●連載:企業SNS「中の人」がいま考えるべきこと

 SNSは、今や私たちの生活の中に溶け込み必要不可欠な存在となっています。企業側も、マーケティング手法の一環として、情報発信やコミュニケーション醸成に活用するケースが「当たり前」になってきました。一方で、いわゆる「中の人」が存在感を出しすぎたり、消費者との距離感が近すぎたりして「炎上」してしまうケースも出てきています。今、SNS担当者が考えるべきことはどういったことなのでしょうか。 電通メディアイノベーションラボ主任研究員を務め、SNSに詳しい天野彬氏が2回に分けて解説します。

 前回は、企業SNS運営の在り方について述べてきましたが、ここで昨今のSNS環境を考えるためのキーワードとして「ファストなコミュニケーション」を紹介したいと思います。

【参考記事】SNS担当者は「中の人」から「そばの人」へ? そのために知っておくべき「3つのM」とは

 ファスト(Fast)、つまりSNSのコミュニケーションの特性は「速い」ということです。SNSでは手軽に発信できて、容易に拡散され、みんなが乗っかっていける話題を形成できるわけですが、発信者の数も多いため、個々の発信はすぐに消えてしまいます。ある調査によれば、SNSにおいて、1つの投稿の寿命はわずか数分であるとさえ言われています。

 Twitterがファストなコミュニケーションの典型ですが、Instagramも、2016年に登場した「Instagram Stories」機能を利用する人が一般的になってきています。この機能は「ストーリー」と呼ばれ、投稿した画像や動画が24時間後に消えるものです。ストーリーによって、Instagramのファスト化がどんどんと進行しています。

 ファストなコミュニケーション一辺倒でいいのか、スローなコミュニケーションも重要ではないのか…といった論点は19年に発売した私の書籍『SNS変遷史』で紹介しています。本稿では、ここまでにとどめるので関心があればご一読ください。

 では、ファストなコミュニケーションを企業SNSはどう生かしていくのかという視点で議論を進めます。

●「ファスト」なSNS運用の成功事例

 これからのSNSでのコミュニケーションを占うために、広告やコミュニケーションに関する「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」に18年から新設されたソーシャル&インフルエンサー部門の最新の結果を参照してみましょう。

 この部門は、誤解を恐れずに言えば「SNS」部門です。そして、19年のアワードの結果をひもとくと、「ファスト」というキーワードが浮かんでくるように思います。広告とファストとの組み合わせは、人々や世の中の関心事にいかにブランドとして反射神経よくコミュニケーションを返していくのか、が「話題」の醸成と切り離せなくなっているということを意味します。

 (コミュニケーション巧者としてカンヌではおなじみの)バーガーキングの事例は、まさにファストなコミュニケーションそのものです。

 あるとき、世界の頂点にいながらお騒がせ者ラッパーとしてウォッチされているカニエ・ウエストが「俺の一番好きな店はマクドナルドだ」とツイートしました。そこでバーガーキングはすかさずそれを引用リツイートの形で拾って「Explains a lot(あーなるほどね)」と返しました。すなわち、「マクドナルドが好きだからカニエは奇行が多いのね」という風刺になっているわけです。

 このわずか3つの単語だけで構成されたツイートは、自社はもちろん企業アカウント全体の中での「いいね!」数の最高記録を更新したといわれています。世の中の人々が漠然と思っていたことを見事に突いたからだといえるでしょう。人々がカニエをどう見ているのか、またカニエがどんな発信をしているのか、しっかり「Monitor」しているからこそ可能になった施策です。

●「バズる」とは何か

 SNSでは、「バズる」ということがその投稿を評価する指標として語られることも多くなってきました。この「バズる」にもいろいろな形がありますが、筆者の考えるバズは、「0→1」ではなく、すでにある火種を言語化したりかたちにしたりすることで拡散させていく「1→10」のイメージです。その「1→10」をスピード感をもって大きくすることが話題化の掛金となるでしょう。

 このバーガーキングの施策は英国ロンドンのCoolrというエージェンシーと組んでいるとのことで、世の中の話題を常にウォッチしながら、自分たちのコミュニケーションに生かせる火種を探し、ブランドとエージェンシーが定例的に会議をしているようです。

 そして、面白い火種が見つかったらすぐにアイデアを練って迅速に発信する。ブランド/エージェンシー側の動き方もファストになっていることを意味します。

 「ファスト」なコミュニケーションによる成功事例は、日本でも最近ありました。19年12月に開催した「M-1グランプリ」でも、ミルクボーイというコンビがコーンフレークを題材にした漫才ネタを披露したところ、すぐにケロッグの公式アカウントがツイートし、ミルクボーイにコーンフレークを贈呈する旨を発信していました。

 投稿日時は、19年12月23日、午後6時37分。ミルクボーイのネタから24時間以内に発信していることから、スピード感は特筆するべきものだと言えます。

 SNS周辺でも、「コーンフレーク」でざわついていたところの投下だったことから、このケロッグの行動自体も称賛され話題として拡散されました。これが、もし1週間後の出来事だったらむしろ興ざめでブランドにとってはネガティブですらありえたことです。

 これらの事例から見えてくるのは、どちらも時代へのファストな応答であり、生活者のコミュニケーションがどんどんファストな場になっている環境へとブランドも勇気をもって飛び込むことでこれまでとは異なる存在証明を行っているということでしょう。これが企業SNSの、つまり「そばの人」のこれからの1つの在り方ではないでしょうか。

(天野 彬)