本連載は、SNSを中心としたインターネット上のコミュニケーションの動向や若者のトレンドやコンテンツ消費などを専門とする筆者が、企業のSNS活用をテーマとした考察をお伝えするものです。

 今回は、いま避けて通れない新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)――以下、「新型コロナ」――が、人々の生活に深刻な影響を与える中で、企業のコミュニケーション活動にはどんな影響があるのかを探っていきます。そして、そこでのポジティブな取り組みに注目して、これからの企業コミュニケーションへの示唆を考察してみたいと思います。

●コロナ以後、企業SNSへの注目度は高まっている

 危機や有事の際にどんなコミュニケーションをするか、どんなアクションを取るか。そこで真価を試されるのは、人だけでなく企業(法人)もまた同様です。

 生活者もコロナ禍における企業のコミュニケーションに注目していることが、アライドアーキテクツによる「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う消費者のSNS利用実態調査」(回答者数は4157人、2020年4月8〜12日の期間で実施)によって示されています。

 まず、Q3の設問結果からは、人々がこの間にTwitterを利用する頻度が増えていることが示されています。

 それに関連して、本連載の「SNS担当者は「中の人」から「そばの人」へ? そのために知っておくべき「3つのM」とは」でも述べたことを確認しておきましょう。ここで筆者が述べたのは、Twitterは、あるニュースが拡散され、それに対する人の反応や意見が可視化されるという特性があり、「世の中の今を見る場」として、ユーザーも自身のアイデアや考えを広めたり、告知・拡散したりするときに使う点に特徴があるということでした。

 すなわち、Twitterでは、特にこれまでに経験したことのないコロナについてのニュースや世の中の動向を人々が確認しているということが分かります。

●多くの人はコロナ禍における企業SNSの活動を肯定的に受け止めている

 このように新型コロナの影響でTwitterを中心としたSNSの利用時間が増えたことで、「企業公式アカウントの投稿」をより目にするようになったという回答率は27%(同率2位)。そして、「コロナウイルス拡大以降、『SNS上での企業活動』に関して、あなたの行動に当てはまるもの」を聞いたところ、「対企業への行動に特に変化はない」の57%が主流ですが、「企業公式アカウントのキャンペーンに参加した」が20%、「企業公式アカウントの投稿にいいね!やリツイートをした」が19%、「企業公式アカウントを新たにフォローやいいね!した」は17%など、積極的にアクションを取った人も少なくないことが分かります。もちろん、「フォローやいいね!を外した」は3%、「非表示にした」が1%など否定的なアクションを取った層も一定数存在するようです。

 「SNS上での企業のプロモーション活動」については、「企業がプロモーション活動をしていてもいいと思う(不快感はない)」が40%、「経済を回すためにも、企業のプロモーション活動をどんどんすべきだと思う(好意的に思う)」が33%、「企業はこれまでとプロモーション活動の方針を変更する必要はないと思う」が21%。9割以上が肯定的なスタンスとなっています。

 では企業そのもののイメージはどう変わるのでしょうか。「コロナウイルス拡大以降、特定の企業に対する見方にどういった変化があったか」を聞くと、「企業のサービス提供方針に共感した」が60%、「企業の社会への貢献姿勢に共感した」が54%、「企業からのメッセージに共感した」が44%など総じて肯定的な声が多いことに気付きます。

 ただし「企業のサービス提供方針に反発/不快感を持った」が20%、「企業からのメッセージに反発/不快感を持った」が16%と、否定的な回答があったことも重要でしょう。理由としては、「便乗商法と捉えられる販売」「外出自粛に関係なく、旅行や店内での飲食を促すダイレクトメールやクーポンなどを何度も送ってくる」「営業停止や時間短縮の旨をホームページや店頭などにきちんと表示していない」「パート社員や派遣社員に対する対策は後回しにしている」が挙げられていて、非公共的なふるまいや情報開示のいいかげんさが不快感につながったと考えることができます。

 新型コロナ禍において、企業がSNSを通じて情報発信することはおおむね好意的に捉えられていることが分かりました(確かに、このタイミングで「何もしない」というのは、SNSを「世の中にファストに反応していくことが求められる場」として考えると、あまり適切でないようにも思います)。

●コロナを受けた、企業の取り組み事例

 実際、SNSにとどまらず、企業に対する見方がポジティブに変わるような取り組みが、さまざまな支援活動のかたちをとりながら数多く展開されています。個別の取り組みや企業名を出すことは控えますが、大きく分けると5つの方向性に分類できます。

(1)物資提供、企業の強みを生かした経済的支援など

 支援を必要とする人々に、企業が自社の商品などを配布する動きが見られました。また、家での時間を充実させるために、組み立てて遊べるキットを配布するようなものもよく見られました。その他、ホテルが感染者受け入れを発表するなどの動きも注目を集めています。また、基金の設立や事業支援などもここに含めて考えることができるでしょう。

(2)サービス、コンテンツの無料公開(フリーアクセス)

 従来有料バージョンで提供していた商品、映像や音楽などのサブスクリプションサービス、あるいは過去の秘蔵コンテンツなどを無料公開するなどの動きも今回を機に進みました。特にリモートワークツールを提供する企業なども迅速にサービスの無償提供を行っており、企業理念と合致した素晴らしいアクションだったと思います。また、レシピ情報などは、おうち時間の中での家庭でのニーズを大きく満たしています。

(3)必要なものをつくるイノベーション

 このコロナ時代の「ニューノーマル」に対応する形で、新しい業態にチャレンジする取り組みも活発化しています。メーカーが技術力を生かしてマスクや防護服、人工呼吸器をつくる動きが、代表的です。その他、メッセンジャーサービスが健康調査を行うことや飲料メーカーによるオンライン飲み会用のメニュー開発や配達の仕組み整備なども含まれるでしょう。SNSなどさまざまなインターネットサービスが、お店や団体への支援・寄付が簡単にできるような機能を提供していたものも、ここに属するものとして考えられると思います。

(4)情報提供、啓発活動

 新型コロナに関する、予防のための有益な情報の提供、それについての啓発活動も盛んに行われました。メーカーが布マスクの洗い方を伝える動画を出すなど、未知の感染症への正しい知識を伝えることの重要性を筆者も感じました。

 また、ある居酒屋チェーンは、「いまは来店しないで」と呼びかける勇気あるコミュニケーションが評価されていました。「#うちですごそう」「#StayHome」の活動も盛んで、著名人も多く参加したことも記憶に新しいでしょう。ボトムアップの運動としては、「#家にいるだけで世界は救える」というムーブメントがTwitterから火がつき、ユーザーの中で広まっていったことも、現代的な動きとして捉えられます。

(5)参加のための仕組みづくり

 「(4)情報提供、啓発活動」から派生するものとして、生活者を巻き込む形でのコミュニケーションも活発化しました。星野源さんの「うちで踊ろう」はさまざまな人が動画を投稿し、いくつかの論争も生みながら、広く拡散されました。(4)と異なるのは、より楽しさを志向し、双方向的な参加型の色彩をもっていることです。

●SNSの観点から注目すると……

 この連載で扱っている「SNS」からは、主に「(3)必要なものをつくるイノベーション」「(4)情報提供、啓発活動」「(5)参加のための仕組みづくり」のアクションが目立ちました。

 (3)の「必要なものをつくるイノベーション」に関して、Instagramが新型コロナに苦慮するお店への支援機能をローンチしたことが注目に値します。ストーリーズのスタンプで、またはプロフィールからの遷移でお気に入りのお店へのギフトカードやフードオーダー、寄付などができるようになりました。

 ここで面白いのは、ユーザー側が「寄付したよ」というステッカーを貼れること。「いいことをした感」を自然に出せるという点で、支援とともにユーザーの承認欲求も満たせる仕組みになっています。Instagramという場の特性を生かしていること、また一般的にはネガティブなものとしても捉えられる承認欲求をポジティブなものへと転換させている点が興味深いと感じました。

 Instagram Liveから寄付できる仕組みも実装されました。今、プラットフォームとしてできることをしている点で公共的であると同時に、もともとInstagramは広告以外の収益の柱を求めてショッピング・決済分野にも力を入れ始めていたことを想起するならば、企業戦略的にも合致する動きであると分かります。

●ロゴも「ソーシャルディスタンス」

 具体的取り組みの(4)として挙げた、啓発活動に含まれる面白い動きは、「ソーシャルディスタンス(他者との距離を2メートル以上保つこと)」を周知するために、企業がブランドのロゴを変えた事例が相次いだことです。

 普段はロゴが重なり合っているAudi(独)も、またVolkswagen(独)も「適切な距離を保っています」とメッセージすることで、あなたも周りの人との距離をあけるよう気を付けてと訴えかけていました。

 マクドナルドも、おなじみの「Mマーク」のロゴが距離を取っています。ロゴというのは企業の統一性を守るもので、一般的にアレンジはご法度です。それが、ロゴいじりシリーズとしてさまざまなブランドが乗っかっていったのはとても象徴的でした。

 これに関連するように筆者が感じているのが、アメリカでの黒人男性ジョージ・フロイドさん暴行死に際して、各種SNS、音楽配信、動画配信のサービスなどが一斉にサービスをブラックアウトして抗議の意を示したことでした。今こそともに戦わなければならないといった説明がなされていましたが、ロゴの間隔をソーシャルディスタンス的に開ける動きのように、みんなで一斉にアクションすることが増えてきているというのはとても現代的な、大きな一つの流れなのかもしれないと感じさせられます。

●ユーザーが参加する仕組みをうまく作ったポカリ

 こうした流れを踏まえると、広告は「広く伝える」ということだけでなく、「コミュニケーションを社会へと広げる」ということにも目を向ける必要があるでしょう。2020年4月に公開された大塚製薬の「ポカリスエット」の広告施策を例に挙げて考えてみます。YouTube上では、テレビで放映されたバージョンだけでなく、さまざまなバージョンが展開されており、その中の「ポカリスエットCM 『ポカリNEO合唱』篇 60秒」では、次のように施策を紹介しています(ぜひ動画を見てみてください)。

今はみんなで会えないけれど、歌は歌える。

新ヒロインの汐谷友希さんと、97名の中高生たちが、

自分の場所で、自分らしく、ひとつの歌を合唱しました。

2020年春、「渇きを力に変えてゆく。」

 ポカリスエットは、ここ数年のブランドコミュニケーションを、若者を応援することにフォーカスさせていました。ポカ写、ガチダンス、そして今回はNEO合唱。一人ひとり別々の場所で歌う高校生が、遠隔からビデオでつながりあい一つのハーモニーへと昇華されていく表現は、そのクリエイティブの高い質も伴って大きな反響を呼びました。ビデオでつながりあうという設定がいまの世の中に寄り添ったコミュニケーションであることを伝えていますし、若い人たちを応援するというブランドの目指すところもちゃんと色濃く反映されていて、とても素晴らしいクリエイティブだと筆者自身も感じました。

 また、表現としての水準に加えて、TikTokでもUGC(User Generated Contents、企業などではなく、一般のユーザーが発信するコンテンツのこと)施策を実施しており、文字通りみんなで合唱するための「参加の仕組みづくり」を実現しているのです。

 動画の最後のシーンでは、皆が一斉にカメラを空に向けると、それが青い背景となってポカリスエットのロゴが完成します。YouTubeに公開されているメイキング動画を見ると、参加した中高生達が、「同じ空の下にいること」を確認するために家のベランダなど屋外に出ていることが分かります。つまり、このシーンは、「離れていてもつながっている」ということの象徴でもあるのです。

●今問われている広告の在り方とは

 既に述べたように、この広告は若者向けのものです。しかしながら、筆者自身もこれを見て励まされるような気持ちを覚えたのです。それはなぜでしょうか?

 広告は「広く告げる」と書くため、多くの方は「拡声器で方々に知らせる」ようなものとしてイメージされています。つまり、メディアの力を借りて、たくさんの人に知らせることができるから、広告なのだということです(その見方に立脚して、いまは「広く告げる」よりも「狭く告げる」ことが効果的なのだと語る人もいるでしょう)。

 ただし、「広く告げる」にはもう一つの意味があります。それは社会そのものにスコープを広げて、告げるということです。ポカリスエットの例でいえば、商品を中心に置きつつも、その周縁にある人々の暮らしや社会のいまをも捉えるようなかたちで、コミュニケーションを成立させている――だからこそ、筆者自身にも響くものがあったのだと感じています。

 広告とは、「広く伝える(リーチ)」だけでなく、ブランドと社会の接点そのものを広く捉えて、告げること。まさに社会がいまのような緊急事態に置かれているときこそ、その視点が求められるようにも思います。そのような「広く捉えて告げること」を体現しているという意味においても、このポカリスエットの事例はあるべき広告コミュニケーションに他ならないと考えています。

(天野彬)