ソフトバンクグループの業績悪化が止まらない。先週30日には2020年3月期の通期予想を1500億円下方修正し、9000億円の最終赤字とした。

 グループ内では、携帯事業やZホールディングスなどの事業が、合計で9000億円程度の黒字見通しとなる一方で、この2倍の水準である1.8兆円もの損失を計上したのが「ソフトバンクビジョンファンド(SVF)」だ。

 SVFを巡っては、これまでに表面化してきた米ウィー・カンパニーや米ウーバー・テクノロジーズといった投資先の企業価値下落問題に加え、新型コロナによる全体市況の後退が追い討ちをかける動きになりそうだ。一部で囁(ささや)かれているように、今回の赤字はソフトバンクの経営危機を本当に示唆しているのだろうか。まずは、これまでのソフトバンクの投資戦略をおさらいしたい。

●“借金“で巨大化したソフトバンク

 ソフトバンクが巨額の企業買収や投資を行う場合の癖といえば、「デットファイナンスによる資金調達を好む」点にあるだろう。デットファイナンスとは、借入金によって資金を調達する方式である。ソフトバンクは2000年代初頭から、ボーダフォンや米スプリントなどの買収案件でも、頻繁にデットファイナンスを活用してきた。

 同社は、ボーダフォンの買収額1.7兆円のうちおよそ70%、スプリントでは買収額1.6兆のうち、およそ75%となる1.2兆円をそれぞれ有利子負債で調達した。16年9月にはプロセッサのライセンスビジネスを展開するArm Holdingsを買収額3.3兆円で買収。このうち、約3割となる1兆円を有利子負債でまかなっている。

 ソフトバンクは、大型の買収時には多額の有利子負債を抱え、その度に「博打だ」などと批判されてきた。しかし、蓋を開けてみれば経営が傾くどころか買収を追うごとにグループは巨大化していった。

 現在、ソフトバンクグループは、2020年3月期第3四半期時点で31兆円程度の株式資産を保有しているが、グループ連結では19兆円程度が有利子負債となっている。有利子負債に対する支払利息は今期の累計で4566億円と決して少なくない金額となっており、携帯事業などにおける収益の半分程度が利息の返済に賄われているというような構図になっている。

●ソフトバンクがそれでも借金するワケ

 それでは、なぜソフトバンクは年間数千億円にもなる利息を支払いながら、株式ではなく有利子負債によって買収や投資を進めるのだろうか。それはデットファイナンスの方がお金を貸す投資家にとっても、ソフトバンク自身にとっても都合のよい資金融通の方法であると考えられるからだ。

 まず、ソフトバンクへお金を貸す投資家のメリットを考えてみよう。彼らにとってデットファイナンスを用いるメリットは、特に大規模の資金を運用したいファンドや金融機関が、比較的低リスクで資産運用できる点が大きいだろう。借り手であるソフトバンクが仮に倒産した場合でも、31兆円程度の保有株式をはじめとした同社の資産から優先的に弁済を受けることができるため、現時点ではエクイティ(株式)による出資と比較して資金を失うリスクは低い。

 次に、ソフトバンクが好都合と考える要因を考えてみよう。同社がデットファイナンスの方が好ましいと考えうる要因としては3点考えられる。

 1つは、自社の支配力を維持したまま事業を継続できることだ。エクイティファイナンスについて、株式交換による資金の調達では、自社内に複数の影響力ある株主が誕生し、経営の意思決定スピードが遅くなるリスクがある。

 また、増資によるエクイティファイナンスとの比較で考えても、デットによる資金調達の方がコスト面で安上がりになる。なぜなら、エクイティ投資家は弁済などの面でデットの投資家より高いリスクを取っている。エクイティの投資家としては、最低でもデットの投資家がもらい受ける利息より高いリターンがなければ投資妙味がない。その結果、デットの投資家に支払う利息よりも株主還元の方が高コストになってしまう。

 デットによる資金調達であれば、投資が成功した時の値上がり益と配当が自社に多く配分されるため、支払利息を加味したとしても、全体としての資金調達コストは、エクイティファイナンスと比較して安く抑えられるというわけだ。

 そのため、デットによる資金調達にすることで、投資が成功した時の値上がり益と配当が自社に多く配分されるため、全体としては調達コストが安く済むというわけだ。

 最後に見逃せないのは税金面である。デットファイナンスによる支払利息は、税務上経費算入できる。ソフトバンクの資産にレバレッジをかけると同時に支払利息を経費算入し、利益圧縮を図ることで、資本効率を一層高めるという狙いもあるだろう。

●虎の子「アリババ」の売却に踏み切るか

 そうはいっても、やはりデット依存のファイナンスは信用力の低下という問題がつきまとう。格付け会社のムーディーズは、今年の3月にソフトバンク社債について「投機的」といわれる「Ba3」まで、一気に2段階格下げした。携帯事業による安定的なキャッシュフローが期待されているとはいえ、一部ではその信用力に疑問符がつく状況になっているようだ。

 これまでソフトバンクが買収してきた企業は、比較的収益や将来キャッシュフローの見通しが立てやすい安定ビジネスであった。しかし、今回の赤字については、やはり単年での業績変動が大きい非公開企業への投資が裏目に出た形となる。

 しかし、これだけをみて直ちにソフトバンクが危ういということはできない。上記で触れたとおり、ソフトバンクは携帯事業による安定的なキャッシュフローが見込まれる。それだけでなく、ソフトバンクには時価総額を大きく上回る31兆円もの保有株式がある。難局となったとしても、保有株式の半分程度を占めるアリババグループ株を売却するといった対応で、いったんのところは乗り越えられる体力があると筆者は考える。

 しかし、通信子会社のソフトバンクを上場させてしまった今、アリババなどの保有株式放出が、短期的に多額の資金を用意する最後の手段でもあるといえるだろう。仮にソフトバンクがアリババ株の売却に手をつけた場合に注意すべきは、次の失敗が今度こそソフトバンクにとって大きな打撃となり得るということだ。

 多額の含み益を抱える資産の後ろ盾が弱まってしまうと、これまでの積極的な姿勢を改め、慎重な事業方針に舵(かじ)切りせざるを得なくなる可能性がある。

 このように考えれば、ソフトバンクグループの経営が直ちに危うくなるとはいえないだろうが、従前のような成長性が期待できなくなることによる企業価値の剥落(はくらく)が発生する可能性について注意すべきだろう。