クレジットカードに申し込むとき、勤務先や年収、場合によっては資産の状況など、さまざまなデータの入力を求められ、辟易(へきえき)したことのある人も多いだろう。これはクレジットカード会社が、その人の与信を行い、カードを発行したらしっかり返済できるかを確認するためにこれらの情報が必要だからだ。

 しかし、銀行や証券会社の口座情報などが裏側で接続していれば、申し込む本人はカード会社へのデータ提供を「許可」するだけで、必要なデータがカード会社に渡るようになる。利用者は似たような情報をその都度入力する必要がないし、カード会社からすれば自己申告の情報よりも、正確な情報を得られるため、与信の精度が増す。

 こんな世界は、実はすでにやってきている。フィンテックベンチャーのマネーツリーは、銀行口座やクレジットカード、電子マネー、証券口座などの情報を1つに集約し、ユーザーの許可の元、それらの情報を金融機関に提供するサービス「Moneytree LINK」を提供している。

 2015年のサービスインから順調に利用企業を増やし、銀行では三井住友銀行やみずほ銀行などのメガバンクを含む29行、そのほかも合わせると60社が利用中だ。ここで管理される口座情報は1330万にのぼる。

 マネーツリーでは、Moneytree LINKを金融データプラットフォームと呼び、「クラウドでいうAWSのように、金融情報のエコシステムを構築していく」とポール・チャップマン社長は話す。

●金融データの価値がこれまで以上に高まる

 ユーザー側のメリットは、手続きが簡単になるという程度だが、集約された金融データは、金融機関にとっては宝の山だ。保険や証券などの金融商品の販売では、相手の資産状況や年収、支出予定などをヒアリングした上で、最適な商品を提案するのが一般的な流れだからだ。

 「(金融商品の販売の現場では)会うたびにかなりの時間を使い、預金状況や投資状況についてヒアリングしている。しかし、Moneytree LINKを使い、事前に情報提供に同意してもらえば、ファイナンシャル・プランナーや保険会社が、よりお客にフィットした提案内容を事前に用意できるようになる」(最高プラットフォーム責任者のマーク・マクダッド氏)

 Moneytree LINKを採用する60社のうち、ネットバンクなどを中心に3分の1程度がすでにこのような取り組みを進めているという。各金融データを総合的に把握することで、お客の全体像がつかめるようになるのが大きな利点だ。

 この流れは、2021年にも施行される見通しの金融サービス仲介法制で加速すると、マクダット氏は見る。これは従来、銀行、保険、証券と縦割りだった各業種の商品を、横断的に取り扱えるようになる法制度だ。異なる業種の商品やサービスをワンストップで提供できる「金融サービス仲介業」が新たに設けられることになる。

 この法改正により、異業種からの新規参入や、横断的なサービスが可能になると期待されている。保険や証券の商品を売り込んでいくというよりも、お客に適したものを紹介する形になるため、より総合的なお客の全体像の把握が重要になる。

 一方で、自分の金融資産などのデータが金融事業者に筒抜けになることに不安を抱く利用者も多いだろう。マネーツリーでは、データのセキュリティをしっかり確保するだけでなく、個人情報は取得しない、利用者の承諾なしに第三者へのデータ提供は行わないなどのポリシーを定めている。しかし、データ提供を「承諾」したときに、その先でどんなことが行われるのか、想像するのは難しい。

 さまざまな情報がデジタルデータ化され、銀行オープンAPIなどの進展によって、複数箇所のデータが集約され、ユーザーの金融的全体像が浮かび上がる。ユーザー側もデータを活用する事業者側も、金融データのプライバシーについて改めて考えるべき時代になってきたのではないだろうか。