「人材サービス」が有する“機能”にフォーカスしたとき、どんな存在意義があり、何が課題なのか。求職者側から見たニーズの違いから特徴的なキーワードを挙げて考察します。なお、考察にあたっては、多岐に及ぶ人材サービスの中でも民間事業者が提供する労働力需給調整機能に絞って取り上げ、カッコ書きで「人材サービス」と表記します。

 今回、取り上げるキーワードは「人材派遣(働く側から見ると労働者派遣)」です。おそらく「人材サービス」の中で最も誤解が多く、また最も課題も多いサービスだと思います。

 総務省が発表している労働力調査によると、2019年に非正規と呼ばれる雇用形態だった人の数は平均して「2165万人」でした。非正規のデータを巡っては、「度重なる規制緩和によって派遣社員が増えたので非正規雇用も増えた」と指摘する声があります。また、「派遣社員は正社員になれない人が致し方なく選ぶ不遇な働き方だ」というイメージも定着しています。さらに、15年に労働者派遣法の改正が行われた際には、「規制緩和によって正社員はゼロになり、働く人は派遣社員ばかりになる」といわれました。

 しかし、これらは全て誤った情報です。

●データから見る派遣の「真実」

 まず派遣社員の数ですが、先に挙げた19年の労働力調査では141万人です。確かに多くの人が派遣社員として働いていますが、非正規と呼ばれる雇用形態2165万人に占める割合は6.5%に過ぎません。

 つまり、非正規雇用で働く人のほとんどは、パートやアルバイトなど「派遣社員ではない人たち」なのです。派遣社員も年々増えてはいますが、「圧倒的多数」というほどの規模ではありません。

 また、派遣社員として働く事情は人それぞれです。

 先の労働力調査では、その雇用形態で働く理由も集計しています。19年データを見ると、派遣社員のうち、働く主な理由として回答が最も多いのは「正規の職員・従業員の仕事がないから」で30.8%。しかし、後の7割弱はそれ以外の理由です。

 詳しく見ると、「自分の都合のよい時間に働きたいから」(23.3%)、「家計の補助・学費等を得たいから」(11.3%)、「専門的な技能等をいかせるから」(8.3%)、「家事・育児・介護等と両立しやすいから」(7.5%)、「通勤時間が短いから」(4.5%)と続きます。少なくとも約半数の人は、さまざまな事情から「あえて」派遣という働き方を選んでいることが分かります。

●全雇用者のうち、派遣の割合はわずか

 そして、15年の派遣法改正によって正社員がゼロになるという主張については、5年たった今も全雇用者の約6割が正社員であることから、間違いであることは一目瞭然です。そもそも、雇用者全てが派遣社員になるというのは考えにくいことです。先ほど派遣社員は非正規と呼ばれる雇用形態の6.5%と説明しましたが、19年の全雇用者(役員含む。労働力調査基本集計の表記に準ず)である「6004万人」に占める割合で考えると2.3%まで比率は下がります。

 過去を振り返ってみても、派遣社員が全雇用者の3%を超えたことは一度もありません。その事実を知っていれば、被雇用者が全て派遣社員になる、というのは非現実的であることが分かります。しかしながら、人材派遣事業に携わったことのない方に、過去何十回も「派遣社員は全雇用者の何%くらいを占めていると思いますか?」と尋ねてみましたが、「3%未満」と回答した人は1人もいませんでした。ほとんどの人が20〜60%くらいと答え、最も多く返ってきた回答は「30%」でした。

 繰り返しになりますが、派遣社員という形態は、3%に満たない、比較的マイノリティーな働き方なのです。そんな派遣社員が、統計として労働力調査の項目に登場するのは1999年。労働者派遣法が施行され事業として正式に認められたのは、1986年までさかのぼります。現在のような「人材サービス」として人材派遣業が行われるようになったのは、さらに20年前の1966年、米国のマンパワーグループが日本に法人を設立したことに始まるといわれています。

●かつて派遣社員の賃金はアルバイトの2.5倍、正社員と比較してもやや高かった

 その後、日本国内からも多くの派遣事業者が誕生していきます。人材派遣業界黎明(れいめい)期の様子をつづった小冊子『派遣前夜』には、国が人材派遣の法整備に動き出した経緯が記されています。以下は、5人の大学教授からなる労働省(1978年当時)のワーキンググループが実態調査した際、当時業務請負業として事務処理サービス(人材派遣の前身)に従事していた職員の賃金に関して驚く一幕です。

話が賃金のことに及ぶとその支給額の高さに「ホー」と言う声が漏れたのを覚えている。一般事務の賃金が、アルバイトの2.5倍であり、正社員雇用で働いている一般の事務員の給料と比較してもやや高いものであった。

(竹内義信『派遣前夜』 8ページより引用)

 当時、正社員と呼ばれる働き方より高い費用を払ってでも依頼するほど、ニーズがあったことが伺えます。また、派遣社員として働く動機の一つとして、「自分の能力を生かし、限られた者達だけが対応できる高度な仕事に就労する満足感もあったと思う」という記述もあります。

 必要なスキルを有した人材が、必要なときに必要な期間だけ働く。人材派遣とは、元来そういう働き方を求職者にも、企業にも提供するサービスなのです。

 初めて訪れる会社にサッとやってきて、時間内に仕事を終わらせてサッと帰っていく。4月から13年ぶりに続編が始まるドラマ「ハケンの品格」の主人公、大前春子さんは、あまりに能力がスペシャルではありますが、この派遣社員の特徴をよく表していると思います。

●「派遣」という働き方が広く浸透しない理由

 一方で、必要なときに必要な期間働く派遣社員は、1カ所に腰を落ち着けて長期安定的に働き続けることを前提にしてはいません。それは裏を返せば「不安定な働き方」だともいえます。また、派遣社員には有期雇用と無期雇用のケースがありますが、いずれにおいても契約が変わるたびに職場も変わる可能性があります。有期雇用の場合は、次の職場が見つかるまで収入が途絶えてしまうことになります。

 1カ所の職場に縛られない自由度がある一方で不安定でもある。それが派遣という働き方の特殊性を表す象徴的な要素の一つです。そして、派遣社員として働くことを選ぶ人が、全雇用者の3%に満たない理由の一つでもあるでしょう。

 また、派遣社員の賃金は、人材派遣業界黎明(れいめい)期に比べると相場が下がっている印象があり、働く側から見ると課題の一つです。20年4月施行の同一労働同一賃金関連法は、否定的な声も一部で上がっていますが、こうした賃金水準を向上させるきっかけとして期待されるでしょう。

 一方、利用する企業側から見ると、人材派遣は今でもかなり割高なサービスです。

 賃金相場が下がってきているとはいえ、パートやアルバイトと比較すると、派遣社員の賃金は高い水準にあります。さらにサービスを提供する派遣事業者のマージンを3割ほど上乗せするので、人材派遣を利用する企業に請求される派遣料金は、パートやアルバイトを採用するよりも基本的に割高になります。企業側からみた、派遣社員が全雇用者の3%未満にとどまっている理由の一つといえるでしょう。

●派遣「人材サービス」事業者が抱える課題

 全雇用者に占める比率が3%に満たないという数字は、社会における存在意義という観点からすると、派遣社員の影響力をとても小さなもののように感じさせます。しかし、かつて「派遣村」や「派遣切り」といった報道が日本中を駆け巡った際に、派遣社員は不遇な働き方の代表のように扱われ、社会に大きなインパクトを残しました。派遣事業の実態を知る人たちには、当時の報道は過分にヒステリックで偏った内容が多かったと認識されています。しかし、中には派遣にかかわる「人材サービス」を提供してきた事業者が真摯(しんし)に反省すべき指摘がいくつもありました。

 例えば、派遣切りと呼ばれた行為の中には、契約満了による雇い止めではなく派遣元の一方的な都合だけで契約期間を強引に中途解約したケースがありました。その上、残りの契約期間に見込んでいた賃金を保証せず、雇用期間中に利用できた住居まで突然取り上げるような仕打ちは、人道的に問題視されて当然です。当時設立された年越し派遣村の住民の実態としては、派遣社員として働いていた人は2割程度しかいなかったといわれます。しかし、その2割の人たちにとって、派遣村は“救い”となったはずです。

 そして「人材サービス」事業者が忘れてはならないのは、不本意型の派遣社員へのサービスです。今回データを紹介した労働力調査では、派遣社員として働く主な理由として「正規の職員・従業員の仕事がないから」を挙げた人が30.8%いました。少なくともこの人たちは、「不本意ながら派遣を選んでいる」という、不本意型派遣社員だと思います。

 正社員と呼ばれる働き方を希望している人に、派遣社員として長く働き続けることを求めるのは、自社の売上利益を高めたいと考える「人材サービス」事業者のエゴでしかありません。必要なのは、正社員になるためのアドバイスでありサポートです。本来の意向を無視することは、人材派遣というサービスの間違った利用方法を推奨する行為です。自社の売上や利益しか考えない事業者は、できる限り派遣社員として長く働かせよう、といった考え方に陥りがちです。そんな事業者が多いようであれば、人材派遣は、社会に必要とされる「人材サービス」として存在意義を示すことなどできません。

 中には残念なことに、存在意義どころか、社会に害悪を及ぼす存在でしかないスタンスの事業者もいます。かつて、データ装備費の名目で不当な費用をピンハネした事業者が問題になったことがありました。派遣社員が社会保険に加入すると事業者負担も発生するため、利益確保を狙って社会保険に加入させない工作をする事業者の存在も、いまだに耳にします。

●派遣社員の「規模拡大」ではなく、満足度の向上を

 人材派遣業界が本当の意味で社会から認められる存在になるためには、これら悪質な事業者を一掃しなければなりません。そして、不本意型派遣社員へのサービスの在り方を変える覚悟が必要です。派遣事業者の真の敵は、業界の中に潜んでいます。

 不本意型派遣社員の比率は、調査によってまちまちです。仮に「3割」だとしたら全雇用者のおよそ0.8%、半分だとしたら全雇用者の1.2%ほど存在することになります。比率で見ると小さいですが、141万人の3割だとしても40万人以上はいる計算になります。世界各国を見ても、派遣社員の比率はおおむね3%前後です。それは派遣というサービスの特殊性を考えればある意味自然なことであり、規模拡大ばかりを考えて全雇用者に占める派遣社員の比率を増やすことを目指すのは無意味です。

 本来目指すべきは、不本意型派遣社員をゼロにし、本意型の比率を100%にすることです。派遣以外にも多様な選択肢を提供し、社会の中に本意型の働き手を増やして行くことは、「人材サービス」を提供するあらゆる事業者が取り組むべき最重要課題だと考えます。

 かつて「ハケンの品格」が放映された13年前、日本はまだ、リーマンショックも東日本大震災も新型コロナウイルスも経験していませんでした。それら大きな苦難を経験しつつ、新たな時代を迎えている現在。働き方改革が進み、人々の価値観は多様化し、AIやロボットなどによる業務の自動化が促進される中で、「人材サービス」が“歩むべき道”とはどういうものなのでしょうか。次回はそんな観点から考察しつつ、当連載を総括したいと思います。

(川上敬太郎)