ブロックチェーンを使いこなすことを考えたとき、課題は技術面だけではなく、法律面にある。ブロックチェーンを公証役場的な保証の仕組みをデジタルに構築できるものと捉えた場合、現在の法体系にはどんな課題があるのか。JBA(日本ブロックチェーン協会)理事の福島良典氏(LayerX CEO)による寄稿。

 本日は「ブロックチェーンを活かす法体系とは?」というテーマで書いていきます。

 とはいえ私は法律のプロではありません。なので正確かつ具体的な法律の議論をここではしたいのではなく(ツッコミ大歓迎です)、「ブロックチェーンを活かす法体系とはなにか」、もっというと「デジタル技術フレンドリーな法体系を整えることの重要性」をここでは書き下ろしていきたいと思います。

 もちろん法とは、国のあり方を問う話なので、ブロックチェーンを使いたいがためにこいつは法にまで口を出しやがってと思われるかもしれません。

 私の主張はそうではなく、「便利な道具としてのブロックチェーンを使いこなすことでもっと世の中が良くなる」という信念のもと、ブロックチェーン技術というイノベーションと、現在の物理証拠を基礎とする法体系がいかにあっていないかの問題提起をできればと思っています。

●社会機能で見るブロックチェーン why blockchain? という問い

 まずは素朴にブロックチェーンというのはどういう技術なのか。社会機能で見たときにどういう役割を果たしうるのかを考えてみたいと思います。

 ブロックチェーン技術はさまざまな表現がされるキャパシティが広い技術であるということが特徴です。またそのキャパシティの広さ故に、たびたび「why blockchain?」(なぜあえてブロックチェーンを使うの?)という議論を起こしています。

 たしかにある種の実装をしたい時、ブロックチェーンで実現しようとするとかなりめんどくさい、ともするとなんで使うの? オーバーエンジニアリングでは? という素朴な疑問を生みます。

 私の解としては、「ある特徴をえるためにオーバーエンジニアリングしている」、また「その特徴は法との整合性がないとなかなか効力を発揮しづらいもの」と考えるようになりました。

●デジタル公証役場としてのブロックチェーン

 最近はあえてブロックチェーンというのは「デジタル公証役場」なんです。と話しています。突然どうした? と思われるかもしれませんので、少し解説します。

 そもそも公証役場とは何でしょう? そして今の世の中では、ある主体同士でなされる「約束」をどういう仕組みで「担保・執行」されるようにしているのでしょう?

 抽象的だと分かりにくいので具体例を挙げてみます。例えば「私がAさんに100万円貸す。また金利はN%であり、元本の返済はM年後で」と口頭で話したとします。これでAさんがイエスといえば「契約」は成立します。口頭でも契約は成立するからです。一方ほとんどの人はこれを良しとしません。一体誰がそこに「約束」があったことを証明できるのか? と思うからです。

 なので実際は、紙に合意内容を書き起こし、そこにお互いの本人認証としての捺印(なついん)(もしくはサイン)をすることで、これは「元本性のある証書」になります。これをお互い持ち合うことで契約とするケースが多いと思います。

 これをさらに「執行」(つまり相手が約束を履行しなかったときに権利を行使すること)するために、もし「約束」に違いがあれば「元本性のある証書」を証拠として争います。そしてややこしいことにこの「約束」は転々流通するケースがあります(株式を他に売ってしまった、債権を第三者に買い取ってもらったetc)。

こういった際、第三者がある権利者であることを確定させないと安心して買い取れません。こうした「誰が見てもその人が約束の当事者であり権利者である」ことを証明するために「確定日付(=timestamp)」を公証役場でとります。そして、それが証拠となり「第三者対抗要件」として争う種になります。

 つまり公証役場がはたしている役割は「確かにその約束が、この日付で行われた」ことを確定することです。こうすることで権利が安定し、権利者を守る仕組みを整えているのです(そしてこれがあるので権利を流通させたり、執行させたりすることができます)。

 ここでポイントは「中立の第三者」が「物理的に立ち会う」ことで「確かにその約束が、この日付で行われた」ことを保証するように法体系もできているということです。

 そしてブロックチェーンは、この「公証役場」的な保証の仕組みを、完全にデジタルで(物理的な立ち会いをなしに)構築できるというのが特徴です。またその証拠がデータとして残るために、そのデータ遷移のロジックを記述できる「スマートコントラクト」の存在で、単なる「証拠」基盤を超えた、「執行」基盤になっているというところがポイントかと思っています。

 公証役場のアナロジーでとらえると、紙は「データの遷移状態を表したもの」です。難しく書いてますが、例えば先程の例だと「私からAさんに100万円というデータを移す。またその対価として金利としてN%を支払う。M年後に元本を返済するというデータ」です。物理世界ではこれが紙に書かれてますが、デジタル上ではただのデータです。このデータに電子印鑑である電子署名で捺印します。これでその本人がなりすまされずに捺印したものという証拠がデジタル上で作れます。ブロックチェーンではこれを「トランザクション」と呼んでいます。このトランザクションを「デジタル公証役場」であるブロックチェーンに投げ込むと「確かにその約束が、この日付で行われた」ということを技術的に保証してくれます。

 なのでデジタル上の「約束」をめぐる揉(も)め事に対する証拠をブロックチェーン上に残すことができる。これをもとに争ったり、執行をしたりすることができる。こういったことが非対面で第三者の立会いなしに保証できるのがブロックチェーンです。これがあえてオーバーエンジニアリングをしてまで得たい性質であるのです。

●ブロックチェーンと法の歪み 電子記録移転権利の第三者対抗要件問題

 今年、ブロックチェーン上で発行した有価証券が法的な権利を持つという金商法改正がなされました。俗に言う、STOが合法的に行えるようになったという変化です。しかし、実はこの法律かなりの矛盾を抱えています。それが先ほど説明した「第三者対抗要件」の問題です。

 それに関しては、(おそらく日本で唯一?)この問題提起をしている弁護士の増島先生の記事が非常にわかりやすいので詳しくはここを見てください。

 上記記事の一部引用です。

 民法の指名債権譲渡のルールによると、債権は、売買当事者間では当事者間の合意のみで取引できるものの、その譲渡を債務者に主張するためには債務者への通知か債務者の承諾があることが必要です。さらにその譲渡を二重譲渡先や差押債権者、管財人といった第三者に主張するためには、上記の通知か承諾について公証役場で発行される確定日付をとってくることが必要です。そして、この確定日付は電子化されておらず紙でしかとることができないことになっています。その結果、匿名組合の持分を対世的に譲渡するためにはデジタルでは完結しないと考えられており、これにより、ブロックチェーン上に記録された匿名組合持分の残高や権利者に関する情報は、法律上の匿名組合持分の残高や権利者とずれてしまうことが起こりうることになります。

 僕なりに解説すると、金商法では、たしかにブロックチェーン上で譲渡された債権(たとえば株式)はブロックチェーン上の仕組みで「確かにその約束が、この日付で行われた」ことを保証し、ブロックチェーン上でその株式を持ってる人を法的にも権利者としようという趣旨の法律です。

 一方、確定日付は民法で定められており、そこでいくと、せっかく非対面で電子的に移転した権利に対して「第三者対抗要件」をみたそうとするとわざわざ物理で公証役場に行き、立ち会ってもらわないといけません。(なんか不思議ですね)

めんどくさいだけでなく、この権利者の二重性みたいな隙を突く詐欺も発生するかもしれません。

 本来デジタル(非対面)で、効率的に「確かにその約束が、この日付で行われた」ことを保証する技術がブロックチェーンです。しかし、法の歪(ゆが)みにより、このメリットが失われます。

 たしかにこの状態だとなぜブロックチェーンを使うの? となっても仕方ありません。

 余談ですが、増島先生が書いているように、法解釈によってここをさけられる可能性はあります。弊社(LayerX)でもそういった路線で現実的に進めようとしていますので実際こういうことがおこらないような努力をしています(のでご安心ください)。しかしその努力にもコストもかかりますし、ノウハウも必要なので、思わぬ参入障壁を作ってしまいます。本来の趣旨からするとここが一貫した法体系になっていると競争が促進され、最終便益が高まる方向にいくことが理想と思います。

●(思考実験)電子帳簿保存法におけるブロックチェーンに合わせた法体系

 また今年、電子帳簿保存法が改正されます。これにより会計ソフト上のデータをたしかなデータとすることで、請求書を紙の原本で保存しなくて良くなるというものです。

 COVID-19の流行から日本でも急速に紙をなくそうという動きが出てきています。是非これを機に進んでほしいと考えています。

 私が経営しているLayerXでも「電子帳簿保存法」への対応をすすめていますが、これがなかなかめんどくさかったりします。

 より規模の小さい会社、CFOがいない会社、上記のような会計ソフトを入れていないような会社はずっと紙を使いつづけないといけないのでしょうか?

 素朴に、じゃあなぜ請求書の紙を残したいのか。その多くの理由は「確かにその約束(=請求書もお金を支払うという約束を記したものです)が、この日付で行われた」ことを保証したいからではないでしょうか?

 であれば「ブロックチェーン上にある、この規格にのっとった請求書は元本データとして正当である」という法体系にすれば、上記の問題は一気に解決するかもしれません。

 そうなったときにあえて請求書をローカルのDB(データベース)に保存せず、ブロックチェーン上のストレージに保存しようとするでしょう。その時「why blockchain?」という問いはそもそも生まれないと思います。

 なので結局「why blockchain?」という問いは、ブロックチェーン技術でできるようになった(ブロックチェーンというと反感を買いやすいので、ここを暗号技術、デジタル技術と変換してもらっても構いません)あたらしい価値担保の仕組みと法体系のズレの部分がかなり大きのではと感じています。

●ソフトランディングを

 もちろん既存の法体系、仕組みにも一定の合理性があります。そこを否定しては何も進みません。なのでリアルな公証役場とデジタルな公証役場をユーザーが、企業が選べるようにしていく。またデジタルに移行していった時、たとえばブロックチェーンのノードを既存の公証役場で持ち、デジタル移行しても一定の利益を受けられる、パイが広がることで今以上の収益を得られる可能性があるということを示していくことが重要かと考えています。

 私の政治思想としては、アナログ/デジタルの0/1で考えるのではなく、ユーザーや企業の「選択」にゆだねる、彼らがある一方を選んだときに有利不利とならないようなインセンティブ設計にする。そしてアナログ/デジタル双方にアクセスできて、今の仕組みが生んでいる雇用も急激に壊さないようなインセンティブ設計をしていくことが重要かと思っています。

●デジタルフレンドリーな法により、経済の粒度が小さくなり、SMBや個人をエンパワーする

 最後に、じゃあデジタル公証役場ができるとどんな可能性が広がるか? について論じてみようと思います。

 すでに世の中で出始めているように「金融アクセスの民主化」が起こると思います。現状の金融は一定のアセットサイズがないと金融サービスにアクセスしても意味がない、コストが合わないというものが多くあります。

 それ故に金融商品化されていないアセットが、低コスト、粒度が小さくなることで金融商品化可能になるものが多くあります。アートやワイン、スニーカーといったものも将来は金融商品として誰もがアクセスできるようになるかもしれません。

また現在は、株式や通貨などは転々流通しています。一方、それ以外の「約束」の転々流通はなかなか進んでいません。

 その中でも直近進捗しているのは、請求書の買い取り(ファクタリング)です。前述のように、請求書の信頼性があがるとファクタリングもしやすくなります。一説によるとかなり高いとされているファクタリング手数料も多くは請求詐欺や支払先がデフォルトするリスクなど信用コストを背負っています。そこのコストが劇的に下がり、資金調達に柔軟性が生まれる可能性があります。

 また現在は契約書を買い取るみたいな概念はありませんが、契約書の信頼性も上がると、POファイナンスならぬ、POファクタリングみたいなものも登場するかもしれません(※PO=発注書)。

 未だ紙で管理されている貿易ファイナンス、いままでデータが見えないことで資金繰りに苦しんでいたサプライヤーによるサプライチェーンファイナンスなども活発化するでしょう。

 このようにデジタル技術がより低コストで、粒度の小さい手段を提供する時、利益を得るのはより小さな個人やSMBです。

 インターネットの歴史でも TV・新聞 → ポータル → 検索エンジン → SNSとより個人がエンパワーされる方に進化しました。これが「デジタル約束」の世界でも進むでしょう。

 一方インターネットと「デジタル約束」の違いは、法体系にあります。

 情報発信や情報の選択はインターネット以前も特に規制がなく自由なものでした。一方「約束・価値」に関する法規制は「物理立ち会い」を原則としているものがまだ多く、せっかく技術でより安全・安価な仕組みを作っても最後は「物理立ち会い」が必要な法体系になってしまっています。

 これでは非常にもったいない。

 JBA(日本ブロックチェーン協会)ではブロックチェーンでの技術はもちろん「ブロックチェーンを国家戦略に」を合言葉のもと、より利便性の高い、社会効用の高い国にしていくために、デジタルフレンドリーな法体系を推進できるような活動もしていきたいと思っています。

(福島良典 LayerX CEO)