2020年6月26日、静岡県庁でJR東海の金子社長と静岡県の川勝知事による面談が行われた。報道はおしなべて結果に否定的だ。「トップ同士の握手で全てが解決する」という期待の裏返しといえる。確かに結果としては、JR東海が求めたトンネル建設準備ヤード(工事準備拠点)工事許可について即答はなかった。

 この面談はYouTubeでリアルタイム中継され、現在もアーカイブ配信されている。その内容を把握するために、トップ面談の進行に沿ってツッコミを入れていきたい。今回は前半部分。注目は「静岡工区が悪者にされた」という誤解を解く発言と、金子社長による「リニア開通後の東海道新幹線『ひかり』停車または増便の示唆」だ。

●過去の発言について金子社長が謝罪

[0:00:01] 礼儀知らずのタイトル(冒頭の数字はタイムスタンプ)

 タイトルからツッコミを入れる。「リニア中央新幹線静岡工区に係る川勝知事とJR東海金子社長の面談」である。これは無礼であろう。なぜ川勝知事が前で金子社長が後か。静岡県知事室で行われたことから、一般常識であれば招いた側が招かれた側を立てて「JR東海金子社長と川勝知事の面談」にする。野球ならホーム側が後攻だ。この面談は金子社長がかねてより要望していた。静岡県側は応じる形だ。静岡県は「呼び出した」という認識だろうか。あるいは県庁には民間レベルの常識がないか。高慢な態度か常識知らずか。後者の方が救われるけれど、どちらにしても静岡県への好感度が下がる。

[0:00:30] 謝罪と寛容

 金子社長が謝罪。川勝知事が理解を示し謝罪行為に謝辞を述べた。4月27日の第1回リニア中央新幹線静岡工区有識者会議において、金子社長が「県も南アルプスの環境が重要であるからといって、あまりに高い要求を課して、それが達成できなければ、中央新幹線の着工も認めないというのは法律の趣旨に反する扱いになるのではないか」と発言したことについて。静岡県側が「県の環境影響評価事務の適正性を疑問視している」と反発した。

 これに対して国土交通省は水嶋鉄道局長名で「信頼関係を損なう」と反省を促した。金子社長は文書で発言撤回と謝罪を伝えた。川勝知事はこの対応を評価しつつ、県民に対しても公的な場で謝罪するよう求めていた。それがこの場であった。川勝知事は「JR東海の発言は全国の人に対してはふさわしいかもしれないが、有識者会議ではふさわしくなかったと思う」と述べている。また、金子社長が県知事だけではなく、流域の市町に対しても文書や電話で謝罪したことを評価した。

●大井川流域10市町首長に静岡市が入っていない理由

[0:01:43] 大井川流域10市町首長に静岡市が入っていない理由

 金子社長が「知事と大井川流域10市町首長とのリニア関連意見交換会」の内容を踏まえていると発言。この意見交換会は6月16日に開催された。議事録の主な議題は「川勝知事と金子社長は面会すべきか」「ヤード工事を認めるか」であった。前者は賛成多数で、主な意見は「水への思いを知事から社長にしっかり伝えてほしい」。後者は反対多数で主な意見は「有識者会議の結論が出ていない」「有識者会議に失礼」だった。金子社長は「大変厳しいご意見がある」と語った。

 川勝知事が金子社長との会談そのもの、そして論点のヤード工事に関して流域の市町と意見を合わせた。当然の手続きとはいえ、金子社長に伝わっているから話が早い。

 ただし、意見交換会に静岡市が入っていないことが気になった。JR東海が求める3カ所のヤードは全て静岡市葵区だ。これに関しては静岡市の公式サイトに見解が示されている。静岡市は大井川問題を上流域の自然環境保持と中下流域における利水の2つに分けて捉えており、トンネル湧水を上流域に流すことをJR東海と協議中だ。静岡市長と金子社長は2018年に「中央新幹線(南アルプストンネル静岡工区内)の建設と地域振興に関する基本合意書」を締結している。大井川流域10市町は中下流域における利水問題であり、静岡市としては「対話による解決が図られることを望んでいます」という立場である。

 つまり「ヤード問題は中下流域の水利問題」であり静岡市の関心は薄い。ただし、ヤードに至る道は基本合意書でJR東海が建設すると定められ、静岡市に異存はない。

[0:01:40] 金子社長が反感を買う理由

 金子社長は「ヤード建設についても水の問題をおろそかにするつもりはない」「なし崩しでトンネルの掘削を始めるつもりはない」「有識者会議を軽んじるつもりはない」と明言した。これは大井川流域10市町への不信感を払拭する意味で良かった。ただし、そこから始める「リニア中央新幹線」の意義とJR東海の責務の解説は長すぎた。川勝知事にとっては承前のことであり、大井川流域10市町もリニアの意義については理解している。その上で、静岡県以外の市町村の期待を説明し続ければ反感を買うだけだ。

●なぜ静岡工区のことばかり発言するのか

[0:10:50] 静岡工区のことばかり発言する理由

 金子社長は「なぜ南アルプストンネル(静岡工区)に注目するか」を説明した。最も工期が長い区間だからであり、都市部に比べてアクセスルートが1本だけで効率が悪く、時間がかかるからだ。これは後に川勝知事から出る「なぜ静岡ばかりやり玉に挙げるのか」という疑問に対する答えでもある。

[0:14:35] 「途中までできている」の意味

 金子社長は「斜坑を掘らせていただきたい」と発言。斜坑は「トンネル完成後の非常口」か「大井川の水を戻す導水路トンネル」か、その両方か不明だ。いずれにしても「掘る工事」はヤードではなく本体工事の一つだろう。しかも発言の中で「西俣の斜坑は途中までできていますのであと3カ月、千石は場所を決めただけなので、8カ月か9カ月くらいかかる」と発言した。これも分かりにくい。着工を認めていない場所で「途中までできている」とはどういうことか。

 実は今回の着工問題は、着工するか否かではなく、工事範囲を広げるか否か、という話だ。県の自然環境保全協定により、5ヘクタール以上の工事は県と事業者が協定を結ぶ必要がある。いままでは5ヘクタールの範囲内で工事をしつつ、県との協定締結を待っていた。この話は面談の後半で出てくる。この面談は初見では理解しにくい。それにしても「ヤードの範囲を広げたい」とすればいいところを「掘る」と言うからややこしくなる。やっぱり掘るつもりではないか、いや、掘っていたのかと不信感を持たれる。静岡県が公開した現場写真では掘っていないようだ。

[0:15:14] ヤードの視察に見解の差

 西俣ヤードの視察、進捗確認で両者に認識の違いがある。金子社長は「だいぶ仕上がっている」、川勝知事は「跡形もない」だ。川勝知事は19年6月13日に行ったと言う。しかし20年6月は道路環境が悪くて現地にたどり着けず、県の調査隊からの写真を見ている。その写真を見ると、平地が広がっているだけだ。「跡形もない」は建物もないという意味だろうか。金子社長の「だいぶ仕上がっている」は、整地のみを指しているか。両者の共通見解は「西俣ヤードへ行く道が崩れている」。金子社長は月末(6月末)までに直そうとしているという。

●リニアの恩は「ひかり」で返す?

[0:15:50] リニアの恩は「ひかり」で返す?

 金子社長は「トンネルを掘るか掘らないか」と語る。その上で、「掘れば水が出る」、それをどうするかという議論があるから「私たちは掘りません」と明言した。坑口については土を盛って補強し崩れないようにする。そこまでの掘らない部分の「ヤード工事をお認めいただきたい」と続く。本題に切り込んだ。

 さらに、リニアの効果をまた強調し、一緒に一生懸命やっている沿線の人たちと足並みをそろえたい……とまた静岡県を逆なでするようなことを振りつつ、大事なことを付け加えた。東海道新幹線の駅は17駅あり、静岡県には6駅ある。「ひかり」をどう停めよう、どう増やそうと必ずメリットがある。そういう議論はまた別のところで……。

 つまり、リニアの恩恵は東海道新幹線で返すと約束したようなものだ。

[0:20:00] 意味深な牧之原特産品

 ここで、金子社長は出されたお茶に手を出す。すかさず川勝知事は「そのお茶は大井川の水で作られた牧ノ原台地のお茶で、今年は宮中に献上した」と紹介する。このタイミングで、しかも牧之原産だ。

 牧之原といえば大井川の下流。そして富士山静岡空港がある。ここに東海道新幹線の駅を作ってほしいと、静岡県がJR東海に何度も要請し、その都度、JR東海が拒否した経緯がある。その問題を蒸し返すつもりはないだろうけれども、「忘れてはいないだろうね」という、プレッシャーを与える効果はある。

 川勝知事は金子社長の「水問題をおろそかにしない」という発言を「力強い」「安心した」と評し、大井川への思いを語りはじめる。ここが大井川流域10市町と約束した部分だろう。さらに、牧之原市長からの心の結晶だというお茶と、1本10万円以上、プレミアが付いて数十万円という地酒「磯自慢」が紹介される。

 「トンネルを取るか、リニアを取るか、結果は分かっているから、よほど注意しなくちゃいけない」と言いつつ、「リニアには反対していない」と語る。新幹線は日本が技術の国であると世界に知らしめた。これを抜きに日本の経済は成り立たない。リニアの試乗もしたし、全面的に賛成だ。建設予定地も歩いた。その上で「2011年段階で水の問題は知らず、今は恥じている」と告白した。正直だ。

 「リニアも国策、環境を守ることも国策」と川勝知事。その通りだ。金子社長も「リニアを取るか環境を取るか、では収まらない」と語る。リニアが大切だと言うと環境を考えていないのかと言われる、と誤解されたつらさを滲ませた。

●川勝知事「全面的に協力したいと思っている」

[0:30:43] 川勝知事「全面的に協力したいと思っている」

 金子社長は前社長時代にリニアの認可を受けた時を振り返り、「太田大臣(当時)から、工事は安全が大切、環境保全もしっかりやってくれ、地域との連携をしっかりやってくれ」と言われ、それをずっと続けているという。

 この発言を受けて川勝知事は14年7月18日付の「環境影響評価書に対する国土交通大臣意見」から、「環境保全に関するデータや情報を最大限公開し、透明性の確保に努めること」「水道用水、農業用水、工業用水及び発電用水等に利用されていることから、河川流量の減少は河川水の利用に重大な影響を及ぼすおそれがある。このことを踏まえ、必要に応じて精度の高い予測を行い、その結果に基づき水系への影響の回避を図る」という部分に言及。

 さらに、14年6月5日付の環境大臣意見より、「我が国を代表する優れた自然の風景地として南アルプス国立公園に指定されており、また、ユネスコエコパークとしての利用も見込まれることから、当該地域の自然環境を保全することは我が国の環境行政の使命でもある」「発生土の適正な処理、希少動植物の生息地・生育地の保護、工事の実施に伴う大気汚染、騒音・振動対策等、本事業の実施に伴う環境影響は枚挙に遑(いとま)がない」「本事業の実施に当たっては、次の措置を講じることにより、環境保全について十全の取組を行うことが、本事業の前提である」と引用した。

 川勝知事は続けて「その責任をJR東海は負われている。私どももこの方面で全面的に協力したいと思っている」とした。これは心強い。19年12月の静岡県議会で県側は「調査はJR東海が実施すべき」という認識を示したけれど、全面的と言うからには調査に必要な工事に関してもバックアップすると言ったも同然だ。

[0:30:43] 井川地区の事情を知事は知らなかった

 工区の話題に戻り、ヤード工事現場までの道路が未整備な上、昨年の台風19号の被害で危険な状況になっているという認識で一致。この道は静岡市との協定でJR東海が整備することになっている。川勝知事からは道路の整備を急ぎ、現場で働く静岡県民の安全を確保するよう求めた。金子社長からは、救急車とヘリが使える状態にする、椹島(さわらじま)ヤードに看護師と救急救命士を常駐させると約束した。

 川勝知事からは素朴な疑問として、JR東海が整備する静岡県道189号三ツ峰落合線よりも、静岡市道閑蔵線のほうが安全ではないかと質問した。これに対し金子社長は「井川地区との話し合いで静岡市道閑蔵線経由を提案した。しかし、トンネルを掘って静岡へ短絡してほしいという井川地区の悲願と言われた」と説明した。

 JR東海が工事にあたり沿道に対して丁寧な対応をしてきたことが分かる。しかし、逆に、川勝知事がそのようなやりとりを知らないという点が気になった。川勝知事は全ての地域の実情を把握できていない。自分で行かずとも、報告は受けていない。あるいは見落とした。しかし、この失点は面談で理解すれば取り返せる。トップ面談をして良かったな、と思わせる一幕だ。

●「静岡県を悪者扱い」の誤解を解く

[0:44:53] 「静岡県を悪者扱い」の誤解を解く

 川勝知事から2つ目の率直な疑問が呈された。「他の工区でも遅れており、問題が未解決の地域がある。しかし金子社長は会見などで静岡工区の話ばかりで、まるで静岡県が2027年開業の足を引っ張っているような印象を与えている。他の工区の話はしないから、まるでほかの地区は順調で、静岡だけ1年半も待たせるのかと国交省が動いたと思っている」。

 これに関してはもっともな話だ。今回の面談で、川勝知事が最も知りたかったことかもしれない。金子社長から釈明があった。前述の通り、静岡工区が最も難工事であり、工事開始日程が先に来るというだけだ。地上の工事はまだ取り戻せる。トンネルは取り戻せない時期が来た。静岡県のせいにしたわけではない。とても単純な問題だった。

 この問答はもっと早く済ませるべきだった。問題のねじれは1年前の金子社長の「静岡工区が着工できず2027年開業が遅れる」と、それに対する川勝知事の「事業計画を金科玉条のごとく押し付けるのは無礼千万だ」から始まっている。これで静岡県側のJR東海に対する疑念が深まった。要するに、双方の言葉遣いの問題にすぎない。

 あのとき、すぐにこのようなトップ面談が行われ、誤解を解いていればこじれなかった。あるいは、金子社長が丁寧にスケジュール感も説明すれば良かった。しかし、それをいま指摘しても仕方ない。今回のトップ面談で、トップ同士の素朴な疑問のぶつけ合いが理解を助けることはよくわかったと思う。リニア開通まで何度でも面談を実施すべきだ。

(後編に続く)

(杉山淳一)