「若い社員ほど、Web会議に顔を出したくないと言ってきている。困ってます」と電話で相談してきたのは、筆者がコンサルティングしている中堅企業の営業部長だ。新型コロナウイルスの影響で、同社は従業員の大半が在宅勤務となった。リアルな会議ができなくなり、ちまたで普及している「Web会議」を取り入れた形だ。

 最初は、「便利だね」「リアルよりオンラインのほうがいい」という意見が多く、大半がポジティブに受け止めていた。にもかかわらず、在宅勤務を導入して1週間が経過したころから、少しずつ不満が出てきたという。

 特に多いのが、冒頭の「顔を出したくない」というものだ。在宅勤務で普段着だからとか、化粧をするのがおっくうだからとか、「ホンネ」を口にする従業員もいたようだが、「声」だけの参加で何が悪いのか、と論破を試みてくる部下もいるそうだ。

 確かに、なぜ会議に「顔」を出さなくてはならないのか。リアルな会議ならともかく、せっかくWeb上で実施するのだから、「声」だけで参加してもいいではないか。そう指摘されたら返答に困る人も多いだろう。これに対し「会議なんだから、そりゃあ、顔は出さなくちゃいけないだろう。そういうもんだ。昔から決まってるんだから、文句言うな」といった回答をしても、誰も納得しない。

●会議以外でも「顔出し」

 「そういえば、社長は人を集めたがりますね」

 こう言うのは、前出の営業部長だ。「それはメールで伝えればいいでしょ、ということでも『会って話さないと伝わらない』と言って聞きません」と続ける。

 このような社長の感覚は、まったく珍しいものではない。新型コロナウイルスの影響で直接会ってメッセージを伝えることもできなくなった。そこで、せめてもと動画を撮影し、ビデオメッセージとして社員に激励を送りたがる経営者もいる。伝えたいことがあれば、なぜそれを文章にし、メールなどに添付して送らないのか。そう思う人もいるだろうが、それでは熱意が伝わらないと、多くの経営者は考える。

●電話でもチャットでもなく、「顔」を出す必要とは

 私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。現場支援のための会議は日常茶飯事。そして、緊急事態宣言が発令される前から、クライアント企業とは積極的にWeb会議をしている。地方企業の支援をすることも多いからだ。

 このような経験から、まず結論を書く。Web会議に出席したら、何としても「顔」は出さなくてはならない。言語的データだけ交換して会議できればよいという話であれば、電話でもいいし、チャットでも構わない。そう思いがちだが、「顔出し」は必要なのだ。

 営業活動を考えてみよう。お客さまに「顔」を覚えてもらうことは大事だろう。テレビCMで考えてみる。「タレントCM起用社数ランキング」のようなものをチェックすれば、上位に「顔」が売れている有名人がずらりと並ぶはずだ。もし商品の魅力を伝えるのに言語的データだけでよいなら、そのような有名人の「顔」が出てこなくていいはずだ。つまり、「声」だけの出演でもよい。しかし、実際はそうなっていない。

●「エライ人」が顔出しを好む理由とは?

 ここで、人間の優先的に使う感覚――「優位感覚」について少しだけ触れよう。人間は、五感を使って外部と接する。ざっくりいうと、そのときに自分がどの感覚を多く使う傾向にあるか、を示すのが優位感覚だ。

 「視覚(Visual)」「聴覚(Auditory)」「体感覚(Kinesthetic)」の3つがあり、自分の優位感覚によって、物事への接し方も変わってくる。例えば視覚優位な人であれば、物事を映像で記憶することが多い。「体感覚優位」の人であれば、体を動かすことを通して記憶しやすい。

 経営者をはじめ「権威者」の多くが「視覚優位」といわれている。常に会社の「ビジョン」として、未来にあるべき姿をイメージして経営している社長や経営陣、幹部は「視覚優位」になりやすいのは当然かもしれない。

 視覚優位だからこそ、音声だけでなく、顔も見ながら会議をしたいと考える。また、統制範囲の原則(スパンオブコントロール)*の考え方からすれば、20人も30人も会議に呼ぶことで統制がきかなくなるにもかかわらず、「視覚的に威厳を誇示したい」という理由などから、上位役職者ほど人を集めたがる傾向にあるのだ。

*統制範囲の原則(スパンオブコントロール)とは、1人の管理者が管理できる部下の人数には限界があり、この人数を超えると管理効率が低下するという原則を指す

 役職上位者の多くが「顔」を見たがる理由は以上のような理由からだ。だから、このような人たちの「優位感覚」へ調子を合わせるために、Web会議は「顔出し」でしたほうがいいのは間違いない。

●「視覚優位」でなくても「顔」は重要

 とはいえ、上司が同席しない、同僚間の打ち合わせなどであっても「顔」を見せ合って会議をする方がいい。人間の脳は、「顔」に反応するようになっているからだ。

 赤ん坊のころから、人間というのは、「顔」もしくは「顔のようなもの」には敏感だ。例えば、クマのぬいぐるみで遊んでいた赤ん坊がいたとしよう。そのクマのぬいぐるみから、「顔」を構成する目や鼻、口を取り除いたらどうなるだろうか。変わらず、遊ぶだろうか。ぬいぐるみの手や足がとれたとしても赤ちゃんは遊ぶだろうが、「顔と認識できるもの」がとれてしまうと反応が鈍くなるはずだ。

 また、愛する家族になかなか会えない人は、「一目会いたい」と願うものだ。見られるのが手や足でいいかというと、当然そうではない。声だけ、あるいは体の一部に触れていればいいか、というとそうでもない。やはり誰しも「顔」が見たいものだ。

 「顔」を合わせていると相手に愛着を覚えたり、好感を持ったりする。「視覚優位」の人でなくとも、そのような感覚を覚えることは多々あるはずだ。「顔」には何か特殊な力がある。組織運営に相互信頼は不可欠。そう考えたら「会議さえできれば、顔なんか出さなくていい」とはいえないはずだ。

(横山信弘)