2020年の世界経済は、低成長率とはいえ健全さを保つと考える。18年に16年の低迷からの反動で比較的高い成長を実現した先進国は、19年に減速した。例えば、米国の小売売上高は、17年から加速し、18年に高い成長となったが、19年に入って成長率が低下した。

 しかし、売上高それ自体が低下(減少)したのではない。500万円の収入が550万円になれば10%成長、それが600万になれば9%成長となるように、増加額は同じでも、収入水準の上昇に伴って成長率が「落ち着いてきた」ととらえることができる。つまり、世界の成長トレンドが壊れたのではなく、成長サイクルが緩むタイミングにすぎないといえる。

 19年には、中国のデレバレッジ(過剰債務の削減)の影響もあり製造業の減速が目立った。しかし、米国をはじめ先進国ではサービス業の安定で雇用が増え、給与も上昇傾向だった。総じて経済は健全で、20年は堅調な需要を背景に製造業も緩やかに持ち直すだろう。

 日本株にとってポジティブなシナリオは、20年後半にもインフレの“匂い”がしはじめることだ。世界的に「賃金が上昇しているのにインフレにならない」状態が続いている。

 米国では、19年に入って、賃金上昇は加速傾向だがインフレの兆しが見えないことで、FRB(米連邦準備制度理事会)は「予防的利下げ」を行うことができた。しかし、欧米をはじめ世界的に消費が堅調で、需要総量は伸びる可能性がある。日本では、実質輸出がすでにリーマン・ショック前の水準に戻っており、ここからさらに売上げが伸びれば、在庫減、生産増、設備投資や残業増といった形で、経済拡大と「お金よりモノ」というインフレ・マインドが高まる可能性も出てくる。

 もちろん輸出数量増だけでは一般物価は上がらないが、消費税増税の影響が思いのほか小さければ、20年末までに、日本でも実質所得の増加とインフレ期待が出てくるかもしれない(メイン・シナリオとするには少し気が早いが)。そうなれば、日本株に対する外国人の興味は大きくなるはずだ。

●相対的に高い新興国の成長

 先進国が低成長とはいえ健全であれば、世界需要の安定で新興国の生産は19年に比べて加速すると考える。新興国とは名前のとおり、通常の状態であれば成長率が先進国より高いはずだ。

 ただし、新興国をひとまとめにして投資することは単純化しすぎだ。新興国の大きな部分を占めている中国は、「世界の工場」としてバリュー・チェーンで重要な位置を占める中所得国だ。このような国は、先進国になるためにイノベーションを必要とする段階にある。つまり単なる「工場」から脱却し、自分のブランドや他に代え難い能力・技術を持つことで、先進国になるはずだ。それが実現すると、人民元の上昇を含む投資の成果も強く出てくるだろう。また、インドは低所得国から中所得国への発展段階で、農業から工業への人の移動と生産性の向上が期待できる。

 いずれの場合も政治が重要で、適切な政策を投じているかをみていく必要がある。例えば、中央政府と地方政府の権限が適切に分かれているか、国民のための政策が作られているか、一部の業種や人種だけを大事にしていないか、などをみておくべきだ。国全体として、一人当たり所得が高くなるような政策を採っていることが必要条件といえる。

●金利、不動産の安定と株式の成長

金利 当面、先進国のインフレ率の加速は想定していない。インフレの“匂い”がするシナリオであっても、急激な金利上昇を予想しないということだ。景気が消費などを中心に加速しても、物価が上がらなければ金利を上げる必要はないし、製造業の回復が見られたとしても過熱感が出るほどにはなるまい。主要国が利上げする可能性は低いだろう。

REIT 安定した金利を前提に、安定的な推移を予想する。金利と分配金利回りとの差が安定的に推移すると想定しているので、REIT市場への資金流入も継続するだろう。ただし、個人投資家には、REITの値上がりよりも分配金とその利回りに注目して投資することをお勧めしたい。

株式 緩やかな利益成長に応じた上昇が期待できる。世界的に利益成長率が1ケタ台になる可能性が高いので、大幅な上昇を期待する年ではないが、米中貿易摩擦や米国大統領選挙などのイベントに伴う上下動で、利益が変動しなくてもPER(つまりセンチメント)が上下に振れて株価も振れやすくなるとも言えそうだ。しかし、長期投資のスタンスを忘れず、資産形成層は淡々とリスク資産を積み上げて良いとみている。

●今年のイベント一覧表

 最大の注目イベントは、米国大統領選挙とそれに係わる政策論争で、市場の振れを増やすことになるだろう。しかし、長期投資の観点からは、選挙結果で世界経済のトレンドに大きな変化が起こるとは想定しない。

(日興アセットマネジメント チーフストラテジスト 神山直樹)