取引先と交わす契約書のチェックや、コンプライアンス対応など、企業を守るために必要な「法務業務」。本来であれば、法務を担当する部署を設立し、専門性を持った担当者が業務に当たることが望ましい。しかし、必ずしもそうした万全な体制となっていない企業も少なくないのが実際のところだ。

 1965年に本格的調査を開始し、5年おきに企業の法務部門の実態調査を行っている、経営法友会と商事法務研究会の「法務部門実態調査」最新版(第11次調査、2015年実施)によると、法務部門がなく、また担当者も設けていない企業は6.9%。担当者はいるが、専任ではなく他の業務と兼任している企業は15.2%と、2割以上の企業が法務に関する専門の担当者を設けていない状況だ。また、資本金5億円未満の企業に絞って見ると、その割合は4割近くまで高まる。

 法務部門がない企業では、「ひとり総務」などが法務業務を他のバックオフィス業務と兼務しているケースも少なくないだろう。しかし、より専門性の要求される法務業務は、なかなか片手間にこなせるものではない。ただ、忙しいという理由で契約書のチェックなどをなおざりにしてしまうと、自社の知財が流出してしまったり、契約を解消したいときにできなかったりと、重大な損失にもつながりかねない。

 また、法務業務、特に契約関連は「紙とハンコ」との結び付きも強い。新型コロナの影響でテレワークが広がっているが、押印のために、また必要な書類のために、出社せざるを得ないケースも出てきており、今後さらに生産性の高い業務を実現するために、契約業務を中心とした法務業務のIT化は欠かせないだろう。

 こうした観点から注目を集めているのが「リーガルテック」だ。

●契約書のチェックをITで効率化

 リーガルテックとは、その名の通り、法務業務をITで効率化したり解決したりするためのサービスなどを指す。法律相談に関するサービスなど、弁護士と消費者に関するサービスも多いが、一般企業の法務業務にかかわるサービスも存在する。

 例えば、LegalForce社が提供している「LegalForce」は、契約書のドラフト作成やレビュー(チェック)をアシストするサービスだ。弁護士や企業の法務部門で導入が進んでいるが、法務を専門としない兼任担当者などが契約書のレビューを行わないといけないようなケースでも活用できる。

 代表的な機能が「契約書の自動レビュー」だ。WordファイルやPDFファイルにも対応しており、契約書のデータファイルをアップロードすると、その契約書に必要な項目にもかかわらず欠落してしまっている条項や、自社にとって不利な条文などがアラートで出される。これまでであれば一言一句契約書をチェックしていたところを、要点を絞って確認できるようになる。これまで法務業務も兼任していた総務担当者からは「これまで読むだけで10分ほどかかっていたところ、大幅に短縮できるようになった」といった声が上がっているという。

 LegalForceの角田望代表は「法務に慣れていない担当者が契約書をチェックするときは、時間がなかったり、分からなかったりするゆえに諦めてなおざりにチェックするか、ものすごく時間をかけてチェックするのどちらかになりがち。また、必ずしも時間をかけたからといって、問題がなくなるわけではない」と話す。

 また、契約書のレビューは専門性を必要とし、しっかりとした知識を基に業務することが求められることから、参考書を携えて行うことも多いという。しかし参考書はオフィスに置いてあることも多く、テレワークをしている場合にはそのためにわざわざ出社しなければいけないことになる。LegalForceを使うことで、即座にチェックポイントや要点などが分かるため、そうした必要もなくなるという。

●部署・担当者間の連携にも効果

 部署間を横断した案件の進行など、ナレッジの共有にもLegalForceは活用できるという。

 同社で人事総務を担当する成定優氏は、前職の経験などから「法務部署がないような企業の場合、担当者ごとに契約書を作成することもある。その場合、属人的になってしまうので、契約に関して過去にどんな経緯があったのかが分かりづらい」と話す。契約書は、作成から締結までに何度もバージョンを更新することがあるため、バラバラに管理していてはどのような経緯を経て締結まで至ったのかを確認しづらい問題点がある。

 多くの企業ではPDFファイルを共有フォルダに保存し、Excelでパスを手入力して管理しているケースが多いというが、手入力だとどうしてもミスが出てしまう可能性もある。LegalForceは、更新経緯なども含めてクラウド上でデータを自動管理するため、担当者間の案件共有もスムーズになり、担当者が変わった際の引き継ぎの手間を軽減できる。

 LegalForceで可能になるのは契約書ドラフトの作成とレビュー、PDF出力のみだが、最近では契約書の締結に関するクラウドサービスも出てきている。「経費精算や労務管理など、さまざまな業務がクラウドで可能になる中、法務業務だけできないということはないはず」と角田代表は話す。「紙とハンコ」との結び付きが強い法務業務を効率化できれば、総務や企業のDXはさらに加速するはずだ。