「巨人、大鵬、卵焼き」が流行語となったスター選手ありきの昭和の時代から大きくスポーツを巡る環境は変わり、令和のスポーツには「ビジネス」の視点が不可欠となった。横浜DeNAベイスターズの初代球団社長で、現在はスポーツによる地域活性化などに取り組む一般社団法人さいたまスポーツコミッションの会長を務める池田純氏が、スポーツビジネスの裏側に迫る新連載。第1回は「IT業界とスポーツビジネス」をテーマに、ソフトバンク、楽天、ディー・エヌ・エー(DeNA)とプロ野球に参入したIT企業の“三者三様”ならぬ“三社三様”の取り組みに迫る。

 かつてDeNAの執行役員、ベイスターズの球団社長を務めてきた私が今、興味深く見ているのが、プロ野球に参入したIT企業がそれぞれ異なる道を歩んでいる事実です。メルカリ、ミクシィ、アカツキなど新興のIT企業がスポーツに進出を始める中、「IT業界とスポーツビジネス」の関係性を解き明かしていく上で、まずその先駆けとなったソフトバンク、楽天、そしてDeNAの現在を世の中に出ている客観的な情報から分析したいと思います。

 日本のプロ野球は、企業がオーナーとして運営するという独特な運営形態を取り、これまで鉄道会社や新聞社など、その時代の有力企業が保有してきました。これは、親会社から球団への「赤字補填」が広告宣伝費として認められるという、1954年の国税庁の通達が後押しとなり、広告宣伝を軸に、本業との相乗効果、ブランド価値向上を図る狙いで、その形が続いてきたのです。

 その中で近年、存在感を増しているのがIT業界です。球界再編に揺れた2004年、11月にソフトバンクが福岡ダイエーホークスを総額200億円で買収し、楽天は東北楽天ゴールデンイーグルスを設立してプロ野球に参入。11年12月には、DeNAが東京放送ホールディングス(TBSHD)から約65億円で株式を取得し、プロ野球界に進出しました。

 当時、DeNAが注力していたのはゲーム事業でした。「ngmoco(エヌジーモコ)」という米国のゲーム会社を最大約4億ドル(当時342億円)で買収し、海外でのゲーム事業に挑戦していた時期。ベイスターズについては、あくまで会社の認知と社会的ステータスを上げるくらいの話で見ていた人が社内にも多かったように思います。だからこそ、立候補して35歳というプロ野球史上最年少で球団社長に就任した私が、「野放し」といえる状態で意思決定権を与えられ、思うように経営を進められました。

 DeNAが経営に参画する前年度のベイスターズは、単体の売上高が約52億円、赤字が約24億円という状況でした。それを、球団社長在任中の5年間で売上高110億円超、10億円超の黒字を計上するまでに改革することができました。2016年には横浜スタジアムの運営会社の友好的TOB(株式公開買付)にも成功。不可能と言われた球団と球場の一体経営を実現したことで、ベイスターズは常時営業利益10〜30億円以上をたたき出せる体質の「優良企業」へと変貌を遂げました。

●スポーツビジネスはお金になる

 私がベイスターズの球団社長に就任した当初は「黒字化なんて絶対に無理」「ハマスタ買収なんて不可能」と言われ続けました。それが、たった8年前のこと。プロ野球の球団を持つのは「親会社の宣伝広告」のためであり「勝つことが最大のファンサービス」だといわれていた時代でした。

 しかし、こうしたベイスターズの成功により、今や「スポーツビジネスはお金になる」という考え方が常識になりつつあります。同時に社会的なステータスも獲得でき、その周辺にも何かビジネスを広げていくチャンスが生まれるという意識が、IT業界に広まっているのです。サッカーJ1のFC東京に出資し、プロバスケットボールBリーグ・千葉ジェッツ船橋の経営にも参画するミクシィ。J1鹿島アントラーズを取得したメルカリ。J2のFC町田ゼルビアの経営に参画するサイバーエージェント。J2東京ヴェルディに参画し始めたアカツキ。ここ数年で次々と大きな動きが出てきています。

 このようにゲーム事業からスポーツ事業を“本業”にする方向に舵を切りつつあるほど、スポーツ事業単体で成功を収めたDeNAに対して、“一世代前”にプロ野球に進出したソフトバンク、楽天は全く異なるアプローチでスポーツビジネスに取り組んでいます。あくまで“本業”をボアアップさせることで、スポーツを“本業”の価値向上に生かす形です。

 楽天は米プロバスケットボールNBAのゴールデンステート・ウォリアーズとユニホームにロゴを入れる契約を結んだり、それによって楽天のビジネスの一環としてNBAの日本での放映権・配信権を取得したり、JリーグのECに絡んだりと、「楽天市場」という“本業”とスポーツのシナジーを追求しています。スポーツは、いわば“本業”の価値、規模を大きくするためのツールという在り方です。

 かたやソフトバンクは携帯電話の会社から投資会社となり、巨額の資金を調達、投資しながら利益を生み出していく企業になっています。その1つの象徴が福岡ソフトバンクホークスといえるのではないでしょうか。これまで日本のプロ野球界は巨人が「最強」「盟主」であり、フリーエージェント(FA)選手の獲得競争をしたら絶対に勝てないといわれてきました。しかし、「ソフトバンクが出てきたら資金は青天井」といわれるくらいのどんでん返し、パラダイムシフトを起こしています。

19年の日本シリーズでも圧倒的な戦力差を見せつけ、巨人に対して4戦全勝し、日本一に輝きました。10兆円規模の投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の運営や米携帯会社スプリントの買収からも分かるように、ソフトバンクは日本にとどまらないビジネス展開を行っています。ソフトバンクにとって、プロ野球、スポーツは「日本最強」「世界最強」の会社だというブランドを浸透させる位置付けにあるように思えます。

●DeNAはスポーツ事業に会社の成長を期待

 プロ野球に進出したソフトバンク、楽天、そしてDeNAという3つのIT企業が、これだけ異なる歩みを見せていることは興味深い事実です。かつて15〜20年ほど前、楽天はネットのショッピングモール事業でDeNAのビッダーズと競合し、ソフトバンクはPCソフトの流通業からYahoo! BBのブロードバンド事業などに従事していた会社でした。もともとは似たような位置でスタートを切った3社が、過去から振り返ると、こんなに面白い変遷をたどっているのです。

 楽天は本業の一部に掛け算をして本業に資する何かをつくるタイプ。ソフトバンクはブランディング型。DeNAはスポーツビジネスそのもので成功している会社というイメージになっているといえます。ひとくくりに「スポーツビジネス」といっても、これだけいろいろな捉え方があり、手法があるということです。

 ベイスターズの球団社長時代、横浜において強い影響力を持つ、とある重鎮の1人に言われた言葉は、まさに現状を“予言”していたなと最近、よく思い出します。横浜市内のベイスターズ通り(関内仲通り)にあるすし店で食事をしていたとき「いずれベイスターズの経営が本体を救うことになるんじゃないか」と言われ、当事者の私自身が、ハッとさせられたのを強く記憶しています。地域に密着した取り組みを進め、観客動員などがガンガン伸びていく中で、背中を押してくれるようになり、横浜スタジアムのTOBも応援してくれました。

 DeNAは「プロ野球チームを持ったIT企業」から、スポーツ事業への特化に進もうとしています。それはベイスターズの輝かしい成功を更に発展させなくてはならないからですが、そんな特殊な企業が今後、どのような道を切り開いてくれるのか、どのようなモデルケースになってくれるのか。既に球団社長を辞めた身ですが、頑張ってほしいなと思って見ています。これからメルカリ、ミクシィなどに続いて、新たにスポーツビジネスに進出を始めるIT企業がどんどんと増えていくはずです。これは時代の必然であり、東京五輪の後にはさらにその動きが加速していくでしょう。

(池田 純)