大戸屋ホールディングス(以下、大戸屋)の経営刷新を求めるコロワイドの株主提案が否決された。取りあえず現状の経営体制が維持された格好だが、同社が業績を回復できる道筋は立っていない。外食産業はコロナ危機によって淘汰が確実視されており、大戸屋の経営権を巡る争いはこれで終わりというわけにはいかないだろう。

●大戸屋のこだわり「店内調理」貫けるか

 外食チェーン大手で、「かっぱ寿司」や「牛角」などをグループ内で運営するコロワイドは2019年10月、大戸屋の創業家から株式の譲渡を受け、約19%を保有する大株主に躍り出た。大戸屋はこのところ業績不振にあえいでおり、両社は経営再建について協議してきたものの折り合いがつかず、最終的にはコロワイド側が経営の刷新を要求。取締役の入れ替えを求める株主提案を行った。

 6月25日に開催された株主総会ではコロワイドの議案は否決され、取りあえず大戸屋の独立経営は維持されることになったが、両社の争いは今後も続く可能性が高い。

 両社の表向きの対立点は調理方法にあると言われている。

 大戸屋は創業当初は小さな食堂に過ぎなかったが、創業者である三森久実氏の卓越した経営手腕によって400店舗を超える大規模チェーンに成長した。特に創業時からのこだわりとして、同社では食材を素材のまま調達し、店内調理することを基本方針としてきた。

 以前はこうしたこだわりが消費者にうまくアピールし、ファンを囲い込むことに成功したが、近年は同社のこだわりが逆に経営の足かせとなっている。

 ここ10年、労働者の実質賃金はマイナスが続いており、外食チェーンはとにかく価格を下げなければ商売にならないという状況に追い込まれている。外食チェーンの多くはセントラルキッチン方式だが、店内調理を続けるためには、人件費を余分に負担しなければならない。

 大戸屋は店内調理を維持するため19年4月に値上げを実施したが、これによって一気に客足が減り、同社の業績は急降下した。同年2月に発生した店員の不適切行為(いわゆるバイトテロ)の影響もあるが、あくまで一時的なものに過ぎない。業績悪化の根本原因がコスト捻出の値上げにあることは、ほぼ間違いないだろう。

●「調理方針刷新」だけでなかったコロワイドの真の狙い

 こうした状況に対してコロワイド側はセントラルキッチン方式の導入を求めたが、大戸屋は店内調理にこだわり、対立が深まったとされる。だが、調理方針を巡る対立はおそらく表面的なものである可能性が高い。

 大戸屋の窪田健一社長はすでにカット野菜の導入に言及しており、店内調理の一部を見直す方針を示している。カット野菜の導入は労働環境改善が目的ということだが、これはコロワイドとの協議の中で出てきた方針と思われる。つまり大戸屋側は創業以来の方針であった店内調理について一部を放棄しても良いと考えていたことになる。

 だがコロワイド側はこうした大戸屋の姿勢に納得せず、最終的には株主総会での争いに持ち込まれることになった。一連の経緯は、コロワイド側の最終的な狙いが単なる経営の合理化だけではないことを示唆している。

 日本の外食産業は需要に対して店舗数が多すぎ、過当競争に陥っている。ここに日本社会の貧困化が加わったことで、果てしない安値合戦が続き、従業員の待遇も著しく悪化した。業界全体として淘汰が必須だったところにやってきたのがコロナ危機である。

 すでに複数のチェーンが店舗網の縮小を表明しており、一部では業界再編も囁かれている。今後は、M&A(合併・買収)などを通じて1社あたりの規模を大きくし、店舗網の合理化を進めるしか生き残る道はないだろう。コロワイドにとっては何としても同社を完全に傘下に収めたいと考えているはずだ。

 大戸屋は事業規模が小さく、時価総額はわずか約150億円しかない(7月6日現在)。このため機関投資家は同社株を保有しておらず、株主は個人投資家が多いとされる。大戸屋の株式を保有する個人投資家は大戸屋のファンである可能性が高く、店内調理を含めた大戸屋のコンセプトそのものに賛同している可能性が高い。業績不振を理由にした経営陣の刷新という株主提案が否決されたのは、大戸屋のファンである株主の影響が大きかったことを物語っている。

●店内調理、止めても貫いても茨の道

 しかしながら、いくら大戸屋のファンだといっても、業績低迷が続き、自身の資産価値が毀損することを放置できる投資家は少ない。このまま同社が業績を回復させられない場合、どれだけの株主が従来の経営方針を支持してくれるのかは未知数だ。一方、コロワイド側がさらに株式を買い増し、子会社化を画策する可能性もそれなりに高いだろう。

 大戸屋が独立を維持するためには、何としても業績を回復させ、株価を上げる必要がある。そのためには過大となっているコストにメスを入れなければならない。だが、コストを優先させ店内調理をやめれば、以前からの大戸屋ファンは同社から離れていくことになり、新しい顧客層の開拓を迫られる。一方、店内調理の方針を貫けば、業績のV字回復は遠のく。

 さらに言えば、大戸屋の創業家がコロワイドに株式を譲渡したのは、現経営陣と創業家との間で、経営権を巡る争いがあったことが遠因となっている。実際、コロワイド側が示した取締役の候補者の中には、創業家の人物が含まれていた。

 一連の対立は、大戸屋とコロワイドの争いでもあるが、コロワイドを媒介とした大戸屋創業家と現経営陣の争いでもある。上場企業である以上、株主価値を向上させられなければ経営陣はその座を守ることはできない。現経営陣に残された時間は多くないだろう。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)