平成を過ぎて令和となった今も、一定の需要がある「昭和レトロ」。古いポスターや調度品が並ぶ居酒屋や商店街が評判を呼んだり、あえて昭和っぽい雑貨を生活に取り入れる人も少なくない。

 「黒電話」もそんな昭和レトロ系雑貨の代表格の1つだ。今や国内でほぼ製造されていないとされ、スマートフォン世代にはそもそも使った経験のない人も多いのではないだろうか。そんな黒電話の流通が、なぜか中古市場でちょっと活発化しているという。

 スマホの普及で固定電話自体を自宅に置かない人も増える中、実用性の薄そうな黒電話はやはり、昭和レトロ好きの人々に好まれているように思える。ただ取引の動きを見ると、全く違った背景がそこにはあるようだ。

 今回はメルカリの持つ独自データを活用し、同社のサービス上で取引された黒電話の件数を分析した。同社によると、2015年の黒電話の出品数は月当たり数十件程度で、売却数も1桁〜10件前後しかなかったという。

 しかし取引量は最近、謎の増加傾向に。19年は毎月数百件程度の出品があり、売却数も100件前後と、4年間で桁が1つ跳ね上がった結果となった。

 この間に昭和レトロのような、黒電話にまつわるブームが急にあったという可能性も無い訳ではない。ただ、19年内の推移に着目すると、「上半期に比べ、9、10月の出品量は約2倍、売却が成立した数も1.5倍程度に伸びた」(同社担当者)という。

●実は「停電でも通話可能」故の防災向け

 今年の9〜10月というと、大きな台風が集中して日本列島に上陸して被害を出したニュースが記憶に新しい。「推測だが、9月から取引が活発になっていることから、10月の大型台風に備え防災の対策のために黒電話を購入する人がいたのではないか」(担当者)。

 不動品の出品もあるため、「昭和レトロ調雑貨」としての需要もあるとみられる半面、取引量増加のタイミングを見ると、どうも防災目的で取引が活発になっている可能性が高い黒電話。実は近年、防災系のまとめサイトなどで、「停電時にも黒電話は使用できる」という話が浮上しているのだ。メルカリやヤフオク!上でも、黒電話の出品者による「停電時にも使えます」といったコメントが散見される。

 実際はどうなのだろうか。総務省のWebサイト(「停電時の固定電話・IP電話の利用について」)では、停電時でも使用可能な電話の例として、「電話機から電話線のみ出ている黒電話」が挙げられている。

 NTT東日本の担当者も「黒電話は商用電源を用いておらず、電話回線からの給電により動作しているので、電話回線が正常な場合には、停電時でも黒電話は利用可能」と説明する(ただし全ての黒電話が「電話線のみで稼働」する訳ではなく、黒電話の後に出た商用電話機の中にも停電時使える機種は存在する)。

●プロ「公衆電話やスマホ利用がお勧め」

 スマホ全盛の時代における、黒電話の謎人気。「停電時でも電話線から電気を得ている黒電話は使える」という一種のライフハックが背景にあるとみられる。ただ、電話や災害対応のプロは必ずしも、災害対応での黒電話活用をお勧めするわけではないようだ。

 NTT東日本の担当者は「停電時の電話確保は、(災害に比較的強いとされる)公衆電話の利用を推奨している」と説く。ただ、停電時はテレホンカードが使用不可になるので注意も必要とのこと。

 家庭や企業の防災対策に詳しいアドバイザーの高荷智也さんも「黒電話に回線を直接引っ張っている場合、電話線がつながっていれば確かに通話はできる。ただ、大地震など被災地に電話が集中してしまい、電話回線の規制が起きて電話自体が使えなくなる可能性がある」と説く。「一般の方に(防災で)黒電話はお勧めできない。『停電の時に使える』というトリビアが一人歩きしたのかもしれない」。

 現実的な防災時の通信手段としては「現状ではやはりスマホだろう。電話やメールだけでなくLineなどでも通信できる。家族や職場との連絡がネット上で完結できるアプリが適している」(高荷さん)と説明する。