食の世界における「ペアリング」とは、ワインを中心とした飲み物と料理の組み合わせのことを指す。そして、このペアリングの裾野が広がり始めている。

 コース料理の一皿一皿に最も相性のよいワインを提供するのが主流であり、前菜にはシャンパン、魚料理には白ワイン、お肉料理には赤ワインといった組み合わせが一般的だ。

 それ以外にも、食材とワインの産地を合わせたり、しょっぱいものと甘口ワインといったようにあえて対照的なものを合わせたりするなど、いくつかの組み合わせがある。

 昨今では、日本酒やカクテルを合わせるペアリングも登場している。また、比較的安価なお店でペアリングディナーを提供するだけでなく、「お茶のペアリング」などのようにノンアルコール市場にもペアリングは参入している。

 ペアリングは消費者の飲食シーンを華やかにするだけでなく、事業主にとってもビジネスチャンスの大きいアイテムだと感じる。何より、コロナ後に飲食産業が生き残るためのヒントを提示してくれる。

●これだけの種類があるペアリングの世界

 ペアリングの魅力を理解できるようないくつかの事例を紹介していこう。

 1つ目は、ペアリングディナーの立役者といっても過言ではない、フレンチレストラン「L’AS(ラス)」(東京・港)。

 こちらのメニューは、8〜10品で構成される5000円(税別、以下同)のフレンチコースのみ。そして、5000円のワインペアリング(ノンアルコールペアリングは2700円)が提供されている。コース1本だけという潔さである。

 コースそのものに魅力があるからこそ、料理に合わせたペアリングの価値が更に上がる。そう感じされてくれる人気店である。味も雰囲気も確かなファインダイニングであり、記念日やデートシーンなどに最適ではないだろうか?

 2つ目は、専門店のペアリングディナーだ。

 そばと日本酒を味わう「凪 ワテラス店」(東京・千代田)。同店はそば居酒屋においてペアリングディナーを提供するというなんとも興味深いお店だ。そば屋ならではの“だし”を使用した逸品に合うお酒を提供してくれる。まずは、日本酒の蔵元がつくった希少価値の高いクラフトビールで乾杯をする。揚げ物には、すっきりとした日本酒のハイボール。甘からい味が魅力の鴨すきには、すっきりとした日本酒ではなく、あえてこってりとした銘柄を合わせる……。このように、専門店ならではのこだわりが詰まったプランを提供している。その他にも、「焼肉と日本酒」「寿司とワイン」「焼き鳥とワイン」など、専門店のペアリングディナーには注目したいところだ。

●わくわくドキドキ感とセット

 3つ目は、イノベーティブレストランのペアリングを紹介したい。外食の差別化戦略として、カウンターを中心とした劇場型レストランが挙げられる。食事は入れ替え制で一斉にスタートし、その料理とドリンクの説明をするという「ストーリー性」が特徴だ。今回紹介するのは、その草分け的存在である「81」(東京・港)。毎回、あるテーマに沿った料理だけでなく、ストーリーに合わせてドリンクを提供する。ワインだけではなく、ミクソロジーカクテル(野菜、フルーツ、ハーブなどを用いるカクテル)を提供し、そのストーリーに花を添えるのだ。こちらのお店では、季節ごとにコースが変わり、そのコースにはストーリー性がある。時にはバレエの演目をイメージしたコースを仕立て、森の中にいるシーンでは部屋中にスモークをたき、その空気を演出するのだ。

 このわくわくドキドキ感は、もはや、外食ではなくエンターテインメントといっても過言ではない。

 4つ目は、地域の魅力を最大限に活用したペアリングディナーである。都心部だけでなく、ローカルレストランにも注目してみたい。

 沖縄県宮古島で注目されている「紺碧ザ・ヴィラオールスイート」のレストラン「エタデスプリ」だ。全国的にも注目されている宮古島出身のシェフがおり、沖縄の食材を使用したイノベーティブな料理に、沖縄本島出身のソムリエが泡盛を合わせていくのだ。酒器にも徹底的にこだわり、なんとヒレ酒には沖縄の青い魚「イラブチャー」を使用している。

 地域愛のあふれるそのペアリングディナーを味わうと、「ローカルイズクール」と言いたくなってしまう。ペアリングは、地域の情報発信のツールの一つともいえるのだ。

●ペアリングはノンアルコールでも成立する

 5つ目は、ノンアルコール市場のペアリングだ。ノンアルコールペアリングは、ペアリングを扱うお店の多くで提供されているが、その中でも「お茶ペアリング」に注目したい。「スパイスカフェ」(東京・墨田)は、スパイスを使った料理が人気のお店だ。7皿の料理を味わうコースに、5種の中国茶を中心としたペアリングを楽しめる。

 実は、アルコール愛飲者でもノンアルコールペアリングを注文することがある。ノンアルコールペアリングには、市場拡大の余地があるのではないか。

 6つ目は、少し変わり種をご紹介したい。ドリンクのペアリングならぬパンペアリングを体験できる「CRAFTALE(クラフタル)」(東京・目黒)である。

 同店は、一皿一皿の料理にもストーリー性があり、十分魅力的であるが、それぞれのメニューに合わせた異なる味わいのパンを提供してくれる。こういった新しいスタイルのペアリングに触れると、料理とパンとドリンクの「トリプリング」(筆者の造語)が今後登場するのではないだろうかと期待してしまう。

●ペアリングがなぜ注目されているのか?

 このようなペアリングを提供するお店がなぜ支持されているのか? 消費者視点で3つのメリットを解説する。

 1点目は、昨今の情報過多の影響による「消費者の選択疲れ」である。世の中にはおいしいお店があふれている。しかも、料理やドリンクのメニューが豊富な店も多い。その結果、消費者は何を選んでいいのか迷ってしまう。

 ペアリングコースはその真逆の位置に存在する。料理もドリンクもすべて決められたものが提供され、消費者が選択するのはお店だけである。入店してしまえば、もう迷うことないのだ。

 2点目は、食事の時間を最大限に楽しめることだ。例えば、ビジネスシーンの会食においては、「次は何を飲まれますか?」「もう1杯いかがですか?」などといったやりとりが大変なストレスになる。また、デートシーンでは、リードする側が注文してくれると、お酒を選ぶ煩わしさを回避してくれる。このように、ペアリングがあると、ドリンクの注文などで会話が遮られず、食事の時間を存分に楽しめる。また、ペアリングディナーは明朗会計なので、お酒を飲むたびにドキドキすることもない。

 3点目は、そのお店の魅力を最大限に楽しめることだ。おすすめの料理単品だけではなく、その料理に最も相性のよいドリンクと共に楽しむことで、よりおいしく料理が味わえる。

 「なぜこの一皿とこのドリンクを合わせたのか」といったおすすめポイントを聞き、想像もつかない組み合わせに驚きを感じる。さらに、ストーリーを聞くことで、料理はおいしくなり、ペアリングの価値を感じられる。また、おいしさと共に知的好奇心をもくすぐられるのだ。

 ペアリングは、そのお店の究極のレコメンドメニューといえる。結果として、お店への満足値が上がり、「また来店したい」という気持ちからリピートにつながり、SNSなどでよい口コミが広がる可能性も高い。これは、事業者のメリットにもつながるのだ。

●事業主にとってのメリット

 ここからは事業主にとっての3つのメリットを伝えたい。

 1つ目は、単価が安定することだ。

 ペアリングディナーの場合、あらかじめ料理やドリンクの値段が決まっている。そのため、飲み放題プランと同様、客単価が安定しやすい。

 2つ目は、ペアリングディナーがお店の主力メニューになることで、原材料管理がしやすくなることだ。使用する材料が限定され、ドリンクの在庫も必要以上に置く必要がなくなる。廃棄ロスの減少にもつながる。

 そして、3つ目は専門店の中でも差別化戦略に役立つということだ。

 外食のコンペティターは外食だけではない。人々のライフスタイルと共に進化し続ける中食とも戦わなくてはならない。そのためには、外食でしか味わえないものを提供する必要があり、選ばれる飲食店になるための勝ち筋の一つは「専門店化」だ。しかし、今や専門店も増えてきており、付加価値をつけてさらに差別化する必要がある。その打ち手の一つがペアリングではないだろうか?

●データで読み解くペアリング

 では、ペアリングはどの程度認識されているのだろうか。

 ホットペッパーグルメ外食総研は、全国に住む20〜59歳の男女に意識調査を行った(有効回答数は1032)。すると、ペアリングを経験したことのある消費者は19.6%にとどまった。現状では、5人に1人しか経験したことがないのだ。だが、経験者のうち76%は「また経験したい」と回答しており、満足度の高いプランだといえる。また、未経験者に対して「ペアリングを経験してみたいか?」と尋ねたところ、56.4%が「経験したい」と答えている。ここに大きなマーケットの可能性を感じている。

 さらに、ノンアルコールペアリングについても調査してみたが、こちらは将来の可能性を感じさせる結果となった。ノンアルコールペアリングを経験したことがなく、今後経験してみたいと感じている消費者は、20代〜30代を中心に約6割という結果が出たのだ。アラカルト注文で、お酒を飲まないノンアルコールカスタマーは、単価が上がりにくいため、夜の料飲シーンにおいては悩ましい存在かもしれない。しかし、ペアリングプランは、若者のお酒離れによる客単価ダウンというトレンドを阻止する可能性を秘めている。

●新たな付加価値を提供できるか

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、自粛生活が続き、世界中の人々のライフスタイルは大きく変化した。食生活もその一つである。外食自粛が続いた結果、内食、中食、外食のボーダレス化はさらに進み、あらためて“外食ならでは”の価値が今後は求められるようになる。

 内食や中食では味わえない価値とは何か。サービスや人が介入する価値とは何か。こういったことを考えると、今後は「ストーリーテラーが重要になるのでは?」と考える。ペアリングはこういった方向性に沿ったサービスではないだろうか。

 接待や会社宴会といったオフィシャルな宴会需要は、働き方が大きく変化したことにより、私的な利用と比べて回復が遅れる可能性がある。また、大型宴会の回復も遅れる可能性がある。一方で、プライベートシーン(仕事関係以外の友人・家族)や少人数の外食シーンの回復は比較的早いであろう。ペアリングはこのプライベートシーン、少人数に適したプランであるため、回復に向けた打ち手の一つとして取り入れてみるのもよいかもしれない。外食でしか味わえない外食ならではの付加価値を提供することが、今まで以上に重要であると考えている。

(有木 真理)