父親が経営する建設会社の危機を知り、勤めていたイベント会社を辞職して立て直しに奔走した男性がいる。「受注した工事の見積もりが甘い」「職人が現場で成果を出さない」「請求書の作成フローが非効率」といった課題に直面したが、業務のIT化を推進して解決。さらに、しっかり利益の出る仕事を優先して受注することで、働き方改革と利益率向上も両立させた。現在は自社でつくりあげたシステムを外部に販売するために新会社を立ち上げている。

 下請けの多重構造や非効率な業務が温存されがちな建設業界で、どのようにしてITを活用してきたのか。空気調和設備の設計・施工や風導管(ダクト)の製造販売などを手掛けるホーセック(京都市)の毛利正幸社長に話を聞いた。

●最盛期には従業員が100人弱いて年商は25億円

 毛利社長は、ホーセックだけでなく、システム開発などを手掛けるTRECON(大阪市)も経営する。TRECONは、建設業務に関するさまざまな情報を一括管理できるWebシステム「建設タウン」などを提供しており、配管工事業者の業界団体である関西配管工事業協同組合やその加盟企業が利用している。

 建設タウンは、もともとホーセック社内で独自に開発していたものがベースになっているが、どういった経緯で開発されたのか。

 毛利社長の父親が経営していたホーセックは、最盛期に従業員は100人弱在籍し、年商は25億円を誇っていたという。毛利社長は25歳までイベント会社に勤務し、大手ラジオ局の仕事を請け負ったり、ビルのオープニングイベントの企画・運営を手掛けたりしていた。正月やお盆も休めない過酷な仕事だったが、充実感もあったという。

 そんなある日、ホーセックが経営難に陥り、資金繰りに苦しんでいることを偶然知った。「父親と母親が『銀行から融資が受けられない』『家を売りに出さないといけない』と話しているのを聞いてしまったのです」(毛利社長)

 バブル崩壊後、会社の業績は急激に悪化していった。自分の好きなことばかりをしていられないと考え、2003年、毛利社長はホーセックに入社した。社長の息子だから優遇されていたわけでなく、入社当初は幹部から「ダメ息子が入ってきたぞ」というようなニュアンスの陰口をたたかれたという。

●「現場の職人が仕事をしないで宴会」疑惑

 入社した毛利社長は、さまざまな“惨状”を目の当たりにしたという。

 例えば、約5000万円で受注したある工事では、見積もりが甘すぎて実際には9000万円近くかかってしまったという。原因を探っていくと、「現場の職人が働かずに宴会していた」「現場監督が管理をしていない」「工事で使う材料を別の現場に横流ししている」といった疑惑が出てきた。ホーセックの担当者はずっと「問題ない」と会社に報告していた。

 現場の親方を呼びつけて問いただしたところ「悪いとは思ってるよ。でも、しっかりしていないお前らも悪いだろう」と開き直られてしまったという。父親も幹部もその親方を信頼していただけに、ショックは大きかったそうだ。

 経理などの社内業務にも無駄が多かった。毛利社長は「取引先ごとに異なる請求書のルールがあり、業務が煩雑になっていました。請求書などのルールをしっかり理解している社員がほとんどおらず、何度も作成しなおしていたのです。しかも、請求書は手書きだったので時間もかかっていました」と振り返る。各種入金や現場で働く職人などへの支払いもずさんだったという。

 このように、社内の業務フローや現場管理に課題が多かった。

●IT化で自信を深めた

 毛利社長は営業、設計、施工管理、会計、工場の生産管理など必要な業務を経験したことで、業界の抱えるさまざまな課題が見えてきた。そんなある日、毛利社長がITを活用した業務改善に自信を深めた出来事があった。

 取引先から、パチンコ店の消火設備工事の相談があった。予算は1億2000万円(見込まれた原価は1億1000万円、ホーセック側の粗利は1000万円)で、必要な職人数は1500人(1日当たり30人×50日)。通常、必要な予算が1.5億円と思われた案件だったため、父親や幹部は断ろうとしていた。

 しかし、毛利社長には勝算があった。

 「当時、現場で使う図面は精度が低く、職人も図面通りにしないことが多かったです。そのため、作業の手戻りが一定数発生していました。そういった前提なので1億2000万では割にあわないと上層部は考えていました。しかし、現場の施工管理にITを導入することで、私は効率化できると判断しました。新しい挑戦を一緒にできる職人がいたことも心強かったですね」

 蓋を開けてみると、現場の職人数は500人(1日当たり10人×50日)、原価は7000万円で済んだ。当初見込んでいた粗利は1000万円だったが、5000万円も確保できた。同じような仕組みは他の現場にも応用できるようになった。

 この成功体験を踏まえ、毛利社長は社内の業務フローや現場管理のIT化を強力に推進しようと考えるようになった。この取り組みには、システム会社を経営していた兄も協力したという。2008年ごろのことだった。

 その後もさまざまな経験と実績を積み、毛利社長は父親から会社を引き継ぐことができた。

●業務が混乱する根本原因

 毛利社長がIT化を進めるに当たってどのようなことを考えていたのか。

 建設業界はゼネコン、サブコン……と多重下請け構造になっている。ホーセックの場合、サブコンから受注する仕事が8割近くを占めていた。サブコンごとに見積もりや請求の方法が異なり、業務フローが煩雑になりがちだった。入金の漏れなども発生するため、得意先や仕入れ先を一元管理できる仕組みが求められていた。

 利益率が低いのも課題だった。ホーセックのような専門業者の中には、特定のサブコンに依存しているところもあり「この案件を逃すと他にあてがない……」と判断しがちだ。そのため、サブコンからの「仕様変更」「工程追加」といった無理な要求にも従わざるを得ない。毛利社長は「京都にある会社がサブコンに頼まれて広島の現場に行くこともあります。そうなると、10%程度経費が増えてしまうこともあります。同じような仕事を請け負うなら、近場のほうがいいですよね」と指摘する。

 こういったことが起きる根本的な原因の1つは、個別案件の情報がオープンになっていないことだ。例えば、あるゼネコンがA、B、Cという3社のサブコンに業務を発注したとする。3社は、それぞれ付き合いのある専門業者に見積もり依頼を出す。A社と付き合いのある専門業者は、B社とC社の状況は全く分からない。もし、専門業者同士で情報共有ができれば、自分が得意とする仕事や、より利益率の高い仕事を選別することが可能となる。

 さらに、受注する仕事を選別することも必要だ。自社が強みを持つ分野を発注側に理解してもらい、適正な価格で受注する。そのためには、1案件ごとの原価や人件費などを“見える化”する必要もある。

●ITを活用して利益率を改善

 ホーセックは業務改善にIT(自社で開発した建設タウン)を取り入れることで、さまざまな成果をあげてきた。営業利益率は3.6%(12年3月〜13年2月)から11.0%(18年3月〜19年2月、以下同)、粗利益率は16.7%から31.3%に増えた。また、外注費率も40.2%から17.6%まで減った。業務の効率化で時間に余裕ができたので、これまで他社に発注していた仕事を自社で取り組めるようになったからだ。

 また、社員1人当たりの働く時間は15%減少する一方で、ボーナスや昇給の原資となる1人当たり労務費は9%増えた。その理由を毛利社長は「建設タウンを導入することで、当社の手掛ける仕事の価値の見える化ができるようになったからです」と語る。各プロジェクトの利益をしっかり管理することで、受注する仕事を選別するようになったという。また、自社の強みを理解してくれるクライアントの開拓を進めた結果、サブコンだけでなく取引先の幅も広がった。かつてサブコンが売り上げの8割近くを占めていたが、18年には4割近くまで低下。設計事務所やゼネコンからの売り上げが3割弱、同業他社からの売り上げが1割強にまで増えた。

●社内に独自システムを導入

 こういった社内の課題を解決するために開発したシステムが、TRECONが中小建設下請け業者のために提供している「建設タウン」や「Gembastation」につながっている。

 建設タウンは工事に関する情報登録をはじめ、作業員の管理、受注、請求、入金、出退勤まで一括して管理できるWebシステムだ。通常は取りまとめるのが難しいさまざまな書類管理業務を減らしたり、現場で働く職人の出退勤管理を簡単にできたりする。さらに、案件ごとの原価や利益率が見える化できるので、利益率の低い受注を避けることが可能だ。

 Gembastationは全国に散らばっていた建設現場や専門業者の情報を一目で分かるようにしたプラットフォームだ。現場の仕事量を見える化した「繁閑期チャート」や、職人不足の現場に応援要請が可能となる「助け合いネット」などの機能がある。市場の情報を把握することで適正価格での受注を実現し、人手不足を解消する狙いがある。

 ユニークな経緯で誕生した建設タウンやGembastationを広め、毛利社長は業界の抱える構造的な課題を解決するのが目標だ。