えるかというと、新卒採用の場合は中途採用と異なり、会社として育てる仕組みを作る必要があるからです。育成環境やルール、マニュアル、仕組みづくりなど、若い社員のパフォーマンスが上がるような組織体制を作っていくために、会社が変わらなければいけません。

 また、特に売り手市場で新卒採用を成功させるには、社長や総務の採用担当が1人で頑張っても厳しいのです。大事なのは、人を採用するのがゴールではなく、採った人材が入社後に活躍して会社に居続けてもらうこと。そのためには、現場のトップがきちんと選考から関わり、この人材を責任を持って育てるという覚悟を持つ必要があります。

―― 新卒採用には現場の人間も関わることが重要なのですか?

近藤 同じ事業部の入社5〜10年目くらいで、会社のリーダークラスの社員たちも新卒採用プロジェクトに入れる必要があります。社長、採用担当、各部門の責任者、リーダー、新人内定者。事業部や世代を超えて会社のキーマンが集うプロジェクトが新卒採用です。

 内定者がある程度一人前になるには約5年かかるので、5年先の会社の姿から逆算して、今からどういう人材を採用して、どんな環境で育てていくかを考えなければいけません。会社の中心人物が集まって会社の5年先をイメージし、採るべき人材を設定し、会社の魅力をどう伝えていくのか、もしくは魅力がなければどうやって作っていくのかを議論しながら組織づくりを進めることが大きな価値になります。

―― 新卒採用活動は会社のビジョンの設定やブランディングのきっかけでもあるのですね。しかし、会社の中心メンバーとなるのはたいてい多忙な社員たちですよね。「今の業務で忙殺されているのにさらに新卒採用までやるの?」と抵抗されませんか?

近藤 だからこそ「今の忙しさをこれからも続けたいですか?」という話です。5年10年先の自分の理想の状態を作ろうと思ったら、緊急ではないけれど重要なことを進める必要があります。しかし、1人でやるのは難しいので、チームを組むことが大切です。会社のなかで暇な人がやってもいい人材は採れません。忙しい人材は魅力的であり、周囲から期待される人。そういう人々が一緒になってやるべきです。

 しかし、最初の意識付けが大事なのであって、実際の選考活動がスタートしたら、それほど現場に負荷をかけてはいけません。例えば、新人は合同説明会のブースの運営を手伝う、ある子は説明会の座談会、ある部長は面接を5人だけ担当する、というように役割分断する必要があります。

●選ばれた理由が「休みが多くて残業が少ない会社」でいいのか

―― 就職活動をする学生は働くことに対してどのような意識を持っていて、どのような仕事に魅力を感じるのでしょうか。

近藤 「2020年卒マイナビ大学生就職意識調査」では、学生が会社を選ぶポイントに「安定している」「自分のやりたい仕事ができる」「給料がいい」などが挙がっています。ただ、これらに振り回される必要はないとも思います。

 例えば、「休みが多くて残業が少ない会社」が人気だとすると、休日が少なくて残業が多いと打ち出すと、中小企業であればなおさらそっぽ向かれるのでは、と一見思いますよね。でも、自分の会社が仮に休みが多くて残業が少ない会社だとして、学生から自分の会社を選んだ理由にそれを言われたいですか? 事実だとしても、休みや残業の有無で決めてほしいでしょうか。

―― 「イケメンで年収が高いから結婚しました」と言われるようなものですね(笑)。

近藤 「自分たちの会社は何を理由に選んでほしいのか」を研ぎ澄ませて考えなければいけません。当社の3年目のある社員は、6社から内定が出て最後に当社に入ると決めたんです。その理由を聞いたら「一番困難だと思ったから」でした。大手企業に入って「すごい」と言われるより、10年後のレガシードを作って「すごい」と言われる人生の方がワクワクしたそうです。

 中途半端に「他社より休みが多いよ」「残業を是正しているから働きやすいよ」などと言ってはいけません。そこを分かっていないから「もっと休みを多くしたり、初任給を上げたりしたほうがいいのかな」なんて考えてしまうのです。問題の本質はそこではありません。

―― コンサル事業で成功した具体的な事例を教えてください。

近藤 岡山県の和気郡に4店舗ほどあるガソリンスタンドです。それまで顧客は高卒とハローワークでしか採用したことがなく、大卒採用の経験がない、非常に難易度が高い条件でした。

 最初は社員教育から始めました。月に1度私が行って、その会社の理念やビジョンを深く認識したり、どのような会社を作っていけたら理想なのかを自分たちで構築していくワークショップを実施しました。「会社は自分たちで作るものなんだ」と当事者意識を上げていく作業は最初は1年かけてやる予定でしたが、半年ほどで調整できたので、新卒採用をスタートさせました。

 その結果、就職説明会には60〜100人ほどが来て、その中から岡山の国立大生2人と理科大生2人の4人を採用できました。その学生たちはガソリンスタンドに入社したわけではありません。ガソリンスタンドとは別の、その会社が未来に構想している事業を自分たちの手で実現したいと考えたのです。そのために、事業の根幹である店舗運営に学生のアルバイトとして1年、さらに入社後1年取り組み、そこから新規で飲食事業をスタートさせました。

 和気郡には週末に家族で行けるような大きな飲食店がなかったこともあって、新卒4人でアルバイトを採用したり育成したり、メニューを作ったりと、店舗運営で学んだスキルを生かして今はすごい繁盛店を作っているようです。

―― 未来の事業のための人材を採用した好例ですね。

●「この人が辞めたらわれわれに問題がある」という人材を採る

―― 採用以後の離職率を下げるような取り組みはありますか?

近藤 2つパターンがあって、新卒採用の経験がある会社とそうでない会社の離職率は当然異なります。新卒採用を始めたばかりのときは、育成体制やマニュアルができていないので、離職要因は多いです。だから「体制ができたら新卒採用する」という会社がありますが、それを待っていると何十年も先になるので、先に採用します。その際は中途半端な人材でなく、いい意味で現場が慌てる人材を採る必要があります。

―― といいますと?

近藤 「この人が辞めてもまた採用すればいいや」となる人材ではなく、「この人が辞めるのはわれわれに問題がある」と自分たちにベクトルが向くくらいの人材を入れなければいけません。その結果、おのずと既存社員の意識や、育成に対する姿勢、採用に必要な仕組みが整ってきます。新卒採用を始めて最初の3年程度は若干離職者が出る可能性がありますが、続けていくと人材の定着性が上がっていきます。

―― 採用活動によって自分たちの課題も浮かび上がってくるから、それを解決するための仕組みや体制が作れるわけですね。裏を返せば、新卒活動をしなければ自分たちにどこに問題があるか見えてこないと。

近藤 新卒採用はつい人材を“選ぶ”活動のように思いがちですが、最後は採用段階で選んでもらい、入社後も選び続けてもらわなければいけません。採用活動は「選ばれる会社になれるかどうか」が肝なのです。採用は命を投資していただく活動だからこそ、その投資に値する会社を作っていかなければいけない。

 もし魅力的な人材が他の会社を選んだとき、「経営者である自分やうちのスタッフがどう磨かれていたら、僕らと働くと意思決定をしてくれただろうか」とリアリティーの高い状態でフィードバックされます。だから、採用活動では自分たちこそが磨かれていきます。「魅力的な人材がひきつけられる社員の集団になろう」と思えるのが、新卒採用プロジェクトのいいところです。

●「常識」にはまると採用は失敗する

―― レガシードは2021年3月卒業予定の学生を対象に調査したインターン人気企業ランキングにおいて、大手企業を含めたなかで総合10位を獲得しました。インターンシップの位置付けはどのように考えていますか。

近藤 今学生の8割がインターンシップを受けていて、1人あたり4社も行っています。大学3年生、場合によっては2年生、当社は高校生も来たりするので、早い段階でスマートフォンから自分に合うインターンシップを探して、応募して、活動を進めていきます。そのなかでいい会社が見つかれば、採用活動が始まるころには意思決定できるという流れになりつつあります。

―― インターンシップは採用活動において必須のものになっていきそうですね。

近藤 さらに、中小企業にとってメリットなのは、インターンシップを実施することでミスマッチの削減につながることです。筆記や面接なんて、最もやってはならない選考方法だと思いませんか? 野球選手のスカウトなら、投球させたり走らせたり、練習させたりしますよね。なぜ一般企業では筆記や面接で見るのでしょうか。「実際に働かせてみてどうか」で判断できるようにするために、前段階で行えるのがインターンシップ制度です。

―― 実際に学生に働いてもらう際、例えば5年後を見据えた新しいビジネスに対するスキルなどもあると思います。

近藤 本来は文部科学省や大学がやってほしい話ですが、その意味では、会社側が教育の場を作っていく必要があります。前述した通り、選考プロセスには基本的に「採用を判断する」「会社を魅力づける」の2つがありますが、当社ではそこに「育てる」という概念を加えています。

 インターンシップや選考に参加するほど、働く姿勢が作られていったり、仕事への理解が深まったり、スキルが上がっていったりするプロセスを経て、ある程度伸びる人材を採ろうとしています。そして、長期インターンでさらに育てていく流れをくんでいるので、育成に対する投資が会社側にも求められます。

―― 具体的にはどのような人材を見極めていくのでしょうか。

近藤 今までの中小企業は、どちらかといえば言われたことを素直にやるような「オペレーション人材」を新卒で採用していました。ただ、ロボットやAIが仕事を代替する時代には、そのような人材はだんだん不要になります。これからは、クリエイティビティとイノベーションを掛け合わせた「創れる人材」を採っていく必要があります。

 しかし、そのような人材を中途採用しようと思うと、中小企業はコストと環境を用意しなければいけません。二刀流の大谷選手を中途で採るのは大変です。しかし新卒なら採れるのです。

―― ということは、「創れる人材」を新卒で採るためには、会社側の姿勢づくりも大切ですね。どんな優秀なスキルを持っていても、それが生かせない環境では宝の持ち腐れです。

近藤 人は負荷を与えられないと成長しないので、そのような環境づくりが重要です。また、インターンの中身を作るときのポイントは、学生、社員、会社の全てにとってプラスでなければ絶対に続かないということです。

 ありがちなのが、学生を満足させるためのインターンになってしまい、会社の収益性や生産性の向上につながらないケースです。結局労力だけ取られたり、ノウハウが流れたり、うまく採用につながらなかったりすると意味がないですよね。活動を通じて社員のプラスになる必要があります。

―― 企業によっては、1日程度、与えられた仕事をちょっと手伝って終わり、みたいなこともありますね。

近藤 それだともったいないです。会社にとっても顧客が増えたり、最終的に利益や経費削減につながったり、インターンを通して何かメリットを生むという視点が重要です。採用チームが「現場や社長にあれこれ言われたくない」と内々で進めてしまうと、1Dayの会社説明会の延長線上みたいな内容になって、学生も面白さを感じられない結果になってしまいます。

―― 学生時代にそんなインターンシップを受けた記憶があります。

近藤 「楽しませるインターン」ではなく、いい意味で悔しさを体験させるのは大事です。当社のインターンでは、終了後に半数以上の学生が「悔しかったです」と答えます。そういう学生は根本的に成長できる環境を好む人間ですから、当社にもフィットしていきます。

―― いろいろとお話を伺うと、確かにその通りだと感じることばかりです。新卒採用の問題も、解決策も明確です。それでも、ほとんどの会社が実行に移せていない理由はどこにあるのでしょうか?

近藤 変な常識にはまっているのです。ただ、常識を変えるにはそれ以上の代替策が必要です。「筆記と面接やめましょう」「リクナビ、マイナビやめましょう」「その代わりに行動を見る選考に変えましょう」「社員を巻き込んで選考をやりましょう」。そうなると多くの場合が踏み切れないんですよね。

 イノベーションは「安全」や「普通」といった「常識」の外にあります。しかし、安全の反対は危険、普通の反対は変、常識の反対は非常識となると、そっちのほうがいいとは思えないのです。そこで、「安全の反対は冒険かな?」「常識の反対は新常識や超常識を作ればいいな」と思ってみる。

 自分たちがワクワクしていないのに、人はひきつけられません。採用チームで経営者も含めて「こういう採用活動ができたら、自分たちにとっても来た学生にとってもよかったとなるよね」とワクワクしていると、本当に人は集まってきます。たったそれだけですが、それがとても重要なのです。