7月22日、トヨタが新型車、ヤリスクロスのプロトタイプに乗らないかというので、袖ヶ浦フォレストレースウェイまで出かけてきた。

 コロナ以降、筆者を試乗会に呼ぶのがトヨタだけなので、この連載がすっかりトヨタ祭りになっているが、先日ようやく他に2社ほど試乗会の案内が入った。他社も試乗会を始めてくれてちょっとホッとしている。

 さて、またもや期待のニューモデル。ついこの間、ハリアーを1カ月で4万5000台も売り、RAV4も好調。PHVモデルに至っては受注中止になるほどのトヨタが、またもやSUVの売れ筋をぶっ放して来た。多分競合他社は「殺す気か!」と思っていることだろう。

●ファミリー開発

 名前からも明らかなように、ヤリスクロスはヤリスのコンポーネンツを使ったSUVだ。というのが従来型の説明なのだが、それは少し不正確で、トヨタはGA-Bプラットフォームの企画の最初から、ヤリスクロスを織り込んでいる。

 具体的にはどういうことかといえば、チーフエンジニアはこう説明している。「Bプラットフォームを使うクルマは、全部ファミリー開発をしています。ヤリスとヤリスクロスに関しては、最初から同時開発で、同じメンバーで、パワートレーンもプラットフォームも2台の両立解を見つけるべく作ってきました。ヤリスクロスの方が110キロ重く、重心も高いので、一般的には条件が厳しいわけです。ただ、トレッドが広い分良くなっている部分もあります。全体としてはヤリスの方が余裕があると思いますね」

 ハリアーもそうだったが、ここのところトヨタは、同じコンポーネンツを使うクルマを1つのチームで開発するやり方にシフトしつつある。このメリットは、コンセプト段階で作り込んだクルマの性格をしっかり作り分けられるところだ。あらかじめ策定した商品ポートフォリオがぶれなくなる。

 2人の棟梁(とうりょう)が手柄を競うと、そうはならない。お互いの真ん中にあるお客を両側から取りに行けば共食いになってしまう。あるいは本当は同じ部品でもやれるところを相手を出し抜くために専用部品化するとか、そういうことでコストが上がり、本当の意味で顧客中心なのかどうかが曖昧になってくる。競争には良い面もあるが悪い面もある。そこのバランスをうまく取りながら、車両群をワンチームで開発するやり方をトヨタは始めた。これは新しい取り組みだ。

●スタイルと着座姿勢

 さて、ヤリスクロスだ。全体のスタイルは、上背があるせいもあって、ヤリスより立派で、高級感がある。基本的な形は、4つのタイヤを外に押し出して、踏ん張りを効かせ、前後のホイールハウスの上を梁(はり)でつなぐ建築的スタイルだ。

 両サイドを強く絞り込んだフロントマスクは、良く言えばクール、悪く言えば無表情。ボディ全体の面構成は最近のトヨタらしく、少しヌメリ感のある曲面という成り立ちだ。まあ、今時の都市型SUVとして悪くない。

 運転席に座ってみると、シートは最近のトヨタ水準。改善余地はまだまだあるが、昔のトヨタのシートに比べたら長足の進歩なのは事実である。ちなみに、詳細は未発表ながら、ヤリスクロスで初採用になるワンモーター式のパワーシートがグレードによって選べるらしい。重量的にも価格的にもコンパクトクラスへの装備を可能にするもので、家族で1台のクルマを使う場合などは非常にありがたいだろう。ただインターフェイスとなるスイッチのストローク代がやたらと大きく、どのレバーでどれが動くのかは直感的に分かりにくい。自己所有なら一度覚えれば済む話だが、レンタカーなどでは戸惑う人も出そうだ。

 前席に着座してペダルオフセットを見る。こっちもヤリスとほぼ同じ。それでも努力は認めなければならない。ヤリスよりもタイヤ径が上がっているので、本来はホイールハウスの張り出しは大きくなるはずだが、ドライブシャフトの角度をつけることでホイールセンターを8ミリ前へ出すことで、ホイールハウスの車室への侵入を防いでいる。チーフエンジニアによれば「ホイールハウスの拡大は前方で取りました」とのことだ。

 後席は流石に広々とはいえない。膝前のスペースもミニマムだが、シートそのものの出来は良い。特に座面の前上がり角がちゃんとしていて、クッションの沈み込みと合わせて、座った姿勢が安定している。

●走りの味

 走り出し、タイヤのひと転がし目に段付き感はなく、制御しやすいのは合格。直進安定性は矢のようにとはいかないが、自然で好ましい。ステアリングも違和感がない。全体の進歩から見ると、ブレーキだけはもう少しかっちりしてもいいと思うが、踏力がちゃんとかけられないユーザーを想定すれば、こういうストローク依存のブレーキになるのは止むを得ないかもしれない。

 ヤリスは軽量を生かして、サーキットでかなり生き生きと走ってくれたが、ヤリスクロスはそういう意味では鮮度、あるいは感度が低いともいえるだろう。ただしそれは必ずしもネガティブな話ではなく、鷹揚(おうよう)で優しいリズムを持っているということでもある。ビビッドに走るクルマは楽しいが、ビビッドに走るクルマだけが楽しいわけじゃない。まあファン to ドライブの形が違うということだ。

 ヤリスと比べると“のどか系”なのだが、少し前のトヨタ、例えば先代のカローラのような不感症タイプではない。徹頭徹尾どアンダーで気持ちがどんよりしてくるというのが、トヨタのダメなクルマの特徴だったけれど、ヤリスクロスは、ちゃんと操作した通りに動いてくれる。運転に集中していちいち反応が敏感で楽しいことを求めるならヤリスにしておいた方がいいが、むしろ多少の雑な扱いを許してほしいならヤリスクロスだろう。まあ言い方は少し極端だが基本的な性格分けはそういう感じだ。

 さて、次はせっかくのサーキットなので限界域の挙動の話だ。これは別に公道でレースまがいの運転をしろという話ではない。例えば高速道路で逆走車に出くわしたようなケースで、緊急回避時の挙動がどの程度安全に仕立てられているかの話だと思って読んでほしい。

 まず、ストレートの途中でダブルレーンチェンジ。速度は時速100キロ弱。急ブレーキを踏みながら一車線分右にクルマを振って、再度元のレーンに戻る。拍子抜けするくらい何も起きない。これなら誰でもできる。

 次に、強くブレーキを掛けてフロントタイヤをロックに近い状態に持ち込んで、ハンドルを切っても当然思ったようには曲がらない。本当はロックさせたいのだが、今のクルマでは電制が介入してロックできない。

 ここからブレーキを緩めていった時の、フロントタイヤのグリップの回復具合をみた。ある速度から急にフロントのグリップが回復して横っ飛びにノーズが横へ向かうタイプは、ドライバーを選ぶ。ヤリスクロスはこの動きが穏やかで制御しやすい。穏やかに回復し、そこから再度ブレーキでアンダーを出しても落ち着いている。

 旋回Gの高い逆カントのコーナーでアクセルを抜いたり、ブレーキを舐(な)めたりすれば、当然リヤが滑り出す。この動きも滑らかで一貫している。チーフエンジニアは、グリップの急激な回復で横転することが万が一にもないように、滑らせながら耐えるように仕立てたという。

 その主役は電子制御技術のVSC(横滑り制御機能)で、4つのタイヤそれぞれに適宜制動を掛けてボディーの動きをコントロールしているのだが、陰の主役はボディ剛性だ。ボディとサスペンションが動いてしまってはタイヤの接地圧が頻繁に変わり、VSCが緻密に制御できない。

 試乗途中で雨が土砂降りになってくると、さしものVSCも滑らかな制御ができなくなり、唐突な挙動が混じりはじめた。路面の水膜の厚さが局所的に変わるこういう状況では、ボディ剛性が低かった時代と同じようにVSCの効力が落ちてしまうのだ。雨の日はとにかくスピードダウンを心がけるべき。それはヤリスクロスに限った話ではない。

●ユーティリティ

 見た目と走り味以外で、ヤリスとヤリスクロスの最も違う部分がこのユーティリティだ。荷室は、リヤシートを起こした状態で390リッター。ゴルフバックが2つ、あるいは110リッターのスーツケースが2つ入る。またリヤシートは4:2:4の3分割で、センター部を倒せばスキーなどの長尺物も収容できる。

 ラゲッジには荷物を固定するベルトなども備えており、SUVとしての使い勝手はかっちりやってある印象だ。

 白眉といえるのは、テールゲートがハンズフリーになっている点。リヤバンパーの下に足を差し出すとゲートが開閉でき、また開閉速度も従来のトヨタ車の2倍に速めてある。

 さてその他でいえば、レーダークルーズコントロールが全車速対応になった。ヤリスは時速30キロ以下非対応だったので、この差はちょっと大きい。

 ただし、正確な数字は未発表だが全高は1550ミリを超えており、立体駐車場は場所によって入れない。

 さて、最後に燃費と値段だ。そんなものはプロトタイプ試乗のタイミングで教えてもらえるわけがないので、あれこれ数値を言ってみて、チーフエンジニアの表情から察した予測だけ書いておく。燃費はハイドブリッドで、ヤリスのWLTC36.0キロ/リットルに対して、30キロ程度だと思われる。価格は最も安いガソリンのFFで200万円以下、一番高いハイブリッドのE-Fourで270万円程度と予想しておく。なお、トヨタは本当に教えてくれないので、外れても責任は負えない。まあ売れるのは間違いない。

(池田直渡)