米左派系メディアのインターセプトが3月、こんなスクープ記事を掲載した。

 タイトルは「目に見えないセンサーシップ(検閲)」。副題には、「TikTok(ティックトック)が担当者に、新しいユーザーを獲得するために『醜い』見た目の人々や貧しい人たちの投稿は控えるように告げている」と、衝撃的なことが書かれている。

 インターセプトが入手した内部資料を見ると、確かに「アブノーマルな体型、太った人、ビール腹、肥満、または痩せすぎ」は「魅力的ではない」ために「おすすめ」の動画にすべきではないという。さらに「顔のつくりが醜い人」も対象で、「顔のつくりがヘンだったり、歯並びが悪かったり、歯がなかったり、しわくちゃの老人、顔に大きな傷がある人」や、「障害者」もおすすめすべきではないと「新しいルール」には書かれている。

 現代らしからぬ、あまりに酷い方針ではないか。TikTokは今、月に8億人が利用するかなり勢いに乗っている動画投稿サービスだけに、その衝撃は大きい。

 TikTokは直近でもいろいろとニュースをにぎわしている。例えば、新型コロナで学校が休校になっている日本で「#休校チャレンジ」というハッシュタグで動画をシェアする企画が盛り上がったと報じられている。また人気歌手のコブクロがライブ企画を配信して話題にもなっている。さらに最近、サービスを運営するバイトダンス(字節跳動)の日本法人が2月に日本経済団体連合会(経団連)に加盟したことが明らかになった。

 若者の間で人気が高まり、ビジネス的にも順風満帆に思えるTikTokが、冒頭のような文書を作り、少なくとも2019年末までそのルールを適応していたのは意外だと思うかもしれない。だが実は、それ以外にも、いろいろと物議を醸しているメディアなのはあまり知られていない。一体、何が問題視されているのか。

●破竹の勢いだが……

 ITmedia ビジネスオンラインの本連載でも以前、TikTokが2019年2月に、米国の児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)に違反して、米連邦取引委員会(FTC)に告発されたことを書いた。バイトダンスが、保護者の同意なく13歳以下の子どもから個人情報を収集していたと指摘され、570万ドルを罰金として支払うことに合意したのである。

 破竹の勢いで人気が高まっていたTikTokがこういう形で告発されたこのニュースは、当時も世界的に大きく報じられた。それが今回、冒頭のようによからぬ話で再びニュースをにぎわすことになったのである。

 しかも冒頭のインターセプトの記事では、「醜い人」を排除するルールを決めたという話だけで終わらなかった。同記事によれば「インターセプトが入手した2つ目の内部書類には、同社の動画ライブ配信機能から、徹底してコンテンツを排除するようルールが明記されている。その排除ガイドラインに指定されているのは、『天安門』や『法輪功』といった中国政府が普段から恐れる言葉だけにとどまらない」という。

 つまり、バイトダンスの担当者が、中国の国家安全保障や国家の名誉、国家の利害を危険にさらすと判断すれば、そのユーザーは永久追放になるという。さらに中国軍や警察の活動などについて投稿したら1〜3日間の利用禁止というペナルティーが課される。

 ちなみに同社の広報担当者はインターセプトに、これらのルールの「ほとんど」は「もう使われていないか、初めから使われていないようだ」と曖昧な回答をしている。

●スパイ工作を行う恐れ

 TikTokのサービスは、若者を中心にいいイメージが広まっているために、この話を驚きをもって受け止めた人は多いかもしれない。ところが、同社はこれまでもいろいろな問題が取り沙汰されている。

 例えばインドやインドネシアなどは、19年までに一時的にTikTokの国内での使用を禁止にしている。その理由は、同サービスにポルノが拡散されており、子どもなどの目に触れる可能性があるというものだった。インドではその問題が裁判にまで発展し、一時的にグーグルやアップルがインドでアプリをダウンロードできなくした。バイトダンス側はその裁判を受けて、600万件の動画を削除して、なんとか使用禁止を解除させたという経緯がある。

 また19年11月には米カリフォルニア州の女子学生が、また12月には米イリノイ州の家族が、個人情報が同意なく搾取されているとしてバイトダンスを訴えている。

 同社は、すべての米国人ユーザーのデータは米国内のサーバに保存され、シンガポールにそのバックアップサーバがあると主張している。中国にはサーバはないので、投稿された動画や個人情報などは中国政府にわたらないとも弁解している。だが米国内の裁判では、ユーザーが動画を撮影し、アップするまでの間に、データ(動画や位置情報、年齢、性別、メッセージ、電話番号、電話帳の情報、検索履歴、スマホのシリアルナンバー、IPアドレス)が送られてしまうと指摘している。カリフォルニア州の裁判では、データが中国にある大手IT企業テンセントとアリババの、それぞれサーバに送られていたという。

 こうした疑惑から、米国で大人気のSNS企業Reddit(レディット)のスティーブ・ホフマンCEOは2月に、TikTokについて「みんなに積極的にTikTokのようなスパイウェアはインストールしないほうがいいと忠告している」と述べている。

 また米国では、政府や軍からも目の敵にされている。19年10月、大物の米連邦議会議員らが超党派で、TikTokが国家の安全保障への脅威であるとして同サービスへの調査を要求。そして12月には、国防総省が「TikTokは利用することで安全保障のリスクがある」と指摘し、米軍も兵士によるサービス使用を禁止にした。国防総省は、兵士に個人情報が漏れないように、アプリをアンインストールするよう指示している。

 その理由は、中国政府がTikTokを使って、スパイ工作を行う恐れがあるからだという。

●記事が事実であれば

 近年、米政府から敵視される中国企業は多い。中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)が米市場から締め出されたのは大きなニュースになったが、それ以外でも監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)や浙江大華技術(ダーファ)などは、米政府が使用禁止に指定するブラックリストに加えられている。

 こうした疑惑の一方で、TikTokを楽しんでいるユーザーが多いだけでなく、広告も配信することができるので、興味を示す会社も多いかもしれない。また米国などから噴出する批判が事実かもしれない半面、米中の対立に巻きこまれているだけなのかもしれないと見る向きもあるだろう。

 それでも、インターセプトの記事が事実だとすれば、TikTokはとんでもない人権侵害を行なっていることになる。また米国の訴訟で浮上している疑惑も真実ならばプライバシーも侵害していることになるし、中国政府のスパイ活動にも加担していることになる。

 とにかく、TikTokは人気ゆえに注目度も高い。引き続き、その動向も注視しておきたい。

(山田敏弘)