新型コロナウイルスの感染拡大で苦境に追い込まれているアパレル業界が、衣服製造のノウハウを活用して、洗って何度も使えるマスクに進出している。ミズノの水着マスクやアルペンの冷感マスクなどは軒並み好調だ(関連記事:“アベノマスク”は不要? アパレル大手の夏向けマスクが軒並み好調なワケ)。

 今回は、マスクに商機を見い出し、ユニークな商品を開発しているさまざまな企業の取り組みをジャーナリストの長浜淳之介氏がレポートする。

●ノベルティとして配布

 スラックス専業の老舗であるエミネント(東京都中央区)では、スラックスの端材を使ったマスクを長崎県松浦市の主力縫製工場で生産。一部350円(税別、以下同)で販売もしているが、基本は百貨店などの売り場で商品を購入したお客に配布するノベルティとする方針だ。また、海外の展示会に出品した際、入場者への返礼品としても活用している。「廃棄物の有効利用なので、エコにもつながる」と高野圭右社長は語る。

 スラックスの生地にはポリエステルとウールを使っている。通気性が良く、湿気を吸収する機能があり、衣服内の温度を一定に保つ。また、洗濯しても形が崩れないのでマスクに向いているという。内側にはポケットに使われる裏地が採用されており、肌触りや通気性を高めている。

 もともとはコロナ禍の中、地元である長崎の学校、保育園、消防署、福祉施設などに寄贈して喜ばれていた。マスクを販売するだけでなく販促として使う手もある。

●下着メーカーの技術力

 下着のメーカーも負けてはいない。

 グンゼは、5月13日からオンラインストアで、「肌着屋さんがつくった 肌にやさしい布製マスク」を販売。入荷しても即売り切れる状況になっていたが、月産50万枚を目指すべく京都府の宮津工場を増強した結果、今は安定して買えるようになった。

 女性用下着に使用している、綿65%と伸縮性のあるポリウレタン35%を混ぜた肌触りの良い生地を採用。フィットしやすい立体設計で、長時間着用しても耳が痛くなりにくい。また、ガーゼなどが挟める2重構造になっている。価格は2枚980円で、購入は1人2点まで。

 トリンプ・インターナショナル・ジャパンでは、5月29日に同社公式ECサイトで「スロギー マスク」を販売し、既に品切れとなっている。760万枚を累計で販売した人気女性下着シリーズ「スロギー ゼロ フィール」の滑らかな肌触りと、360度ストレッチする伸縮性をマスクに応用。着け心地の良さを追求した。

 また、ブラパッド素材でインナーシートを開発。ブラジャーのように生地の内側にセットして、通気性と立体性を持たせた。色・柄は「スロギー ゼロ フィール」で使用した、ピンクとオレンジの花柄プリントと、薄いグレーのグリーゼの3種。

●ラグビー日本代表の靴下を製造した老舗も本格参入

 靴下メーカーのタイコー(長野市)では、5本指の靴下や手袋をつくる「ホールガーメント」という無縫製で編み上げる機械を使って、4月6日から「アミマスク プロトタイプ」を販売している。

 同社は1949年創業。ラグビーワールドカップ日本大会で、日本代表が着用した靴下を製造した実績がある。美容関係の会社からの依頼で、もともと製造していたシルクのマスクを改良して商品化した。

 アミマスクの素材は綿100%で、抗菌防臭加工が施されている。価格は1650円で、3サイズを用意した。自社通販サイトのみの取り扱いだったが、発売の1週間ほど前に地元の新聞に報道され、2000枚が5分で売れた。その後、4月27日、30日、5月17日にも販売し、合計1万3000枚ほどに到達している。リピーターが多く、夏には通気性や冷感機能が求められるので、6月から7月にかけて新しい商品を投入する計画だ。

 ユニークなところでは、セーターなどを製造するニットワイズ(山形県山辺町)が、3月に山辺町と山形市にマスクの自動販売機を2台設置した。自動販売機ならば、感染のリスクがないと考えたからだ。

 当初は全く売れなかったが、3月末に突然ブレーク。1日400〜500枚が売れ、大行列ができるようになった。東京や大阪の親類や友人に送りたいという人も多く並んでいる。夏用として、涼感を高めつつ70回洗えるマスクも販売する。

 さらには、マスクの4隅のポケットに保冷剤を入れられるようにした、新発明の冷やしマスクを1個1300円で販売予定。地元で有名な「冷やしシャンプー」に続き、山形の猛暑を乗り切る名物にしたいと同社では意気込んでいる。今後、自社ECサイトの他、商社経由で大手量販店や海外にも販路を開拓する。

●和風ファッションマスクのブームを起こす

 和装帯のメーカー、小杉織物(福井県坂井市)は、オリジナルのシルクマスクを4月から製造している。販売チャネルは自社ECサイトと卸売。マスクの幅が17センチほどで、帯の幅とほぼ同じことからマスクを製造することにした。

 6月17日には、自社で販売しているものに加え、アパレルメーカーと組んで開発した計100種のマスクを一挙に発売。丸井や渋谷109などでも販売する予定だ。帯のデザインのストックが、そのままマスクに活用できるという。和風ファッションマスクのブームを起こそうしており、日産6000〜7000枚の体制を組んでいる。

 同社は「蚕を守る繭を原料とする絹は温度調節の機能があり、夏は涼しく、冬は暖かく感じる素材」としており、帯の素材はマスクに向いていると考えている。購入者の85%がリピーターとなっており、しっかり顧客が付いている。

 価格は3枚4800円が標準だが、6月5日から発送する夏用特殊メッシュ織の「涼やか絹マスク」は3枚5400円。

●ライトオンはファッション性に力を入れる

 ファッション性にこだわるマスクに力を入れているのは、ライトオン。

 同社がオンラインサイトで5月21日から予約受付している「和紙デニムマスク」は、6月上旬に商品が届けられる予定だが、既に上限に近づきつつある。和紙デニムはライトオンが展開する「バックナンバー」の人気商品で、和紙糸を織り込み、温度調節機能がある。ジーンズやトップスと同じ生地を使い、トータルコーディネートが楽しめる。鼻の部分がM字型の立体構造になっていて、フィット感も良い。裏地には接触冷感、抗菌防臭機能がある生地を使用している。価格は1290円。

 この他にも、綿100%のウォッシャブルマスク(3枚990円)、耳かけゴムの痛さを回避するやわらかいポリウレタン素材のロコプリントマスクなども販売し、多様なニーズに応えている。

●社会貢献として防護服を無償提供

 医療用ガウン(アイソレーションガウン)に進出する動きもある。

 ワールドは医療用ガウンを国内の工場で生産する。9月末までに150万枚を生産予定。日本政府への納品を優先し、その後は自治体への販売も行う。本社がある兵庫県から10万枚、神戸市から2万枚を受注した。医療用ガウンは、薬局や食料品売り場などでも利用が進むと見込んでいる。

 アパレルアイも、法人、学校、病院向けの医療用ガウンを、150着から用意できる体制を構築している。エプロンタイプとつなぎタイプから選べる。

 エミネントでも長崎県の工場で医療用ガウンを試作しており、近県の医療機関や自治体等のニーズに対応していきたいとしている。

 また、アパレル各社は社会貢献活動の一環として、マスクのみならず防護服を無償提供している場合も多い。

 前編でも紹介したように、マスクや防護服は、ステイホームによって需要が減退し苦境に立つアパレルの、ものづくりの力を改めて示している。また、これを機会に自社ECサイトの販売が急増しており、大手ECモールに頼らない強靭さを備えつつある。

(長浜淳之介)