世界的にかなり注目されている興味深いシューズブランドが日本に初上陸するという話を耳にしたのは2019年末のことだ。

 なんでも、米タイム誌に「世界で最も心地よいシューズ」と評されたと聞いたこともあって、「一体どんなシューズなのか」と先日、その発表会に出席した。取材前に調べたところ、歴史ある米グッド・ハウスキーピング誌の研究所が行った調査でも、回答者の91%がそのシューズの「心地よさ」で最上級のスコアを付け、「雲の上を歩いているかのような心地よさ」という評価をしている人もいたそうだ。

 そのシューズブランドは、米サンフランシスコに本部を置く「オールバーズ(Allbirds)」だ。自然に優しいシューズを販売するという触れ込みで、原宿駅の真ん前に、世界で15店舗目となる日本第1号店をオープンした。

 最初は「今はやりのSDGsのブランドか」という印象だったが、どうもそれだけではないらしい。これまでにないような独自のシューズを作り、好評を博している。

 しかも環境問題に関心が高いセレブなどもこのシューズを履いており、話題になっている。例えば、米人気俳優マシュー・マコノヒー、アシュトン・カッチャー、ベン・アフレックなどがプライベートで履いているのがパパラッチされたり、映画『ハリー・ポッター』シリーズの英女優エマ・ワトソン、米女優グウィネス・パルトロウ、またバラク・オバマ前大統領も愛用している。しかも米俳優レオナルド・ディカプリオに至っては、このブランドに出資すらしている。

 ではなぜこのブランドがそこまで評価されているのか。同ブランドについて調べると、確たる「戦術」をもってここまで上り詰めたらしいことが分かる。そこで、今世界で最も注目されているシューズを作る同社が成功した秘密を探ってみたい。

●元サッカー選手が“環境に優しい”を追求したスニーカー

 オールバーズが最初にビジネスに乗り出したのは2013年のこと。元サッカー選手でニュージーランド代表選手も務めたティム・ブラウン氏が、プロサッカー選手を引退した後で、環境に優しい素材を使ったスニーカーを作ろうと考えた。というのも、現役時代にスポンサーから提供されたスパイクはどれも派手で、メーカーのマークがドカンと付いていたことから、もっと控えめで履き心地がよく、さらにサステナブルなスニーカーがあればいいのに、と思っていたからだ。

 それから英大学への留学などを経て、本格的にスニーカーの開発を開始。英国では教授から「失敗するからやめたほうがいい」と断言されたそうだが、それでも怯まずに、高級衣料品ブランドのアルマーニなどのスーツに使われるニュージーランド産のウール(メリノ羊毛)に目を付け、環境への配慮を徹底したシューズ作りを行った。

 そして形になったところで、クラウドファンディングを開始。すると4日間で950人以上の投資家から12万ドルを獲得するほど期待が寄せられることに。事業を本格化させるため、ビジネスパートナー(ブラウン氏の妻の大学時代のルームメイトでエンジニア)と手を組み、640億ドル規模の市場であるスニーカー業界に乗り込んだ。16年3月、オールバーズはたった1つのデザインのみでビジネスを開始。それまでに200以上の試作品を作ったという。

 すると、発売1週間でタイム誌が「最も履き心地のよいシューズ」と紹介。そこから一気にビジネスが拡大し、たった数年の間に、世界で話題になるシューズとなった。

 オールバーズは、環境に優しい材料を使っている。既に述べたウールをはじめ、ユーカリの木の繊維から作られたシューズもある。靴ひもは再生プラスチックでできており、靴底はブラジル産のサトウキビを加工して作っている。もちろん購入時の箱も再生ボード紙。とにかく、エコでサステナブルなシューズなのである。

 ちなみに、ウールなど通気性のいい素材を使っていることから、はだしで履いても臭くなりにくく、洗濯もできる。夏は涼しく、冬は暖かいという。

●成功の裏にあった、明確な「戦略」

 売り上げも軌道に乗っている。ニュージーランドの地元紙であるニュージーランド・ヘラルドは、オールバーズが18年3月に売り上げ数100万足を達成したと報じ、「会社がローンチしてから毎分1足が売れている計算になる」と書いている。そして20年1月に、東京で15店舗目となる店舗をオープンした。

 オールバーズのスニーカーは、すでに紹介したセレブだけでなく、Googleの共同創業者のラリー・ペイジ氏やTwitter元CEOのディック・カストロ氏、有名投資家のベン・ホロウィッツ氏など、社会や環境に対する意識が高いセレブや起業家、ビジネスパーソンの間で履かれるようになった。要は、米国で「できる」と言われるような男たちを引き付けているのである。

 ただ爆発的に成長した理由は、こうしたセレブたちに気に入られたからだけではない。成功の裏には、明確な戦略があったという。ブラウン氏は、18年に行われたニュージーランドでの起業関連のカンファレンスで、同社の軌跡について語っている。

 ブラウン氏らが常に念頭に置いているのは次の3つだ。「心地よさ」「デザイン」「サステナビリティ」である。つまり、人は心地よさでシューズを選ぶということ。だが心地いいシューズはかっこよくないことが多く、デザインの問題があるということ。そして、人々はサステナビリティの問題を気にしているということだ。

 これら3つの柱は同社にとって譲れない事項となっている。何がその企業に必要で、何を譲れないのか。それを明確にすることで、進むべき道において迷いをなくし、結果的に組織の全員が同じ方向に目を向けることができる。

 その上で、ビジネス環境の「現在地」を認識する。例えば、これまでと違って、世の中ではオンラインショッピングが興隆し、大手小売店などで大量販売が避けられる傾向になった。売る側と買う側が直接やりとりするようになってメーカーと消費者との関係性が深くなり、直接自分たちのメッセージを消費者に伝えることができるようになった。

●最も重視したのは「フィードバック」

 こういう状況を認識した上で、もう1つ同社の成功に重要だったのは、「フィードバック」を大事にしたことだとブラウン氏は述べている。消費者との関係を築くことで、ユーザーから商品についてのフィードバックを得ることができる。彼らはとにかくフィードバックに耳を傾けて、改良に改良を重ね、試作と失敗を繰り返したという。

 現在でもサンフランシスコで100人ほどのチームを組んで、毎週各地から得たフィードバックなどの情報を報告し、検討している。お客の声が全て、という認識だそうだ。サーベイを行った結果や、SNSでアップされるメッセージも欠かさずチェックする。店舗のある街に行く場合には、メールを出すなどして顧客と会う機会を作る。また顧客データの分析も徹底して行っているらしい。

 その一方で、やみくもに意見を聞きすぎるのも問題であると、ブラウン氏は指摘する。「多くのフィードバックは無視しなければいけない」とし、自分たちの「譲れない事項」に関係のないものは無視することも大事だという。

 ブラウン氏は「こう説明すると、簡単に一晩で成功したかのようにも聞こえるだろうが、実はそれまでに6年間、懸命に取り組んだ。ウール製シューズが『素晴らしいアイデア』と言われるまで、とても『ダメなアイデア』だった時間が長かった」と言い、「人にどんな仕事をしているか説明するのに、(恥ずかしくて)いつもドキドキしていた」と語っている。

 それが今では、ニュージーランドの首相が、オーストラリアの首相と会う際のお土産として、オールバーズのシューズをプレゼントするまでになったという。「オールバーズ外交」である。ニュージーランドが誇るブランドに成長した。

 しかも、SDGs(持続可能〈サステナブル〉な開発目標)が叫ばれる時代にがっちりとフィットするシューズでもある。日本ではまだオープンしたばかりだが、日本人がどのようにこのシューズを受け止めるのかが見ものである。

(山田敏弘)