5月25日、新型コロナウイルスの流行による緊急事態宣言が解除された。

 やっと日常が戻ると思いきや、その後は東京アラートの宣言と解除、さらに1日あたりの感染者が再度増加に転じるなど、状況は二転三転している。先行き不透明な状況がしばらく続くと思われるが、今後もコロナによって生活が変化することは間違いない。

 特に働き方やビジネスは、コロナで最も大きく変化したといえるだろう。一部業種では、完全に運営がストップし、在宅勤務も珍しくなくなった。一方で、リモートワークをしていた従業員は、全体の一部だとする各種アンケート調査結果もある。

 しかしこの一部の変化が、戦後ずっと続いてきた「桃太郎電鉄」と「シムシティ」的な都市開発に大きな影響を与えている。

 戦後、テレビゲーム「桃太郎電鉄」のモデルとなった西武鉄道的なビジネスモデルで都市部が開発され、テレビゲーム「シムシティ」のように人口が増える前提で都市開発が行われていたことを背景に、「日本の地価は上がり続ける」という、かつての土地神話が成り立っていた。

 少子高齢化と人口減少、そこにコロナ禍が加わったことで日本の都市開発はどのように変わるのか。コロナと都市開発をテーマに、今後の働き方やライフスタイルを考える材料を提供してみたい。

●桃太郎電鉄とシムシティ

 まずは、テレビゲーム「桃太郎電鉄」「シムシティ」の2つを知らない人向けに、概要を簡単に説明をしたい。

 「桃太郎電鉄」、通称“桃鉄(ももてつ)”はもともと昔話の桃太郎をモチーフにしたRPG「桃太郎伝説」から派生したすごろく型のゲームだ。プレイヤーは会社社長となって、タイトル通り日本各地を電車で移動しながら各地の不動産を購入していく。

 ゲームの目的は総資産を増やすことだ。サイコロを振って止まった駅の物件・お店・畑・球場等を買うと、毎年一定の収益を得られる。各地の物件はいずれもその地域の名産品等に関わるもので、ゲームをしながら旅行気分も味わえる。そして1つの駅で物件を買い占めると利益は倍増する。このあたりは、ボードゲームで有名な「モノポリー」的な要素もある。なかには鉱山や金山など、普段は赤字だがたまに鉱脈を掘り当てて大もうけできるような面白い物件もある。

 「シムシティ」は、プレイヤーが市長となって町を自由に作っていくシミュレーションゲームだ。元々はパソコンのゲームだが、日本で有名になったきっかけはスーパーファミコンでの大ヒットだろう。

 住宅・商業施設・工場のほか、警察や消防署等の公共施設を建て、発電所を作って交通網を整備し、できるだけ人口を増やしていくゲームだ。

 都市開発や不動産開発を、いずれも極めて単純化することでゲーム化したものだ。市長に商業施設や工場を作る権限がある点はご愛敬といったところだが、いずれのゲームも人気を博した。

 これら2つのゲームと不動産開発や都市開発の関係をご理解いただいたところで、次は不動産開発や都市開発とコロナの関係を見ていくことにしよう。

●コロナで、働き方が変化したのはごく一部

 ”今後はリモートワークが増えて都市から地方に移動する人が増える”……まことしやかに言われている話だが、緊急事態宣言の解除により6月1日には電車の乗客が一気に増えたことからも、そのような人はごく一部だろう。

 加えて都市部の利便性は、会社に近いことだけではない。都市部は人口が密集しているため、人口の少ない地域と比べて、同じ土地面積でより多額の収益を得られる。結果として、娯楽施設から劇場まであらゆる商業施設が密集しているため、当然のことながらそれに合わせて公共施設から病院、交通網までそろっている。したがって通勤が不要だから都市部に住む必要性はない、というほど単純な話ではない。

 そしてコロナが収まればリモートワークはさらに減るだろう。緊急事態宣言の真っ最中でも、週に何度かは通勤していた人も多数いたように、少なくともすべてのオフィスワークが完全にリモートワークへと移行するとは考えにくい。

 今はリモートワークが可能な会社で働いていても、転職すればリモートワークが可能かは分からない。結局は、軽々しく地方に移住なんてできないということになる(その分、リモートワーク完備の会社は人気になるだろう)。

 働き方の変化がごく一部なら、都市開発にも不動産開発にも大して影響はないはずだ、と思われるかもしれないが、ここがマーケットの面白い部分だ。一部とはいえ完全なリモートワークを実施する企業が生まれた結果、数パーセント程度の人が郊外に移り住んだり、一部の企業が都心部のオフィスを縮小したりするとどうなるか。

●マーケットは「オークション」である

 不動産を含めてあらゆるモノは市場で取引される。市場取引の原則は最高値を付けた人が買えるオークションだ。このとき「不動産オークション」から一部の人が抜けるとどうなるか。オークションは参加者が減れば価格が下落する。それがわずかであってもだ。

 ネットオークションで入札をしたことがある人ならば、最後まで競り合う相手がたった1人しかいなくとも「コイツさえいなければもっと安く買えたのに」という経験をしたことがあるだろう。これと同じことが不動産市場でも起きる。コロナによる変化は生活や働き方の変化のみならず、コロナ不況による住宅の買い控えや、業績悪化によるオフィス・店舗の閉鎖も含まれる。

 賃貸に住んでいる人には関係ない、ということはなく、大家を通じて不動産オークションに参加している状態といえるため当然影響がある。どれくらいの人が不動産オークションから抜けるのか、それによってどれくらい価格が下がるのか、筆者はマーケット予想をするつもりはないが、影響がないとは考えられない。そして小さな変化が大きな変化につながる可能性も十分にある。

 さらに、不動産市場に影響を与える要素は働き方の変化にとどまらない。ゴールデンウィーク中の成田空港の出入国数が、前年同期比で99.8%減とほぼゼロになったように、コロナの影響がまだ強く残る海外からの旅行客はしばらく見込めない。いつまで影響が残るかは不明だが、一時的にはホテルの不動産取得の需要は激減するだろう(苦境に立たされたホテルを底値で買収する企業は現れるかもしれないが)。

 近年の都心部では住宅(マンション)・オフィス・ホテルで土地を奪い合うといった様相を呈していたが、コロナの影響で三者とも不動産オークションから離脱するという異常事態により、価格変動にはマイナスの影響が発生している。

 ただ筆者は、それによって首都圏の土地価格が大暴落するとは考えていない。前述の通り都市部の利便性は高く、働き方の変化は一部にとどまる可能性も高いからだ。元々首都圏、特に東京の不動産価格は極端に高く、新築マンションは年収の13倍と全国平均の2倍近くであり、夫婦共働きで高収入でないと手の出ない水準になっていた。適度に下がるくらいならむしろ買いやすくなってちょうど良いといったところだろう。

●都市開発をけん引した私鉄各社

 不動産の市場をけん引するのは不動産会社だと、多くの人は考えているだろう。しかし高度経済成長期からバブル期にかけて、都市開発リードしていたのは私鉄と呼ばれる鉄道各社だ。

 筆者は東京練馬区出身で、最寄りが豊島園駅だったため、電車といえば西武池袋線、デパートといえば池袋の西武デパート、球場といえば所沢の西武球場、遊園地やプールといえば「としまえん」だった。成人式会場も練馬区民の特権でとしまえんだった。スーパーの西友は大人になるまで近所になかったが、これらはいずれも西武グループ(西武ホールディングス)によるものだ。

 厳密には創業者・堤康次郎の死後、三男の義明氏が引き継いだ西武鉄道グループと、次男の清二氏が引き継いだ西武百貨店を中心とした西武流通グループ(後のセゾングループ)に分裂していたが、おおむね協調路線をとっていた。

 西武鉄道の親会社としてコクドという会社があり、コクドは非上場だったことから西武鉄道は実態の分かりにくい形で経営されていた。2004年に起きた有価証券報告書の虚偽報告事件で西武鉄道は上場廃止、グループトップの堤義明氏はインサイダー取引で逮捕。これをきっかけにコクドと西武鉄道は西武ホールディングスとして再編され、後に上場。不動産開発を担った西武鉄道グループはプリンスホテルをはじめとするホテル、スキー場、ゴルフ場などのリゾート開発で高度経済成長期からバブル期まで急激な成長を遂げた。

 桃太郎電鉄を作った、さくまあきら氏は、堤義明氏や西武グループがゲームのアイデアの元になったとインタビューで答えている。私鉄のビジネスモデルは、単に線路を通すことだけではない。線路を通せば荒れ地が便利な土地となり、人が集まる。そこに住宅や商業施設、娯楽施設を作れば鉄道の利用者が増える。利用者が増えれば土地の値段は上がる。

 鉄道会社がどこに線路を通すかを決定することから、合法的かつ大規模なインサイダー取引のようなものともいえるだろう。このような、線路とセットで不動産開発を行えば必ずもうかる、という鉄板のビジネスモデルは戦後長らく続いた。まさに桃鉄とシムシティの世界だ。

●世界一のお金持ちになった日本人は、私鉄の社長

 新しい駅ができると、その場合は駅から遠かった地域が駅の目の前になることがある。すると土地価格は急騰する。土地の価格は、その立地で得られる収益から決まる。駅の目の前なら、お店を出せばもうかり、マンションを建てれば高く売れる。つまり地価が上がる。

 元からそういった場所に土地を持っていた人はラッキーということになるが、これを意図的に行っていたのが西武鉄道のビジネスモデルだ。

 このビジネスモデルがどのくらいもうかるものだったかを示す証拠として、グループトップの堤義明氏はバブル絶頂期に、米国の経済紙・フォーブスが発表する世界長者番付で80年代から90年代にかけて1位を何度も取っている。

 近年ではアマゾンドットコム創業者のジェフ・ベゾスやマイクロソフト創業者のビル・ゲイツらIT企業の創業者が1位をほぼ独占しているが、かつては日本人がそこにいたこともあったのだ。

●私鉄各社の似通ったビジネスモデル

 私鉄による都市や不動産開発は西武鉄道に限らない。同じく池袋駅から線路を走らせる東武、新宿駅からは小田急と京王、渋谷駅からは東急、上野駅から京成と、私鉄各社はいずれも山手線のターミナル駅から線路を引き、そこに住宅を作り商業施設を作り娯楽施設を作るという、シムシティ的なビジネスを展開した。

 関西では、現在は村上ファンドの攻勢によりエイチ・ツー・オー リテイリングとして一体化したものの、かつては阪急と阪神もまた同じビジネスモデルを展開していた。そのほか関西なら南海、近鉄などといった私鉄が各地に多数ある。

 元々このようなビジネスモデルを生み出したのは阪急の小林一三だといわれている。私鉄から不動産開発、商業施設、娯楽施設(宝塚歌劇団は阪急が運営母体で団員は社員)、果ては球団経営まで、丸写しといってもいいほど、西武は阪急と似ている。

 高度経済成長期からバブル期にかけて、このビジネスモデルは確実にもうかる仕組みだった。その証拠として私鉄各社は、成功した企業の広告塔としてプロ野球球団を保有していた。もちろん球団保有は鉄道の利用者増加という実利の面もあるが、シーズン中には毎日のようにゴールデンタイムに試合が放送され、スポーツニュースで取り上げられ、スポーツ新聞等でも取り上げられるという広告効果は非常に大きい。

 現在では都市開発や不動産開発というと、おそらく森ビルや三菱地所、三井不動産、住友不動産等のデベロッパーを思い浮かべる人が多いだろう。近年の大規模な開発ならば、六本木ヒルズや新丸ビル、東京ミッドタウン日比谷など都心部のものが多い。

 このようにプレイヤーが変化した背景には、西武が得意とするリゾート開発がバブル崩壊で痛手を負ったことや、グループ再編で怪物のような経営者である堤義明氏が引き、ホテルやスキー場を多数売却したことから企業としてのパワーが落ちたことなどがある。

●バブル期の「リアル桃鉄」

 かつての西武グループは都心で一番の一等地を保有し、土地の評価額上昇(キャピタルゲイン)を担保に巨額の資金を調達して、不動産を取得し開発を行っていた。そしてそこで得たキャピタルゲインでさらに不動産開発を推し進めた。このような雪だるま式で開発を進めて西武グループは資産を急激に増やしていった。もうけのすべてを不動産取得につぎ込み、資産の増加を目的とする「桃鉄」の世界がそこにあった。

 しかしこのビジネスモデルは、令和となってはまるで夢物語。もはや異世界の話に聞こえるかもしれないが、数十年前の日本ではこれがリアルだった。

 だが当時ですらこれはバブルであり、”「不動産の価格はそこから得られる収益で決まる」という大原則からはとても正当化できないほど地価が上昇している”と真正面から指摘していたのは経済学者の野口悠紀雄氏くらいだろうか。バブル真っただ中の1989年に著書「土地の経済学」で、「日本の賃料はイギリスの2倍なのに地価は10倍」と諸外国との極端なズレをはっきり指摘している。

 結果的に野口氏の指摘は正鵠(せいこく)を射ていたわけだが、少なくともバブルが崩壊し、ITによって世の中が大きく変わるまでは、私鉄を中心にした都市開発は必ずもうかる鉄板のビジネスモデルだった(都市開発と私鉄の関係について興味がある人は、猪瀬直樹氏「ミカドの肖像」「土地の神話」を参考にされたい、筆者注)。

●小さな変化が生み出す、大きな変化

 コロナによる不動産への影響は、狭く考えれば首都圏の不動産価格が多少下落する程度に収まるだろう。コロナ禍が少子高齢化に影響したり、人口減少が地方で大きく進む流れが逆流したりするとは考えにくい。

 多くの人に関わるのは、一部とはいえコロナによる働き方の変化だろう。リモートワークによって、ランチを職場の近くで食べる、仕事帰りに買い物をする、飲み会を行う、デートをする、スポーツジムに通う、あるいは出張に行くといった流れが多少なりとも減るのであれば、関連するビジネスへの影響は甚大となる。売上がわずかに減るだけで利益が大幅に削られる企業は少なくない。

 これらのマイナスは、間接的には不動産ビジネス、そして都市開発・不動産開発へ影響を及ぼす。一方でスペースが不要、あるいは場所を問わないビジネスに置き換わることで、そのマイナスをプラスへと変換する事業者も現れる。

 このマイナスをプラスへと変換する事業者として、筆者が見聞きした範囲では、それがオンラインのピラティスや、配達・持ち帰りに注力し始めた飲食店やゴーストレストラン(客席のない飲食店)、オンラインセミナー(ウェビナー)などがある。

 1人で運営するオンラインピラティスに数百人が入会する、数千円のセミナーにオンラインで1000人以上が参加するといったように、従来なら考えられないビジネスの転換がすでに起きている。

●コロナで生まれたのは、技術の発展ではなく意識の変化

 新たなビジネスが生まれているピラティスも飲食業もセミナーといえども、今後もメインは対面・リアルであることは間違いないだろう。また、オンラインではできないことも多数ある。Eコマースのアマゾンやウェブ会議システムのZoomは、コロナをきっかけに業績を伸ばしているが、全てがオンラインに置き換わることは考えられない。緊急事態宣言の解除後に満員電車が早々に復活したことがそれを象徴している。

 しかし一部がオンラインに置き換わったとき、リアルのビジネスにどのような変化が生まれるか? 今後起きるのは「コロナによる大きな変化」ではなく、コロナによって生じた「小さな変化」が、どこで、どのように「大きな変化」を起こすのか、という間接的な変化になるだろう。

 コロナで起きた変化が”打ち合わせのスタンダードがZoomになった程度”という認識の場合、ひっそりと進行する大きな変化を見逃すことになるかもしれない。それはビジネスチャンス、あるいはビジネスのピンチを見逃すこととイコールだと言える。

 対面がオンラインに置き換われば、飛脚が突然LINEに置き換わるほどの変化が生まれる。筆者のような零細事業者でさえ、ほとんどが対面だったファイナンシャル・プランナーとしての相談がすべてZoomに置き換わるくらいの変化が発生している。

 Zoomとほぼ同等の機能を持つSkypeが生まれたのは03年と20年近く前だが、これまで会社員にとって在宅勤務は当たり前のことではなかった。つまり令和になりコロナが流行して、やっと技術の変化に意識の変化が追いついたことになる。緊急事態宣言が解除され、出社が再開することになった知人が「通勤にかかる時間にも給料を払ってほしい」とボヤいていたが、意識の変化はここまで早いものかと驚いた。

 「オンラインが当たり前」と人の意識が一部で変わり、時間や空間の制約が一部で消えた時に、桃鉄やシムシティ的な世界とは異なる状況が生まれる。

 コロナの生み出した小さな変化の行く末は、都市を変えて人間まで変える、極めて興味深いものになるだろう。

(中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン)