令和2年の年初、大きく話題となったニュースが2つある。1つは「としまえん」の売却だ。西武鉄道が子会社を通じて保有する遊園地、としまえんが閉鎖され、跡地が東京都へ売却されると報じられた。そして6月には8月末をもって閉園されることもすでに伝えられている。

 つい先日は、世界的に有名なサーカス団「シルク・ド・ソレイユ」が経営破綻するなど、レジャー業界、エンタメ業界へのコロナの影響は極めて大きい。としまえんの閉園時期が急遽8月末と発表されたことも、コロナの影響を受けていることは間違いないだろう。

 もう1つが「GAFAM(ガーファム)」の時価総額が東証一部企業のそれを上回ったというニュースだ。

 ご存知のとおり「GAFAM」は、IT業界を代表するGoogle(グーグル)、Apple(アップル)、Facebook(フェイスブック)、Amazon.com(アマゾン)、Microsoft(マイクロソフト)の頭文字をとったものだが、わずか5社の時価総額が、東京証券取引所の一部上場企業の時価総額を上回った。

 世界的な株価は、コロナの影響もあり一時に大きく下落したが、5社が上場する米国のナスダックはコロナ禍をも乗り越え、執筆時点では史上最高値を更新し、5社の株価もグーグルを除いてコロナ流行前を上回っている。

 としまえん売却とGAFAM、一体何の関係があるのか? と不思議に思った人も多いかもしれないが、この2つの出来事は富を生み出す場所が、リアルからネット上の「新大陸の土地」「もう一つの世界」へ移行したことを示す象徴的な出来事でもある。コロナのニュースによって吹き飛ばされてしまった印象もあるが、2つのニュースは「コロナ後の世界」も明確に指し示しているのだ。

●としまえん売却の衝撃

 筆者は中央卸売市場が築地から豊洲へと移転する際、築地市場の跡地について、都心に近くこれだけ広い土地がまとまって出てくる機会は二度とないと記事で書いた。しかし、としまえんの売却によってそれが覆ってしまった。

 20年1月、西武ホールディングスは所沢にある西武園ゆうえんちを100億円を投じて全面改装する。そのためにUSJ復活の立役者である森岡毅氏を招へいすると大きく報じられた。翌月には西武ホールディングスが保有するとしまえんを500億円で東京都に売却し、売却資金は西武園遊園地の立て直しに投じるとも伝えられた。

 さらに6月、西武鉄道は東京都、練馬区、大手映画会社のワーナー・ブラザーズ日本法人などと、としまえんの売却や跡地の公園としての利用、映画「ハリー・ポッター」を展示するスタジオ建設等について覚書を結んだと報じられている。

 練馬区に立地するとしまえんは、都心部というには無理があるが、西武池袋線で池袋に、大江戸線で新宿に直通するきわめて利便性が高い場所にある。広さは築地市場跡地の約23ヘクタールに対して、約22ヘクタールとほぼ同等だ。

 西武がこれだけ便利な土地をわずか数百億円で手放す理由は、一見すると不可解だ。超低金利の現在、100億円程度の資金を調達できないわけがない。また土地は、二つとして同じものはない。不動産開発で命といっても過言ではない土地を、しかも開発し尽くされまとまった広さの土地がない都内で放すことは、かつてなら考えられない。

 日本の将来では人口減少はすでに確定しているが、首都圏、特に東京は横ばいからかえって増加すると予想されている。地方の人口が減る一方で都心部の人口が増えれば、人口の密集度は現在より高まる。都心部のマンション価格の高騰を見ても需要は極めて高い。

 加えて前回の記事「コロナで変わる、桃鉄・シムシティ的な都市開発」でも書いたように、西武グループの歴史は拡大の歴史でもある。

 そんな状況で、しかも西武グループが、都内にあるとしまえんを売却してしまう……。西武グループが、かつての拡大路線ではなく堅実経営、現状維持路線を選んでいるようにも見えるが、そこにはまた異なる事情も影響している。それは、インターネットの興隆だ。

●GAFAMが東証一部を上回った理由

 GAFAMの時価総額の合計は、東証一部上場企業の全体と同じく550兆円程度。冒頭でも触れた通り、たった5社でなぜこれほどの規模になるのか? それはインターネットが、国境のない「新大陸の土地」であり、この「もう一つの世界」を、ごく一部の企業がほぼ制圧したことによるものだ。そのように考えればある意味で当然の結果ともいえる。

 かつて不動産バブルの絶頂期には、”東京の土地だけで米国全体の土地が買える”というのならともかく、”いや山手線の内側の土地だけで米国が買える”といった話まであった。しかし今となっては、まるでその裏返しであるかのように、米国を代表するIT企業たった5社の時価総額で、日本の東証一部上場企業が買える状況になった。

 戦後の都市開発を担った私鉄各社は、ターミナル駅からから線路を引き、住宅、商業施設、娯楽施設とまるでシムシティのように都市開発を進めた。

 これは戦後の高度経済成長期からバブル期までの間、確実にもうかった鉄板のビジネスモデルであり、その象徴が西武グループとそのトップで世界一の富豪の座に何度も輝いた堤義明氏だった。しかし現在、世界一の富豪の座に座るのはマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏、あるいはアマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏だ。

 私鉄各社が制圧した土地は日本のごく一部だが、5社が制圧したのはインターネット上にあるSNS、検索と広告、パソコンのOS、イーコマース、携帯端末と、新大陸でも特に重要な拠点で、要所といえる大部分だ。

 私鉄各社のビジネスが極めて似通っていたように、これら5社もそれぞれ得意分野や売り上げに占める割合は異なるものの、ネット広告、検索、OS、SNS、携帯端末など似通ったビジネスを展開している。そしていずれもまだ拡大する余地が極めて大きい。

 世界一の富豪の座が堤義明氏からIT企業の創業者に取って代わられた理由も、手がけるビジネスそのものの天井の有無であり、それが時価総額に反映された形だ。

●コロナで飛躍するGAFAM

 今年2月から3月にかけて、コロナをきっかけに世界中の株価が大幅に下落した。執筆時点ではかなり持ち直したものの、大半の企業がいまだコロナ前の水準まで回復できていないなか、GAFAMが取引されている米ナスダック市場の株価が過去最高を更新しているのは決して偶然ではない。

 これは、コロナ対策で大量に支給された各国の補助金等が流入しただけの値上がりでもない。人々が外出を避け、自宅で在宅勤務して余暇を過ごせれば、嫌でもネットの利用時間が増える。SNS、通販、動画、Web会議、そして検索にネット広告と、仕事でも遊びでもGAFAMを避けて生活することはもはや困難だ。

 GAFAMを完璧に避けたつもりでも、その企業のサービスはAWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azureといったクラウドサーバ上で動いているかもしれない。そもそも仕事でWindowsやiPhone、G Suite(旧Google Apps)などを一切使ってない企業はまずないだろう。

 これは前回の記事でも書いたが、筆者が西武池袋線の沿線である豊島園駅周辺で生活していた頃、日常生活で家族全員が西武グループの経済圏に大量のお金を落としていた。現在の日常ではネットを使うだけ、つまり「インターネットの世界」で生活するだけで、GAFAMにお金が落ちる仕組みができ上がっていることを意味する。

 例えばグーグルなら、検索とブラウザ(Chrome)を押さえたことが、ネット広告の分野で圧倒的に有利になっている。スマートフォンのOSも、グーグルのAndroidとアップルのiOSがほぼ独占している。スマートフォン上で動くアプリやゲームに課金する際は、必ず2社のいずれかにお金が落ちる。

●コロナで拡大する「新しい大陸」

 GAFAMに限らず、米ナスダックに上場するIT系の企業が絶好調な一方、コロナによって多数の企業が破綻した。このことは、リアルがITに置き換え可能であることを示している。

 あらゆるコンテンツが時間の奪い合いをしている現在、外出ができなければ自宅で動画を見てSNSに書き込み、アマゾンで買い物をしてゲームで遊んだ結果、リアルの世界で展開される百貨店やアパレル企業、レンタカー会社が潰れた。

 コロナによって旅行客が激減して航空会社も破綻したが、今後はWeb会議システムによって航空会社の「長距離を移動する」という機能の一部が置き換わる。コロナをきっかけにZoomは飛躍的に知名度を上げて利用者を増やしたが、GAFAM各社もWeb会議システムや通信アプリを提供している。

 投資の神様と呼ばれ世界一の富豪になったこともあるウォーレン・バフェット氏は、コロナで状況が変わったとして保有する航空会社の株をすべて売却した。もっともその後は航空会社の株価は急激に回復し、トランプ大統領から「尊敬するバフェットでも間違うことがある」と揶揄されたが、一時的なリバウンド需要は見込めても長期的にどうなるかは不透明だ。

 日本ではサーティワン・アイスクリームの20年4月における売り上げが、前年同月比1.7倍と急激な伸びを見せた。普段なら旅行やレジャー、外食などに流れるお金が、身近で持ち帰り可能なサーティーワンへと流れたことになる。”風が吹けば桶屋が儲かる”ということわざ通りだ。

 サーティーワンはGAFAMでもITでもないが、何と何がシーソーゲームになり、綱引きとなるのか。何がITに、そしてGAFAMの提供するサービスに置き換わるのか、今後も予想のできない変化が起こる。

●新しい大陸をめぐる米中の争い

 もちろん、GAFAMが未来永劫にわたって繁栄することはないだろう。米国が中国の通信機器大手ファーウェイを締め出そうとしていることはすでに多くの人が知っている。その結果ファーウェイの一部端末はGMS(Google Mobile Service)に非対応で、Google Playストアのアプリが使えない。

 ファーウェイは米国の措置に対抗して、自社製OSであるHarmonyOSを準備中であると公表している。これがAndroidを代替するOSになるかは不明だが、完全に締め出しを食らえばそうならざるを得ないだろう。今後、中国発の新しいスマートフォンOSが生まれ、将来的にAndroidやiOSを喰ってしまう可能性もゼロではない。

 つまりネット上の「新しい大陸」をめぐる争いが、国を巻き込んで発生する可能性まで出てきたことになる。

 コロナによって多くの人の意識が変わり、結果的にネット上の「新しい大陸」は目に見えて拡がった。それが株価にも反映されている。

 IT、つまりインフォメーション・テクノロジーは今、電話や手紙といった情報通信の代替にとどまらず、あらゆる領域を飲みこもうとしている。「通信技術が発達すると、航空会社と競合する」などと、一昔前に予想できた人はいるだろうか。もちろん、必ずしもいい話ばかりでないことは、SNSに端を発するトラブルを見ても分かる通りだ。

 風が吹いたら次は何が起こるのか? コロナ禍の後に吹くであろう風に注目したい。

(中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン)