中国での環境規制におけるハイブリッド(HV)の見直しについては、すでに2018年頃から、散発的な報道が流れ続けてきたが、6月22日の日本経済新聞電子版の記事で、中国政府のHV(ハイブリッド車)見直し確定がスクープされた。

 中国には現在、異なる2つのアプローチの環境規制が存在する。NEV(ニューエネルギービークル)規制とCAFC(コーポレート・アベレージ・フューエル・コンサンプション)規制で、それぞれ米国のZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)規制と欧州のCAFE(カンパニー・アベレージ・フューエル・エコノミー)規制に対応するものだ。

●ゼロエミッションか平均値か

 NEV/ZEV規制は一定以上の販売量がある自動車メーカーに対し、年度ごとにNEV/ZEV車両と認定されたクルマを一定比率生産することを義務付けた法律である。要するにメーカーに対して、ゼロエミッションのクルマの販売に力を入れさせる規制である。

 一例として北米12州で採用されているZEVの規制値を挙げておこう。

・2018年 4.5%(2.5%)

・2019年 7.0%(3.0%)

・2020年 9.5%(3.5%)

・2021年 12.0%(4.0%)

・2022年 14.5%(4.5%)

・2023年 17.0%(5.0%)

・2024年 19.5%(5.5%)

・2025年 22.0%(6.0%)

※年次の次のパーセンテージは全販売台数におけるゼロエミッション車の販売義務付け数。カッコ内は準ZEV扱いとなるPHVのカウント上限

 例えば20年に規制地域内で1万台の新車を売るとすれば、うち950台はZEVでなくてはならない。そのうち準ZEV扱いのPHVは最大で350台まで。準ZEVはそれ以上売れてもカウントに含めることができない。つまり1万台の内、950台の全てをEV(電気自動車)もしくはFCV(燃料電池車)で売るのは構わないが、PHV(プラグイン・ハイブリッド車)をカウントに入れる場合、350台までしか算入を認めないというルールだ。

 ちなみに、17年まではPHVは全数ZEVにカウントすることができたし、HVや天然ガス(CNG)車なども準ZEV扱いにカウントされていた。2010年代終盤は、規制をより厳格化して、それぞれ位置付けがスライドした。HVとCNG車は準ZEVとみなされなくなり、代わりにPHVが準ZEVに落とされた。環境問題の解決を進める流れが加速した時代であった。

 理念的に、ZEV/NEVの規制は排ガスゼロのクルマの普及を促進する規制であり、当然排気ガスを出す(つまりシステムの一部にでも内燃機関を組み込む)クルマに対しては懲罰的に臨む規制である。一方で、CAFE/CAFC規制は、当該メーカーの全販売車両の排ガス排出量を販売台数で割った平均値の低減を狙うものだ。その結果、2つの規制の間には矛盾が起きる。

 まだ妥協がわずかにあるものの、ZEV/NEVでは、割り当てられた比率のクルマは、わずかでも排ガスを出すものに否定的なのが本来の理念だが、CAFE/CAFCでは、メーカー平均のCO2排出量が年度ごとの規制値より少なければいい。「ゼロエミッションのクルマを増やしましょう」という規制と、「とにかくCO2排出総量を減らしましょう」という2つの規制があるというわけだ。

●HVに有利な10年

 ただし、2つの規制は対応の方向性と、規制の効果がまったく違う。

 例えばCO2排出総量を30%削減しようとする時、ZEV/NEVのアプローチならば販売台数の30%をEVかFCVにしなければならない。CAFE/CAFC的アプローチであれば、65%をHV化するとそのくらいになる。車両価格を考えるとZEV/NEVを30%分売るより、HVを65%分売る方が実現性が高い。日本国内の実情に照らせば、EVなら今の15倍売らなくてはならないが、HVは今の2倍程度でなんとかなるからだ。

 ZEV/NEVのアプローチにそのまま対応できるのは、小規模なEV専業に近いメーカーだけだ。規制の本来の目的は環境の改善であるに決まっている。罰則によってEV/FCVの普及が進めばいいのだが、それで環境改善が進まないのだとしたら、メーカーが罰金に苦しむだけで、規制は単なる経済成長のブレーキになってしまう。それがZEV/NEVの抱える課題なのだ。

 ではCAFE/CAFCの方は各社がクリアできているのかといえば、こちらもクリアできた会社は少ない。というか、すでに本連載では何度か書いてきた通り、欧州の20年CAFE規制をクリアしたのはトヨタ1社である。それでも、1社とはいえクリアできたとすれば、やり方がある。それこそがHV車の普及である。

 今の時点に限れば、後者のHV車普及の方が成果が大きい。こんな現実が、中国でも規制の見直しを促した。一党独裁の権限を徹底的に発動して、EV/FCVへの転換をやれる限り実行してみた結果として、見込みが甘かったことが分かった。そこでもう一度CO2を効率的に削減できる方法を見直した結果、当面のブリッジとしてHVを再評価する動きになったということだ。具体的には、従来「内燃機関(ICE)車両」と「NEV」の2つに分類していた車両区分に、新たに「低燃費車」を加え3分類にした。

 25年規制値では全生産台数の内、25%分のNEVの生産が義務付けられることになっていたが、3分類化によって内燃機関車両のうち一部を「低燃費車」に置き換えれば、低燃費車分についてのNEVの義務付けが軽減され、CO2排出量に応じて、この25%が5〜12.5%に下がる。

 つまり新ルールでは、低燃費車として最も燃費の良いHVを生産すればするほど、無理してEVを作らなくて済むことになる。要するにHVが増えてその結果EVが減る。今後10年はHVが主流の時代が続くだろう。

 これはあくまでも現在の話であって、当然時代が進めば最適解が変わる。HVでは達成不可能なほど高レベルなCO2削減のためには、EVやFCVは必ず必要になるので、ゼロエミッションカーの販売を促進するZEV/NEV規制は今後も重要ではある。20年、あるいは30年先には、EVやFCVが普及価格に達し、その時には全車両ゼロエミッションを目指す時代がやってくる。そうなれば、再びHVがZEV/NEVから除外される時代が来るだろうし、それは環境対策として全く正しいことだと思う。

●中国マーケットの未来

 ということで、ここからしばらくは、中国でHVが強い追い風を受けることになる。当面の狙いは純内燃機関(ICE)車両の段階的削減であり、それらがHVに置き換えられることになる。

 そうした時代背景の中で追い風が吹くのはどのメーカーかといえば、当然のごとくトヨタ。そしてホンダとe-POWERの日産ということになるだろう。

 しかし今年の年頭に書いた記事の通り、いやあの時以上に中国のカントリーリスクが高まっている。今から中国でビジネスが大きくなることは喜ぶべきことかどうか分からない。

 米国は、中国共産党による香港への国家安全維持法の押し付けに警告を出し続けてきたが、共産党はそれを強硬に推し進めてしまった。その結果米国は制裁として香港自治法案の制定に入り、すでに上院が同法案を可決した。下院が可決し、大統領がサインをすれば成立するが、これまでの流れからみれば、ほぼ間違いなく成立するだろう。

 同法案では、香港の自治権干渉に関わった中国当局者の個人資産凍結だけでなく、制裁対象者と取引した米国の金融機関にも制裁が加えられることになっている。要するに間接的に加担するヤツも許さんぞということだ。さらにトランプ米大統領は、このまま進めば次のステージでは、香港に認めて来た優遇措置を撤廃すると表明している。

 香港の優遇措置とは何かといえば、香港を、中国とは制度が異なる自由貿易国とみなして、米国の銀行に香港ドルの取引を認めていることだ。もし香港はすでに自由貿易国でなく中国本土と一体であるとみなした場合、香港の金融機関は、中国本土の銀行と同様に、米国の銀行から自由に米ドルを買うことができなくなる。小額の個人換金なら別だが、大口の換金マーケットは中国全土で、香港だけなのだ。それは香港が自由経済圏だという見方があったからこその話である。

 これまで中国で営業してきた外資企業は、人民元→香港ドル→米ドルと換金することで、利益を自国に持ち出してきたが、香港の優遇措置が失われると、この窓口が塞がれ、中国で上げた利益は実質的に中国国内でしか使えなくなる。人民元を人民元のまま使わなくてはならないからだ。

 グローバルな取引では、人民元は通貨として通用しないので、グローバル企業にとっては、米ドルへの換金ルートを閉鎖されることは中国でビジネスをする意味が失われることになる。

 香港での為替売買の停止は貿易の停止を意味する。そうなると中国国内からのサプライチェーンの事業継続も怪しくなってくる。特にこれまで、中国国内で販売するEVやHVは中国製のバッテリーを使えと共産党が横車を押してきていた関係で、世界のバッテリー供給のシェアは相当数が中国頼みになっている。

 これらが果たしてどうなるのか予断を許さない状況なのだ。というあたりで再び呆れるのだが、トヨタは中国以外の地域で売るHVのバッテリーはパナソニックを採用している。他社が軒並みCATLやBYDなどの中国製バッテリーを採用しているのに対して、トヨタは用心深く中国製のバッテリー使用を中国国内販売用のみに留めている。トヨタだけはいざとなれば尻尾を切って逃げられる。中国国内のサプライチェーンと一蓮托生になってないのだ。

 さて、全体を振り返ろう。中国での規制の変更でどうやらHVが勢いを盛り返しそうなことが見えてきた。しかしながらその中国は米中経済戦争の激化で金融の手厳しい締め付けが秒読み段階に入っている。HVの再評価は、トヨタ、ホンダ、日産にとって、大きなチャンスでもあるが、地雷である可能性も無視できないほどに膨れ上がっている。われわれはしばらく事態の推移を見守るほかにない。

(池田直渡)