3月24日、トヨタ自動車と日本電信電話(NTT)は、相互に2000億円の株式を取得する提携を発表した。

 トヨタは、NTTが実施する第三者割当による自己株式の処分により、NTTの普通株式8077万5400株(発行済株式総数に対する所有割合約2.07%、総額約2000億円)を取得、NTTは、トヨタ自動車が実施する第三者割当による自己株式の処分により、トヨタ自動車の普通株式2973万0900株(発行済株式総数に対する所有割合約0.90%、総額約2000億円)を取得する。

 という概要なのだが、まず規模が途方もない。トヨタアライアンスが成立した際、マツダ、スバルとのそれぞれの提携は500億円規模であったが、その実に4倍。トヨタの年間営業利益が約2兆5000億円なので営業利益の8%。約1兆円の年間研究開発費の20%に相当する。

●未来を生み出すために

 さてこの提携で何をするのか、そしてなぜここまで大規模なのかを説明しないと、解説にならないだろう。ちょっとクラクラするくらい大変だが、やってみる。

 まず、豊田章男社長の言葉を引用しよう。

 (今回の提携は)NTTとともに未来を創造するための投資だと我々は考えていまして、価値観を共有し社会の発展を目指すパートナーとして長期的かつ継続的な協業関係を構築する上には、一方的な出資ではなく、パートナーと対等出資することで、お互いに学び合い、競争力を高め合うというところに意義があると言うふうに思っております

 多分、ここでのキーワードは「社会の発展」だ。社会全体にはささいな困ったことがたくさんあって、それらが積み重なって諸々の問題を生み出している。

 先日友人の薬学博士と話した時に面白い話を聞いた。彼は筆者が書いたブロックチェーンの記事を読んで、実は医薬の世界でも情報の蓄積が途切れることが大きな問題になっているというのだ。例えば、医師が診察して、投薬の処方箋を書く。薬局でこれらを処方するところまでは情報のチェーンはつながっているのだが、そこから先が途切れてしまう。

 患者が本当にその薬を飲んでいるかどうかは自己申告に頼るしかなく、本当はタンスに仕舞い込んでいながら、「ちゃんと飲んでいる」と言われればそれを前提に次の処方箋が書かれることになる。

 医者は症状が緩和されないことを見て、薬の投与量を増やす。そうやってどんどん大量の薬が処方されて、使われないまま大量にタンスに死蔵され、各自治体は健康保険料の負担に苦しみ、健康保険の不足を税で補填(ほてん)しているため、結局増税につながっていく。

 だからこの薬にマイクロチップを入れて、胃酸と反応して発電し、情報を飛ばす技術が生み出された。これでいついくつ服用したか、ほかにどんな薬と一緒に服用したかが全て分かる。普通に考えてこのチップは人体に影響を与えないよう考慮されているのだろう。

 まだ研究レベルの話らしいが、こういう情報技術によって、人のモラル任せでは解決できない諸問題が解決できることが世の中にはおそらく無数にあって、だからこそ情報化技術は「社会の発展」に寄与できる目算が大きい。

●コネクティッドの未来都市 ウーブン・シティ

 例えばトヨタは今年のCESで、トヨタ自動車東日本 東富士工場の跡地に、街が丸ごとコネクティッドでつながる「Toyota Woven City」(トヨタ・ウーブン・シティ)を建設することを発表した。今回の記者会見の席上でも、これについて豊田社長は大変興味深い発言をしている。

【訂正:12:10 ウーブン・シティ建設地の元所有企業が誤っておりました。お詫びし訂正いたします。】

 ウーブン・シティのひとつの特徴は「原単位」の考え方を導入したということだと思います。まずe-Paletteという自動運転車を作りました。通信がアナログの時代からデジタルに変わり、どんどんクルマに情報を入れていくのですが、クルマが全部インフラを背追い込んで、本当に安全な事故無しの生活ができるんだろうか? そしてそれが多くの人に移動の自由を与える、アフォーダブル(安価)なものになるのだろうかと考えると、ある程度インフラ側にやってもらうことも必要だなと(以下略)

 ここで出てくるウーブン・シティにおける原単位とは、道路インフラをクルマ専用、歩行者専用、人とモビリティの混在路、物流専用路にそれぞれ分けつつ、1単位のセットとして扱い、それを原単位としてブロックのように街を構築するという考え方だ。

 当然クルマとインフラの間では情報のやりとりが求められるが、それは1対1の情報のやり取りではない。多対多で大量のデータがやり取りされるだろうし、そのデータはおそらくブロックチェーンで管理される時系列な情報となるだろう。その膨大な情報を管理分析するのは当然AIの仕事になる。

 で、それで一体何が起きるのか? それはもうおそらく我々の想像の及ばないレベルでいろんなことが変わるだろう。先程の薬の話と同じで、リアルタイムで取得される情報からは今までコントロールできなかった膨大な事象が解決されていくに違いない。

 想像の及ぶ範囲だけいくつか書き出してみよう。クルマの流れと信号のシンクロひとつ取っても、もっと能動的にコントロールできる。

 現状は、誰もいない田舎道の信号でも赤なら停止していなくてはならないが、街全体が無数のセンサーを持ち、移動体に関する情報を総合的に判断してコントロールできれば、ほかの交通因子と干渉しないタイミングであるにもかかわらずわざわざクルマを止める必要はない。信号を青にして進めばいい。交差する道路の交通量に応じて、どちらをどのくらい流すかもリアルタイムデータに基づいて最適化できる。そうやってクルマの発進停止が減れば、エネルギー的にも環境的にもメリットがある。交通違反も交通事故もクルマが通信を通じて情報と知性を持てば起こらなくなるか激減するだろう。

 さらにいえば、スマホのスケジュール管理と連動して、いつ誰がどこへ移動したいかも街単位で計画することができるだろう。例えばピークの時間にカーシェアのクルマを必要な場所に移動させて用意したり、それで足りなければ個人のスマホに別の交通手段をサジェストしたりすることだってできる。何なら手段や時間を変えることで、オフピークに協力する人には料金的なインセンティブを付与することも簡単だ。

 そういう無数の未来の可能性を実験するための都市がウーブン・シティであり、これだけの規模の実験フィールドはおそらく日本にこれひとつになるだろう。

●モビリティカンパニー

 トヨタはすでにカローラやクラウンでDCM(車載通信機)を標準搭載し、フロントカメラ情報を含む多くの情報をリアルタイムでクラウドへ送るシステムを導入している。つまりクルマは路上を走り回るセンサーであり、街にとっては、ある意味移動式の情報集取装置だとも考えられる。プライバシーのガイドラインをしっかり設定すれば、セキュリティや弱者保護に用いる監視カメラの役割も十分にこなせるだろう。

 そう考えると、情報インフラ企業としてのNTTと、人の移動インフラ企業としてのトヨタが、ウーブン・シティを核に据えて協業することは、ある意味当たり前の話にみえてくる。

 豊田社長は、2018年のCESで「トヨタはモビリティカンパニーへと変わる」と宣言した。それを今トヨタは別の言葉で再定義しようとしている。「クルマは社会システムの一部になる」だ。つまりクルマが社会とつながることによって、トヨタはモビリティカンパニーへの脱皮を遂げるということであり、とすれば、日本社会全体の情報流通を担うNTTとタッグを組むことは当然の流れということになる。

 さてこうした取り組みに際して、トヨタはクルマづくりそのものも変えていくという。モデルチェンジ概念を変えるのだ。具体的には「ソフトウェア・ファーストなクルマづくり」を目指すという。それによってクルマの買い換えタイミングも変わる。フルモデルチェンジでは、クルマのハードウェアを大幅に変更する。当然ユーザーがこのアップデートの恩恵にあずかるにはクルマを買い換えるしかない。しかしマイナーチェンジは、ハードを変えることなく、ソフトウェアアップデートで、新機能を選ぶことができる方向性だ。

 テスラがすでに行っているファームウェアアップデートと同じ考え方だ。しかしながら現状の日本では、国交省の行政指導で、型式認定取得時になかった機能を追加することはできないことになっている。テスラは行政指導は法律ではないとして無視している。それで済むならばルールを破った者勝ちだ。行政の態度は、「行政指導はルールなのかルールじゃないのか」について、日本のメーカーと外資に対してダブルスタンダードになっており、その結果、ルールを守り続けるがゆえに、ユーザーから「日本のメーカーは顧客優先では無い」と指弾される原因になっている。

 トヨタは国に働きかけてこのルールを変えるつもりなのだろう。いまや役所は、日本企業が世界で戦う際の足かせになりたくない気持ちが強いので、正しいアプローチを取る限り扉は開かれる目算が高い。

 そうやって変化していくことは、トヨタがこれまでの伝統を捨てること、過去を否定することなのかというとそうではない。ハードウェアとしてのトヨタ車がなぜ支持されているかについて、トヨタは3つのアドバンテージがあると自己評価している。

1. Durability(耐久性)

2. Parts Availability(交換部品の入手しやすさ)

3. Repairability(修理のしやすさ)

 こうしたアドバンテージをまとめて、積み上げてきたハードの強みとした上で、ソフトウェア・ファーストを上位概念として重ねる。これによって、クルマづくりを次のフェーズに変革していくと説明している。

●協調と競争

 もちろんこうした変革はトヨタだけが前進すればいいというものではない。日本全体のことを考えないと、世界とは戦えない。トヨタは自動車産業を通信産業とつなげるハブの役割を担おうとしている。

 再び豊田社長の発言だ。

 トヨタ一社では、NTTさんにこうして動いていただけなかったんではないかと思っています。多分私のバックに、もっといいクルマ作りをしようという連合軍が見えているんじゃないのかな(笑)

 通信の世界にはNTTとKDDIという会社がありまして、FOMAとCDMAの2つの形式が競争をしてきたわけです。そうした競争をしてきた中で「利用料」はどんどんアフォーダブルなものになってきたわけです。これから5Gの時代を迎え、クルマも自動運転が実装される時を迎えるとなると、データ処理の部分に協調部分と、競争部分が出てくるんではないのかなと思います。

 そういう意味では未来を創造するプロジェクトをNTTさんとやらせていただくことにより、今後、通信の世界もクルマの世界もオープンにいろいろな方々が入ってくるでしょう。(中略)「この指止まれ」ということをオープンにやることによって、同じ志や価値観を持った方々が集まって来られた先に、人中心のみんなが幸せになる未来が来るのかなと考えております。

(池田 直渡)