3月25日、NTTドコモが国内で5Gのサービスを開始した。5Gとは第5世代通信方式の略で、高速で大容量、そして低遅延という特徴を持ち、これまでになかったサービスが実現されるとしている。

 夢のように語られる5G。課題として指摘されるのは、エリア展開の遅さと料金面についてが多い。しかし、5Gを技術面から見た場合はどうか。NECの研究所で国際的な3G規格のコアメンバーを務め、その後九州大学教授、現在はメッシュネットワークを使ったネットワークプラットフォームを開発する、ピコセラの古川浩社長に聞いた。

●高周波数帯帯域を使い、帯域幅を広げる5G

 5Gの特徴の1つは、高速な通信速度だ。4Gの通信速度は約100M〜1Gbpsだが、5Gではこれが10倍以上の4Gbpsから20Gbps程度まで高速化されるといわれている。

 しかしなぜ高速化するのかを見ていくと、これがそう簡単な話ではないことが分かる。なぜ5Gは高速なのか。古川氏は、「高速化できる一番本質的な理由は、1キャリアあたりの帯域を取れるから」だと説明する。

 無線通信では電波を使ってデータを送る。このとき、使える電波の幅(帯域幅)が広ければ、それだけスピードは早くなる。

 4Gまでは、いわゆるプラチナバンドと呼ばれた700〜800MHz帯、そして3G開始の際に割り当てられた2GHz帯などが中心だ。これが、5Gでは新たにサブシックス(Sub6)と呼ばれる6GHz未満の帯域が新たに使われる。具体的には、3.6G〜4.6GHz帯あたりだ。さらに、ミリ波と呼ばれる27G〜30GHz帯も利用される予定だ。

 高周波数帯は、これまであまり使われてこなかったこともあり、広い周波数帯域を使いやすい。単純に見ても、700MHz帯の10%は70MHz幅でしかないが、7GHz帯の10%は700MHz幅となる。

 2GHz帯の4Gで通信各社に割り当てられている周波数幅は20MHz幅が基本だが、Sub6では100MHz/200MHz幅が、ミリ波では400MHz幅がそれぞれ割り当てられ、帯域幅が格段に大きくなることが分かる。

●どこでも10倍のスピードが出るわけではない

 しかし、Sub6やミリ波などの電波には物理的な課題もある。「電波が飛びにくくなる。周波数が高くなるほど電波は回り込みにくくなり、空気中の水蒸気などでの減衰も大きくなる」と古川氏は説明する。

 ソフトバンクは2012年前後、900MHz帯のプラチナバンドを獲得するための行動を繰り広げた。このとき盛んにアピールしたのは、2GHz帯よりも周波数の低い900MHz帯のほうが、「ビルの影でも回り込む」「室内にも電波が入りやすい」という点だ。これと同じことが5Gでも起こる。周波数が高くなるほど、電波は直進しやすく障害物の影響を受けるからだ。

 そのため、「スピードが出るエリアが制限されやすい。樹があって葉っぱがゆらゆらしているだけで、それがもろに受信に影響してくる」と古川氏は言う。特にミリ波は直進性が極めて高く、「4G(1.5GHz)と5G(28GHz)の回り込み電波の減衰量を試算してみると、屋内環境において、5Gの電波は4Gの電波に比べて10倍も大きな電波減衰を受けてしまう。電波はせいぜい届いて窓際くらい。基地局が目視できない状況では厳しい」と古川氏は言う。

 ミリ波として割り当てられる帯域は広いが、これを有効活用するには基地局をたくさん設置して基地局が見えるようにする必要がある。いわゆるマイクロセルでエリアをカバーする形だ。しかし、これにはたくさんの基地局が必要になることもあり、ミリ波を中心に5Gエリアを構築しようという通信キャリアはあまりない。

●相反する高速化と大容量

 もう一つの5Gの特徴が大容量化(キャパシティの向上)だ。1つの基地局がどのくらいの通信処理能力を持つかというものだと考えると分かりやすい。基地局の後ろにあるコアネットワークの制約もあるが、最大のボトルネックはやはり無線部分だ。

 無線通信では、同じ電波を多くのユーザーで利用するため、理論的には一定のキャパシティを複数のユーザーで分け合うことになる。つまり、多くのユーザーが同時に通信を行ったら、一人あたりのスピードが落ちるわけだ。「5Gで、どこでも10倍のスピードになるかというと、キャパシティも10倍になっていないと、だれもがLTE(4G)の10倍の速度が出るわけではない」と古川氏は説明する。

 5Gサービスが開始されたばかりのタイミングでは、ユーザー数が少ないため、見通しの良い場所であれば理論値に近い高速な通信が可能だろう。しかし、ユーザーが増えるにつれて一人あたりの速度は遅くなる。4Gでもこれが起こり、結果的に月間通信量を規制する、いわゆる「ギガ規制」を行うことになった。

 5Gで大容量化が進めば、「ギガ規制が減るといったメリットはあるかもしれない」(古川氏)といったところが実情だ。

●低遅延は、インターネットを使うなら効果は薄い

 さらに5Gでは低遅延という特徴がある。通信を行う際のレスポンスの早さを示す。一般に4Gでは10ミリ秒の遅延があったところ、5Gでは10分の1の1ミリ秒になるといわれている。

 よく言われる活用例が、遠隔医療や自動運転だ。わずかな遅れが手術ミスにつながったり、自動車でいえば通信が10ミリ秒遅延している間に、時速60キロで走る自動車は15センチ進んでしまったりする。これらにリアルタイムで対応できるというものだ。

 ただし特定の用途以外でメリットが出るかどうかは疑問だ。「インターネット回線を経由すると、遅延はさらに大きくなるし揺らぐ。遅延の保証もできない。あまり関係ないのでは」と古川氏。実際、ある環境でインターネットの遅延(レイテンシ)を計測してみたところ、4G環境で41〜200ミリ秒、光回線でも5〜18ミリ秒の遅延があった。無線部分だけの遅延が減ってもネットワーク全体としては遅延は大きくなる。

 これが本当に効果を発揮するには、現在4G(LTE)のコアネットワークを利用しているNSA(ノンスタンドアローン)方式から、5Gのコアネットワークを使う5G SA(スタンドアローン)へ切り替わるのを待つ必要があるだろう。さらに、基地局上にサーバを設置し、インターネットを通らずにレスポンスを返せるエッジコンピューティングが実現すると、意味を持ってくる。

 現時点では、まさに特定分野での利用にメリットがある。「制御の分野では、早いレスポンスが必要だ。工場の中などで場所を決めて排他的な周波数を割り当てて使うローカル5Gの用途では有用だろう」(古川氏)

●現状、3Gから4Gになったときのような感動は、あまり得られない

 通信技術の進歩で見ると、アナログだった第1世代(1G)からデジタル化された2Gのインパクトは大きかった。いわゆる自動車電話から、100グラムを切るまで端末が小型化したのもこのころだ。

 さらに、2Gの9.6kbpsから一気に2Mbpsまで速度が上がった3Gも、利用用途に大きな変化をもたらした。携帯電話で初めてWebサイトを実用的な速度で閲覧できるようになり、写真の送付も当然になった。IMT2000というキーワードで世界標準化され、海外に行っても同じ携帯電話で通信できるようになったのも3Gの大きなメリットだ。

 4Gでは、3GのCDMAに対してより周波数を効率的に利用できるOFDMという通信方式を採用した。「4Gは、OFDMや高度な符号化方式などの適用により、理論的な通信速度の限界であるシャノン限界に近いところまでいった」と、古川氏は言う。

 5Gでは、これまでのような根本的な通信方式の変化はない。通信方式は4Gと同じOFDMのままだ。ここに複数のアンテナを同時に使うMIMOの強化や、電波に指向性をもたせるビームフォーミング、複数ユーザーの信号を重ね合わせて送るNOMAなどの技術、4Gと5Gを組み合わせて使う技術などの利用が想定されている。しかし、最大の違いは、やはりサブシックス、ミリ波といった新しい周波数を利用できるところにある。

 現時点の国内5Gは、サブシックス帯域に限られる。「5Gが広くあまねく使えるのにはかなり時間がかかる。サブシックスは普及が早いと思うが、周波数が低いとそれほどスピードが出ない。これでは4Gと何が違うのか。本当の意味で違ってくるのは、ミリ波帯域が併用になってきたとき。しかし、1〜2年どころじゃなく、もっとかかるのではないか。現状、3Gから4Gになったときのような感動は、あまり得られないだろう」(古川氏)

 スマホなどの機器では5Gの恩恵を感じにくい一方で、古川氏が期待を寄せるのがIoTへの5G搭載だ。「キラーアプリが何かという議論がこれから続いていく。IoTが本当のキラーではないか。スマホではなく、モノが本当につながってるときに意味が出てくるはずだ」

 4Gがスタートしたとき、何が本当の4Gなのか? という議論が盛り上がった。技術的にはあまり変わらなくても、マーケティング的ニーズから4Gを名乗りたい通信キャリアがある一方で、あくまで3Gの拡張だという意味で、3.5Gや3.9Gと名乗る場合もあった。そもそも現在4GとされるLTEも、ロング・ターム・エボリューションの略で、もともとは3Gの発展型という位置づけだった。

 新しい周波数帯域を使うという意味なら、5Gの定義とメリットは明確だ。しかし、4Gの周波数帯を使って5Gサービスを行おうとしている通信キャリアもある。5Gの限界とトレードオフについては認識しておきたい。