バックオフィス業務を支える便利な道具に、SaaS(サース)がある。freeeやMoneyForwardクラウドやSmartHR、楽楽精算、AI Travelなどなど、名前くらいは聞いたことがあるかもしれない。

 あなたの会社でも1つや2つは(知らぬ間に)導入されているだろう。便利なソフトが導入されて仕事が効率化された、あるいは面倒なソフトが導入されて困った、といった体験をしている人もいるだろう。

 2018年に、日経新聞が「SaaS元年」と報じたように、ビジネスの現場でのSaaSの活用事例は増えている。営業やマーケティングの分野が先行して導入が進んだが、ここにきてバックオフィスにもSaaSの活用は広がっている。

 SaaSを導入することによって、経理や人事などのバックオフィスはもちろん、一般の社員にはどのような影響があるのか。またそれによって企業経営はどのように変わるのか? この連載を通じて考えてみたい。

●インストール不要なSaaS

 SaaSとは「Software as a Service」の頭文字で、ソフトウェアをインストールするのではなく、ネットワーク経由で利用する形態を指す。「クラウド◯◯」と言われるサービスのほとんどがこのSaaSにあたり、基本的にはブラウザ上でログインすることでサービスを利用できるものだ。

 2010年代から特に、ビジネス向けのソフトウェアで、インストール型からSaaS型への移行が進んだ。一昔前のビジネス向けのソフトウェアは、PCに1台ずつインストールしてセットアップする必要があったり、自社専用のサーバを用意して構築・運用する必要があったりしたが、これらがSaaSになることで、ブラウザ上でログインすれば、いつでもどこでもソフトウェアを使うことができるようになったわけだ。

 自社独自で開発すれば数千万円かかるようなシステムを、多くの企業に使ってもらうことによって、リーズナブルな利用料で使うことができるのもSaaSのメリットだ。安く提供できる理由は、提供される機能を各企業に合わせずに画一的にしているからだ。オーダーメイドの商品と、大量生産されたものでは単価がまったく異なることを考えてもらえれば理解できるだろう。

●業務フローが根本的に変わる

 メリットが多いように思われるSaaSだが、1つだけデメリットがあるとすれば、「開発側の想定する運用に合わせないといけない」ことだ。自社の運用に合わせて自由にカスタマイズ開発ができたインストール型と違い、SaaSはその業務におけるベストプラクティスを想定して機能が設計されている。ベストプラクティスとは「最も効率的な方法」を意味するビジネス用語だが、SaaS活用においてはこの考え方が非常に重要になる。

 SaaSを導入するということは、つまり自社の運用スタイルを変えなければならないということでもある。これまで築き上げてきたやり方を大きく変えることを歓迎する人は少ないだろうが、SaaS導入による効率化を実現したいのであれば、まずは「自社のこれまでのやり方が絶対に正しい」という思い込みを捨てることが第一歩である。SaaS導入を機に自社の運用をベストプラクティスにアップデートできると思えばいいのだ。

 これまでの会計ソフトや給与計算ソフトなどは、高度な知識を備えた専門家が使う前提で開発されていた。さらにアナログな処理(紙を見ながら入力する、紙を出力して郵送するなど)を念頭に作られている。このアナログな処理がいたるところに存在するため、わが国の生産性は先進国の中でもダントツで低いままだ。バックオフィス系のSaaSはアナログな処理を排除しつつ、業務フローを最適化することを意図して作られている。

 売上の処理を例に、従来のやり方とSaaS型の会計ソフト「freee」を使ったやり方を比較してみよう。

 まず、従来のやり方では、請求書が発行され、それらを管理するための売上管理表が作られる。それを会計ソフトに仕訳として登録することで、売上が認識される。そして後日、銀行の明細データを会計ソフトに入力して消し込み処理を行い、入金結果を売上管理表に反映する。ここで、未入金のものがあれば営業担当者等に連携して、取引先に連絡をしてもらう。

 一連の処理であるため、経理担当者もそこまで複雑だとは思っていないはずだが、こうやって整理してみると請求書、Excelの管理表、会計ソフトと3つのツールにまたがって、5回もの入力が発生することが分かる。

 次にfreeeを使った処理を見てみよう。請求書をfreee上で作成し、発行すると自動で売上管理表が作成され、売上の仕訳も登録される。後日、銀行の明細データを取得し、消し込み処理を行うと、管理表の入金結果も更新される。営業担当者にもfreee上で入金結果を確認してもらう。使用するのはfreeeひとつだけ、入力も請求書を発行する最初の1回のみである。どちらがスマートな処理であるかは比べるまでもない。

 従来のやり方が間違っているわけではないが、3つのツールにわたって、都度入力が必要になるため、当然ミスも起こりやすく、処理が完了するまでの時間もかかる。会計ソフトは経理担当者しか使えないため、Excelなどで管理表を作って共有する必要も出てくる。二度手間三度手間が生じてしまうのである。

●求められるスキルが変わる

 ある営業ツールが、従来の営業を「オールド営業」と揶揄(やゆ)したCMを流しているが、SaaSを活用した効率的なバックオフィスが増えてくれば、作業を黙々とこなすだけの従来のバックオフィスは「オールドバックオフィス」と呼ばれるようになるかもしれない。SaaSによる効率化や自動化で、バックオフィスの担当者が「作業」する必要性が薄れていくようになることは間違いない。

 そうなると、バックオフィス人材に求められるスキルも大きく変わる。これまでは、黙々と正確に作業ができる人が向いていると考えられてきた。これからは、経理や労務などに関する知識や専門性に加えて、SaaSを活用して効率的な業務フローを構築するITリテラシーや業務構築能力が必要不可欠になってくる。

 決まったルールに従って正確に処理することに関しては、人間よりもシステムの方が得意だ。バックオフィスの担当者は、全体の処理手順を整えたり、処理されたデータを活用して経営戦略を支援したりといった業務に注力できるようになる。

 システムに仕事が奪われるのではなく、システムによって仕事の仕方が変わる、というのが正しい理解だろう。日本の労働人口がこれから減少していくことが避けられない以上、バックオフィスも従来と同じやり方をしていたのでは当然に破綻する。SaaSによって中小企業でも効率的なバックオフィスが構築できるようになり、オールドバックオフィスで業務を行っている企業との生産性は数倍から数十倍も開いてしまう。

●SaaSで本当に効率を上げるには?

 中小企業にとっては、月額数千円から数万円の費用で導入できるSaaSは、非常に心強い存在だ。これらのソフトは地味に見えて会社を支える重要な土台となる。ここを理解することはビジネスを理解することにつながる。

 SaaSを導入して効率化された企業もあれば、逆にうまく活用できずに生産性が下がってしまったという企業もある。その違いはどこにあるのか、どうすればうまくのか。次回からはSaaSによる効率化に成功した企業、失敗した企業のケースを具体的に解説していく。

(武内俊介 株式会社リベロ・コンサルティング代表取締役、税理士

 企画協力 シェアーズカフェ・オンライン)